「人間」とは、一様にして意表を衝かれた時、慌てふためくものである―――
事実、その時の璃莉霞は、まさにそうでした。
以前、単于に敗れてしまった際にしてもそうでしたが、
今回は、またそれとは違ったものだった・・・
彼女が通う学園の、生徒のトップに立つ人からの、直接の『ヘッド・ハンティング』―――
“彼女”と“彼女”は、もし「この経緯」がなかったなら、交流と言う接点すらなく、
今こうして一緒に生徒会室にいられる関係性ではなかった・・・
それが、彼女達を急速に近づかせてしまった原因とは、
ある「有名なオンライン・ゲーム」・・・
そこでの関係性を構築をさせたがため、生徒会長は、有能な人材を発掘することが出来たのです。
それは、市子にしてみれば当然の事―――
一方の璃莉霞は、まさか後になって、こんな事になってしまおうとは思ってもみなかったため、
後悔することしきり―――だったようですが、もし本当に嫌だったなら、丁寧にお断りをしてしまえばいい・・・
けれど市子は、璃莉霞に逃げられないよう、「殺し文句」を用意していたのです。
そう・・・その言葉こそ―――「友」・・・
璃莉霞は、現実内での「友」は、そんなには多くありませんでした。
・・・が―――仮想内に於いては、PTの仲間であった「市子」や「蓮也」も驚くほどの顔の広さ。
一つのエリアを統括している「エリア・マスター」が3人・・・
現実内での「ライバル校」の「有名人」でさえも、仮想の世界ではお互いが知り合えている関係だった・・・
そこで市子はこう思ったのです―――
「これまでの、この人の交友関係には驚かされましたが、もしかすると“これ”でも、まだ「ほんの一部」かも知れない・・・」
「それに、お祖父様も仰っていた事・・・『人生最大の宝は「友」なのだ』と・・・」
「私は―――」
「私―――は・・・」
「あなたと「友」になりたい・・・」
「「友」となって、あなたと同じくらいの、幅広い交友関係を築いていきたい・・・」
「そのための、これば「第一歩」なのだ―――」
#27;交流の使者
こうして―――晴れて、白鳳学縁生徒会執行部の一員となった璃莉霞は。
璃:はあ・・・なんだか、とんでもないことを受けちゃったなぁ―――
市:同じです―――
璃:えっ?「同じ」?
市:「同じ」ですよ・・・「クエスト」を受け、こなしていく感覚でいいのです。
璃:「クエスト」・・・ああ―――そういう感じなんだ。
それで、なにをすればいいんです?
市:そうですね―――ではあなたには、「これ」を頼むとしましょう。
生徒会執行部の「所業務」を、生徒会長は「「クエスト」と同じ」―――と、表現しました。
そこは「不謹慎かも」とは思えるのですが、その例えはすぐに璃莉霞に浸透したのです。
知っているからこそ、的確なアドバイスが出来る―――
知っているからこそ、何をすればいいのかが分かる―――
傍から見れば、まるで接点のない二人のようにも見えましたが、
それは「現実」での話し―――
けれど、もう彼女達は、“それ”を口にしなくても、お互いが分かるくらいの距離にいたのです。
そしてて今回、生徒会長から、一新米執行部員に「クエスト」の―――
いやもとい・・・
今回の、「ある計画」についての内容を聞き―――
「え〜〜これ、「難易度:S」じゃない」
・・・とは思うものの、依頼の発注元からのアドバイスを受け、早速動くこととなったのです。
けれど・・・実際に璃莉霞が動いたのは、仮想内での話し―――
璃莉霞は帰宅をすると、颯爽とある「サーバー・エリア」に・・・
それが―――「ベルリン」・・・
そう・・・以前紹介したこともある様に、ある種族が「マスター」を務める・・・と言う、そんな場所に、
「リリア」は何の当てがあって―――?
すると、その翌日の放課後―――璃莉霞は、雷鳳学園の門前に立っていました。
なぜ・・・違う学校の生徒が、他校の校門前に―――?
そして、迎え入れたのが―――・・・
小:ようこそ―――おいでになさいませ・・・
淑女泰然とし―――その学園では知らない者はいないと言う・・・
この学園の「象徴」とも言え―――また、「お姉さま」として絶大な人気を誇る・・・
『橋川小夜子』―――・・・
その姿は、「藍色」の長髪を、後ろで2つの太い三つ編みにし、「色白」で肌理細やかな肌―――
この学園のトレード・マークとして知られている「黒」の「セーラー服」も堂に入っている・・・
彼女が通るだけで、「いい匂い」が後を追い、皆誰もが羨望の眼差しを手向ける―――
女子生徒達の黄色い声援も止むところがなく、運動系の部活に勤しむ男子生徒も、「はた」とその手足を止める・・・
その「お姉さま」ご自身が、他校の地味な女子生徒を出迎え、案内をする―――という様に、
学園の生徒達は、一様にして嫉妬と羨望が入り混じった、複雑な感情を璃莉霞にぶつけたのです。
それはそれとして、今回の「目的地」に着くまでに、人気がなくなった―――のを、見計らうかのように・・・
璃:すごい人気ですね、サ―――橋川様・・・
小:「サヤ」でいいよ―――あんたとは、言ったら「知らない仲」じゃなくなったわけなんだし。
璃:(ア〜〜〜ハハハ・・・)
小:あ゛〜〜〜にしても、肩凝るわぁ―――“お嬢キャラ”すんのも、楽じゃないんだぜぇ?
璃:あれ?―――にしては、結構様になっていましたよ?w
小:よしとくれよ―――それよか、細川の“お嬢”の方が大したもんだよ。
璃:えっ―――市子さんがですか?
小:ああ―――以前それとなーく聞いてみたんだけど、あの人にとっちゃ「あれ」で自然体なんだよな〜
そこへ行くと、私のはほら―――「創り物」だからなぁ。
璃:あ―――それ言われてみれば・・・「現実」と「仮想」とのギャップ、そんなにはない―――って言うか・・・
衆目がなくなった―――のを見計らうかのように、小夜子の相好が崩れました。
そこをみると、小夜子が衆目に晒せていたのは、創られたモノであって、
「今」ここでの“彼女”こそが、本来の彼女―――言ってしまえば、「仮想内」での「サヤ」そのものだったのです。
そこの処を判っていた璃莉霞は、小夜子の気苦労を労ったのでしたが・・・
ところで、なぜ他校生である璃莉霞が、小夜子のいる雷鳳を訪れているのか―――
その起因が、昨夜の行動に表れていたとしたなら・・・?
小:それより、昨日あんたが、「私らんとこ」に来た―――てことが、驚かされたもんよ。
璃:あっ―――ごめんなさい・・・驚かせちゃいましたか?
小:(・・・)まあ―――「またなんかあった時にゃ、頼ってくれ」て言ったのは私だけどもな?w
こんなに早いタイミングで来るものとは思わなかったよww
「まあ〜た、なんか・・・「あれ」以上の厄介事持ち込んできやがったのかあ〜?」
なぁ〜ンて、な―――w
けど、内容聞かされると、そうは思えなくなった―――だから、受けることにしたのさ。
璃:やっぱり・・・「メール」とかで、最初は―――が、良かったんですかね?
小:(・・・)いや―――これはこれで重要な話しなんだろ。
だから「メール」とかじゃなくて、あんた本人が―――あんた本人の言葉で、私に直接伝えに来た・・・
これは「武道」で言うところの「礼節」と言う奴だ、礼節を重んじる者を軽んじては、橋川家の・・・
いや―――・・・「我等一族」の名折れとなるからな。
それに―――今回のあんたからの依頼の内容・・・「雷鳳の生徒会長に会わせて欲しい」
そこに思うところがあったものでね。
璃莉霞が市子からの依頼を受けたのが「昨日の放課後」―――その当日では、既に雷鳳の総ての門は閉ざされているから、
「明日にでも」・・・というのが普通でしたが、ここからが璃莉霞の本領の発揮―――
「夜」のログ・イン時間になると、すぐさま「ベルリン・サーバー」へと飛び、
そこから「ダイレクト・コール」を通じてサヤを呼び寄せ、今回の意向を伝えたのです。
この璃莉霞の行動力に、最初サヤは驚かされたモノでしたが、
今回の依頼内容と、前回での一件で市子の事をよく知るに至り、
リリアからの意向を受諾することにしたのです。
その意向こそが―――「あなたが通う学校・・・雷鳳学園生徒会長に会わせてもらえませんか―――それも、私一人で」
「白鳳」と「雷鳳」は、その地域に於いて双璧をなす「名門校」同士、
今現在に於いては、雷鳳は隆盛を誇り、白鳳は有力選手が流れていくなどして、衰退の一路―――
言ってしまえば、「ライバル同士」とは言っても、その勢力差で言えば“対等”ではなかったのです。
しかし、この時期に―――衰退一路のライバルが、隆盛極まる処に、単身で乗り込んでくるとは何事か・・・
雷鳳の生徒会長は、小夜子から事の次第を聞き、白鳳から単身で乗り込んでくる何者かを、
肝の据わった「傑物」か―――或いは、情勢を見極めることの出来ない「愚物」か―――
その評価をしていました。
そして、生徒会長室に一歩―――足を踏み入れた時、“それ”は始められたのです。
その部屋に・・・一歩足を踏み入れた時、既に璃莉霞は感じ取っていました。
そして、「感じ」「取った」からこそ―――
生会:よくぞ参られたな―――まあ、そこへ掛けたまえ。
小:紹介いたします、こちらが当校の―――
生会:「挨拶」は、よい―――“サヤ”・・・
お前もここが、どう言う造りになっているか、判っていよう・・・。
小:(・・・チッ)しまんねぇなあ―――ああ、言っとくが、こいつも「仮想」の住人だ。
あちらでの名は―――「秋定」だ、ちなみにこちらでの身分は「雷鳳学園生徒会長」で、名は「千極厳三」、
これでいいか。
厳:ああ十分だ。
それより立ったままでは落ち着かんだろう、寛ぎたまえ。
璃:あ・・・はい、失礼します―――
淑やかなる態度で、雷鳳の生徒会トップを紹介するも、互いの気心が知れているからか・・・
生徒会長からの促しもあり、砕けた表現に変われる小夜子の口調・・・
そこで、今回璃莉霞が会おうとしていた人物が知れたのです。
そう・・・その人物も、例のゲームのプレイヤーの一人だった・・・
キャラクター名は「秋定」―――この名を知り、璃莉霞の警戒は一層増したのです。
それに“彼”こそは、「橋川」「細川」と並ぶ、その地域での“四候”の家柄の一人・・・「千極」の人間だったのです。
ここは―――所謂「敵地」・・・
敵地に、たった一人で乗り込んできた者の「覚悟」・・・と、は。
だからこそ璃莉霞は、そこで「一つの行動」を示してみせたのです。
その「行動」こそ―――相手からは椅子に座るように勧められたにも拘らず・・・
上履きを脱ぎ、床に坐する―――所謂「正座」・・・
そのことに、さぞや訝しむ―――ものと思いきや・・・
厳:(・・・)ふむ―――まあよかろう。
それで、そちらがオレに会いに来た理由、聞かせてはもらえんか?
璃:はい―――実は・・・
実際のところ、璃莉霞・・・「白鳳」から持ち寄られた内容としては、「在り来たり」でした。
「ある時点で冷え切った両校の関係性を温め直したい」
「この、冷え切った関係性のままでは、いずれは破綻してしまう危険を考慮し」
「当代の私共で、そろそろ見つめ直す時期に来ているのでは」
―――そう言った内容でした。
確かに・・・今回齎された内容は、実に「在り来たり」―――
ただ・・・これを齎しに来た存在は、“そう”では、ない―――
厳三は、璃莉霞からの「市子の提案」を聞き入ってはいましたが―――本当に注目していたのは、実は“そこ”ではありませんでした。
それと言うのも・・・
「少しばかり考えさせてくれんか―――」
「なに、そんなに時間は取らせん、別室にてお待ちになって頂こう。」
果たして厳三は、璃莉霞を別室へと移し、そこで改めて小夜子に―――
厳:サヤよ―――お前は、あの者をなんと見た。
小:あ? ああ―――あんたが椅子を勧めたにも拘らず、その場に座り込むとは・・・な。
厳:フッ―――それは、無理らしからぬと言うものだ。
オレはな・・・サヤ―――あの者に「剣気」を放っていたのだ。
小:(!?)ン・ナッ―――お前・・・
厳:それを、お前が感じぬのも無理はない。
なぜならオレは、ヤツにだけ剣気を向けていたのだから・・・な。
そしたら―――(ククク・・・)
なんとも―――不躾に思われていたのは、璃莉霞ではなく寧ろこちらだった・・・
しかし、そう・・・この時点で、「自分の立ち位置」と言うものを履き違えていなかったのは、璃莉霞と厳三だけだったのです。
厳三にしてみれば、敵対関係にある処からの、「単騎襲撃」だと捉えていました。
そこを璃莉霞は素早く察し、雷鳳生徒会長室に一歩踏み入れてからの彼女は、警戒を強くしたものだったのです。
“ここ”は「敵地」―――
敵地に「単騎で乗り込む」ことの“意味合い”・・・
「よもや、この者は―――」
だからこそ厳三は、“本陣”たる自分の部屋に、「敵」を招き入れた時、
まさに「敵」にのみ、攻撃的な気を発しました。
そして、“それ”を受けての返答えが―――璃莉霞の「正座」・・・
「いや―――“あれ”は、そんな生易しいものではない・・・」
「“あれ”こそは、「正座」の形をしているものの、「別の何か」・・・」
そこに在ったのは、「地味」で、やもすれば「野暮ったい」感じがする、一人の女子生徒―――では、ない・・・
美しくも、地に突き立てられた「剣」―――の類などだと言う事を・・・
つづく