自分が所有していたOUSは、複雑な経緯を辿って、再び自分の下へと戻ってきました。
しかしそこで、リリアが敗れた経緯も判ってきたのです。
リリアは、自分のOUSの事を、このゲームを始め、自分の母から「キャラ」を譲られた際、宜しく教わっていました。
ただ、その時分には、まだ幼かった事もあり、そんなには分かってはいなかったのです。
けれど、長年プレイを続けていく内に、このOUSの本当の強さ・・・怖さと言うべきモノを、知ってしまった。
確かに、そのOUSに備わる効果は絶大なものがありました。
それが、そのOUSに備わる、本当の能力・・・
それは、一プレイヤーであるリリアにとっては、ひどく重荷に感じる事でもあった・・・
それはつまり、「一プレイヤーが、一プレイヤーの命運を、左右できてしまう」そんな能力・・・
ゲームをプレイする上でも、身の丈に余り過ぎるほどの―――そんな強力なモノ・・・
だからリリアは、単于からの急襲を受けた際にでも、相手に対して本来の能力を行使うべきか・・・それを迷ってしまっていたのです。
その隙を―――
一瞬で見抜かれ、そして敗れてしまった・・・
自分が所有していたOUSを、相手のOUSによって奪われ、
「もし、奪われてしまったOUSによって、他の人に実害が出たらどうしよう・・・」
そう憂慮してしまっていたのです。
しかし―――そんな被害報告は一度たりともなかった・・・
その事に安堵はするものの、それでも「今のところは」なのかもしれない・・・
「いずれ」知られてしまうと、収まりがつかなくなるかもしれない・・・
こうした案件は、解決が早い方が望ましい―――
だからリリアは、母の伝手を頼り、仮想世界のエリア・マスター達を訪ねたのです。
それが、「シベリア」然り―――「モスクワ」然り・・・
こうして今回は、事の対処に応じていたのです。
けれど―――やはり・・・自分のOUSは、手強かった・・・
自分が修めた“武”の奥技を出し惜しみなく繰り出すものの―――届かぬ・・・阻まれる刃、
最終的に『晄剣』を出されてしまった時には、“最悪”の事態も、頭を過りました。
だからこそ―――の、無念の撤退・・・
自分の所為で、折角協力してくれた人達にも、類が及んでしまってはいけない・・・
そこは、賢明な判断と言えたものでしょう・・・
しかしそこで、異変は起こってしまったのです。
それが、シベリア・サーバーのエリア・マスターである、エリヤの片腕的な存在として知られている、
「高潔なる騎士団」団長、キリエの“乱入”―――
しかも、その者の本来の性格と言うのが、単于以上に残忍で酷薄だった―――
その事実を知った時、自分達も知っている「あの問題性のある性格」も、実は・・・
この本性を押し隠すための「カムフラージュ」だった・・・?
のではないか―――と、思ってしまったのです。
事実キリエは、単于から振り下ろされる「最強の剣」さえも、自らが欲求する“傷み”とは程遠いとし、
終には単于からリリアのOUSを抜き去ってしまった・・・
そして再び―――『无楯』は、リリアの下に・・・
自分が所有していたOUSが元通りになったことを知覚すると、すぐさまリリアは、ある「スキル」を発動させたのです。
翳すように前に出した左の掌から、一つの「光の環」が形成され―――
その「環」はやがて、展開されていくに従い、「あるモノ」を形成していったのです。
市:(こっ―――これは!?)
玉:これが、こやつが持って初めて形成されるもの・・・どうじゃ?単于の「紛い物」とは比べ物にならぬであろう?
市子は―――言葉を失っていました・・・その、「美しい」有り様に・・・
そう・・・「美しい」―――
リリアの前に展開されたのは、光の“帯”にも“翼”にも見えるようなものが、計六つ・・・
その内の2つを身体に馴染ませると、その「光の帯のような翼」は、『光輝の鎧』と成った・・・
そして“もう一つ”を取ると、単于とはまた違う『晄剣』を創り出し―――
やはり違う・・・「本物」と「紛い物」とでは、こうも―――
今の、リリアの、光り輝ける様の、なんと神々しい事か―――
それに―――
それに、もう、リリアは迷いませんでした。
自分が授かったこのOUSが今―――自分の手元にある・・・この“事実”を。
そして前回、玉藻前がリリアに促した言葉―――その真意が、これから明らかとなってくるのです。
#25;断罪の刃
リ:単于―――覚悟はいいな・・・
単:ぬううう・・・いい気になるなよ―――小娘ェ・・・
また、オレの「プランダラ」によって、奪ってくれるわ!
リ:そうは行かない―――もう既に、お前の動きは見切っている。
それにお前は、このOUSを上辺だけで判断していた・・・
実際に私は、このOUSの、本当の怖さと言うのを知ってしまっているからな・・・。
蓮:ええっ―――? でも、よ、相手の攻撃や防御を無効に出来るだけでも、十分脅威なんじゃ・・・
市:(そう・・・それだけでも、私達普通のプレイヤーにとって、脅威の対象となるべきもの・・・
けれど、それ以上のモノが、存在しうるというの?)
未だ、「初心者」の枠から抜け切らないでいる蓮也や、半分「熟練」である市子の認識は、そこまででした。
「最強の“盾”と“剣”」―――そして「鎧」までついてくるとなると、まず対人戦に於いては無類の強さを誇れるだろう・・・
まさに、先程の単于が“そう”でした。
自分達の「道場剣法」よりも、もう一段階上の錬磨を積んでいる「殺人剣法」・・・
それを扱っても、その総てを防ぎ―――単于からの攻撃を防ぎ切ろうとも、それらを崩し身に迫ってくる脅威・・・
しかし、これら以上の危険性を孕んでいるという、『无楯』本来の性能とは・・・?
それに、気付いてみれば、サヤに玉藻前は、既に武装を解除し、この戦いの行く末を見守っている―――?
サ:フッ―――見させてもらうよ・・・あんたの覚悟とやらを。
玉:そうじゃな・・・あやつも今度ばかりは肚を括ったものと見受けた。
このワシの物言い、大袈裟とお思いかな?
ならば聞くがよい―――『死神』の理というものを・・・
「『死神』は、私情で人を殺さぬ―――故に」
「その本性は、まさしく“人間”であらねばならぬ」
「「野望」「嫉妬」「憎悪」―――本能赴くまま、人を殺すのは“魔道”」
「天命を聴き、衆生救済の為に、情に非ず―――『死神』は人を殺す」
「「人」の為に「人」を殺す―――それが『死神』の宿命なのじゃ」
「「殺人剣」もまた然り、理を解せず暴を振るい、ただ傷付けるためのモノなれば」
「それは単なる「殺人」に過ぎぬ」
「生物を弑し、その理を解した時初めて、「殺人“剣”」として成るのじゃ」
「今はこの理、解らぬでよい、その内―――解る様になるでな」
玉:さて―――リリアよ、覚悟は出来ておろうな?
では、篤と見させてもらおうぞ―――この、トウキョウ・サーバー・エリアのマスター、玉藻前の御前でな!
玉藻前から説かれた話は、まだ理解には至りませんでしたが、
なぜ玉藻前がこの場にいるのか、ようやくにして理解してきた・・・
「この方は・・・何もリリアさんを手助けするためだけに、現れたのではない」
「これからリリアさんが成そうとすることを見届けるために、この場にいるのだ・・・」
しかし一体、これからなにが起こるのか―――それは・・・
リ:単于―――お前の行動は総て知っている・・・
この『晄剣』本来の能力を使わないまでも、非常に多くのプレイヤーをその手にかけてきた。
それは、絶対許されちゃならないことだ。
だけど・・・それだけの理由で、お前を“処分”するには、足りてなかったんだ・・・。
今―――聞き違いでないとしたら、リリアは確かに「処分」と言った・・・
「処分」―――?
何を―――?
「誰」を・・・「処分」―――?
「誰」であるかの対象は、最早言うべくもない・・・
しかし、「処分」とはどういうことなのか―――
いや・・・けれど、それではまるで―――
市子の頭の中では、その一言によって色んな事が巡りました。
けれど気になるのは、リリアが単于に対し、何らかの処分をするに際し、「足りなかった」とする条件とは・・・
リ:お前には兼がね、悪い噂が付き纏っていたな。
無益なPKにしてもそうだけど、そのあとの問題だ。
次々とリリアによって明らかにされてくる、単于の罪状―――
無益なPKに、女性プレイヤーに対しての卑劣極まる行為・・・
けれども“それら”よりも、群を抜いて許しがたい行為があったのです。
それが―――・・・
リ:お前―――PKした相手の装備・・・どうした。
単:(ぬううう〜〜・・・)――――。
リ:返事がないな―――団蔵。
団:はいよッ☆ あたしが調べた上でのことですけどね―――
PKした相手の装備、オークションにかけた後・・・・現金に換えていますね。
蓮:―――はあ?
なんだそれ?
「聞いたことがある―――・・・」
この世界は、どこをどう説明しようと、「現実」とは別の世界―――
けれど、この世界でも「通貨」と言うものは存在する・・・
事実、このクエストに挑むときに、「回復薬」などの“消耗品”や、「宿屋」などの“宿泊費”も、
この「ゲーム内通貨」によって支払われているのです。
それにこれは、「仮想世界」での決まり事・・・それがどうして「現実世界」で通用するものなのか?
疑いたい事実はあるのですが、市子は「SNS」や「掲示板」などを目にするにつれ、
ある社会問題が取り沙汰されていることを知ったのです。
それこそが・・・「RMT」―――
所謂―――“無”から「現金」を創り出せるという、現代版の『錬金術』
しかしそれは、犯罪などによく使われる為、このゲームの運営も公式には認めていなかったのです。
けれど、いくら“非人道的”とは言っても、単于が及んでいた行為は、所詮「仮想世界」での出来事、
RMTは、現実世界での、歴とした“犯罪”なのです。
けれど―――そうした“処分”は、本来ならば運営の仕事の一つ・・・の、はず。
そう思った時、ふと―――市子は気付いてしまったのです。
「まさか・・・先程、この人が言っていた「処分」とは―――・・・」
そして、更に気づくこととなる―――
「だとしたら、先程、玉藻前様が仰っていた「覚悟」とは・・・?」
「まさかリリアさん―――あなたは!!?」
リ:証拠は挙がっているんだ。
最早言い逃れは出来ないぞ―――単于。
単:畜ッ生―――畜生、畜生、畜生、畜ッッ生ゥゥッ―――!!
ふざけんじゃねえ!なぜオレだけが処罰の対象とならなきゃならねぇ!
他の奴らもやっていることだろうが!!
それに・・・オレはただ、「アイツ」の依頼で、おまえを倒しただけなのに・・・ッ!!
リ:見苦しいぞ単于―――!
だからこそ私は、お前の事を「拒絶」する・・・だからこそ私は、お前の事を「認めない」
だからこそ私は・・・お前を「永久に消滅」させ―――
だからこそ私は・・・お前を・・・「この世界から永久追放」する―――!!
その“言葉”・・・その言葉こそ、リリアの「覚悟」でした―――
一人のプレイヤーが、「プレイヤー」ではなくなった瞬間―――
光り輝ける「断罪の刃」は、一人のプレイヤーが、運営側の人間と成ってしまった瞬間―――なのでした。
つづく