日頃は奥手な者同士が、互いに一大決心して選んだイベント―――
それが「一緒にお帰り」・・・
男と女は、その“幼さ”―――“若さ”故か、互いに遠慮をして、「一緒にお帰り」するも、
未だ距離はあり―――
すると男は、更に決断をして、自分との距離を取っていた幼馴染である女を、呼び寄せた・・・
それでも尚、自分達の気恥ずかしさゆえか、互いにそっぽを向いたまま―――・・・
けれど、徐々に近まる“手”に“腕”・・・
今ではもう、互いの相対距離もなくなり、男は勢いそのままに―――
璃:あ・・・っ―――
・ ・ ・ ・
華奢と思える幼馴染の両肩を、その両の手の内に収め・・・正面から引き寄せた―――
そして、重なり合う・・・唇と唇―――
その間、僅か数十秒と言えましたが、何時間にも感じられた。
いつしか男の両腕は、女の背に回り、力強く抱きしめられる・・・。
「ああ・・・なんて逞しいんだろう―――こんな感覚、初めて・・・」
男も女も、初体験ではありましたが、一度離れても、もう一度したいと思ってしまった・・・
そして、誘う―――
璃:私・・・好き―――秀ちゃんのこと、大好き!
だから・・・もう一度―――
男からの返事はありませんでしたが、また引き寄せられ、先程よりも激しく行われました。
「ああ・・・幸せ―――これが本当の・・・」
女は、自分の想いを打ち明け、男はそれを受け入れてくれた・・・
だからこその―――“行為”・・・
それに、こうも充ち足りた瞬間はなかっただけに、今は至福の時間を満喫するのでした。
その―――翌朝。
いつも通りに登校するも、昨日の経験が忘れられなかっただけに、いつもより晴れやかな表情となっている璃莉霞・・・
それを見た、璃莉霞の一年後輩は―――
し:おっはよ―――ス☆ 先ぇん輩っ☆
璃:ああ―――お早う、しのちゃん。
し:(―――ん?)
それは、普段と何ら変わらない光景―――の、様にも思えましたが、
しのにしてみれぱ、ふとした違和感に包まれるのでした。
「いつも通り―――の、はずなのに・・・」
「先輩てば、欲求が満ち足りている―――?」
「これは、なンかあったんスね?☆」
恐るべきは、女の直感―――と、言うべきか・・・はたまたは、忍の習性か・・・
それはそれで良かったのですが、実は、こんな異変も―――・・・
今日も今日とて、昨日の幼馴染の先輩からの質問攻勢があっただけに、気が抜けない璃莉霞に清秀・・・なのではありましたが。
昨日の攻勢はどこへやら、今日は一転して、静かな雰囲気が、逆に不気味だったりもしたのです。
ところがしかし―――その日は放課後まで何もなかった・・・
一切―――何も・・・
自分達がこんなにも警戒していたのに、全く何もなかったことに、肩透かし感を喰らった感覚になってしまったのです。
しかし―――たった一つ言えた真実・・・
『謀略』は―――人知れないところで進行する・・・
彼らは、忘れてしまっていたのか、それとも、それも“幸せ”の為せたことなのか・・・
それはそれとして、幸せ溢れる璃莉霞は、次々と積極的な行動に移ってきたのです。
その一例として、ある日の光景で、お昼休みの前に、清秀に「ある物」を手渡す璃莉霞が・・・
清:―――ん? なんだ、これ・・・
璃:「お弁当」―――秀ちゃんの為に作ってきたの、食べて。
大型連休明けに、突如美人に変身した「地味娘」から、「リア充」の証しとも言える「お弁当の手渡し」をされる清秀・・・
周辺の男子生徒からは、嫉妬や羨みにも似た視線を浴びながらも、
付き合っている(?)幼馴染が作ってくれたお手製の弁当を一口食べてみると・・・
璃:ねえ・・・どう?かな―――
清:(・・・)旨ぇ・・・旨えぞ!
思って―――いた以上よりも美味しかった・・・だから夢中になってかき込んだ。
それを見て、満ち足りた笑顔に変わる璃莉霞・・・
こんな幸せ一杯の光景を見せられて、周囲もさぞかし影響を受け―――
・・・るものかと思いきや!?
その日の放課後―――生徒会長室の一コマにて・・・
市:璃莉霞さん・・・少しお話ししたいことがあります。
璃:はい―――なんでしょう・・・
市:「お話し」・・・と言うのは、他でもありません、あなたと清秀の事です。
璃:(あ・・・)バレ―――ちゃいました・・・か。
市:そういえばあなたは―――今日、清秀にお弁当を手渡したそうですね。
それも、幸せそうな顔で・・・始終を見つめて―――
璃:あ〜〜〜ははは・・・
市:まあ、それだけが原因であるかは、定かではありませんが―――
おそらく、あなたのクラスメイトから、こんな「投書」が寄せられたのですよ。
自分の信友が、想いを寄せる相手に一大決心をし、告白した・・・のはいい事だ―――
とは言え、こうも他人に見せつけるかのように・・・とは、実は市子は望んではいなかったのです。
なぜならば、「こうした」手痛い竹箆返しを受けることにもなるのだろうから・・・
そう―――だからこその「投書」であり、その内容も過激に富んでいたものだったのです。
それと言うのも・・・
「リア充タヒね―――!」
「学校内でイチャつくな〜〜〜!」
「今更イメチェンして、男に媚びようとしてんのか〜〜!」
etc・・・etc・・・挙げればキリがないくらいに―――
とは言え、実は市子も「ここまで」は、想定の範疇だったのです。
そう―――つまり・・・「ここまで」のことなら、生徒会長の権限で、抑え込むことは出来た・・・
けれど、そう―――・・・「想定」は、していた・・・けれど、
その「想定」を遥か越えた処から攻撃がきてしまった―――
「これはもう、避けられない事態なのだ・・・」
そう思い、急きょ璃莉霞に「この話し」を持ち込んだのです。
璃:あ〜〜〜・・・やっぱ、私・・・元に戻した方が・・・
市:いいえ? あなたの姿、今のままで一向にかまいませんよ。
それに、「こんなもの」は、所詮嫉妬の類なのですから、この私程度でもコントロールは出来るものです。
璃:・・・どうしたの―――?
市:璃莉霞さん・・・あなた、休み明けの最初の下校―――清秀と一緒に帰ったそうね・・・。
そこで―――なにがありましたの?
その瞬間―――璃莉霞は「はッ!」とするのでした。
まあ確かに、今までしたことのなかった「お弁当の手渡し」も、疑ってしまえばキリがないことなのでしたが・・・
まるで自分の信友は、自分と幼馴染とが、互いの合意の上―――告白を受け入れての「お付き合い」をしていることを、
あたかも知っているかのような物言いだった・・・
それに、連休中の浮かれ気分の延長線上―――とも思えなくもない、所作の数々をしてはいましたが・・・
少なくとも、「告白を受け入れてくれた」事実は、自分達二人の“秘密”なのであって・・・
ここまでの思考を巡らせ、ある疑念を生じさせ、口にしてしまう璃莉霞―――
璃:まさ・・・か、「あの場面」―――見られていた?
すると市子は、何も言わずに、一葉の印刷物を提示してきたのです。
そう―――自分と清秀とが、熱烈な接吻をしている、「あの場面」を映し込んだ・・・
『写真』
その事に、驚愕の表情となる璃莉霞・・・
璃:こっ・・・こ、こ、これ―――
市:それ―――“誰”からこの私宛に来たものだと思います。
璃:えっ―――・・・(はあああっ!)
「その表情・・・ようやくにして察しましたか・・・。」
「そう―――この“送り主”こそが、今回の一番の問題点・・・。」
実は璃莉霞も・・・なのですが、清秀も、市子も、はたまたは小夜子も、厳三も、
この地域にある、名のある家柄に生を受けた者ならば、一番に警戒しておかなければならない、
「ある家」のことを失念してはならなかったのです。
この地域には、古来より―――“鬼”に纏わる伝承がありました。
“鬼”―――人間とは違う異種にして、異形の存在・・・
その体格や力はもとより、すば抜けていたのは、その悪賢さ―――
けれどそれは、「古の伝承」―――・・・
現在とは、全く関係が、ない―――と、言ってしまえばそうなのでしょうが・・・
ならば?
その“鬼”の血を引く者が、いるのだとしたら・・・?
しかも、現代を生くる“鬼”は、表立って出たことはなかった・・・
この地域の社会を、裏で操り―――
かの「御三家」すらも、自らの操り人形としていたと言う、噂も聞く・・・
それになにより、一層性質が悪いのは、自分達を弄玩びながら、自分の退屈を紛らわせている―――と言う、その性格・・・
そして、その人物の総評を、誰しもが口を揃えて、“こう”言うのです―――
#39;鬼 姫
そして―――今回の動かぬ証拠としての、この「写真」・・・
とは言え、この「手」を以てしても、“あの”鬼姫のやり方としては、「非常に手緩い」のだろう・・・
とした、市子の直感は、恐ろしいまでに当たっていたのです。
そう―――「写真」はなにより
「モノ」を云わない、し―――
「動いて」いない―――
「私も迂闊だった・・・こうなることならば、もっと早くに動くべきだった―――」
「おそらく「あの方」は、更なる動かぬ証拠を・・・」
「それも、「高画質」「高画素」「高画像」で、しかも「ハイ・レゾ」対応で、雑音の一切ない“動画”を抑えているに違いない―――」
「それよりも・・・まず・・・先にするべき事―――」
「これ以上傷口が広がらないようにしなければ・・・」
「そうするためには、最悪の事態を想定して動かなければ・・・!」
市子は、信友の為を思い、更に言葉を続けたのです。
市:璃莉霞さん・・・あなたもようやく察した事ですから、多くを言いません。
そうです―――「あの方」です!
「瀬戸朝霞」様、直属の“暗部”が動いていたのです!
私も、まだまだ未熟者ですから、「瀬戸家には強力な暗部がいる」という事くらいしか掴んではいません。
そこでです、璃莉霞さん―――あなたの身近で、何か異変はありませんでしたか?!
なにか・・・こう・・・些細なことでもいいですから―――。
少し璃莉霞の弁護をするならば、「誰かに見られていない」と、思っていたからこそ、大胆な行為に踏み切れていた―――
それをまさか、「あの」一部始終を、“誰か”に見られていた・・・?
「殺人剣」を会得している彼女にも、気付かれないうちに―――・・・?
そこで璃莉霞は青褪めたのです。
自分が常に張っている、「意識の結界」の、さらに外側からの攻撃に―――
そして信友から伝えられる・・・
「私自身の身近―――に・・・」
「なにかの異変?」
「どんなに些細な―――??」
そう言えば、どうして気付かなかったのだろうか・・・
連休明けの初の登校から、ウザったい程の取材攻勢をかけてきた、幼馴染の先輩が―――
例え、不適切発言で「生活指導室」に呼ばれたとはしても、そこから波を打ったかのように静かになっていた・・・と、言う事に。
「どうして―――? 「新聞部部長」である、新垣朋子・・・が・・・」
と、そこまでの発想を広げた瞬間―――
璃:あった―――・・・
市:どうしたのです? 何が分かったのですか?!
璃:うん・・・恐らく「彼女」だ―――
私がイメチェンして、それを三年生の新垣朋子さんが取材に来て・・・
私がいなかったから秀ちゃんに聞いてて・・・そこへ私が帰ってきて―――
繋がった―――全てのピースが・・・
璃莉霞の説明で、今回の騒動の全容が明らかになってこようとしていました。
執拗に「その関係性」を迫ってくるも、無念のタイム・アップで、取材対象から無理矢理引きはがされた新垣朋子・・・
そこで市子は思考を巡らせました―――
もし彼女が、平凡にして凡庸な新聞記者ならば、立て続けの取材攻勢を敢行してきたことだろう・・・
それを「やらない」と言うのは、“彼女”こそが、瀬戸家の暗部の「一員」であり、優れた「諜報活動のプロ」だった・・・
それに、出席状況を調べてみると、やはり・・・“そう”だった―――
新垣朋子は、この数日間、何もしていなかったわけでは、ない・・・
「数日」と言う時間をかけて、更なる情報の精査を行い、“主”である瀬戸朝霞に報告を上げたのだ―――
「新垣朋子は、この数日、学校を無断欠席をしている。」
これが、新たな状況証拠―――だったのです。
つづく