白鳳と雷鳳の「合同体育祭」当日―――両校の生徒達は、日頃の成果を発揮すべく、総ての実力を出し切るのでした。
#29;鳳凰祭
名称にもついてある「体育祭」と言うからには、通常の「100m走」「騎馬戦」「借り物競争」等の、おなじみの競技はあるのでしたが、
今回に限っては、両校の生徒会トップ同士の思惑や意向もあり、各運動部の“対抗戦”も兼ねて・・・の、
「エンターテイメント」性の高い催し物ともなったのです。
しかし―――そう・・・この両校は、創立以来の「ライバル」関係にあった・・・
例え、この「合同体育祭」が、エンターテイメント性が高い・・・とは言っても、
実力を出し惜しみ出来る関係性でもなかったため、白熱してくるのです。
そのいい例として―――「剣道部」がありました。
両者の実力は伯仲―――白鳳には、「男子」に森野清秀、「女子」に青柳柊子を抱え、
また、雷鳳には橋川小夜子がいる―――・・・
(ちなみに・・・ではあるが、どうやら「白鳳学園女子剣道部」は、廃部は免れた模様)
そんな「女子剣道部」での“対決”は、浅からぬ因縁が隠されていたのでした。
小:あの時は、色々と不覚を取っちまったからな―――今度は手加減なしで頼むよ。
柊:それはこちらとて同じこと・・・そう何度も、後れは取らない―――!
この対決の少し前に、ある思惑の交錯により、夢の対決が実現していました。
日頃、柊子や清秀が鍛錬に励んでいる「道場剣法」―――に、対抗するのは、
人を弑することを目的として、古来より存在しえた“戦場の剣”・・・「殺人剣法」―――
その両者のぶつかり合いが、現実内で起こってしまった・・・
けれど、その“手法”も、まるで「現実」が「現実」ではないように感じてしまった―――
それが、「ある思惑」―――・・・
「闘争」を生甲斐にした、まさに「闘争」が“至上”にして“至高”―――
その一族の長が、「見たい」と言う・・・
自身の配下である「子爵」と、「殺人剣の継承者」との“対決”を望んでいる・・・
事の成否は、その“対決”の如何に関わる・・・
結果としては―――「是」と出た。
その一族の長である「大公爵」は、満足げに笑う・・・
「よかろう―――その条件、確と聞き届けた」
小夜子も、決して手を抜いた・・・と、言うわけではありませんでした。
けれど、初めて味わう・・・あの斬撃は身に染みた―――
まるで、本物の刀で斬り付けられたような感覚―――
けれども、現実内としては、有り得ないのです。
それはさておいて、「合同体育祭」―――『鳳凰祭』での、剣道部の結果としては・・・
「男子」は、大将である森野清秀が、雷鳳の大将を見事打ち破り、白鳳側が勝利しました・・・
片や、「女子」の方では、白鳳も着々と力を付けてきており、最終的には「大将戦」にかかっていました。
青柳柊子は、“あれから”考えたこともあり、例のゲーム内にて鍛錬に励む事を決意、
―――したものの、ゲームを始めた当初から、悪いプレイヤー達の洗礼を受けてしまった・・・
そこを通りかかった熟練プレイヤー「リリア」により助けられ、トウキョウ・サーバーのエリア・マスターに匿ってもらう事で、
どうにか事なきを得たのです。
一方の小夜子は、実は「道場剣法」も「殺人剣法」も、そのどちらも修めてはいませんでした。
けれど、その実力は、誰しもが認めるところがありました。
その源泉を辿ると、やはり“例のゲーム”内で、彼女が所属している“集団”にありました。
「闘争」に重きを置く一族―――
ではなぜ、小夜子がそんな一族に身を置くのか・・・その事情は、未だ語られる期には、ない・・・
そんな普段の小夜子は、生まれが「橋川コンツェルン」と言う、富める家柄の出でしたから、
立ち居振る舞いも「ご令嬢」泰然としていなければならなかった・・・
事実、学園生活に於いては、市子に引けを取らないくらいの貞淑さ―――
彼女が通れば、振り向かない者はいないし、いつも注目の的となってしまうのです。
けれど、“そんな事”が小夜子にとっては苦手でした。
それに彼女自身がそう感じていたのです。
「“こんなモノ”は、所詮創られたものに過ぎない―――」
「今の私は、親が敷いたレールを走るだけの、言わば「お人形」・・・」
「「お人形」に、“人格”なんて要らない―――」
「けれど、人格のない人間・・・って、それが本当に人間と言えるのか?」
そこで出会ったのが、当初は家族にも内緒で始めた、かの「オンラインゲーム」なのでした。
けれど、厳格な家柄からか、すぐにそのことはバレてしまいました―――
内緒で始めて、それが家族にもバレ―――ひどく怒られた・・・
けれど、そんな彼女を庇ってくれたのは、彼女の両親よりも厳格で知られる、小夜子の祖母なのでした。
意外にも感じながらも、祖母のお墨付きを貰った小夜子は、このゲームを満喫し、いつしか今の地位にまで上り詰めた・・・
「闘争」を、“至上”“至高”に頂く―――崇高なる一族・・・「ヴァンパイア」
小夜子が強くなるのには、そうした経緯があったのです。
そして―――またしても敗れた柊子・・・
「なぜ・・・この人には、毎回勝てないんだろう―――敵わないんだろう―――」
その原因が、最近ほんのちょっとだけ判って気がしてきた・・・
「この人は―――私達以上に、過酷な環境で揉まれ、そして今を生き抜いてきている・・・」
「所詮、何も知らない駆け出し同然の私が敵うなど、おこがましかったのだ・・・」
今にして思う―――無様に床に這いつくばった自分に対し、優しくも声をかけてくれる存在を・・・
小:あんた―――中々やるようになったじゃないか。
柊:え―――・・・
小:ほんの少し前までは、赤子の手を捻るより容易かったけど、
今回はちょっとばかり、手加減の度合いを引き上げた―――そう言う事さ。
嬉しかったのは、その人からの評価だった・・・
聞く人が聞けば、「また失礼なこと」と思うかもしれない・・・けれど、
こんな自分でも、「相手をしてもらえる」までになってきている―――その事に・・・
所詮は“ゲーム”―――とでしか、今までは認識してこなかったけれど、
所詮は“ゲーム”―――されど“ゲーム”・・・
ほんの数か月で、身に付くようになった実力・・・
気づくのが遅すぎたには違いはない、けれど―――これ以降、彼女と差し向う機会はいくらでもある、
まずは、この高校生活を終えるまで、橋川小夜子の首筋に、自分の思いを・・・剣の切っ先に乗せ、突き付けられるまでに成長すること―――
それが柊子の、自分に課した命題なのでした。
こうして“催し”は確実に消化していき、その大半を消化し終えた時点では・・・
全くの互角―――五分と五分・・・
まるで、どこか示し合わせたかのように・・・量りで計ったかのように・・・
進められてきた物事―――とは言え、この『鳳凰祭』を始める際に取り交わされた“契約”の事もあるため、
市子も必死にならざるを得ませんでした。
市子自身の幼馴染は、聡い―――
口にはしなくても、恐らく彼の狙いは、“誰”であるかは目星がついている・・・けれど―――
「私は・・・奪わせない―――」
「この度できた、私自身の“友人”を、獲られるわけにはいかない・・・」
「それに恐らくは、“ここまで”は、彼の思惑通り・・・」
「彼は、これまでにも、「自分が欲しい」としてきたモノを、必ず全部モノにしてきた・・・」
「それが例え、少々卑怯と思える手段を取ってまでも」
それに今回は、市子自身からの提案に乗っかり、更なる“条件”を出してきたのも、どこか判っていた―――
今回の事は、恐らく・・・いや、「確実に」、両校の対戦成績は全くの五分となるはず・・・
いや―――そうでならなければならない・・・はず・・・
そして、こう言ってくるに違いはない・・・
「完全決着をつけるには、互いの代表同士で一戦交らわせるのは、どうかな?」
「私も・・・いくら厳三様が相手とて、負けるわけには行かない。」
「わが母校―――白鳳学園の名を背負うからには、なんとしても守らなければ・・・」
しかし、その最中―――市子の意識は途絶するのでした・・・
そしてやはり、市子の予測通り、対戦成績は、物差しで測ったかのように五分―――
そこで、雷鳳の「代表」である、生徒会長―――千極厳三は、こう宣言するのです。
厳:皆―――日頃の切磋琢磨を出し合えたことは、まこと喜ばしく思う・・・。
だがしかし―――このまま決着を着けないことを、オレは善しとはしない。
そこでどうだろう、互いの「代表」同士で、事の決着をつける―――と、いうのは。
小:(なあ〜〜る程ね、奴さんやけに乗り気だから、何かあると思っていたが―――
いやまあ〜あくどい事w
しかし、判らんものだね、細川のお嬢さん、こいつの思惑は判っていたはず―――だろうに、
なぜ“それ”に乗っかろうとした?
このままじゃ、あんたの大事な「あいつ」、獲られちまうぜ―――)
小夜子は、当初から厳三の「あくどい」手口については感づいていましたが、
徐々に体制が判るにつれ、どこかこの対戦成績が意図的であり、作為的であるように思えてきた・・・
だからこその、あの会談内容であり、厳三の今一番欲しているモノ・・・
それが、あの場に突き立てられた「剣」“の様な者”・・・
自分が欲しているモノは、手に入れないと気が済まない・・・
それは、富める者が抱える、一種の病―――
今の厳三は、己の欲望のままに邁進している、言わば「獣」―――
そんな獣相手に、ここ最近で仮想内での経験は得ているものの、
果たして市子が厳三に勝てるものなのか・・・
その事は、小夜子ですら思っていました。
けれど・・・誰しもが予測だにし得なかった出来事―――
完全決着を着けるための“舞台”―――雷鳳学園武道場・・・
その場所には、既に当校の「代表」である千極厳三が支度を整えており、
対戦相手である―――白鳳学園の「代表」を待ち構えていた・・・
そして現れた、白鳳学園の「代表」は、
なんと―――細川市子では、なく・・・
この、“決闘”の場に現れたのは―――「刺し子の武道着」に、「紺青の長袴」、
足は「裸足」で、付けている目ぼしい防具は「小手」のみ・・・と言う、出で立ち―――
そこで知る、“彼女”と同じ出身校の生徒達・・・
“彼女”こそは、完成されたる「業物」である―――
“彼女”の今までが、「欺瞞」であると言うのならば・・・
今、この場にいるのが、“彼女”「そのもの」・・・
だけど、今回の条件であるならば、“彼女”は全く「お呼び」ではない、はず―――
だからこそ厳三は、“彼女”に問い質したのです。
厳:オレは、この決着―――「互いの代表」・・・と、言ったはずなのだが?
確かにそうだ―――厳三は、今回の戦利品をモノにするため、大芝居を打ち、ここまでに漕ぎ着けたはず・・・
なのに―――自らの思惑には反しようとしている者がいる・・・
だからこそ、「問い」「質し」たのでした・・・が―――
璃:色々―――ご託が好きなんですね・・・
それとも―――敗れるはずのない自分が敗れる・・・って、怖くなっちゃったんです?
「挑発」―――あの目立たないはずの“彼女”が・・・こうも相手を煽り立て、相手の心を掻き乱す手段に出てこようとは、
誰しもが思ってみなかったことでしたが・・・
あの場にいた小夜子は―――だからこそ、今になって至れたのです。
「まさか・・・こいつ、あの時のやり取りで、ここまでの展開を―――読んでいた?」
無機質の「景品」は、意思を持たない・・・
けれども、今回の「景品」は、ちゃんとした意思を持つ「人」でした・・・
そして、「人」ならばこそ、己の意思を持ち、動く・・・
己の為―――だけではなく、「友」の為に・・・
つづく