今日からは、4月末から5月初旬にかけての「大型連休」―――

しばらくは授業も休み・・・なのですが、これを機会に部活の鍛錬に励む者や、

“春まっさかり”とも言う事で、程好い仲になったカップル同士が、より一層の仲を深めゆくのも、いい機会と言えたのです。

 

昨晩の「レイド戦」を終えた璃莉霞は、明けた朝・・・姿見を見ながら、かれこれ半刻―――自分の姿と「にらめっこ」をしていたのです。

 

 

璃:う~~―――今更あんな事を言われてもなあ・・・

  なにをどうしていいやら―――(はああ~~・・・)

 

 

姿見に全身を映し、身体のすみずみ―――特に自分の顔の周りを中心に、まじまじと見つめる璃莉霞・・・

体格も、肉付きも、申し分なし―――

他の女子生徒よりは巨きめの乳房を持ってはいるものの、服飾や身だしなみ・・・

特に「化粧」などには、さして興味を持たなかった為に、学校の制服以外では「地味」な格好をしていました。

 

そんな彼女が、今にして、どうして「おしゃれ」に目覚め始めたのか・・・

 

いえ―――実は、おしゃれに目覚めた・・・のではなく、

昨晩の「レイド戦」が終わった後の事で・・・

 

 

リ:どうです? 中々楽しめたでしょう―――

秋:ああ―――すまんな。

  それにしても、お主・・・

 

リ:ん―――? なんです?

秋:「アタッカー」だと思っていたが、「タンク」だったとはなあ!w

 

リ:フフ――ン、意外だったでしょw

  けど、私はどちらかと言うと、「アタッカー」寄りにパラメーター振ってますからね。

  それに、「盾」の役割は、「コレ」があるし・・・

秋:ほう―――それが例のスキル・・・「晄楯(こうじゅん)」と言うか。

  中々のものだったな・・・

 

 

数人がかりで、やっと倒せる「レイド・ボス」を倒し、互いの健闘を讃えあうプレイヤー達。

その中に、リリアと秋定(ときさだ)はいました。

 

 

 

#33;レイド戦

 

 

 

「レイド戦」―――今までのプレイヤー単独で・・・或いは、一つのPTだけでクリアできる「エネミー・ボス」以外に、

プレイヤー同士が個々の特性を理解し合い、協力をして難敵を撃破する―――

そんな新たなコンテンツを、このゲームの運営側は、この春の大型連休の前日に実装(アップ・デート)をしました。

 

そして今回挑んだ(ボス)―――ドラゴンタイプの非常に強い(ボス)・・・

その“尾”は味方を薙ぎ払い―――その“牙”や“爪”は、味方を食い散らかす・・・

しかも、極め付けには―――「属性」を纏ったブレス・・・

 

“初見殺し”とでも言える、高レベルのステータスを誇り、プレイヤー達を幾度となく「全滅」に追い込む、

それこその「難敵」と呼べた(ボス)でした。

 

だからこそ・・・の、工夫は必要―――

プレイヤー側にも、この実装に伴い、新たなる「ステータス」のようなものが付きました。

それこそが「役割分担(ロール・ポジション)」・・・

 

“前衛”で攻撃に特化した「アタッカー」

やはり“前衛”ながらも、主な役割としては、(エネミー)からの注目や、攻撃を一手に引き受け、

自分に集中させることで、「レイドPT」全体の「ダメージ・コントロール」を(にな)う「タンク」

 

“中衛”で様々な「補助(バフ)」を行う「サポーター」

 

“後衛”で、味方が負ったダメージの回復や、攻撃や防御の補助魔術を駆使する「ヒーラー」

“後衛”で、長い詠唱文言を詠唱し、(エネミー)に大ダメージを与える「キャスター」

 

―――と、この様な5つもの「役割分担(ロール・ポジション)」を選択でき、それぞれの役割を理解した上で難敵を撃破するコンテンツ・・・

それこそが「レイド戦」なのです。

 

その上で、秋定(ときさだ)が意外に思ったのが、現実内で自分を負かせられるまでの実力を持つ者が、

まさかの「タンク」だったとは―――・・・

 

けれど、実際に一緒に闘ってみて分かった事・・・

それが、リリアが持つ、唯一無二のOUS(スキル)―――「无楯(むじゅん)」であり、

そのうちの一つでもある「晄楯(こうじゅん)」だった・・・

 

しかも、今回のレイド・ボスである、『ウオーロード・ドラゴン』の、攻撃の総てを防いでいた―――??

それも、自分もダメージを負う事もなく・・・

それに、隙あらば攻撃を加えるなどをして、相手からの「ヘイト」を溜め込み、また自分に攻撃を集中させる・・・

 

時には、秋定の身体を、レイド・ボスの爪牙が掠める場面もあったようでしたが、

レイド・ボスからの攻撃手段を、一時的にでも遮断する「シールド」を駆使するなどして、

味方の状況を須らく把握していたようにも見受けられたのです。

 

局地的に・・・ではなく、広く戦場を見渡せる眼―――

 

それを見い出せただけでも、秋定(ときさだ)は嬉しくあったのです。

 

その後の出来事で―――・・・

 

 

秋:それにしても、判らんことが今一つある。

リ:はい?

 

秋:それはお主自身だ。

リ:はあ?はあ・・・

 

 

突然、何を言い出すかと思えば、自分の事を「判らない」と、この人は言う・・・

今引き出せる自分の技能の総てを見せたつもりでいたのに・・・

それに、一体何が「判らない」のだろう・・・と、そう思った時―――

 

 

秋:このゲームでの、そのアバター・・・それは恐らくオレもそうなのだが、

  現実世界でのオレ達自身を反映させている―――そうで間違いないな。

リ:そのはず―――ですけど・・・それが何か?

 

秋:フフフ―――ハハハ! 未だ己自身でも気付いておらんとは、なあ!

  いや、愉快―――愉快―――w

リ:あの・・・秋定さん―――それって失礼じゃないです?

 

秋:いや―――すまんすまんw

  まあ、口を悪くしたついでだ、言っておこう。

  現実世界(あちら)でのお主は、実に野暮ったい、市子を友に持ったのなら、少しは感化されてもよかろうものなのになあ?w

リ:秋定さん・・・いくら私でも、そろそろ怒りますよ?

 

秋:お主は気付いておらんのか?己の美貌に―――

リ:(ほえ?)はあ? 美貌?? 何言っちゃってんですか???

 

秋:オレは、先程も言ったはずなのだがなあ?

  このゲームでのアバターは、現実世界のオレ達自身を反映させているのではないかと。

  なのにお主は、現実世界では、ああも野暮ったいのに、なぜ仮想世界では、こうも美しいのだ?

 

 

唐突に変なことを言われ、一旦リリアの思考は、そこで停止してしまいました。

それであるが故の、「呆気」にとられた変な顔―――間の抜けた顔となり、

次第に顔が紅潮・・・上気させ、一種の状態異常「混乱」に陥ってしまったのです。

 

そう―――今回、例の一件で迷惑をかけたから・・・と思い、

ついでに仮想世界での実力を知ってもらおう・・・と、勧誘した「レイド戦」―――

 

なのに、今回誘った相手側からの、思わぬ評価に、リリアは戸惑ってしまったのです。

 

また、更には・・・

 

 

秋:故に―――これからは、現実世界でも容姿に気を使ってみると良いぞ。

  上手くすれば、あの「朴念仁」も、心動かされるかも知れんからな!w

 

 

秋定からの、盛大なる「ボーナス・アドバイス」(??)を聞き、あらぬ妄想に走ってしまうリリア―――

実は秋定は、別にけしかけたつもりではありませんでしたが、

「おしゃれ」に気遣わない今回限りのPT仲間に、尽くしてやるのも悪くはない・・・とも思ったのです。

 

つまり―――今回の「お話し」の冒頭にあったように、

姿見に自分の全身を投影させ、鍛えた腹筋を見たり―――他の女子生徒より巨きめの乳房を、寄せてみたり―――伸ばしてみたり、

背中を向いての広背筋や―――お尻の辺りを色々触ってみたり・・・

最終的には、自分の顔を伸ばしてみたり、押し潰してみたり・・・などと、色々手を加えて見るのでしたが、

これが中々―――

 

―――と、言う事もあり、仮想世界内で友人からのいいアドバイスを貰ってみようか・・・などと思い、

ログインしてみると―――・・・

 

 

リ:(あっ―――いた・・・)お~~い、市子さ―――ん

市:あらリリアさん・・・そうですか、あなたもこちらに?

 

リ:うん、それにしても丁度いいところだったよ。

  ちょっと市子さんに聞いてみたいことがあってね。

市:はあ・・・何でしょう?

 

 

仮想現実内にある「待合喫茶」にいた市子に声をかけ、ほんの少し前から聞いてみたいことを聞いてみるリリア・・・

すると、市子からの反応は―――?

 

 

市:(・・・)なにを今更そんな事を―――それに、誰なのです?そんな事を申し上げたの・・・

リ:失礼しちゃうでしょう~? それに、誰―――って・・・

  実は昨日ね?秋定さんと一緒に、「レイド戦」に行ったのよ。

 

市:秋定様と?それも今流行の「レイド戦」に・・・?

  ふむ・・・なるほど、あの伝言は、そう言う事だったのですね。

リ:あれっ?市子さんには、私達がレイドに行った―――ってこと、初めて話すよね?

 

市:おそらく、そのレイド戦が終わって、ログアウトした直後―――だったと思います。

 

 

どうやら昨晩の一件は、厳三(よしみつ)からの一報を通じて知っていたものとみえ、

リリアが秋定を誘って「レイド戦」をクリアした事は判っていました。

 

そこで市子は想像を膨らませ、

恐らく“彼”は自分達の仲を気遣い、現実世界内に於いても、容姿、外見などに気遣っても良い―――と、

吹き込んでくれたのだろう・・・

そこは就中(なかんずく)当たっていただけに、市子も納得した上で、有益なアドバイスをする―――

・・・こととなるのでした―――が。

 

 

市:確かに、秋定様の仰り様も、一理あると思いますが、

  下手を打ってしまっては、台無しと言うものです―――

  そこで私が思うのに、思い切って現実世界でのあなたの姿を、そのアバターと“同じ”にしてはいかがでしょう?

 

リ:えっ―――? いや、何言ってるんだか、サッパリ・・・

 

 

至極簡単なアドバイス―――

仮想世界内の「リリア」のアバターは、誰しもが振り向く美貌を持っていた・・・

持ってはいた―――のでしたが、本人は長年使いこんでいただけに、

“至極当然”と思えたことでも、「今更ながらに言われても」感は否めなくもなかったのです。

 

その事に、市子は少々頭を痛める事になったのでしたが―――・・・

 

突然、雷に打たれた様に閃いた―――

 

「私一人でダメならば、もう一人「あの人」も―――・・・」

 

斯くて、「璃莉霞大改造計画」は、恐るべき二人の「セレブ」の手によって、

推し進められていくこととなるのです・・・。

 

 

 

つづく