今回の、「鳳凰祭」のクライマックスと言える、雷鳳の生徒会長との一戦を終えた璃莉霞は、
ある“得体の知れない者”の襲撃を、あたかも知っていたかの如くに対処していました。
そして奇妙な音―――襲撃者が複数人いるかのような「走音」を聞き、
不用意な動きをしてはならない―――と、その場にいた橋川小夜子が告げ、
自分達の総大将の仇を討とう・・・と、殺気立っていた雷鳳の生徒会幹部や、剣道部員達をなだめたのでした。
そして、気を失っている千極厳三を気付け、介抱にあたる細川市子―――
けれど、未だに混沌の坩堝に包まれているこの場所・・・
いつしか、気付けば―――璃莉霞はまたしても、あの姿勢「正座」をしているかのような、構えを取り、
その“得体の知れない者”に備えていたのです。
それにしても、やはり“美しい”―――・・・
その“凛”とした姿―――
「正座」は、やもすれば現代人である彼ら彼女達にとっては、苦手意識ばかりが先行をし、
足を崩したり―――などしての、楽な姿勢を好んできた・・・
なのに彼女は・・・
古き良き伝統が、まさにそうであるかのように、「ピン」と伸ばす背中はもとより、
静やかでも張り詰めた緊張感を思わせる、その佇まい・・・
けれど、違えてはならない―――確かにこの姿勢こそは、正しき「作法」の一つなのだろうが、
今の“彼女”が取っている行動こそは―――「攻撃に移れる為の、予備動作」・・・
未だ鳴り止まぬ「ラップ音」―――
それは鮫等が獲物を“狩る”際の「セオリー」にも似たところがありました。
獲物を追い詰める為―――絶えることなく繰り返される「周回運動」・・・
そして―――獲物が隙を見せた瞬間を見計らい・・・
今―――
その「ラップ音」が
止んだ・・・
その直後―――獲物の馘を求め
頭上から・・・
一つの“影”が
舞い降りた・・・
冷たき刃を―――
無慈悲なる瞳を光らせて・・・
しかし璃莉霞は直ぐに反応をし、攻撃の第一波は防ぎました―――
が・・・襲撃者は、すぐにまた闇へと潜み、また獲物の隙を伺う・・・
その事に安堵を覚えたのか、市子が声を掛けようとすると―――
市:あの、璃莉霞―――
璃:来ちゃダメだ! まだ・・・終わっちゃいない―――
厳しい言葉遣いで市子を制し―――ようとしたのですが、
こうした僅かな隙を見逃すはずもなく、今度は思ってもみなかった方向から、“投擲武器”の雨が・・・
小:(これは・・・苦無―――)―――っっ?!
「苦無」とは、とある特定の職業に就いている者が、好んで使用をしている、言わば「暗器」。
しかし―――この苦無、獲物であるはずの璃莉霞の身体はもとより、その場に居合わせた誰しもの身体を掠めることはなかった・・・
ただ、無数の小さき刃は、床に突き立てられていた―――だけ・・・
なんとも「的外れな」―――と、思っていた次の瞬間、小夜子を含める、その場に居合わせていた全員が、動けなくなってしまった・・・?
それを璃莉霞は―――
璃:(・・・)『忍術・影縫』―――
フッフッフ―――イカニモ・・・コノヒトタチ ジャマダカラ・・・
璃莉霞は・・・知っていました。
この「忍術」を、駆使できる唯一の存在を・・・
すると、それに返るかのように、闇に響く声・・・
「忍術」とは―――言わばトリックのようなもの・・・
トリックとは―――「まやかし」・・・
まやかしを、強烈な手段で、観る者の前で披露させたとき、その“反応”は・・・?
璃莉霞は、その事を知っているがために、容易に暗示にはかからないでいられました。
けれども、小夜子や―――況してや市子は、「そう」では、ない・・・
その事は、今―――彼女達自身が身を以て証明していたのです。
#31;跋扈する“闇”
それが、彼の者の扱う「忍術」の一つである「来霊」にしても、そう―――
小夜子や市子は、彼の者がどこにいるのかすら判ってはいない―――だからそうした恐怖心を感じるしかありませんでしたが、
璃莉霞だけは、その「得体の知れない者」が、どこに潜んでいるか、判っていた・・・
判って「は」いました―――が、だからと言って、下手な動きは出来ない・・・
なぜなら、その「得体の知れない者」もまた、自分と同じように、古から連綿と続く技術を会得し、継承しているのだから・・・
そして、また―――近寄る「走音」・・・
今度は下手な策は弄さず、真正面から突っ込んできた―――?!
「バカな―――?」
「あれでは、自分が今持っている“主導権”を、自ら捨てる行為なのに??」
そう小夜子が思った、次の瞬間―――
小:(なに? 消え・・・た?)
市:(あれは・・・幻術?!)
不用意な行動をし、璃莉霞によって撫で斬りにされていく「得体の知れない者」・・・
ですがしかし、己の身が刃に触れると、立ち処に・・・「霧」や「霞」のように、消え失せた・・・?
そうかと思えば、至る所で次々と発現してくる「幻」―――
この襲撃者は、やはり単独ではなく、複数で動いていた―――?
けれど、その悉くを霧散させる、璃莉霞の剣捌きに体捌き―――
現実離れした「この出来事」ではありました・・・が―――
市子は、ある特異点に気づくのでした。
市:(なんでしょう・・・この違和感・・・
私は―――この“術”に、心当たりが・・・ある!?
最初は、驚きのあまりに、そこまでの思考が巡りませんでしたが・・・
私は―――いえ、私“達”は、「この者」が操る「ある忍術」を、以前に見たことがある!!)
「手品」や「トリック」は、“ネタ”が判らないからこそ、皆騙される・・・
観客の目を欺き、美麗な手捌きをして、魅了する・・・
けれど、“ネタ”が判ってしまった「手品」や「トリック」ほど、チンケで味気のないものは、ない―――のです。
だから市子は、そこで精巧な幻術を操る、「歴代忍者」の名を持つ者に、行き当たることがてきました。
けれども同時に―――
「なぜ―――“この人物”が・・・?」
「以前は味方をしてくれたと言うのに・・・なのに“なぜ”今回は・・・??」
いくら市子が思おうとも、通じ合わない―――通じ合う、わけがない・・・
だからこそ止まない―――終わりはしない、襲撃者の魔の手・・・
しかし璃莉霞には、この事を止める“一手”を心得ていました。
けれども「この事」は、向うも判っている―――だからか、その場所に行かせないようにしている・・・
とは言え、もう猶予は残されていませんでした。
ならば、こちらの“一手”を変えるしかない―――
果たして、またしても襲撃者は、璃莉霞の頭上から襲い来ました。
最初の頃より、鋭さを一層増して―――
けれど、“それ”を待っていたか―――と、言う様に、璃莉霞は・・・
まさに今、溜めに溜め込んでいた「殺気」を撒き散らし、その場に居合わせた者達共々、目を眩ませた・・・
すると―――突然、ある者の背後で・・・
「すみません―――腰のもの、お借りしますね・・・」
一瞬―――だけれど、目が眩んだ・・・それは襲撃者も同じだったと思われ、
しばらくその場に蹲っていたようでしたが、回復するとすぐにまた闇へと潜み始めたのです。
その一方、市子の介抱で気を戻した厳三は、自分の背後から思わぬ声がかけられ、
その直後、自分の竹刀がなくなっていたことに気が付いたのです。
しかし・・・彼の竹刀は―――そう・・・
市:璃莉霞―――さん・・・
小:(あれは―――まさか?)
眩んだ目が慣れ、元の視界を取り戻した時、またしても彼ら彼女達は息を呑んだのです。
なぜならば・・・腰に竹刀を2本差したる、剣士の姿が・・・
そう・・・「剣が2本」―――これを見るなり、誰しもが想像に難くないものを浮かべたのです。
『二天一流』―――と、小夜子が代表をして呟いた時、剣士はやおら剣を抜き、構えたるは・・・
古廐薙流―――〖天地陰陽の構え〗
璃:篤と、その身に受けるがいい―――
『二天一流』―――生涯無敗を誇る、天才剣豪にして兵法家『新免武蔵』が編み出した流派・・・
けれどそれは、武蔵が「武蔵」だったからこそ成せた業―――
ある人が言うのには・・・
「剣は、両の手で持ってこそ、その真価を発揮する」
「それが片手のみで、両手が成すを成そうとするから齟齬が生じる」
「なまじ齧った凡愚が、武蔵の真似をしようとするから間違いが起こるのだ」
「所詮我らは武蔵ではない―――が、武蔵の流派に頼らず、我等は我らの流派の解釈で遂げればよい」
(この“解釈”は、独特の言い回しのものを、璃莉霞の脳内にて分かり易く変換させたものを使用している)
そう・・・璃莉霞の「師匠」は、古来より伝わり、現在では自分が継承している流派を、
更に進化させるべく、弛まぬ鍛錬と試作を繰り返してきました。
そして辿り着くことのできた新たなる技―――“境地”とでも言うべきか・・・
それは、正しく弟子にも継承され、ここにお披露目の機会が出てきたのです。
それに・・・その「構え」には、寸分の隙も許さない・・・また、見い出せない―――
けれど、刻々と迫る刻限―――そのことに焦りを覚えてしまったからか、
逆に追い詰められてしまった襲撃者は、不用意な動きをしてしまったのです。
それを見逃さなかった璃莉霞は―――
璃:これで―――仕留る!
直後―――息つく間もなく剣閃が舞う・・・
その5つの剣閃は着実かつ―――確実に襲撃者を捉え、散らせた・・・
これこそが―――・・・
古廐薙“輪”の連撃―――〖連ね五輪〗
その剣の閃きは、確実に捉え―――着実に斬った・・・かに思えました。
―――が・・・
またしてもその姿は、“霧”となり、“散”っていった・・・
その場に残されていたのは、身代わりとなった「切り株」のみ・・・
『忍術・空蝉』―――と、璃莉霞は「ぽつり」と漏らすと、今件が須らく終わったのを見届けたかのように、
借りていたものを元の持ち主に返し、「有り難う御座いました」―――と、軽く一礼をすると、
まるで何事もなかったかのように、その場から去ったのです。
その後―――
市:大丈夫ですか―――?
厳:ああ―――うむ・・・小夜子、こちらに来て肩を貸せ。
小:ああ・・・はいよ―――
市:―――。
厳:どうした、もっと喜べ。
オレはあの、地に突き立てられた剣が欲しかったのだ。
だが、その剣自らの意志でオレの思惑を粉砕してくれるとは―――
いや、愉快愉快―――ハハハ!
小:おい―――どこか打ち所悪かったんじゃないのか?
厳:うん?心配するな小夜子、オレはどこも可笑しくはない。
ただこれは堪らなく愉快なのだ。
自分の思惑通りにならねば、皆歯痒い思いをするものだが、
こうも完全に粉砕してくれるものとは、夢にも思わなかったぞ。
だからこそオレは、あの「剣」が余計に欲しくなってきた。
市子よ、オレに獲られたくなければ、有らん限りの智謀を尽くせ―――
あれは、お前にとっても大切な「宝」なのであろう。
市:はい・・・その通りです―――
厳:その返事だけで十分だ。
それにしても、あの忍も中々にやるな。
小:ああ・・・いつの間にか、「私達だけ」あの術を解かれていた・・・
他の連中は、気力を失わされて「あの様」だ・・・。
柊:えっ・・・では、私達は―――
清:「選ばれた」―――てのか?
厳:そう言う事だ―――森野の、お前はもう少ししっかりせんと、その座を追われかねんぞw
奇妙な事実がここに一つ―――
それは、彼の忍術を駆使する者により、その身の自由を奪われてしまっていた厳三に市子に小夜子、柊子に清秀・・・でしたが、
不思議と5人は、いつしか・・・件の術「影縫」を解かれており、事の一部始終を「見せられていた」・・・?
そして「奇妙」なこととは、この5人は例の“ゲーム”のプレイヤーであり、
その他諸々は全くの部外者―――であると言わんばかりに、彼の忍術によって気力を尽くされてしまい、全員気を失わされていたのです。
しかしながら・・・少なくとも、市子・小夜子・柊子・清秀は知っているのです―――
この場は、図らずとも門外不出の流派の披露の場となっていたことを・・・。
つづく