一通りの話し合いが終わり、互いのいるべき場所へと散っていく同志達・・・
けれどミリティアは、その場から動くことはせず、ある意味での「同志」の来訪を待っていたのです。
#35;13人の長老
するとやおら、闇の更に深き場所から、ミリティアの「領域」に入ってきた者が・・・
その者、「赤き緋」の長き髪を頭に頂き、その身体に纏う「漆黒」の導衣は、何者にも染まらぬ強固な意志を示す。
その瞳は透き通る「紺碧」の大海原を思わせ、その思慮は海溝よりも深いとされる。
運:ちょいと待たせたかね―――
ミ:いや・・・では始めようか。
運:それ―――で、どうなんだい。
実装する時期は早いと思ったんだけどねぇ・・・。
大丈夫なのかい?
ミ:心配には及ばん―――豎子が事を為さしめたのだ。
次へと進まねばならんだろう・・・。
運:ふ〜〜む―――・・・
ミ:それより、汝の言葉を返すようだが、「そちら」はどうなのだ?
運:(・・・)覚悟は、決めている―――
ミ:お互いが辛いのであろうが、これは「我々」の為でもあるのだ。
“タワーリシチ”『ガラティア』よ・・・
今、ミリティアと個人的に会談をしているのは、『ガラティア』と言う存在でした。
そして、二人が話し合っていた内容とは・・・紛れもなく、例の「レイド戦」の事・・・
実はガラティアは、このコンテンツの実装時期が、自分達が本来、計画していた時期より少しばかり早いのではなかったかと思っていたのです。
その答えとして、ミリティアは、「心配はない」と―――
では彼女は、何を理由に、そんな事が言えたのか・・・それが―――
あるプレイヤーによる、「試練」の突破―――
その「試練」も、言わずもがな・・・『因縁の宿敵』の打破―――で、あるとしたならば?
“彼ら”は知りたかったのです。
こちらの世界の、「人間」達の可能性を・・・
一度、絶望の淵へと落とされ―――たとしても、自ら這い上がり、「自分達」が用意したモノに打ち勝つことが出来るのか・・・
“彼ら”は、こちらの世界の住人では、ない―――
言わば、「さある異界の住人」にして、他は“彼ら”の事を、『異邦神』と呼ぶのです。
そう―――この二名、「ミリティア」に「ガラティア」こそは、こちらの世界の住人ではなかった・・・
事の経緯がどうであれ、“彼ら”は、私達とは別の知識を得た、高位次元の生命体でもあったのです。
そんな“彼ら”が、こちらの世界に潜み、こちらの流儀に従い、こちらの遊戯を利用して、「何か」を求めようとしている・・・
それは或いは、自分達の世界では、得られることのなかったモノであるのか―――・・・
はたまた、同意なくこちらへと来てしまった、言わば「同志達」の、“帰還”の手段の模索であるのか・・・
それは知る由もないのです。
ミ:それにこの計画は、最早動き出してしまったのだ。
制動制御の利くモノならば、止めることは出来よう・・・なれど、
これにはそんな気の利いたモノはついておらん、要は「覚悟」は決めねばならんのだ。
それも・・・「我々」の、な―――
ガ:ああ・・・判っている。
ミ:ならば!なぜ今になって「そのような」物言いをする、ガラティアよ!
「少し・・・キツく言い過ぎたか―――」
「あのガラティアが、「迷い」を見せているとは・・・」
「それに、これでは埒も開かん―――落としどころも見失っても・・・な。」
ミリティアは、『言葉』を駆使する・・・
「言葉」する意味を須らく解し、「意味あるモノ」とする“術”を持つ・・・
「言葉」は、それ単独で使ってしまえば、意味を持つものではない・・・
「言葉」に権限を与え、為す術―――
それは「術師」による、魔術文言の「詠唱」であり、また「言霊」でもあるのです。
そこで、ミリティアは一考し―――
ミ:この度の実装は、更なるこちらの世界の人間達の能力を見極め、底上げをすることにある。
その為の「レイド戦」であることは、最早言うまでもあるまい。
“我ら”『姉妹』の内、「3人」の同意を得、これまで以上の苛烈な「試練」を乗り越えてもらわねばならぬのだ。
ガ:判っているよ―――だから私達・・・『7人の姉妹』に加え、こちらの世界での、「6人の有志」を募った・・・
「このシステム」を利用するに際し、「運営する側」と「開発する側」とに分かれ、「13人の体勢」を整えた・・・
それこそが、このゲーム・・・『Odysseia−OnLine』の「運営陣」・・・通称を、「13人の長老」と呼ばれた者達の正体だったのです。
そう・・・彼らは、このゲームを「運営するサイド」でありながら、「プレイするサイド」としても潜み、
誰しもが楽しめるよう、各プレイヤーの感情を調整し、円滑にゲームの運営を進めていく・・・
またプレイヤー同士の不平不満を掬い上げ、数値の変動を行うなどしたり―――
また新たなシステムの導入をして、新たなるプレイヤー達を呼び込む施策を開発する・・・
この様な涙ぐましい裏方の活動があり、なんとか続けてきて10年―――
時には、批判ばかりが集中し、存続さえ危うくなった時機もありましたが、
今回立て続けに行われた「仕様変更」が功を奏し、かつての隆盛を取り戻すことが出来た・・・
それはそれで、喜ばしいことなのですが・・・
やはり得るものが大きければ、犠牲になるのも、また大きかった―――
今回の実装に伴い、運営側は、ある思い切った手段に出ることにしました・・・。
それが「因縁の宿敵」であり、それに伴う『四凶』の存在―――・・・
実は・・・その『四凶』のうち、“3つ”は、ミリティアやガラティア達の・・・
ガ:“あの子”は、少しばかりこちらに来るのが早かったのさ―――
ミ:だが、それは致し方のないことだ。
こちらの実情が判らぬままでは、我々が望みしモノに適合しうるかどうか、怪しいものだったのだからな。
だが、“あの者”は、自らが望んだ―――志願をしたのだ・・・。
そこを、履き違ってもらっては困る。
ガ:判っているよ―――だが“あの子”は・・・
ミ:ガラティアよ―――“あの者”を送り出す時、ワレが言い聞かせたことを覚えているか・・・
ガ:(・・・){決して}{深く}{入るな}―――だったね・・・
ミ:それがこの“ザマ”だ、まあ“あの者”にとっては、いい薬にはなっただろう。
彼女達の『妹』の一人と見られる者が、こちらの世界へと来るのに際し、
自らが志願をしたものの―――ミリティアは、その『妹』なる者の性格が故に、あることを危惧していました。
「この者は優しい・・・」
「{優しく}{過ぎる}ところがあるから、いつかは「絆される」やも知れぬ・・・」
「その優しさは「慈悲」とも呼べようが、それは“我々”にとっては“毒”となる危険性を孕んでいる・・・」
「違えてはならんぞ―――『ジョカリーヌ』・・・」
“彼女達”の『妹』の一人こそ―――リリアがかつて慕い、リリアの母もまた慕っていた存在でした。
「彼女」は非常に理知的で、理路整然としていた・・・
「彼女」の“教え”は瞬くの間にプレイヤー達の関心を集め、
そして多くに慕われた・・・
「彼女」こそは“慈愛”―――“慈愛”にして、〔秩序ある“善”〕
それこそが『ジョカリーヌ』でした。
けれど、そうした「彼女」の「優しさ」を、憂いていた存在がいました。
それが「ミリティア」であり、「ガラティア」・・・以下の、ジョカリーヌの『姉妹』達・・・
「この者は“優しい”・・・」
「{優しく}{過ぎる}ところがあるが故に、「迷い」「道を違える」やも知れん・・・」
「“我々”の征きし道は、新たなる世界との「誘合」と「融通」・・・」
「“その道”が、険しき「茨の道」だとは言い聞かせてきたつもりであったが・・・」
こちらとは違い、あちらは「苛烈」そのもの―――
“個”が「個」を潰やさねば、繋ぐことが出来ない「倫理観」に「存在意義」。
だからこそ、せめて少しでも慣れさせる為にと、こちらの者に「試練」として用意させた・・・
ある者が言う―――「所詮、山よりも大きな猪はでない」と・・・
「試練」は、課す―――
けれど、越えられない試練ではない。
時には耐え、時には絶望の淵へと叩き落されても、何度でも立ち上がる・・・
そんな屈強な者を、「異邦神」達は求めていました。
そして今―――その“試練”を乗り越え、また新たなる“試練”へと挑む者を発掘できた・・・
しかも、その“当該者”とは、「異邦神」の事を知りながらも、積極的に協賛してくれた―――
こちらの世界の人間・・・の、「その娘」―――
「皮肉なものだ・・・」
「まさかこちらの世界に、これ程の「潜在」を持つ者がいようとは・・・」
だからこそ、ミリティアは、今回の「レイド戦」の実装を、その当初の時期より早めました。
そして、この「レイド戦」そのものの目的―――
難敵を、仲間と一丸となって打破する―――と、するならば・・・?
ならばこそ、ガラティアにも判っていました。
あの、{優しく}{過ぎる}自分達の『妹』の一人に、『その事』が果たして務まるのか・・・
あれだけ可愛がっていた、こちらの世界の協賛者の娘を・・・
「陥穽」にかけられるのか―――
「彼女達」の危惧は、極まれる―――
「陥穽」にかけた後、泣きじゃくる『妹』の姿を見せられて・・・
けれども、覚悟を決めなければならない―――
「自分達」の為にも―――こちらの世界の「子等」にも・・・
だからこそ、“成る”しかなかったのです。
あちらの世界での「反作用体」―――『女媧』と、成り果てて・・・
つづく