ようやくにして収まりを見せた、今回の騒動―――
あの日、璃莉霞が白鳳生徒会長の名代として、雷鳳生徒会長と会った頃から、すでに始まっていました。
「おそらくこの人は、この私を狙ってくるに違いはない・・・」
「市子さんは強い・・・けれど、この人には敵わない―――」
「それに、市子さんが負けてしまうとなると、私は否応なく「雷鳳」へと、転校せざるを得なくなってしまう・・・」
「そんなことになれば、一番悲しむのは市子さんになるだろう・・・」
「あの人はきっと、必要以上の責任を感じてしまうに、違いはない。」
「ならば・・・この私が―――」
千極厳三に接見をした瞬間から、ここまでの考察に至ることとなり、何とかして「友」を守ろうとする璃莉霞。
だからこそ、厳三に接見をしていた間も、姿勢を崩さなかった・・・
自分を―――友を―――譲れない・・・
その姿勢こそが、「構え」だったのです。
そして今回―――厳三の思惑を破った・・・
彼はその事で、一層執念を燃やすことになるのですが、それはまた別の「話し」として・・・
#32;かけがえのないもの
幸いにして、自分と友は守れた・・・ものの、思わぬ襲撃がありました―――
勝利を確信した時、誰しもが一瞬の隙を作る―――璃莉霞は、自分の武術の師より教わっていた通り、
自分の馘を断ちにきた存在―――「襲撃者」「刺客」「暗殺者」・・・
巧妙精緻なる幻術を駆使せしむ者により、周囲を混乱に落とし込め、自分の命を狙いに来た者を討ち払うことが出来ていました。
・・・が―――
本当に“それ”は、“そう”だったのでしょうか?
忍:ぬフン―――状況終了〜☆ と♪
「決闘場」ともなった、雷鳳武道場を見下ろし、行く末の総てを見届けたかと言う様に、結んでいた「印」を解く存在・・・
その存在こそは、市子や璃莉霞達と同じ制服に身を包む、“あの”―――?
それにこの一件は、ある“裏”が隠されていたのです。
実は、この前日に―――
璃莉霞は「ある場所」・・・この地域に佇む「玉野稲荷」を訪れていました。
そこで会っていたのが、その神社の巫女である「生稲たまこ」―――と??
た:ふむ・・・また、しのを貸してもらいたい・・・とな?
璃:はい―――ちょっとあの子を借りなくちゃならない事情ができちゃいまして・・・
た:ふぅんむ―――しかしのぅ・・・もう少し穏やかには出来んものかの?
璃:そうしたいのはやまやまなんですが―――ほら、千極様のご子息様・・・
た:あやつがのう―――また、とんでもないのに目を付けられたようじゃな。
璃:私も・・・秀ちゃんのように、もう少し鈍かったら千極様にそこまでの思いを抱かせずに済んだと思うんですけど・・・ね。
た:かッ―――かッ―――かッ―――森野の小僧を引き合いに出しおるか。
それにそなたのその思い、「友」に心配をかけぬように・・・とのことであろう?
璃:(うへっ)いいいい今のナシです―――ナシですよ?
秀ちゃんは・・・そのぅ〜〜
た:判っておる―――それでどうじゃな? しのよ・・・
し:ほいほい―――☆
けっどなあ〜〜只で、この「団蔵」様の力を借りよう―――って・・・そういうことじゃないっスよねえ〜? 先輩・・・
思い違いをしてはならないのは、何も璃莉霞は「祈願」の類で、この神社を訪れたのではない・・・と、言う事。
それに、この三者こそは―――例のゲーム内での、「リリア」「玉藻前」「加東団蔵」でもあったのですから。
そう、つまり璃莉霞は、知ったる仲を最大限に活用し、今回の騒動を乗り切ろうとしていたのです。
ただ・・・知った仲にも礼儀あり―――
そもそもの話、「ロハ」にて依頼を頼み込もうなど論外―――
だからこそ璃莉霞は、以前から取り交わしていた「契約」を引き合いに出してきたのです。
そう・・・「以前から取り交わしていた契約」―――
『この命を狙っても構わない、その見返りに協力を乞う』
璃莉霞が―――しのが―――自分の“意義”を保てていられるのは、実践があるからこそ・・・
それも「〜のように」などという曖昧なものではなく、まさしくの―――本気での殺し合い・・・
だからこその「殺人剣法」であり、「名のある忍」の“継承”―――
己の生命をくれてやる代わりに、こちらの手伝いをしろ―――
それが今回の、単純にして明解な内容ではありましたが、実際にはそうではなかったのです。
それと言うのも―――璃莉霞も説明をしたように、今回は図らずも「エキシビジョン」の形式となる可能性が大きくなり、
璃莉霞自身が持てる技が披露されてしまう危険性も孕んでくる・・・
あの流派の技―――それこそは「門外不出」であり、もう少し言ってしまうとなると、「現実」としてあってはならないもの・・・
「人」を「殺」める「術」の数々が、存在しては―――あってはならなかったことでもあるのです。
しかしながら、その場では衆目に晒されてしまうことを説き、勝負が一旦ついた処を見計らって、
現場にいる全員の「処置」を―――と、頼んだのです。
その意を汲み、しのは・・・「加東団蔵」である者は、観戦者達を“幻”に陥れた・・・
とは言え、彼女は自分には嘘は吐けない―――況してや、「先輩」と慕う者ならば尚の事・・・
だから璃莉霞も、彼女なりに誠意に答えたのです。
それからしばらくしての帰路―――璃莉霞の横には・・・
し:お疲れ〜っス、先ぇ〜ん輩☆
璃:しの―――お疲れ。
今日は・・・ありがとね。
し:いえいえ〜〜それほどでもありますよ☆
璃:ところで、お父さんに似てきたね。
し:そっスかあ〜☆ いやは〜〜照れるわさ☆
これも日々の鍛練―――先輩付け狙ってるからなんですけどねッ☆
恐らくは、璃莉霞だからこそ気づいていた・・・
もし常人ならば、気配に気付くことすらなく絶命しただろう―――そんな兇刃の持ち主・・・
それが「加東団蔵」なのです。
それはさておき―――その日のログイン光景
とある情報を頼りに、そのプレイヤーがインしてくるのを待っているリリアの姿が・・・
ではリリアは、一体誰を待っていたのか、それは―――
リ:(え〜っと・・・あっ、いた―――)
あの―――すみません・・・
誰:うん?誰だね、あんたは・・・
リ:〚雷鳳の生徒会長さんですよね〛
誰:(む?)〚そなたは―――?〛
リ:〚“私”ですよ・・・ほら、今日あなたを散々叩きのめしたw〛
“自分”が誰であるかを知り、声をかけてくる美形の女剣士―――
一体誰だろうと思っていたら、その日の内に、その実力をまざまざと見せつけられた“彼女”だったとは・・・?!
そんな・・・呆気に取られる『秋定』を尻目に、その女性剣士―――「リリア」なる者は訥々と話を進め・・・
リ:今日の処は、まことに無礼なこととは存じ上げましたが、それは飽くまで「リアル」での話し・・・
仮想ではあなたの話しも伺えますので、その辺で折衝願えませんでしょうか?
秋:ああ・・・うむ―――
リ:よし、なら話は早い。
では早速PTを組みましょう。
秋:お、おい―――ちょっと待ってくれ・・・
話しが早いのは結構なことなんだが・・・オレはまだ、よく呑み込めておらんぞ?
リ:ああ―――つまりはですね、話しを伺う・・・とは言っても、あなたはまだ私の実力は判らないでしょう?
だから、手っ取り早く―――今開催されている『レイド戦』というものに参加をして、
お互いの実力を知っておこう―――と、こう言う事なんです。
なんとも・・・自分が「これから」―――と、構想を練ろうとしていたところに、
この女性は自分の想定を超えた提案を出してきた・・・
確かに「秋定」は、“人材”としての松元璃莉霞を欲してはいても、“戦士”としてのリリアは別に欲してはいなかったのです。
それに、秋定自身も「多少は強引」なりと感じてはいましたが、この女性も強引―――
仮想での「秋定」を判っていたからと、無理にPTに組み入れ、最近実装され話題ともなっている『レイド戦』に駆り出してくるとは・・・
けれども確かに、秋定は仮想内で動くリリアにも、目を奪われました。
それまでは「所詮ゲーム」「されどゲーム」・・・とでしか認識してこなかったものの、
一人ではなく―――大勢が互いに協力し合ってなにかを為す事の楽しさ・・・
その事を知らされた時、現実内でモノにできなくても、それはそれでもいいか―――と、思えるまでになっていたのです。
それから程なくしてログアウトし、自分の幼馴染に連絡を入れる厳三・・・
けれどしかし、相手はまだログインしているものらしく―――そこで厳三は、留守電を入れることにしたのです。
そしてログアウトをした市子は、自分の情報端末に、ある履歴が残されていることを知るのでした。
一体誰からのだろう・・・そう思い、録音されているものを再生させると、そこには―――
市:(厳三様・・・!)
『市子か、いやはや“あいつ”は素晴らしいものだな。』
『“あいつ”は、今回の件でより欲しくなってしまった。』
『それはお前にも伝えたことだ。』
『オレがこれから、色々な策を練ろうとした矢先に、仮想で“あいつ”の方から声をかけられてな』
『そこで、今流行りの「レイド戦」なるものに駆り出された次第だ』
『いや―――あれは中々に楽しめるものだったぞ・・・』
『オレは、“こんなもの”は「所詮ゲーム」とでしか捉えていなかったが、どうやら認識を改めざるを得ないようだ』
『それほどの“面白味”が、あの「レイド戦」には詰め込まれている・・・』
『オレ達“一人”の力では、限界と言うものがある・・・が、それを補う形で見知らぬ他人が力を合わせる・・・』
『“それ”によって、強大な敵をも倒すことが出来るのだ』
『これはやった者でしか判らん・・・が、お前は近々“あいつ”の方からお誘いが来るだろう』
『その時には存分に楽しめ、そして己の足りぬ処を自覚しろ』
『まあ・・・少々説教じみてしまったが、伝えたかったことはそう言う事だ。』
『それでは、この連休にまた会う様にしよう・・・それではな。』
この―――録音でのメッセージを聞き終えた時、市子は溢れる涕を堪え切れることが出来ませんでした。
これまでは、いくら声をかけたとしても、「暖簾に腕押し」「梨の飛礫」だっただけに・・・
想いを寄せる幼馴染からの、録音でのメッセージ・・・
彼方からの連れない反応は、分かってはいました・・・
自分の至らなさ故に、こちらからいくら声をかけたとしても、振り向いてさえくれない・・・
それが彼方からの―――・・・
それだけでも、市子のココロは満ち足りましたが、明日からの大型連休に、
お会いしてくれる・・・とのお誘いを頂戴できるとは―――
市子はもう、天にも昇る気持ちでしたが、厳三からのメッセージにもあった“あいつ”の事は、すぐに誰だか判った・・・
けれど明言を避けてくれたのは、自分の唯一無二の友との間を壊そうとはしなかった・・・
それに、璃莉霞の思惑の方も少なからず見えてきたのです。
「彼女は、この私に義理立てをして、今回の事に踏み切ってくれた・・・」
「けれどそこで、私の幼馴染でもある厳三様の性格を見抜き」
「「現実」ではない「仮想」の世界でなら、請けられる協力は受け付ける・・・そうした方針を取ったのだろう」
「なんとも・・・恐ろしいまでに先を読む力―――私は恵まれている・・・ならばこの上は」
市子は、自分が得た「宝」こそは、本当に“かけがえのない”ものだった―――
ならばこの上は、せめてその「宝」にそっぽを向かれないように、努力精進するのみだ・・・と、心に固く誓ったのです。
つづく