今回話し合うべき事がまとまったから―――と、別室から呼ばれた白鳳の使者は、
やはり警戒を解かないでいたからか、雷鳳の生徒会長たちの前で、またしても「正座」をしていたのでした。
その使者を前にして、雷鳳の生徒会長からは、
「須らく係る上の要件を承りし事、縦しんば近々にして話し合う場を設けられたし」
との返答を受け、使者を去らせたのです。
そして、璃莉霞を見送りながら、厳三は小夜子に・・・
厳:フフフ―――いや大したものだ、ヤツはただ細川の使い番として、ここに来たわけではないぞ。
それにヤツは、ここへ偵察に来たのでもない―――ヤツは、オレ達に警告を与えに来たのだ。
小:(・・・)そいつは―――強引な引き抜きにも関わっている事なのか。
厳:「そうである」―――と、言いたい処だが、今回の様子を見る限りでは、「そう」でもないようだ。
璃莉霞が雷鳳を訪れた理由―――それは、ここ最近目に余る、強引な人材の引き抜きにあるのではないか・・・と、小夜子は見ていました。
確かに、厳三が雷鳳の生徒会長に就くに伴い、半ば強引と見られる「引き抜き政策」を断行してきた・・・
それは、「ライバル」関係にある、白鳳も言うまでもなく・・・
だから白鳳は、ここ数年―――学園としての業績や成績が下がる一方で、
だから、白鳳のトップが、これ以上の人材の流出を止めるべくの使者を寄越してきた―――
そう思えたものだったのです。
事実、別室に移す前の璃莉霞の態度にしても、それに準ずる処があったようで、
彼女の態度に思うところとなった厳三は、ある一定の評価をしていたのです。
厳:オレはな―――ヤツにだけ「剣気」を向けていたのだ。
そしたら―――(ククク・・・)
サヤよ、ヤツはただ“座って”いたわけではないぞ。
小:ん? なんだって? だが、あれはどう見ても―――
厳:まあ、聞け―――オレも実際見たことがなかったから、実感が湧かないでいたが、
先程のヤツの作法こそ―――「構え」だ。
小:「構え」―――だ、と?
“次に攻撃動作に移るための、予備動作”とでも言いたいのか?
厳:サヤよ・・・お前の眼には、どう映ったかは知らないが―――
先程までいた“アレ”こそは、まさしくの「剣」だ―――
それも、「名剣」「妖剣」の類ではない、“アレ”こそは―――「御剣」だ。
小:「御剣」・・・『草g剣』に代表される―――“アレ”か・・・
厳:フッフッ―――市子め、またとんでもない者を召し抱えたものだ。
小:(・・・)お前―――細川のお嬢さんの事を、知っていたのか・・・?
厳:まあな―――あやつも、オレも、幼馴染だ。
幼少の頃は付き合いがあったものだが・・・な。
それにしても―――(ククク・・・)いやはや愉快よ。
このままオレのなすがままなら、徹底的に潰すことも考えていたが、
神代の剣を使者に宛がわれては、この「話し」呑まざるを得ん様だな―――?!
そう・・・今回「敵本陣に単騎で乗り込んできた使者」を、厳三は「剣」と例えました。
しかもその例え様を、「名剣」「妖剣」の類、一括りにはせず、言わば更なる高貴な剣―――
この国の“皇家”に伝わる、伝説の一振り・・・神代の剣、『御剣草g』に例えたのです。
その“メッセージ”は、ただ単に細川家の名代としての“御使い”ではない―――
隙あらば、敵の総大将の首を落とす気構えすら見受けられた・・・
そうした意味での、璃莉霞の正座―――それこそが「構え」だったのです。
この翌日の放課後、成果を報告する璃莉霞に、市子は―――
市:そうですか、ご苦労でした。
璃:エヘヘ―――お役に立てましたか?
市:はい、それはもう。
それより堅物である厳三様が、直にお会いして下さるなんて、意外でしたね。
璃:市子さん―――向うの生徒会長様の事を、ご存じでいらっしゃったのですか?
市:ええ―――言ってしまえば、あなたと清秀の関係と同じですよ。
お互いがどう言った性格であるか、知り過ぎてしまっているが故に、通常の手段では受け入れてはもらえないだろう・・・と、
市子は予測していました。
だからこそ―――の、璃莉霞であり、璃莉霞もまた、市子の想定外の働きをして、
白鳳・雷鳳の生徒トップ同士の、会談の約束を取り付けたのです。
#28;思惑
それはそれとして、その日のログイン光景―――・・・
リリアは単身、「シベリア・サーバー」にいました。
それは、ここの「エリア・マスター」に借りていたものを返す為に―――・・・
リ:お邪魔いたします―――
ぐひっ―――:キ
エ:よく来てくれましたね、それに首尾も上々だったみたいで、なによりだわ。
リ:いえ、こちらの方に助けて頂かなければ、どうなっていたか・・・
エ:「手助け」を?それはおかしい話ね―――?
ぐぇぇ・・・:キ
私は、他の誰にも、そんな指令を下した覚えはないのに??
「単于」を倒すために―――と、リリアはエリヤから借りていたモノがありました。
それが、『ファフニール』・・・
通常の剣では、奪われたOUS『晄楯』で、すぐに役に立たなくなることが判っていた為、
無理を推して貸してもらった一級品の武器・・・だからこそ、単于と亘り合う事が出来ていたのです。
しかしながら、如何せん単于の身体を掠りも出来なかったことから、リリアの目算も狂ってしまったのです。
それに、窮地を救ってくれた―――その事も含め、感謝を述べたものでしたが、
エリヤにしてみれば、リリアを手助けするよう、指令を出した覚えはないとのこと・・・?
けれど、リリアは―――エリア・マスターの部屋に通された時から、「その異変」は目にしていたのです。
確かに、マスターであるエリヤは座っている・・・
しかしながら―――その「材質」は、普通のものとは違っていたのです。
普通の椅子の材質と言えば、「木材」等が当たり前・・・少々高級なものともなれば、「金属」や「石材」ともなるのですが・・・
どうもエリヤが坐しているのは、そのいずれでもなく・・・??
しかも時折?「ぐひっ―――」「ぐぇぇ・・・」などの、悲鳴めいたものが??
リ:あ・・・あのぉ〜〜―――エリヤ様? もうその辺で・・・
キ:いひひぃ〜〜〜♪
エ:ま゛っ! なんなんでしょうね゛っ! この椅子はっ!!
少しお黙りなさいっ―――!!(ぺちぺち☆)
キ:はひいぃ〜〜〜ん♪
え〜〜〜っと・・・ひょっとしてその「椅子」―――「人間」?w
そう―――とどのつまりは、その部屋にいたのは、客人であるリリア、部屋の持ち主であるエリヤ・・・の、他に?!
『人間椅子』であるキリエ―――??!
しかもどうやら、「お仕置き」の真っ最中らしく、とは言え・・・主人から罰せられても、顔を上気させ、喜びの余りに悶えては、
「おいおい―――これって、何の“ご褒美タイム”?w」
と、リリアも思うしかなかったようです。
それはそれとして、一通りの用を済ませ、トウキョウ・サーバーへと戻ってきたリリアは・・・
市:あら、お帰りなさい、どこへ行っていましたの?
リ:あ、うん―――ちょっとね、今回のお礼に・・・ね。
市:私にも声をかけてくれれば、ご一緒しましたのに。
リ:いやまあ、言ったところで野暮用だしね。
それに、私自身の事だったから・・・
市:そうでしたか―――それにしても、今更ながら、あなたには驚かされます。
リ:えっ?なにが―――?
市:今回の雷鳳の件ですけれどね―――あの後、「彼」の方からメールを頂いたのです。
この度の事で、自分が友誼を結んだ人の凄さと言うものを、改めて思い知った―――
今までは、いくらこちらから声をかけたとしても、振り向いてさえもくれない、連れない幼馴染・・・
“だった”ものを―――
それが今回、璃莉霞を使者に立てたお蔭からか、その日の内に返事がもらえた・・・
「また・・・あの時の様に、お会いできる―――」
淡い期待を胸に秘める、乙女なのでした。
それから数日の時が経ち―――両校の生徒のトップ同士が話し合う場に、璃莉霞と小夜子の姿も見えました。
時は・・・「黄金週間」前―――
この大型連休を前に、市子は、ある一大計画を描いていました。
それこそが―――
厳:ほう―――「合同体育祭」とな。
市:ええ―――これは、普通の競技はもとより、お互いの部活同士の交流を含め、
盛り立てていくと言うのはいかが―――か、と。
厳:ふむ・・・面白いな、たまには興をそそられるモノを考えるようになったか。
市:いかがです?
厳:よかろう、だが、ただ勝敗を決するだけでは面白くない。
そこで―――だ・・・
白鳳・雷鳳の「合同体育祭」―――
しかも、通常の競技を行う一方で、両校が抱える「運動部」の対抗戦にしてみては―――と、市子は提唱したのです。
そこは、今までにもない画期的な試み・・・と、そう見たのか、厳三も膝を打って、その案に賛成しました。
・・・したのですが―――彼はそこでもう一つ、この「合同体育祭」が盛り上がる方策を立ててきたのです。
それが、所謂ところの、勝敗の決着はもとより―――そこへ“点数制”を加味しての「総合決着制」を打診してきたのです。
しかしこれは・・・言ってしまえば「公開での引き抜き」―――
総合決着にて勝った校には、「誰か」を指名して自分の学生にできる・・・
これは、自信溢れる厳三ならではの“一手”―――
けれどここで「引いて」は、またしても誹謗れ―――今度こそ永久に振り向かれなくなる・・・
ここが、市子一世一代の勝負所なのです。
ところ一方―――場所と時間を少々遡り・・・
ウランバートル・サーバーから戻ってきたばかりのキリエを呼び止めるエリヤ・・・
エ:どこへと行って来たのか―――と言うのは、敢えて問わないでおきましょう・・・それで?
キ:まあ・・・「中の下」―――と、言ったところでしたね。
べ:だが―――それでも、「清廉の騎士」は敗れたというか・・・
“アレ”は、設定の上では、「上位者」を倒せたはず・・・と、聞いていたのだが?
キ:《ルクスゥ》それは違うわ―――私は「飽くまで」、単于の実力は「中の下」と言ったのよ。
エ:(・・・)ならば―――
ほんの少し前にも述べていたように、本来単于の居場所へと赴き、罰の“代行”を執行しようとしていたのは、
エリヤの一族の中でも《ラゼッタ》と呼ばれる存在でした。
・・・にも拘らず、現場へと赴いたのは、キリエだった―――
実はエリヤは、キリエの性格と言うものを知り過ぎていた為、単于の居場所に赴くことを禁じてはいた―――ようなのですが、
“それ”は飽くまで「代行」―――
ここまでは語られてはいないのですが、そもそもこの「因縁の宿敵」とは、ある『イベント』をこなして行く上で必要不可欠のものであり、
「対象者」自身がこなせなければならないものだった・・・
それを、「対象者」以外の者が、打倒してしまっては本末転倒ともなる・・・
だから「代行」とは言っても、《ラゼッタ》なる者や、キリエが「代わって」―――と言うようなことはなかった・・・
ただ―――キリエが、あの現場にいた理由・・・
それは、“ある事実の確認”のために―――だったのです。
そしてやはり・・・自分達が想定していた通りだった。
元々の単于と言うプレイヤーの強さは、そんなに高くはなく、キリエ自身が証言するように「中の下」だった・・・
それを、「上位者」という曖昧且つ特定性のある存在を、打ち倒せる存在の価値を持っている「清廉の騎士」が敗れた・・・
その原因も、やはり―――・・・
エ:「略奪者」―――あのOUS、元から単于のものではなかった・・・と。
キ:ええ―――やはり、あの存在・・・「女媧」が関与していたモノかと・・・
ス:確認いたしました―――かのOUSの消滅は、単于消滅に伴い・・・「女媧」の手により消去されています。
単于がOUSとしていた「略奪者」・・・このOUSが、単于自ら発現・所有していたのではなく、
ある存在・・・「女媧」なる存在から授けられた―――言わば「貸与」されたものだと言う事が判ってきたのです。
そのOUSが、単于のアバター消滅に伴い・・・消えた―――?
この解釈の仕方は、通常の“ゲーム”ならば、そのシステム上では、「キャラクター」等の“存在性”あるモノは消滅しても、
“スキル”などは消滅せず、また他のキャラクターに引き継がれていく・・・これが“通常”なのです。
それが・・・スキル―――「も」―――消えた??
これが果たして、『无楯』の効果だったのか―――はたまたは、「女媧」なる存在の、思惑の内なのか・・・
ただ―――エリヤは虚空を見つめ、呟いたのです。
エ:やはり―――あなたを止めることが出来るのが、「あの子」だと言う事ですね。
判りました・・・あなたが「そう」望むのであれば、私からはもう何も言えません・・・
我が最敬にして最高の“師”―――ジョカリーヌ・・・
つづく