このままどこまで進むのやら―――と、注目をしていると、
ある地点に差し掛かった時点で、ふと立ち止まり・・・
単:なんなんだ―――手前ぇは・・・
謎:―――。
自分の「愉しみ」を中断させられたからか、単于の腹の虫の居所は、極致と言わざるを得ませんでした。
けれど、その存在は、そんな彼の都合など気にも留めない・・・
気にも留めずに、口から吐いた言葉は―――
謎:足ラ
ナイ・・・
単:ああ゛―――?
謎:足ラ ナイ・・・
「足らない」の一言だけでしたが、その声色は、肚の底から響くような、あまり心地のいいものではありませんでした。
それにしても、一体“何が”「足らない」のか・・・
衝撃的な本音は更に続き―――
謎:ア゛ア゛ア゛ア゛―――! 足ラナイイ―――!! ナニモカモォォ・・・
私ハ―――求メテイルノニ! 誰モ与エヨウトハ シテクレナイイィ―――・・・
ダカラ―――私ハ!
誰も、自分が求める「欲求」を、充たしてくれないから―――「足らない」・・・
だからこそ「それ」を求め、この場を訪れた―――と、誰しもが“そう”思いました・・・。
そして、「やはり」そうなった―――
自分達が集まっている場所、その少しばかり距離のある場所にいる、単于の部下が―――
いきなり、鶏を絞めるような声を立て・・・絶命をした―――?
しかも、身体の大部分を消失させて―――?
この事態に、皆一様にして思いました・・・。
「喰われた」―――と・・・
では一体、どこの誰が?
もしかすると、未だ正体が明らかとされていない、この「何者」か以外にも、別の「何者」かが、いる―――のか?
すると・・・
謎:マズイ・・・マズイ―――!
エサニモナラヌ・・・オ前―――達ハ・・・ エサ―――以下ダ・・・
自分達よりも少し離れた処にいた単于の部下を、「喰べ」ていたのは、この正体不明の存在でした。
それにしても、いつの間に―――?
自分達は、この謎の存在を注視し、その挙動を見続けていたのに・・・?
この存在は、危険―――危険すぎる・・・
危険すぎるから、単于の行動も、強ち判らないではなかった・・・
そう・・・単于は―――
単:クソ・・・っ! これでも喰らいやがれ!!
元は、リリアのOUSである『无楯』の一つである『晄剣』―――を展開させ、斬りつけた・・・
万象万物、時には不可視の存在すら斬り伏せられると言う、「神妙の剣」―――
この剣で、傷つけられれば―――或いは?
けれどその思いは、無情にも潰えてしまったのです。
謎:グア゛ア゛ア゛―――! 足ラナイ!! オ前ノ“ソレ”デモ 足リハシナイィィィ―――!!
彼の・・・神妙の剣からの一太刀でも、その存在の満足に足るまでもなった・・・
最早この存在を、討伐することは故より―――追い払える手段さえ見つからない・・・
ただ―――『晄剣』の特性で、その存在を覆っていた「ヴェール」のようなものは剥がされ、次第に分かり始めてきた・・・
そのおかげで、どう言った特徴をしているのかが露わとされ・・・
その者―――「サファイア・ブルー」の髪を、側頭部で結わえる「ツイン・テール」にし、
豊満な軆つきを、「近未来」を思わせる「鎧」で固める・・・
容貌こそ美形でしたか、その「サファイア・ブルー」の双眸には、「狂気」が・・・「凶気」が常に宿されていた。
ただ、その存在が畏れるに足るのは、かの暴虐にして残酷と言わしめた「征服王」からの攻撃を、
モノともしなかった―――・・・
そう・・・単于は、最初の一撃だけではなく、そのあと何度も何度も・・・幾度となく斬りつけたのですが、
斬りつけられる度に「凍気」を発生させ、瞬時にして「傷」を治してしまう・・・
この“今”の時点で判っておかなければいけないことは、「最強」を誇る剣で、傷一つ付けられないでいる―――と、言う事実・・・
しかも―――
謎:フン―――お前・・・その剣でその程度なのか?
ならば、違う・・・お前は、その剣を所有するのに、能わない・・・。
単:なんだと? 手前え―――・・・
謎:ザコが―――・・・その剣を奪っただけでいい気になれるとは・・・大したことはない。
ゆえに!お前では足らぬ―――・・・
もっと私に傷みを! この身に受ける総ての「傷み」を私に!!
#24;蔓延る狂気
“狂っている”のは、その思想か・・・
普通ならば、絶命する一撃を、敢えて防ぎもせず―――受けるその様相に、リリア達も・・・そしてまた単于も、怯みました。
そして、思い当たる節があったからか、玉藻前の口からは―――
リ:え・・・っ? 「ペイン」―――
市:「プルーフ」?
玉:うむ・・・「痛みの回避」―――とでも言うべきじゃろうか?
いわゆるあの者は、「痛覚」が麻痺しておる―――としか思えんのじゃ・・・
団:でもぉ〜? あんなにいっぱい攻撃受けてるのに―――ノー・ダメ・・・て、なんかチート臭くない?★
まさに団蔵が指摘をしたように、その存在は、痛みも感じなければ、傷も負わない・・・
そして更には―――・・・一層の危険性が増してきたのです。
この時点まで、その存在は、手に何も持っていなかった・・・つまりは、武器を所持していなかった―――の、でしたが・・・
この存在が所有する武器を召喚した事で、この存在の正体が、ついに・・・!?
謎:もう―――お前達には・・・期待はしない―――(ニヤw)
出でよ―――・・・
【フローズン・ハープーン;ヴェンティシュカ】
『フローズン・ハープーン』・・・別名を『凍てつきの画戟』と呼ばれたこの武器を、唯一所持している者を、
上級プレイヤーであるリリアとサヤと玉藻前は、知っていました。
そして、もちろん・・・相手の単于も―――
そう・・・その者こそ―――
リ:―――キリエ・・・さん??
サ:〜んだと? 「シベリア」んとこの・・・“あの”?
今まで、得体の知れない雰囲気を醸していた存在こそ、「高潔なる騎士団」団長・・・キリエ―――その人だった・・・
ですが・・・どうして“その”キリエが、この戦場に?
ですが、彼女本来の目的が、次第に明らかになってきたのです。
キ:フン・・・少しは期待していたのだがなあ?
「史上最強」と謳われたスキルを強奪した君を、私は一定の評価をしていたのだよ。
だぁが・・・“それ”だけで満足しておけばいいものを―――お前は度々、我らを脅かしていただろう?
その度毎に、猊下が哀しまれるのだ・・・
私は―――あの方の、そうした表情を見るに堪えぬ・・・
それに・・・ガッカリ―――だよ・・・
「史上最強」のスキル―――いかほどのものかと思い、この身に受けてみれば・・・
“たったの”それしき―――だ、と?
私を失望させないでくれ―――
それに、猊下からの制止のお声があったにも拘らず、ここへと来てしまっている私の面目を、どうしてくれるというのだ??
嗚呼―――今から想像するだけでも恐ろしい!w きっと猊下は、命を破った私の事を、お許しにはならないだろう!
だからお前は―――ここで、私からの罰を・・・受けろw
正体が明らかとなるまでは、どこかたどたどしいとさえ思えた彼の者の言葉は、
秘密のヴェールが剥がされるに伴い、次第に流暢になってきました。
それにどうやら、キリエの目的も見え始めてきた・・・
どうやら彼女は、リリアが持っていた「史上最強」のスキル―――それを強奪した単于の強さと言うのを図りに来た?
それと、もう一つは、自分が統治している「エリヤ」が侵犯されるのではないか―――と、憂慮する、自分の主の姿を見かねて・・・?
けれども、もう、知れてしまった・・・
所詮は「紛い」モノ―――自分の欲求を満たす程のものは、なかった・・・
しかしこの者は、度々自分達の足下を騒がせており、その行為は一層主人の眉を曇らせるのみ・・・
とは言え―――“すぐ”に終わらせるのは、もったいない・・・
だから―――“興じ”たのです、「遊戯」を・・・
キ:さあ―――せいぜい私を愉しませてみろw
そうすれば、考えてやらないこともないぞ?ww
不敵に笑む表情・・・ですが、その瞳はどこか虚空を見ているかのようだった―――
本当は、今すぐにでも裁断にしてやりたい・・・けれどすぐに晴らしたとはしても、晴らしきれないこの想い・・・
欲求が不満をしている―――だからこそ、弄べる・・・。
その理は、かつてはリリアが「リリア」として成り立っていた時機―――単于が「単于」として成り立っていた時機―――
だから、この二人は知っているはずなのです。
それが、今度は単于が知らしめられる立場となりました。
自分から「何か」を奪われる―――と、言う恐怖を・・・
だから単于は、抵抗をしました―――あらん限り、考え得るだけの、抵抗を・・・
しかし、そのどれもが無駄だったのです。
思えば、そう―――『无楯』の一つ、『晄剣』が無効なのが判ってしまったから・・・
けれど―――無効とは分かってはいても、単于には、最早その手段しかなかった・・・
その事を判っていた―――からこそ、キリエは・・・
キ:ハッハッハッハ―――! つまらんな・・・やはりつまらん。
やはりお前は、エサ以下だったな、単于・・・
この私の―――養分にもならんカスは、こうしてくれる・・・
そう言うが早いか、その瞬間―――キリエの研ぎ澄まされた「手刀」が、単于の胸板を貫きました。
これによって、単于絶命か―――?
これによって、リリアのクエストは失敗したのか―――?
様々な思惑が錯綜する中、キリエの掌中にあったのは―――
市:(え・・・?)なにか―――の・・・「宝珠」?
玉:(!―――まさか“あれ”は?!)
キリエの掌中にあったモノ―――とは、何かの「宝珠」のようにも見えました。
けれど玉藻前には、それがなにか、どこか心当たりがあった様子・・・
するとキリエは、まるでそれが今回の目的でもあったかのように―――
「とあるモノ」を奪った単于には、最早未練などない・・・惜し気すらない―――と、言ったように、
興味すら示さず踵を返した・・・
すると、その足取りで、今度はリリアの下まで向かい―――
リ:(あっ・・・)え? コレ―――は?
「返しますよ」・・・たった一言、キリエからはその一言があるのみでした。
その彼女の気配も次第に遠ざかり・・・すると、その「宝珠」のようなものは、次第にリリアに馴染み始め・・・
そしてやがて、漲るチカラ―――浸透してくる感覚・・・
そう・・・やはり、あの「宝珠」のようなものとは、奪われたリリアのOUSだと言う事が判ってくるのです。
そしてここに、奪われたモノは、再び元通りとなった・・・
これで一気に形勢逆転―――今度は単于が窮地に陥るのですが・・・
サ:油断するんじゃないよ―――こいつとは、何があったか、よく思い出すんだ・・・
「ああ―――判ってる、判ってるよ・・・」
「そんなことは、この私が一番よく判ってる・・・」
玉:フ・・・やれやれ―――気を揉ませるものよ。
それにしても、「覚悟」はできておろうな?
「ああ―――“そいつ”も判ってる・・・」
「私が“今”、やらなければいけないこと・・・」
無事―――とは言い難かったけれど、自分が所有していたモノは、自分の下へと戻ってきました。
しかし、ここで・・・玉藻前からは、サヤとはまた別の「助言」を与えていたのです。
以前、リリアが単于に敗れた経緯―――それを検証していく内、玉藻前はリリアが「油断したから」とは捉えていませんでした。
それよりもなぜ、『无楯』が、この世界に於いての「史上最強」なのか・・・
その所以と―――その使い方次第では、「プレイヤー“狩り”」を、思いのままにできてしまう―――
そうした危険性を孕んでいたことを、リリア自身が自覚していたから・・・
玉藻前が、慎重に分析―――解析を行った結果、辿り着いた結論・・・
リリアが敗れてしまったのは、決して「油断」したからでは、ない―――
自らが持つ、このスキルの特筆すべき「凶悪性」「凶暴性」「猛悪性」・・・そのことを、誰よりも認知していたから―――
だからこそ、『断罪の刃』を振り下ろすのに、躊躇してしまったから―――なのだと・・・
つづく