思っていた以上に、市子から手厳しい言葉をもらい、悄然(しょうぜん)として自分の教室へと戻っていく清秀(せいしゅう)・・・

そのすがら、ある“女子生徒”にぶつかり―――・・・

 

 

女生:あ、うっ―――

清:あっ! 済まねえ・・・ちょっと考え事―――なんだ、お前か。

 

女生:あっ・・・秀ちゃん―――

清:(チッ)オレを他人前(ひとまえ)で“そう”呼ぶんじゃねえ―――!

 

女生:(あ・・・う゛う゛う)ゴ・・・ゴメン―――

女生:ちょっとあんた―――この子にぶつかっといて、それはないでしょうに。

 

清:うっせぇな―――ブス!

女生徒:ん、なっ・・・なんじゃとう〜〜!? コラァ―――!!

 

女生:や・・・止めなよ〜〜(とも)ぉ〜〜〜―――

朋:はあ・・・あんたねぇ―――いくらこの失礼男が、あんたの「幼馴染」だから〜〜っつって、

  怒っていい時は怒んなきゃダメだよ?

 

女生:えっ・・・いや、できないよ〜〜〜そんな事―――

 

 

一見して、おっとりしていて柔らかな物腰、今、自分が被害にあったとしても、決して加害者を責めるでもなく・・・

とは言え、それはもしかしなくても、この女子生徒―――『松元璃莉霞(まつもとりりか)』・・・の友人とみられる、『新垣朋子(にいがきともこ)』なる女子生徒の証言からも分かるように、

璃莉霞(りりか)清秀(せいしゅう)とは幼馴染であり、少なくとも璃莉霞(りりか)が一方的に“想い”を寄せているから・・・? とも勘繰られなくもないのですが―――

清秀(せいしゅう)にしてみれば、璃莉霞は幼馴染以上の関係はなく、寧ろ自分に付きまとってくる「厄介者」くらいの意識しかなかった―――

だからこそ、つい厳しく当たってしまっていたのです。

 

それに、清秀が気に入らないことと言えば、この「厄介者」同然の“幼馴染”が、自分に(まと)わりついて発する、

やはり幼馴染だからこそ、“そう”呼べるのか―――の、「ちゃん」付け・・・

とは言え、清秀自身も市子のことを「お嬢」などと、軽々(けいけい)に呼んだり―――と、他人(璃莉霞)の事はとやかく言えない気も、しないわけなのですが・・・

 

ともあれ―――休憩時間も終わり、いつまで経っても教室に入らない生徒に、担当授業の教師から(うなが)され、

そこは事なきを得たようなのです。

 

 

それはさておき―――現在は、下校時間も過ぎ、夕食・・・入浴を済ませ―――てからの、ようやくログインの時間・・・

清秀が「蓮也」と成り、ギルドの一角にある「酒場」に着いた頃、そこにはすでにもう―――・・・

 

 

蓮:あ・・・こんばんは―――

リ:ぃよっ―――今来たのかい。

 

蓮:もうインしてたのか―――早いな。(21:00・・・か)

リ:いや?私も今しがたインしたところだよ。

 

 

現実(リアル)の自分―――と言うものがあるから、幾分か遅めのインにはなってしまう・・・

それに、こうした「ネットゲーム」の特性として、匿名性が上げられる・・・

この事はつまり、蓮也もこの「リリア」なるプレイヤーも、お互いの“現実(リアル)”というものは、知らない―――

 

だからこそ、「学生」である蓮也(清秀)も、自分より早い時間にインをしている、この「リリア」の事を「一般人」として見る嫌いはあったのです。

 

ですが―――・・・この「一般人」プレイヤーも、種々様々としている。

とどのつまり「一般人」とは、清秀達「学生」―――とは違う、“成人”・・・

そこには、手に職を持つ「社会人」もおり、そうではない「無職」・・・所謂(いわゆる)「フリーター」「バイト」「ニート」等々・・・色々とあるのです。

 

ともあれ、そんなこともあり、ギルドの「入口」に立ち止っていれば、当然の如く―――

 

 

市:いつまでそこに突っ立っているのですか、後が(つか)えているのですよ。

蓮:ああっ―――済まねえ・・・て、市子・・・どの

 

 

男が一人、施設の出入り口で立ち塞がっていては、入れるものも入れやしない―――

やや厳しめの口調で、そこから先に進むよう(うなが)し、(あらかじ)め定められた席へと着くと―――

 

 

市:それで? これからどうしようというのです―――

リ:ん〜〜まあ―――手取り足取り、この私が見てやっても構わないんだが?w

  そうするとなあ〜〜〜?(ニヤニヤw)

 

市:なっ―――なんなのですか!そのニヤケ面!!

リ:フフ〜ンw 私からしたら、こんな何も知らない「新人ちゃん」に、可愛く言い寄られたら、放っとけないんだけどなあ〜〜?w

 

市:(!)そんな事―――あなたに関係ありませんでしょう!!

リ:本当かい?そいつは―――

 

市:何が言いたいのですか・・・あなたは。

リ:だってさぁ―――ああも可愛く“お嬢”“お嬢”なんて呼ばれるのを、目の当り(まのあたり)すれば、そう思いたくもなって来るもんさ・・・

  なあ〜〜―――〚細川市子さん〛

 

 

その言葉を聞いた時・・・他には伝わらない、「当事者」同士での会話・・・〚ダイレクト・トーク〛に切り替わった時、

画面の向こう側にいる「本人」である―――細川市子は青褪(あおざ)めました。

 

それはそうでしょう、こうした「ネットゲーム」は匿名性が高く、プレイヤー・キャラクターを操作している「本人」は、中々特定できない・・・

だからこそ、そこはある意味での“自由さ”が担保されていた・・・「はず」―――だったのですが、

ならばどうして、自分(市子)のリアルが割れてしまった??

 

けれどそこには、明確な理由が存在をしていたのです。

 

 

市:あ・・・あ、あ・・・あな・・・た―――わ、私のことを・・・?

リ:「知らない」って思ってるほうが、どうかしてると思うけど?w

  私にしてみりゃ、ああも“お嬢”“お嬢”て呼ばれてりゃ、バカでも判るだろうよww

 

市:(!)全くもう・・・だからあれほど―――!!

蓮:あ、え・・・オ、オレ―――?

 

市:そうよっ―――!あなたが、この私を特定しやすい呼び方をするから・・・

リ:プッ―――w フフフ―――アハハハ!w

  いやァ〜〜めでたいめでたいw こいつは実にめでたいや―――ww

 

市:あなたっっ―――!他人事(ひとごと)だと思って〜〜

 

 

しかしながらそう―――市子が恐れていた事が、今ここに具現化した・・・

それこそが―――

 

 

#4;リアル割れ

 

 

「匿名性が高い」―――所謂(いわゆる)ところの、“誰”が“誰”であるのか判らない・・・だからこそ、その世界では自由に振る舞うことが出来るのです。

 

けれど、こうした機会のように、一度(ひとたび)現実というものが“割れる”・・・知られてしまうと、

それまでの“自由さ”は意味を失い、“束縛”をされてしまう・・・

だからこそ、いつも蓮也に対し厳しい戒めを行っていたのです。

 

とは言え、ネット社会では、そうした機会も、なくは・・・ない―――

 

例えば、仲の良い者同士で、リアルで会ったりする『オフ会』も、“そうした”きっかけでもあるし、

そこはそれ―――自己管理というものが問はれてくるのですが、やはり市子が恐れていたこととは、

情報掲示板サイトとかでよく見かける―――『晒し』などの行為が原因としてあった様なのです。

 

では・・・やはり“非”は、蓮也にある―――とばかり、そう思っていたら・・・

 

 

リ:ヤレヤレ―――傑作なのは、あんたの方だよ、市子さんよ。

市:・・・―――はい?

 

リ:あんたまだ気づいてやしないのか?

  なぜ私が、あんたの現実(リアル)辿(たど)り着けたか―――

  それはな、あんた自身にも問題があるからなんだよ。

 

市:ええっ?! でも私―――・・・

リ:はああ〜〜〜マヂかいw こいつはホント、「天然」レベルじゃねぇよなあww

 

市:なっ―――なんですって?? わ・・・私が―――「天然」??!

リ:ああ―――まあ、一つだけ教えといてやるよw

  それにさ、あんたの現実(リアル)―――知ってるの、私だけじゃねえんだぜ?w

  (みぃ)〜んな知らん顔決め込んでいるみたいだけどさあ―――ww

  私らが住んでる地域のプレイヤーからしてみたら、「周知の事実」―――てヤツだぜ。

 

  なんだ??まだ分かんない―――っての? ホントどこまで天然なのやらww

  大体あんた―――自分の「キャラクター(ネーム)」、「本名」使ってるだろ?ww

 

蓮:あっっ―――?? そう言われてみれば・・・

  けど―――それがどうかしたのか??

 

リ:オイオイ―――しっかりしてくれよ?ww

  大体今日(きょう)びの話し、そんな初期の「ネット・リテラシー」冒すの・・・って、ちょいとばかし「頭イッて」んじゃねえの? て話しなんだからさあww

 

 

思わずも知らされたのは、なんと市子自身の『やらかし』についてなのでした。

 

それはそうでしょう、こんなにも匿名性が高い―――と言われておきながら、本来の名前を使用してしまうというのは、

ある意味でも頭のネジのどこかが“緩い”・・・と言われても、仕方のなかったことなのですから。

 

それを、熟練プレイヤーである「リリア」から公表され、赤面してしまう市子・・・

では、なのだとしたら―――?

 

「私は・・・知らない内に、(わら)い者にされていた・・・?」

 

そう思うと、当初の威勢というものはなくなり、すっかりと静かになってしまったのです。

 

とは言え、例えそうだとしても、止まらずにはいられない―――だからこそ。

 

 

 

リ:・・・とまあ―――そこの「箱入り娘」の事は、そこの隅にでも置いといて・・・

  早速だが始めるよ―――ナニ・・・って、そりゃあんた―――「蓮也」だったっけか、

  あんたを使い物にするためにだよ。

 

 

少しばかり静かになった市子を余所にリリアは自分が描いている計画を実行に移すのでした。

 

それは、今現在“彼女”(?)自身に関わる、最重要案件である「あるクエスト」をこなす為に・・・

どうしても自分(リリア)一人でクリアするには、難しい・・・と、自分がそう判断をしたからなのでした。

 

そして、この“ゲーム内”での自分の“知人”に相談を聞いてもらい、ようやくにして取り付けた『ある勢力』との“契約”―――

その条件として、まず『PTを組む』・・・と言う事。

 

だからこそリリアは、ここ最近品定めを行い、その最中(さなか)に、「新人」ながらも中々見込みのある動きをするプレイヤーを見つけ、

そして自身が“対人戦”を仕掛けてみて、認識をした―――

 

これでようやくの「一人目」・・・と、そう思っていたら、なんとも都合のいい話しもあったもので、

この「新人プレイヤー」には、「ホスト()」もついていた・・・

 

しかもその「ホスト」も、「リリア」が住んでいる地域では、かなりな有名人らしく、

ここに「二人目」の“候補”を見定めることができていたのです。

 

 

 

続く