その、『パーソナル・クエスト』のレイドボスからの、全体範囲攻撃で半壊状態に陥る、リリアのレイドPT・・・
所詮は「フルメンバー」の16人ではない・・・人数足らずで挑んだのが禍いしたのか、
それとも、「契約」したはずなのに、動こうともしない「竜」のメンバーの所為か・・・
けれど、リリアは挫けませんでした。
「「この人」を止められるのは、私しかいない・・・」
そう信じていたから。
『運命の日』とも言える、その日が来るまでに、リリアは方々を駆けずり回っていました。
その最初は、自分達が本拠としている、「トウキョウ・サーバー」のエリアマスターの下を訪ね・・・
リ:お願いします―――どうか、私達の為に協力してください。
玉:ふむ―――して、また団蔵を・・・とな?
リ:いえ、今回は玉藻前様―――あなた様もです。
玉:ほほう、「トウキョウ」のマスターである、このワシも・・・とな?
して、その理由とはなんぞや―――
これから“実装”される「コンテンツ」に対応するために、リリアはトウキョウ・サーバーのエリアマスターである玉藻前を訪れていました。
それを玉藻前は、また自分のクランに所属する加東団蔵を、戦力として貸し出してほしいものと、そう思っていたのです。
すると、今回のリリアの「お願い」とは、玉藻前自身も戦力の一つ―――として、考えていたようで・・・
その理由を質す為、問いかけを行う玉藻前・・・すると―――
リ:今の私達に決定的に足りていないもの―――それは「ヒーラー」なんです。
それに、玉藻前様は、「巫術」「陰陽道」「荼吉尼道」を極めているうえに、「神道」―――
回復術も得意としていると・・・そうで間違いありませんよね。
玉:ほっ―――ほっ―――ほっ―――そう持ち上げられてはな。
して・・・勝つ見込みは?
リ:勝つ「見込み」ではありません。
必ず勝たないと・・・それでなければ、所詮勝ちさえ拾うことが出来ませんから。
玉:(・・・)委細承知した―――この玉藻前、係る上は全力をして、そなたらを支援してしんぜようぞ。
思わずも、その娘の瞳の奥に、在りし日の友の影を見た―――
「そう言えば、ぬしも諦めの悪いところがあったものよ・・・のぅ。」
そうして玉藻前は、少しばかりの思索を巡らせると、リリアからの依頼を快諾するのでした。
こうして自分のクランで足りない部分を、他の処からの協力を得て、補おうとするリリア・・・
「これで―――ようやく7人・・・」
「けれど、それでも全然足りない―――」
「これから、あと数ヶ所回る予定だけれども、その総てでいい返事をもらえる確証なんて、ない・・・」
「「最悪の事態」は避けたいけれど、このままだと、その事態も避けられない―――」
(ここで言う「最悪の事態」とは、「人数足らずのまま例のコンテンツに当たる」こともそうなのではあるが、「あるプレイヤー」をレイドPTに招くべきかどうか・・・を悩んでいると言う事。)
こうしたこともあり、リリアは一旦、今回の成果を持ち寄り、自分達が溜まり場としている「待合い喫茶」にて、頭を抱えていると―――・・・
サ:よっ―――じじぃから承諾取ってきたぜ。
リ:これで、8人かあ―――
サ:そんなん集まり悪いの?
リ:ん〜〜〜―――まあ・・・これから回る処はあるんだけどもさ、
とは言っても、そこからの協力、もらえるか判ったもんじゃないから・・・ね。
サ:ひょっとすると、「シベリア」からは、いい返事もらえるかもよ〜?w
リ:へっ? なんでそんな事判んの―――
サ:勘だよ、カ・ンw
なあ〜?市子さんよ―――w
市:知りません―――そんな事(しれっ)
けれど、あそこからの協力が得られれば、「鬼に金棒」ですよね。
実は、リリアがこれから訪れようとしている「エリア」の一つは、サヤと市子には心当たりがあったのです。
それが「シベリア」―――
ですが、自分達が“蜆”で(盗みw)見聞してきたことは、まだ秘密なのです・・・。
#46;事前交渉
とは言え、実は“それでも”人数不足―――
だからこそ漏れてしまう、「青息吐息」でもあったのです。
リ:あああ〜〜〜こりゃイカンわ―――
なるべくなら、避けたい処なんだけどなあ〜〜〜
サ:・・・“あいつ”?
リ:そ・・・“あいつ”―――
あいつだけは、頼りたくないんだけどなあ〜〜〜
市:どうしたと言うのです?
私には、なにやらさっぱり・・・
サ:だろ〜なw てなわけで、ほい―――
リ:いることはいるんだよ・・・優秀“すぎる”ヒーラーが・・・
市:ならば、何の問題もないのでは?
サ:判ってねぇよなあ―――あんたもww
こいつが、こんなにも嫌がってる背景てのを、考えても見ろよ。
市:(・・・と言う事は)もしかすると「伝説のM」?
リ:あ゛〜〜〜ああいうのも、カナーリ問題アリーノ、なんだけれどなあ・・・
そんなんじゃないの―――
リリアが想定している「最悪の事態」とは、レベルやプレイヤー・スキルとしては、申し分ない―――
そうした意味では、全く問題がなかったのでしたが・・・
そうした評価を覆せる「問題」が、そのプレイヤーの「性格」であり、「人格」であったなら・・・?
その事が判ったうえでの「最悪」であり、そのことを踏まえていたわけなのですから、
ならばそうならないよう努力するのも一つの道なのです。
それと、頭の痛いことと言えば、もう一つあったようで―――・・・
リ:ああそうそう・・・これも伝えとかなきゃ。
市:どうしたのです?
リ:また鬼姫サンから緊急呼び出し喰らってね―――木曜に入ってくれ・・・ってさ。
また誰かをお呼び立てしたのか―――市子は、信友の、ここ最近の行動に訝しみを感じ、
小夜子と二人で、蜆を張り込み捜査(違w)をしていたわけなのですが、
そこで見かけた「シベリア」のマスターと、その護衛の二人を見るにつけ、
自分の信友が、何やらとてつもない巨大な陰謀の渦に巻き込まれようとしているのを、敏感に感じ取り、また危惧もしたのです。
しかも、あの時から間を置かず―――の、このタイミングに、一体瀬戸は、リアルにしてもゲームにしても、
これから何を起こそうとしているのだろう・・・と、少しばかり不安になってきたのです。
そして、その問題の木曜―――学校の授業が終わると、足早に下校する璃莉霞・・・
その足は、自然と蜆の板場に向かっていたのでした。
その4時間後の20:00―――蜆亭は、ある人物を迎え入れていたのでした。
端から見れば、下肢が不自由で、使用人に車椅子を押してもらわないと移動すらままならない・・・
銀髪縦ロール、黒紫のゴシックロリータ服が良く似合う、美少女・・・
瀬:ようこそ―――いらっしゃいませ・・・
その、美少女を迎え入れたのは、蜆亭大女将である、瀬戸朝霞その人でした。
そう・・・つまり、ここの女主人自らが出迎えるほどの大人物―――だと言うのですが、
だとしたらこの美少女の正体とは・・・?
その疑問も差乍らにして、大女将の部屋にての食事―――そのすがらにて、こんなことが・・・
黒ゴスロリ:フッ―――このワレを、こんなもので釣ろう・・・などとは、
考えたものよ―――な、ジィルガ・・・
ジ:お気に―――召しませんか? ミリティア・・・
ミ:(・・・)まあよかろう、大体の事情は呑み込めた。
だが、最終的な判断はワレが下す・・・それでよいな。
ジ:それで結構―――
ミ:では、豎子に伝えおくが良い―――
本日の料理、実に美味しくあった―――と、な・・・。
この、車椅子銀髪縦ロール黒ゴスロリ美少女こそ、「モスクワ」のマスターであるミリティアでした。
そしてまた、ミリティアも、瀬戸の事を「ジィルガ」等と言う、現実世界の名前ではない名前で呼んだのです。
それにしても、瀬戸は今回、「シベリア」「モスクワ」の両マスターを自分の本拠へと呼び寄せ、何をしようとしていたのか・・・
これである程度はお分かりになって頂けただろうか。
そう、瀬戸は、これからあることの先触れとして、手をまわしていたのです。
ただ、ミリティアはエリヤとは違い、「快諾」まではしなかった・・・
一級品の料理を口にしながらも、なお靡かなかったその理由とは・・・
もう少し付け加えるなら、「最終的な判断は自らが下す」―――
この点に於いて、ミリティアは自分の眼力で物事を見極めるつもりでいたようなのです。
明けて―――翌日、金曜のログイン光景・・・
リリアは今回で収束を図るべく、単身で「シベリア」へと飛んでいました。
そしてこれから、開催されるであろう「コンテンツ」を前に、“竜”達の長であるエリヤに、頼みごとをしていたのです。
リ:エリヤ様、なにとぞお力添えを・・・お願いします!
エ:いいわよ―――
リ:(え・・・)ほ―――本当ですか?
エ:ええ―――但し、条件があります。
正直なことを言うと、リリアは今回の頼み事で、いい返事をもらえるかどうかは、5分5分だと思っていました。
それを、シベリアのマスターからは、特段として詳細を聞かない内に、了承を得られた―――
そこについては想定外だったようですが、やはり旨い話しは転がっていなかったものと見え・・・
シベリアのマスターからは、同時に「ある条件の下」と言う事での、ある種の“契約”のようなものを提示されたのです。
その“契約”と言うのが―――・・・
エ:あなたからのその願い、適えてあげましょう・・・。
けれど、あなたに貸し出すこととなる二人―――《ルクスゥ》《ラゼッタ》の参戦表明は、
飽くまで彼の者達本人の意思で―――と、言う事です。
この条件を呑むのであれば、あなたへの協力―――惜しまないものとしますが、いかがですか?
そう・・・戦力としては貸し出してもらえるものの、参戦“する”か“しない”かは、個人の判断・・・
それはつまり、こちらの指示には従わないことを意味していたのです。
けれどもリリアは、手勢の確保にも苦心していた為、後先を考えないままに、
「その条件で」―――との事で、その“契約”を取り交わしてしまったのです。
これが・・・後の禍いとなるとも知らないで―――
ともあれ、「シベリア」での用件を済ませたリリアは、すぐさまその足で「モスクワ」へと向かい、
やはりエリヤと同じく、エリアマスターであるミリティアと接見し、協力を要請しようとしたのでしたが・・・
ミ:ふむ―――・・・このワレの力を欲しておる・・・と、こう申しているのだな。
リ:はい・・・どうか、お願いいたします―――
「正直・・・この人の事は苦手だ。」
「どこか、こう―――こちらの考えを見透かしているかのような、態度に物言い・・・」
「今も、ひじ掛けの部分を「コツコツ」と、指先で軽く叩いている、あの仕草・・・」
「おそらくこの人には、私の浅はかな考えなんて、見抜いてしまっているのだろう・・・」
「そしてやはり、私の考えなんて見抜いた上で、こういうに違いない―――」
ミ:フ―――フッフッフ・・・流石に、豎子の考えそうなことよ・・・
リ:―――・・・。
ミ:戦力が足らぬがゆえに、ワレに援けを乞う―――か・・・
大事を為すと言うのなら、全ての可能性を検討したのか。
検討して“この”程度ならば―――・・・
リ:―――・・・。
ミ:ワレは肯んぜぬ―――その甘ったれた考え、今一度見直してくるがよい。
やはり・・・見透かされていた想い―――
その言葉はあまりにも重々しく、マスターの部屋に一人残されたリリアは、宛らにして悔いるのでした。
つづく