長かった春の大型連休―――「黄金週間」が明け、久しぶりに登校をしてくる学生達。
そんな彼らの間で、一つの“噂”が流れるのでした。
#38;注目
「菫紫」の髪を後ろで結び、飾りには髪の色が一層映える「赤い」リボンを使用してのポニー・テール・・・
顔には、目元や口元がはっきりと―――それでいて華美にならない程度のナチュラル・メイク・・・
この美人は一体どこから来たのか―――
それとも連休明けから転校してきたのか―――
様々な憶測に噂は飛び交うのでしたが、その“噂の美人”は、知ったが如くに教室へと入り、
ある特定の席に収まるのです。
しかも、その「特定の席」と言うのも―――・・・
それまでは、特に目立たない「地味娘」の属性を持つ、あの―――・・・
それに、挨拶一つを交わすにしても、ニコやかにして晴れやかな表情に変わっており、
それまでの印象は一新されてしまったのです。
しかも・・・まだ異変は続き―――それは休憩時間に。
男生:おい―――あの美人、今、生徒会長室に入っていったぜ?
女生:えっ―――でも、生徒会には、あんな人いなかったような・・・?
今の会話は、璃莉霞のクラスや、違う学年の生徒達のもの―――
自分達が未だ見たことのない美人が、何の衒いもなく、生徒会長室へと入っていくのを目撃した―――
けれど、そんな美人は、この学園にはいなかったし、そもそも生徒会にもいなかったはず・・・?
しかも―――この一部始終を、ある「部活」の一員が目にしていたのです。
新聞:(こっ―――これは・・・スクープだわ!)
(「謎の美女、生徒会長に呼ばれる」・・・こうしちゃいられないわっ―――)
(早速部長に報告しなくちゃ―――っ!)
ここ最近の「新聞部」は、持ち寄ってくる“ネタ”も凡庸なことから、ある危機感に見舞われていました。
そう・・・「特ダネ」が、ない―――・・・
話題性が乏しいと言う事は、“ネタ”を捏造してまでも関心を集めなければならないため・・・
しかし、そんなことをいつまでも続けていれば、いつかは飽きられてしまう・・・
そこへ来ての、今―――話題になり始めようとしている、「謎の美女」が、
「細川家」のお嬢様が務めると言う、生徒会長自らの部屋に・・・?
その「新聞部部員」は、「新聞部部長」である、「新垣朋子」の下へと、馳せ参じるのでした。
ところ一方―――その話題の渦中になろうとしている、生徒会長室では・・・
璃:失礼します―――おはようございます、市子さん。
市:おはよう―――やはり、思っていた通りですね。
璃:う〜〜ん―――て、言うよりは、疲れちゃったよ・・・
なんだか、私は“私”のはずなのにさあ・・・皆が変わった目で見てきちゃうんだもの・・・。
市:“変わった目”―――ではありませんよ。
それが、当然の評価と反応というものです。
璃:そうかなあ・・・
あ―――これ、どこへ片しておけばいいです?
市:ああ―――それね。
取り敢えずは職員室へ回しておいてください。
璃:ほーい。
取り分けて行ってしまえば、璃莉霞は生徒会へと入ったわけではありませんでした―――が、
そんな彼女の行動は、“信友”の為になればこそ―――と思い、していたことだったのです。
それに、生徒会長である市子も、やはり自身が思っていた通り、「あのゲーム」のアバターに近づければ、
皆注目せざるを得ない・・・事実、今そうなっているのですから。
やはり“人間”と言うものは、正当なる評価こそ望ましい―――
それを、自分の信友は、実践で見せてくれている・・・
自分の幼馴染も欲しがる人材―――それを今、自分の“信友”として迎え入れていられるだけでも、市子は誇らしく思えたのです。
ところで―――新聞部部員からの一報を齎された、部長の新垣朋子は・・・
朋:なぁにい〜〜?!それは本当か―――?
新:は―――はい!その「謎の美女」は、どうやら我が校の2年生らしくて・・・
朋:(2年・・・)璃莉霞のヤツの学年だな―――・・・
よし、次の休憩時間に、「アポなし」敢行してみるか・・・
新垣朋子は、白鳳学園の3年生・・・しかも彼女は、璃莉霞とは古い付き合いらしく、
故に、璃莉霞に纏わる「ある関係」も熟知していたのです。
そして、次の休憩時間―――アポイントメントなし取材を敢行してみるのでしたが・・・
朋:(いねーな・・・だが、“ヤツ”は、いる―――か・・・)
よぉ〜し・・・ならば―――ww
もう既に高跳び(違w)したか、取材対象者がいなくなってしまっていることに、舌打ちをするのでしたが・・・
ならば「搦め手」ではどうか―――と言う事で、このクラスにいる、もう一人の自分と古い付き合いのある・・・
朋:おい―――朴念仁。
清:あ゛?なんだ―――?
なんだ、お前・・・どっから湧いてきやがった!
朋:いいだろ―――そんことは・・・
それより、お前の“コレ”、なんか変化があったらしいなあ〜?
清:なっ―――・・・
関係ねぇーだろ、そんな事は・・・
それより、大体“コレ”ってなんだ!“コレ”ってぇ―――!
朋:おんやおやぁ〜〜?w 私は「小指」しか突き立ててないんだけどなあ〜〜?ww
清:ん・ぐっ―――くく・・・
しっ・・・知らねえよ―――そんなことは・・・
だっ、大体お前に詮索されるようなこと、こっちはなんもやっちゃいないぞ!!
朋:(ふ〜〜む・・・)「関係性は否定するも、過剰な反応アリ」―――か・・・
清:おっ―――おいっ! お前なんなんだあ?!
第一、なんでオレが、「取り調べ」みたいなの、受けなきゃなんないんだ。
朋:ふっふっふ〜ん・・・こっちには、ネタとして挙がっておるのだよ―――清秀君・・・
さっさと吐いて、身が軽くなった方が、お前のためだぜえ〜〜?
清:(く・・・ぅ〜っ)あんたのそういうとこ・・・昔っから変わんねえな―――ブス!
朋:あんじゃとぅ〜?! ゴル゛ァ! もっぺん言うてみろや―――あ゛あ゛?!
朋子と清秀と璃莉霞は、よく幼い頃からつるんで遊んでいただけに、全く知らない仲ではありませんでした。
それに朋子は、彼らより学年が一つ上なので、璃莉霞の良き相談相手でもあったのです。
それに・・・変に先輩風を吹かさない―――いい意味での「姉御タイプ」だっただけに、
年下の清秀からの不適切な表現も、ある言葉を除いては容認していたのです。
とは言え、執拗に迫ってくる態度に、清秀も思いが余って口にしてしまった―――
それを聞いてしまったものだから、いくら幼馴染であろうとも・・・
あるからなのか(w)朋子は激昂してしまったのです。
すると、そこへ―――・・・
璃:ちょっと―――どうしたの?朋・・・
朋:(おっ?)・・・誰だ?お前―――
璃:私だよ〜w
あ・・・松元璃莉霞―――
朋:(・・・。)―――璃莉霞ぁ?
な・・・っ、なんでそうなった―――??
お・・・お前まさか! 悪の秘密結社の改造手術を受けたのか??
璃:失礼なことを言うなあ〜〜・・・
あ、そうだ―――これならどう?
余りもの変わり様に、昔からの容姿を知っていただけに、脳内変換が追いつかないでいた朋子―――
なので、あらぬ妄想を終ぞ口にしてしまうのでしたが、璃莉霞は自分であることを判ってもらうために、
後ろで結んでいたリボンを解くと、そこには化粧をして少しは小奇麗になってはいるものの、
昔からそのままの後輩の姿―――に、殊更驚いてしまったのです。
それに・・・朋子は知っているのです。
この後輩の“想い”―――
こんなにまで劇的変化を遂げているのに、何の反応も示さない、この男に対して―――
朋:おい清秀―――お前どこまで行った!
清:はあ? 全然話しが見えてこないんだが―――
それに・・・この連休期間中、お袋いなくてさあ―――どこも出ずに、ゲーム三昧・・・てなヤツよ。
朋:誰がそんな事聞いてるかあ―――!
お前はヤったのか?ヤってないのか?? せめてチューはしたんだよな??
璃:な・・・なに言ってんのよ〜〜朋ぉ〜〜
しゅ・・・秀ちゃんが、そんなこと・・・するわけ・・・ないじゃん・・・
朋:お〜ま〜え〜〜〜くぉの根性ナシが!!
こんな美人放ったらかしにして、なにやっとんのんじゃい―――!!
清:お前・・・無茶苦茶な事言ってんなあ―――それより・・・
朋:あ゛?
教:ン・ホンっ―――始業時間はとっくに過ぎておるぞ。
それに、不適切な言動の数々もあったらしいな?
あとで、生活指導室に顔を出すように―――
嗚呼―――無念のタイム・アップ・・・
しかも、言質を取られていたらしく、最早言い逃れできない新垣朋子・・・
どうやら放課後に、こってりと絞られるようです。
それはそれとして―――放課後の帰路。
幼馴染の先輩から、「あんな事」を言われたモノだから、少しは奮起しようと、とある行動に出る璃莉霞・・・
それは―――清秀の部活が終わるまで、校門の出口で待つ―――と、言う行為・・・
(ちなみに、その時が来るまで何もせず―――ではなく、生徒会の手伝いなどして、時間を潰していたようで。
それに、市子もどことなく察してはいたようで、互いに会話を交わさないでも、相手が何をしようとしているかを判ってしまうと言う事は、
まさしく友情のなせる業―――と、言ったところのようです。)
高鳴る鼓動を抑えつつ、気にしている異性を待ち受ける・・・と、言うこの感情―――
そして、意中の人が現れると―――
璃:秀ちゃん―――
清:璃莉霞・・・
璃:―――
一緒に帰ろ?
清:ああ―――うん・・・
今まで―――中学からこちら、一緒に帰ったことがなかった幼馴染・・・
それが今日、また一緒に帰る・・・
とは言え、最初は恥ずかしさもあり、とても並んで歩けもせず、
璃莉霞は古風にも、「男性の三歩後ろで、その影を踏まず」―――と言った有り様だったのです。
それに・・・清秀も、そんな幼馴染の“想い”に、気付いていないわけでもなかった―――
ただ、「お年頃」なだけに、照れ臭さだけが先行し、また男女の機微にも疎かったことから、
幼馴染に対しても、どう対処していいか判らなかったのです。
それに―――・・・誰が見ているかも判らない。
所詮自分は、今は落ちぶれているとはいえ、「名家」の出身・・・
そうした「プライド」を取るか―――はたまたは「幼馴染の想い」を取るか・・・
清秀は迷っていたのでした。
そして、迷った上で―――
一つの決断をしました。
その決断を胸に・・・急に立ち止まる清秀―――
清:―――なあ・・・璃莉霞・・・
璃:―――えっ・・・
清:そっち・・・遠いだろ・・・
こっちへ・・・来いよ、並んで・・・歩こうぜ・・・。
璃:(・・・)―――うん。
それは、小さな一歩―――けれど、彼と彼女にしてみれば、大きな一歩だったのです。
つづく