無慈悲に振り下ろされる「断罪の刃」―――
今度こそ、その身を防る術を持たず、無抵抗のまま斬り伏せられる単于の身体。
けれど、そのアバターが消滅するに際しても、彼は不敵な言葉を笑みを残すのでした。
単:ククク・・・ハハハ―――無駄な・・・事を・・・
オレは・・ ・・・ ・・再―――び・・ 舞い・・ 戻り・・・―――
必ず―――オ前・・・ ―――ヲ 見つけだ・・・シ―――
ソ―――・ ・・ ・シシシシシ テ――――――――――――
恨みがましい表情に言葉を残し、「単于」という存在は、この世界より消失しました。
それを見届けたトウキョウ・サーバー・エリアのマスターは・・・
玉:「無駄」―――か、そうじゃな、無駄なことよ。
市:玉藻前様? では、またあの者は・・・
玉:心配せずとも好い、市子殿。
今申したのは、リリアではなく、寧ろあやつに―――じゃよ。
蓮:どう言う事―――なんだ??
確かに、「単于」が、このゲーム内で操作できる「キャラクター」は、リリアのOUSの権限により消失させられました。
けれどそれは、裏を返してしまえば、現実世界に於いての、「単于」というキャラクターを操作していた「人間」は実在しており、
またその人間が、「単于」か、また別の「キャラクター・アカウント」を取って、“復帰”してくることは、十分に考えられたことだったのです。
その「危険性」を考慮し、その上でのリリアのOUSの権限行使―――
即ち「アカウント・BAN」を適用させたのは、「単于」なるキャラクターに“だけ”―――だと、そう思っていたら
玉:こやつの持つ『无楯』は、その様な浅いものは持ち合わさん。
だからこその、「覚悟」―――なのじゃ。
“我々”プレイヤーには、ゲームをプレイ・・・「愉しむ」という「権利」は、皆一様にして持っている・・・
それを、「アカ・BAN」と言うのは、あるプレイヤーが、運営が作った規定に反し、尚且つ是正しようとしない場合に限り、
運営が行使できる最終手段―――なのです。
しかし、未だゲームの知識の浅い市子ですら、
「それでは、「単于」を操作していた人間が、また別のキャラクターを作成してしまったら?」
―――と、そう想像するのに難くはなかった・・・
現に、単于自身も、消滅する際そんな類の恨み言を吐いていたのですから。
しかし“それ”を玉藻前は否定をしました。
このOUS・・・『无楯』の、本当の恐ろしさを理解していたからこそ、そう言えたのです。
そう・・・このOUSの、本当の権限とは―――
玉:『无楯』の持てる権限とは、な。
当該の者に関して、不適切・不適合と判断された場合に限り、プレイヤー個人の情報を特定、
そこからヒモ付けを行い、これから別の「アカウント」で復帰しようと企む不届き者を、
二度と「この世界」に入ってこさせぬようにする為のものなのじゃ。
市:(!)それでは―――
玉:いかにも、例えゲーム内で起こした不肖とは言え、それは所詮「仮想」での話し・・・
なにも、「現実」にまで波及させることは、あるまい?
じゃが―――あの者は、決して犯してはならぬ事に、手を染めてしまっていたのじゃ。
サ:それが、RMT―――て,ヤツか・・・
そう言えば、4・5日前にも報道されていたな。
市:ま―――まさか、あの報道は?!
現実社会で報道されるまでなった、ある事実―――
それが、ある「犯罪組織」に流れたとされる、高額の現金―――
その事を捜査機関は、ひた隠しにしようとしていましたが、
ネット内に於いては、「とあるゲーム内での、RMT発覚」が実しやかに囁かれており、
だとしたなら・・・その「汚れた金銭」の因を辿れば、行き着く先に行き着いた―――のではないかと思われたのです。
(その調査に当たっていたのが「加東団蔵」であり、リリアは動かぬ証拠を手にした上で―――の、今回の行動・・・と言えば、少しは背景が汲み取れようと言うモノ・・・)
とは言え、リリアも一プレイヤーだっただけに、このOUS本来の権限を使う事に躊躇うところがあった・・・
実は、リリアが敗れてしまった背景には、そうした小さな歪みが重なり合い、
運悪く条件が重なってしまった時に―――と、思わざるをえなかったのです。
とは言え、単于を「BAN」したことには変わりはない―――・・・
これは、彼女が、「一人のプレイヤー」としてではなく、新たに「運営側の人間の一人」として、断を下してしまったことに他ならなかったのです。
玉:いかが―――じゃな? リリアよ・・・
リ:ああ・・・うん―――あまり気分は良くないよ・・・
玉:で―――あろう・・・な。
それにじゃ・・・あやつが、真にあのOUSの事を解さなんだのが、せめてもの救い―――じゃろうの。
蓮:そうか―――あんな危なっかしいものを振り回されちゃ、おちおち遊ぶこともできやしない。
その言葉は、蓮也が未熟ながらも、到達することが出来た「一つの真理」―――と、言えたものでした。
いつでも自分達の「アバター」を消せ―――これからはネット・ゲームが遊べなくなる・・・
言ってしまえば、単于のような「自己中心的なプレイヤー」が、気のままにそのOUSを行使した時、どうなってしまうのか・・・
それは、想像に難くないことでもあったのです。
ともあれ―――ここに、リリアに課せられていた重大なクエストは完了しました。
そしてまた、強力なOUSの復活に伴い、例の「称号」も戻るものかと思っていたら・・・?
市:(あら?)リリアさん―――あの「称号」は?
リ:ああ~あれね―――実は他のプレイヤーに「譲渡」しちゃったの。
それに―――ね・・・「称号」って、別になくても不便になるわけじゃないもの。
サ:はァ~ん、するってと―――今は「あいつ」がつけてんの?
リ:そっ―――そう言う事になるかな。
このゲームに於いて、「最強のプレイヤー」にのみ与えられる、相応しい「称号」―――
それが『清廉の騎士』でした。
けれど今は、その「称号」はリリアのものではない―――どうやら彼女自身の証言によると、
古くからの「古参」である、サヤやリリア、玉藻前もよく知ると言う「あるプレイヤー」に「譲渡」したというのです。
(ちなみに、そのプレイヤーも、「最強」に相応しい実力の持ち主であることが、ここで判ろうと言うモノ)
それはそれとして―――
サ:と、まあ―――色々あったけど、中々楽しめたよ。
またなんかあった時にゃ、声かけてくれな―――じゃあな。
市:しかし・・・不思議な感覚ですね―――
リ:えっ?何が?
市:だって―――私達は、リアル上の関係では、「ライバル同士」・・・なんですよ?
それが、現実とは違う世界で、お互いが協力し合って―――というのは、考えたこともなくて・・・
リ:あ―――うん、そうだね。
市:それに、話せば判る人だと言う事も判ってきました・・・。
これからは見方を変えて、交流などを図ってみないといけませんね。
やはり、学園内に於いて、生徒達の上に立つ人の考え方はどこか違う―――・・・
今回の自分は、どこかあの人を、「自分と同じプレイヤー」とでしか捉えていなかったけれど・・・
この人は、自分とはまた違った感覚で、あの人の事を捉え、剰え現実世界での交流も視野に置いていた・・・
しかしリリアは、どこかで思い違いをしていました。
なぜなら、その市子からの熱い視線は、彼女自身にも注がれていたのですから。
それからは、「クエストクリア」の報告と共に、報酬も受け取り、
また明日もある―――と、言う事で、ログ・アウトをした“彼”と“彼女”達・・・
明けて翌日―――信じられない出来事が、璃莉霞を襲ったのです。
#26;誘い
それは、昨夜の興奮醒め遣らぬ、翌日のお昼休憩での出来事―――
お昼を済ませて、午後からの授業の用意をしている璃莉霞の前に、生徒会長である市子が現れ・・・
市:松元さん、少しお話しがあります。
生徒会長室まで来て頂けませんか?
璃:えっ? は・・・はあ―――
この様子を、度々璃莉霞を生徒会長室まで呼び寄せていたことから、
そんなに珍しくもない光景だ―――と、クラスメイト達は一様にして思っていました。
・・・が、呼ばれた本人である璃莉霞は、また違った思いをしていました。
今までは、「仮想世界」に於いて、自分に関わるクエストに協力をしてもらうために、付き合っているのだ―――と、ばかり思っていた
のに
そうした意味もあり、度々生徒会長室に呼ばれていたことに、そんなに違和感はありませんでした。
ですが、今は・・・そうした「協力関係」は、解消されている―――
はず
な
のに
?
自分に「用がある」・・・とは、一体何なのだろう―――そう思い、お断りしてしまうのも何なので、付いていくと・・・?
璃:あの――――どう・・・したんでしょう?
市;まあ、そこへお掛けなさい。
璃:はあ・・・
市:実は・・・ですね、璃莉霞さん。
私、ログ・アウトをして少しばかり私なりに考えたのです。
松元璃莉霞は、現実世界に於いては、あまり目立たない存在―――言ってしまえば、「地味娘」の類でした。
取り分けて頭がいい訳ではないし、容姿もそんなにいい訳ではない―――
けれどそれは、璃莉霞自身が望んでいる事―――
その事は、現実ではない仮想の世界に於いての彼女は、美人で統率力があり、
なにより頭の回転が速い―――
恐らく、自分の予想が正しければ、現実世界の彼女も、容姿端麗にして賢いはず、
そして人の上に立ってなにかをさせれば、適切に動けるはず・・・
だからこそ今―――白鳳学園生徒会長の名に於いて、「誘い」の言葉をかけるのです。
市:あなた・・・生徒会の一員になりません?
璃:(・・・)――――・・・・はあぁ?!
えっ・・・い、今何て??
市:ですから―――
ずいっ
この白鳳の生徒会の執行部の一人になりませんか―――と、こう誘っているのです。
璃:(へっ?)え・・・っ、え・え・・・い、いやいや、それちょっと困りますぅぅ~~・・・
市:どうしてなのです?
璃:ど・・・どうして~~~って、ほ、ほら私・・・「愚図」だし・・・(か、顔が近いぃ?)
☆☆☆ド ンッ☆☆☆
市:璃莉霞さん? 自分で「愚図」と言える人は、「愚図」ではないのですよ?
璃:(ふええっ? かっ・・・壁ドン?)え・・・ええ~~~っ??
市:それに、私は知ってしまったのです。
あなたは常にその爪を隠している、能ある鷹であると。
逃げられないように―――と、璃莉霞を壁際にまで押し付け、逃げ道を封じた上で迫る・・・
その逃げ道を封じられ、「愛の告白」の如く生徒会長に詰め寄られ、「あわあわ」としてしまう、自称「愚図」の女子高生。
この時の璃莉霞は、鈍い清秀にでも判るくらいの「しまった」と、「あわあわ」とした表情をしていたのでしたが、
時すでに遅し―――この有能に過ぎる生徒会長により、今回の一件の挙動を余すことなく見収められていた・・・
例え自分の為だとはしても、各エリアを飛び回れる「行動力」、一度は敗れたことのある相手にでも再び立ち向かっていける「胆力」、
そして、一番璃莉霞を生徒会に誘おうとした理由が・・・
市:私はね、あなたに感謝をしているのですよ。
璃:は?へ?か・か・・・感謝?
市:ええ―――経緯はどうであれ、あなたは雷鳳の橋川さんとのパイプを作ってくれた・・・
私も常々思っていたのです、確かに今までは「ライバル同士」と言う関係ですが、
それ以外では冷え込んだまま・・・
それにあの時点では、私も雷鳳にそんなに知り合いがいませんでしたから、打診の仕様がなかったのです。
「あなたには、私には持っていないものを持っている・・・」
「一見して交流が苦手な体を装いながらも、実際の処では幅広い交友関係を持っている・・・」
この事は、「仮想」に於いても―――また「現実」に於いても、心強いスキルであることを市子は知っていました。
それに、交渉事に関しての“取り引き”の仕方も見事―――
今ここで有用な人材を獲得できなければ、白鳳のブランドは下落する一方だと思い、
璃莉霞に対しての誘いの熱の入れ込み様は、異常なほどにも見えていたのです。
それに、こう言った人間の「落とし文句」に、仕様は心得ている・・・
ゲーム内でも知ったように、リリアの人間性は「実直」そのもの―――判断力に関しても迷いはない―――
そうした人間には、やはりこの“手”が一番・・・
「赤心を推して相手の腹中に置く」
事実市子は、今自分の胸の内にある総てを、璃莉霞に訴えかけました。
するとさすがにこれは効いたようで、また更に一手を講じたのです。
市:それに―――もう私達、友達ですよね。
生徒会長が見せる、屈託のない笑顔で迫られた時、璃莉霞は落ちました・・・。
後日、「あれは卑怯だよ~」とは口にするものの、不思議と悪い気はしなかった。
それは璃莉霞が、本当は面倒見がいい証拠であることを、物語ってもいたのです。
つづく