今現在は―――現実の世界・・・そして「ある施設」の内で、物思いに耽る“男性”・・・
しかして、その「施設」とは、「学校」の「教室」にて―――
そしてその「一生徒」であるこの男性こそ―――名前を『森野清秀』・・・
実を言うと、この「彼」こそが、何を隠そう―――前2話にまで出てきた、
あるゲームでの、新人プレイヤーである「蓮也」の、現実での姿・・・だったのです。
その清秀が物思いに耽っていた理由―――
それこそが、昨晩・・・例のゲーム内でやり取りされた出来事だったのです。
#3;「現実」での“彼ら”
リ:あんた達さあ―――もしかすると私が、そこの「ボクちゃん」のこと、何も知りもしないのに無茶なことを申し立てている・・・って思ってやしないか?
市:(え?)それはどういう・・・
リ:私だってさあ―――自分に関わる重要な要素のあるクエストを、誰がどっから見てもド新人に任せられる・・・
そんな気楽な性分の持ち主―――って勘違いされたくないんだわw
ああ―――そうさ・・・その通りだよ、調べさせてもらったぜ、何もかも・・・
蓮:し―――調べったって、何を??
リ:ん? そんなん分かってることじゃん―――あんたの「プレイヤー・スキル」、“それ”さ。
そう、リリアは、自身に関わる重要な要素を含ませる「クエスト」のクリアのため、「人」を募っていたのでした。
それも、腕の達人間を―――
なのになぜ? ド新人である蓮也に目を付けたのか・・・
それは明確な理由があるからなのでした。
そう―――リリアは、蓮也を街中で見かけたときから、彼のことを只者ではないと感じ、彼のことを具に調べ、
その目で確かめる為にも、彼が請け負ったクエストを「観戦」するなどし、動きなどを確かめていたのです。
蓮:(あ・・・)ああ―――そう言えば、クエスト受ける際に、この辺に、妙なマークみたいなのが、あったことがあったっけなあ・・・
市:(!)なぜそれを、私に知らせてくれなかったのですか―――?
蓮:えっ・・・いャあ―――特段別に変なことはなかったし・・・
それに今思えば、例のクエスト受けた時のように、変なこともなかったから・・・別にいいかなあ―――って。
リ:ハッハッハ―――w お嬢さんよ、そいつぁ無理ってな話さw
大体そこのボクちゃんは、未だにこのゲームのシステムの事なんか分かっちゃいない・・・だろう?w
市:(〜〜〜)それはそうですが―――・・・
それよりもあなたっ! 私は“お嬢”などではありません! 歴とした「市子」という「プレイヤー名」があります!!
ふとしたきっかけで、判ることもある―――
しかもそれは、今日に至るまでの事柄でもあったのでした。
蓮也自身も、自分の知らない内に、自分が知らないような“マーク”のようなものが付いていた・・・
その事くらいは気が付いてはいましたが、“それ”自体がその当時受けていたクエストの進行上、
なんら障害になるわけではなかったので、看過していたのです。
けれどそれは、蓮也が新人であったからこそ―――なのではありましたが、
そこにリリアが「観戦者」として入り込み、蓮也の一挙一動を具に見ていた・・・
そしてリリアも、
「こいつは使える」
と、思うようになり、自ら仕掛けた―――今回の一件には、こうしたカラクリが仕込まれていたのです。
それはそうと―――場面は現実世界へと戻り・・・
清秀は、昨晩の一件を「ある人物」に相談をしよう・・・と、その人物の下まで歩を進めていたのです。
それにしても、仮想世界での「昨晩の一件」を、現実世界の「ある人物」に、「相談」を??
清:なあ・・・あ゛〜〜〜細川―――さん・・・
細:(・・・)何か―――私にご用件でも?
その「ある人物」とは、清秀と同じ学校―――『白鳳学園』の「生徒会長」であり、清秀と同学年でもある・・・
眉目秀麗にて、その「烏の濡れ羽色」の長髪が特徴的な、『細川市子』・・・。
―――ン? はい??
今、聞き違い―――などではない・・・と、したなら?
そう、実は彼女こそは、例のゲームに清秀を誘い込み入れた“張本人”―――「市子」でもあったのです。
とは言え・・・ある「禁忌」を彼女は犯しているのですが―――まあそのことは、後日にて明らかになるので・・・
それに、清秀も、危うく「禁句」を滑らしそうになり、なんとも珍妙なやり取りが、そこでなされてはいたようですが―――
そこは市子も大人の対応を取り―――つつも、冷ややかな態度にて清秀からの言葉を待ったのです。
清:ああ―――いや・・・そのう〜〜
市:全く・・・あなたときたら―――他人と対話をする時に、そんな「しどろもどろ」でどうするのですか。
「森野」の名が泣きますよ。
清:そんな言い方しなくたって―――
市:したくなくとも、あなた自身がそうさせているのです―――!
清:う・・・すま―――ねえ・・・
市:(はあ・・・)全く―――私の目論見、どこでどう誤ったのか・・・
清:ホント、スマネエ―――!
市:やめなさい!みっともない・・・それに、そんな語彙力がないのも困り者です。
一言目、二言目には「スマネエ」ばかり・・・そんな様を、あなたのお母様が見てらしたら、どう思うのでしょうね。
清:(!)そいつは言わねえ―――
市:“約束”と言いたいのならば、その実力を指示してみなさい!
それに・・・この私のことを、“お嬢”などと、公然として言うのもお止めなさい!
キツい言い方しか出来ない―――けれど、市子はそれ以上の言い方は出来ませんでした。
それは、市子なりにも清秀に対しての期待感の表れでもあり、また彼・彼女達の“家柄”も関係しているのでした。
そう―――“家柄”・・・
清秀と市子達が住む「この地域」には、やはりどこの地域にもあるように、「力」のある家柄が存在していたのです。
“地域”を活性化させ―――“人”を呼び込み―――そして巡る“経済”や“物流”や“産業”・・・
その地盤を多いに利用し、瞬くの間に頂点にのし上がった「家」―――
それこそが『杜下』『森野』『征木』だったのです。
・・・が―――ここ近年、とある異変が、この地域を取り巻いていたのでした。
それが―――『御三家』と呼ばれた一角の、『征木』の家に起きたのです。
当時、その家の“当主”は「女性」でしたが、ある日突然謎の失踪をし―――
地域報道などで、身代金目当ての誘拐か―――はたまたは遭難をしたか・・・に、分かれたものでしたが、
不思議なのは、『御三家』の一角である『征木』の異変は、他の二家―――
『杜下』『森野』も、知っている・・・はずなのに??
どちらも動こうとはしなかった―――・・・
只、参考までに―――
ならば、この三家は互いに仲が悪かったのか・・・と、そう思いたくもなるのですが。
実に興味深いことに、この三家の当主同士の事をよく知る人物の証言からは、全く異なる意見が飛び交うのです。
そう―――つまり・・・「仲が悪い」どころの話ではなく、逆に「仲が良過ぎて」いた・・・
けれどその証言も、“大人”な人間達からは、厳しい意見が飛び交うのです。
曰くに―――
「そりゃあ〜若い頃は仲が良くっても、年を取るとねぇ〜?」
「ま、昔仲良かったのは分かるよ・・・“若気の至り”って言うしさぁ―――w」
こんなにも、根も葉も・・・そして心にもない言の葉が世間を飛び交う―――
だからこそ、二家の当主達は口を噤んだのです。
しかしながら―――当主同士ではそうであったとしても、家に仕える者までは、そうではありませんでした・・・。
当主を失った『征木』の家からは、次第に使用人達が消え―――衰退は目にも明らかになってきた・・・
またそれに伴い、あれほど隆盛を誇ったこの地域も、また衰退していくもの―――か・・・とも思われましたが、
衰え逝く者あれば、また盛え来る者あり・・・とは、歴史もよくそれを示しており。
この『御三家』にとって変わる存在として、新興した“家柄”が台頭してきたのです。
それが・・・『細川』『橋川』『千極』『鷹野』―――別称として『四候』と讃えられた家柄・・・
そう、とどのつまり―――清秀と市子の“関係”とは、『台頭してきた“新興勢力”に屈し、それに伴い従属してしまった“古い勢力”』
という、図式がしっくりとくるのです。
だから清秀も、市子のことを“お嬢”だと言い、
しかし市子は市子で、自分がそう呼ばれることで、周囲りから「ちやほや」されるのがどうか―――と、疑問に感じていた・・・
からなのですが―――
ならば、だとすると市子の“目論見”とは―――?
それは、清秀のリアルに関与していたことだったのです。
では、清秀のリアルに関与する問題とは・・・?
それは―――清秀が「蓮也」として、新規ログインする以前・・・まで遡ることだったのです。
その出来事とは、やはり清秀は、「ある相談」を市子に持ち掛けていた―――・・・
その「相談」というのも―――・・・
清:なあ・・・あ゛〜〜〜細川―――会長・・・ちょっと悩みを聞いてもらいたいんだが・・・
市:なんですか、藪から棒に―――
清:いや・・・実は、さあ―――そのぅ〜〜〜
市:(・・・)あなた、最近「部」での成果が芳しくないみたいね。
清:(う゛・・・)知っていたか―――
市:ええ、それはもう。
あなたが所属する「剣道部」部長から、泣きつかれては・・・ね。
清:(・・・)申し訳ねえ―――!
市:(はァ・・・)どうしてあなたという人は―――
こうも、一言目二言目には、ネガティブなことしか言えないのですか。
とは言え、我が「白鳳」も、近年では各部活の成績は下がる一方・・・
逆に、“ライバル校”として比較対象にされている『雷凰学園』に押され気味とあっては・・・。
“それ”は、「白鳳」の生徒会長である、市子にしても頭の痛い話し・・・
自分達が通う「白鳳学園」―――かつては、地域に並ぶ者はなく、幾度となく「全国」を制してきた栄誉ある“母校”―――なのに・・・
近年に於いては、“ライバル校”として並び称されている「雷鳳学園」に押され気味・・・
それに、清秀に泣きつかれなくとも、なんとかしたかった―――と言う事実があり。
そうした時に、ふとして・・・例の「ゲーム」の“攻略wiki”や“情報掲示板”等を閲覧していた際、目に留まった「記事」―――
これは、あの「リリア」なる者からも告げられた事実―――“それ”を目にしたことがあり、
「これでどうにかなるかも知れない・・・」
と、そう思うようになり。
自分もプレイをしている例の「ゲーム」に、新規登録―――キャラクター・クリエイトしてはどうか・・・ということを、清秀に提案したことが、
この「お話し」の“きっかけ”ともなったのです。
つづく