玉:(フ・・・)それ今じゃ―――市子に蓮也!
やはり「男女の武者」とは、市子と蓮也でした。
しかも彼らは一言も発せず、玉藻前の指示に従い、単于やその部下にかかっては行くのですが―――?
単:なんだあ? 脆い―――脆すぎる・・・いや、“そこ”じゃねえ?
こいつら、一撃で倒されては消え―――そしてまた現れてきやがるとは・・・!
そうか―――! こいつは「幻術」だ! 探せ―――この術者本体を!!
たった―――たった一撃で市子や蓮也の姿は掻き消え・・・たかと思うと?
また別の場所から発生し、無言のままやられていくばかり。
容姿、体型や、その睫毛の濡れ具合、汗の飛び散る様まで精巧に造られたモノ―――
ですが、いかんせん耐久力がないので、すぐに消えてしまう・・・
この事を単于は、即座に「幻術」だと言う事を看破りました。
そして、こうした「手合い」は、術者本人を叩けば、“幻”は用を足さなくなる・・・
では、この精巧なる「幻術」を仕掛けた術者は、どこに―――?
忍:ニッシッシッシ☆w
どうやら皆さん、ご存分に惑っていらっしゃるようですねえ〜☆
単:ナニぃ―――? 小娘・・・まさか、お前が―――?
忍:いかにも・・・それにあたしは、この目で見たモノしか、造れませんし、操れもしません。
すると、「忍」の少女からは、この“幻”に関わる重大な告白がありました。
この場に出現した、二体もの精巧な“幻”こそ、「忍」の少女が直前まで“対象”を観察して為せた術・・・
そして“これ”こそが、玉藻前の策略の全容だったのです。
玉:取り敢えず、お主らはそこへ控えておれ。
市:しかし・・・どう言う事です?玉藻前様・・・
玉:あの者どもを引っ掻き回すのは、ワシら二人でも十分―――ということじゃよ。
それまでにリリアよ、お主はお主にかけられておるモノを須らく払い落とせ。
リ:すみません・・・
玉藻前が描いていた策略の全容とは、やはり彼の「呪い」によって儘ならないリリアをどうするか・・・でした。
そこで玉藻前は、忍にリリアの姿を摸させ、今まで観察してきたリリアのPTの内二人の挙動をそこで見収めた・・・
そして、リリアの快復が成った時、手渡したもの―――それが、かけられている効果の一定時間の無効化・・・
これで準備は万端―――あとは・・・
すると、「忍」の少女は、こんなことを語り始めたのです。
そう―――自分の、「本当の名」を・・・
忍:お一つ単于殿―――あたしの“名”を・・・
本当の、「忍」としての“名”をお教えしましょう―――
――三十八代目加東団蔵――
単:な・・・に―――“それ”がお前の・・・本当の名だと?!
その―――「忍」の少女の、本当の“名”・・・それも、「忍」としての・・・
その“名”こそが『三十八代目加東団蔵』――――
この名を、単于は知っていました。
大盗賊にして、恐るべき幻術の使い手・・・異名を「幻惑の王」と讃えられ、「飛び加東」とも「幻の加東」とも称されたこともある・・・
そして、もう一つの有名なエピソードとして、さある有名な戦国武将をして、『飼い慣らすならば、首に縄をつけること忘れじ』と、
この言葉の意味の裏には、その術のあまりもの恐ろしさ故に、よほどの警戒をしないと雇ってはならない・・・
それはつまり、自分の首を危うくすることにも、なり兼ねないから―――・・・
こうした教訓を遺したる、伝説の忍の“名”を、一人の少女が受け継いでいたとは?
そのことにも意表を衝かれはしたのですが、よくよく考えると、「忍術」とは、一種の手品のようなもの・・・
精巧な手品は、「ネタ」が分からないからこそ、拍手喝采を浴びる・・・それが、「タネ」が見え見えだった場合には?
それは、「忍術」だとて同じこと・・・「手の内」を自ら明かしてしまうとは―――伝説の忍の名を継ぐとはいえど、所詮は少女か・・・?
けれど、こうも考えられるのです―――そう・・・準備は整った、と。
そしてようやく、本物のリリア達が現れ―――
リ:私から奪ったもの、返してもらう―――単于!
単:チィ・・・細工をしやがったな? だがまあいい―――いかに策を弄しようと、再びオレの前に跪かせてくれる
市:リリアさん、今は集中して、周囲りのことは考えないようにしてください!
サ:心配すんな―――って、いくら集めようが、雑魚は雑魚だ!
玉:サヤ殿の言う通りよ―――今はこのワシも、支援役に甘んじようぞ。
蓮:―――てことだリリア! こっちのことは心配すんな!!
リ:秀ちゃん―――うん、分かった・・・
そして、これで決着をつける!
「呪い」の作用をものともせず、普通に動けていることに、単于はリリアが何かの対策を講じてきていることに気が付きました。
そして、リリア達のPT3人と、玉藻前達2人を加えての5人は、次々と単于の部下たちを駆逐していきました。
これによって、後残すは単于ただ一人―――・・・
ですが―――・・・
蓮:(!)なんなんだ・・・ありゃあ―――
市:単于の前に・・・「光の盾」?
サ:(・・・)“あれ”が『晄楯』―――それでいいんだな。
玉:うむ・・・
市:『晄楯』・・・? とは―――何ですか?
市子と蓮也の二人は、実は奪われたリリアのスキルの事を、その名称以外はよく知りませんでした。
けれど、彼女達以外の三人は、知っていた・・・
『晄楯』とは、リリアが所有していたOUS―――『无楯』の一つで、
その「光の盾」は、敵からの様々な攻撃や障害を防ぐ、“万能”の盾・・・
しかも、物理的な盾ではないので、耐久値が設定されておらず、崩壊する危険性はない・・・
ただ―――・・・
そう、ただこれでは、やはり分が悪い―――いくら「殺人剣法」を修得していたとしても、その刃が相手に届かないのでは・・・
それに本当は、リリアもそこの処を弁えているはずなのに、なぜ無謀に踏み切れているのか―――・・・
もしかしてリリアは、最後の最後、玉藻前に頼ろうとしているのではないか・・・
そう―――市子の脳裏に、考えが過ろうとしてしていた時・・・
#23;戦場往来
市;(!!)〜〜〜―――ッッ・・・
蓮:(?!)どうしたんだ?市子・・・どの
「いる・・・?」
「ここに、私達が知覚できないでいる何者かが・・・」
「すでに“いる”??」
突如―――市子を襲った身震い、形容のし難い、なんとも言い様の知れない・・・「悪寒」とでも言うのだろうか―――
以前感じたことのある、リリアからの殺気・・・“それ”よりも、もっと研ぎ澄まされた―――
いや・・・その表現ではあまりにも小奇麗すぎる・・・
これはまるで、ドス黒い感情そのもの―――この場にいる、総ての生きとし生ける者を「喰らい尽くしたい」という欲求に充ち、溢れている感情・・・
なぜ今まで気づくことが出来なかったのか―――いや、気付けなかったのか?
そもそも、未熟な自分でさえも気付くまでになったのに―――他の者は?
「玉藻前様」は?「サヤさん」は?「リリアさん」は・・・??
気付かないでいたのか―――?
すると、サヤからは信じられない言葉が・・・
サ:おい―――どうした、具合でも悪くなったのか?
「気付いていない?」
「そんな―――??」
「この私よりも上級のプレイヤーであるこの人が、気付かないはずが??」
こんな―――異常事態・・・でしたが、ある思案が巡ってきたのです。
「もしかすると、この・・・負の感情に充ち溢れた者は・・・」
「この私“だけ”に、自分の感情を知ってもらいたくて、私“だけ”に指向性のあるモノを送ってきた??」
市子は、気が気ではありませんでした。
確かに単于は強敵―――強敵にして不遜極まりない存在・・・
それなのに―――
そんな単于でさえ、ちっぽけに見えるほどの、そんな感情の持ち主が、
この戦場に往来してしまっていることを、知ってしまうのでした。
その一方、リリアは―――
リ:(くそっ・・・このままじゃダメだ!)
やはり、どこか目算が甘かったのか、いくら扇を尽くしても、相手に届かないでいるというのは・・・
しかも、自分の焦りと言うものを、知られてしまったと思わせる、「征服王」からの言葉に仕草・・・
単:クックック―――どうやら万策尽きたようだなあ?リリア・・・
玉:むっ?まずい―――
恐れていた―――と言うよりは、やはり当然か・・・
いや、逆に今までもったいぶって出してこなかった―――そんな余裕さえ見せる単于からの笑み・・・
自分に降りかかる総ての厄を退ける、光の盾―――『晄楯』
それと共に、『无楯』にはもう一つ、恐るべきスキルが存在していたのです。
それが・・・
万象万物を須らく両断できる、光の剣―――『晄剣』
「やはり・・・最強の「剣」と「盾」を出してきた―――」
「「盾」だけならば、未だ対処できる余地は残されていたけれど・・・」
「「剣」まで出されたなら―――・・・」
やはりここは、「撤退」の一択しかない―――と、そう思われた時・・・
市:皆さん・・・逃げて―――逃げてぇ!!
あらん限りの勇気を振り絞り、市子は叫びました―――「逃げて」と・・・
「ああ・・・そうだ、ここは逃げなきゃいけない」
「なにしろ、あの“剣”の特性は―――」
けれど、市子が示唆したのは、単于から―――では、なく・・・
その存在は・・・「ひたり」「ひたり」と、まるでにじり寄るように近づいていました。
それも、己が凶暴性を隠さずに・・・
ただ―――市子が早い段階で、その場にいる誰よりも知覚できていたのは、
まさしくその存在が、市子“のみ”に知覚されるよう、指向性のある気配を送っていたから・・・。
けれど―――その存在が近まるにつれ、終に・・・
サ:(!?)うっ―――?! なんだ、こいつは!!
蓮:こいつ・・・本物の化け物―――?!
隠しきれない・・・いや、この段階で、既に隠そうともしない、その残虐性―――
それが、フロアの入口に差し掛かるや否や―――付近にいた単于の部下が・・・
玉:うぬ?凍り付いた―――じゃと? しかもこの凍気ただ事ではない!
リ:(な・・・何が起ころうとしているんだ?)
経験豊富なリリアや玉藻前ですら知らなかったこと―――判らないことがあった?
ただ―――あちらは・・・こちらの都合など考えもせず、更ににじり寄る・・・
そしてようやく、姿が確認できるまでになったのでしたが―――
やはり、近くに来たとはしても、誰しもがその存在に心当たりなどなかった・・・
なのになぜ―――この存在は、市子“だけ”に、自分の到来を知らせようとした??
けれどそれも、実は理屈が通っていたのです。
それと言うのも、この場にいた全員が、この存在の強烈過ぎる殺気によって、感覚が麻痺させられていたから。
だから、その存在を直視したとしても、まるでモザイクがかかったように、ぼやけてしか見えなかったのです。
それでも、どう言った存在なのかは想像が出来ました。
身体の大きさは「成人」―――その身にまとう鎧のようなものは、「蒼く」もあり、また「黒く」もあった・・・
それに胸部の膨らみを見る限りでは、「女性」のようにも見えた・・・
とは言え、その存在の、目的などは一切不明―――
けれど、そのゆっくりとした足取りは、止むことがなかったのです。
つづく