一応―――としては、出来る限りの手は尽くした・・・
不確定ながらも、契約を結んだ勢力からは、戦力として二人を貸し出してもらえるわけだし、
ここ・・・トウキョウ・サーバーのエリアマスターにも、協力をお願いした。
後は、当日どう転ぶか―――・・・
それがリリアの、今一番気がかりとしている事でした。
そしてこれは、その「前夜」のお話し・・・
#48;前日譚
そう、「前夜」―――しかも運営は、この“前日”の12:00に、「緊急告知」を行ったのです。
〜運営からのお知らせ〜
明日の10:00〜15:00まで、緊急のメンテナンスに入ります。
主な内容は、新たなるレイド・ボス『四凶』の実装となります。
なお今回の『四凶』に関しては、こちらを参照してください。
また急な告知により、お客様にご迷惑をかけたことを、お詫び申し上げます。
『四凶』とは・・・世界に混沌を齎し、全ての破壊を目論む凶悪な存在―――
これまでアップ・デートされてきたレイド・ボスとは、一線を画す強敵です。
プレイヤーの皆さんの総力を結集し、打倒いたしましょう。
なお、このコンテンツに参加する際には、通常のレイド戦とは違い、
「レイドPT」での“予約”が必須条件となります。
プレイヤーの皆さんが「レイドPT」を組めたら、以下のフォームに従って「申し込み」をして下さい。
運営の選考基準に適った方々には、後日リーダーの方にのみ「告知メール」をお届けします。
この・・・今までとは明らかに違う運営の対応に、思う処となった市子は―――
市:―――すみません!
玉:おお、どうなされたかな、市子殿。
市:玉藻前様・・・この度の、運営の緊急告知―――
玉:・・・そう言う事じゃよ。
市:「そう言う事」・・・って―――
玉:これはな、「選ばれし者」のみが、その資格を与えられるのじゃ・・・。
今までの様な有象無象とは、訳が違うものと、そう心得よ。
市:けれども・・・これでは“平等”とは―――
玉:いかにも―――じゃが、運営は踏み切った・・・そこは、賢いお主であれば、判るであろう?
そう・・・今回の運営のやり方は、まさに“差別的”であると言えたのです。
「オンラインゲーム」等では、よく一般的に「サービス」と言う事を口にし、看板に掲げるもの・・・
この「サービス」を口にするからには、遍くの全員―――その「配布」されるものを、享受できなければならない・・・
そうした市子の考えは、「正しかった」のです。
ただ―――そう・・・「正しかった」のですが、運営が“その事”を判っておきながら、実装に踏み切ったと言う事は、
これからあるであろう、怨嗟の声も、想定の範囲であった・・・と言う事に、他ならなかった―――
ならば、運営が、その怨嗟を受けてまで、やり遂げようとしている事とは―――・・・
ところが、異変はまだ、それだけでは収まりませんでした。
それと言うのも、このPTの実質的な中核―――その指揮権は、トウキョウ・サーバーのエリアマスターに譲渡しているものの、
このPTに於いては、絶対的に外せないリーダー的役割のはずの、この人物が・・・
市:ええっ?! 今日、ログイン出来ないですって?
リ:うん・・・ごめん―――
どうしても外すことが出来ないのに、また・・・
蜆亭大女将からの、またしてもの緊急呼び出し・・・
大型の―――それも緊急アップ・デートを控えての前日に、この「嫌がらせ」とも取れる行為に・・・
「一体あの方は、なにをまた企んでいるのか・・・」
所詮、市子は“賢い”とは言われていても、それはやはり“学生”止まり・・・
手練手管にして老獪―――権謀術数に長ける、稀代の謀略家の前では、まるで“赤子”同然だったのです。
しかも、時間が経つにつれ―――深刻さは、より増すばかり・・・
「明日」の為にと、最終的な連携の話しや、調整をしようと、クランのサブマスターである市子が、
“今回”のレイドPTのメンバー全員に呼びかけたとしても・・・
市:(やはり・・・「シベリア」からの応答がない―――
これは、最悪を想定しておかないことには・・・)
そう―――「シベリア」の二人に声掛けをするも、全くの音信不通状態・・・
このことに、リリアは口を濁してはいましたが、この二人からの協力は得られないかもしれない―――と言う、
“最悪”を想定しておかなければならなくなり、またその上で、残り10人でどう立ち回るか―――
こうして市子が頭を痛めていた最中、更に・・・
市:(ピリリ〜♪)はい―――え・・・サヤさん?
サ:〔おい―――そっちどうなってる!?〕
市:はい・・・?「どうなってる」―――とは?
サ:〔ああ〜〜もう・・・そうだ、リリアはいるか?〕
市:いません―――リリアさんは今日・・・
サ:〔なんだと?それじゃ・・・こっちの状況と繋がってるのか・・・?〕
市:なんだと言うのですか・・・要領を得ませんよ?
サ:〔・・・いいか、落ち着いてよく聞いてくれよ?〕
重要な話し合いをしなければならないと言うのに、実質上のまとめ役の不在―――
それに加えて、音信不通となっている、「契約先」の者達・・・
そしてまた更に、追い打ちをかけるかのように、普段は冷静に振舞っているあのサヤの―――
焦りが伝わってくるかのような〔ダイレクト・コール〕・・・
しかも、彼女からの連絡は、まさに衝撃的でした。
サ:〔今、うちんとこのクラマスがいないんだ。〕
市:はあ? それはどういう―――
サ:〔周りのヤツを捕まえてようやく聞き出せたんだが、「大公爵」は今、「トウキョウ」へいるんだとさ―――〕
市:(!!)トウ・・・キョウ―――私達がいるエリアに・・・?
サ:〔ああ・・・それに、調べさせたら次々と、とんでもないことになってやがる・・・〕
市:え??!
サ:〔各エリアのマスターや、結構な上級プレイヤーが、挙って一ヶ所・・・「東京」に集まっているとの噂がな。
しかも、きっちり「13人分」・・・〕
市:(13人・・・)「13人の長老」と呼ばれている、このゲームの運営??
一体・・・何が起ころうとしているの・・・?
サ:〔さあなあ・・・けど、例の緊急アプデを明日を控えてるっていうのに、この動きは明らかに不自然だ。
それに・・・リリアだ―――〕
その瞬間、「はっ!」と市子は気付きました。
「明日」という大事な日を控えているのに、またしてもの「緊急の呼び出し」・・・
おそらく―――ではないにしても、その「13人」が集まっている場所こそ、「蜆亭」なのだろうと、市子は思うのでした。
そして、彼女達の危惧した通り―――・・・
ガラティア:[13人の長老;7人の姉妹;ギリシヤ・サーバー・エリアマスター;「哲学士」の“称号”を持つ]
え〜〜〜それでは、互いの再会を祝して、乾杯といこうじゃないか♪
ミリティア:[13人の長老;7人の姉妹;モスクワ・サーバー・エリアマスター;「話術師」の“称号”を持つ]
ヤレヤレ―――緊張感の欠片もないヤツめ・・・
だが、皆様方もお忙しいなか、ご足労して頂けたことに、感謝を禁じ得ないものである。
エルムドア:[13人の長老;ベルリン・サーバー・エリアマスター;「大公爵」の“称号”を持つ]
フン・・・全くだ、余も多忙を極めておるものなのに―――な。
ジィルガ:[13人の長老;7人の姉妹;ヘルシンキ・サーバー・エリアマスター:「大魔導士」の“称号”を持つ]
あぁ〜んらあ? とってもそうには見えないのだけれどねえ?w
ナユタ:[13人の長老;デリー・サーバー・エリアマスター;「隠遁の聖者」の“称号”を持つ]
そう言えばエリーゼ様は、ここ数日カンヅメだったと聞き及びましたが・・・?
エリーゼ:[13人の長老;7人の姉妹;「破神壊帝」の“称号”を持つ]
ほぉ〜〜なんよ〜〜うちゃ、眠ぅてかなわんわぁ・・・。
レヴェッカ:[13人の長老;7人の姉妹;「拳帝神皇」の“称号”を持つ]
小さいことからコツコツとせんけん、バチが当たろうがいや
エリヤ:[13人の長老;シベリア・サーバー・エリアマスター;「焔帝」の“称号”を持つ]
とは言え・・・大事なことをこれから話し合うのでしょう?
13人・・・とまではいなないまでも、欠席した者の理由の所在を明らかにしてもらいたい。
ペルセウス:[13人の長老;「万能者」の“称号”を持つ]
それが、今回の「四凶」なのでしょう―――
ミトラ:[13人の長老;「篤き信仰」の“称号”を持つ]
だから・・・なのでしょうね、互いに顔を合わせづらいのは・・・。
その場所に居合わせたのは、計10人・・・けれど、公に知られている事実としては、
このゲームの運営・開発のチームは、13人―――と、言う事だったようなのですが、
どう見ても、あと3人足らない・・・
その理由が、明日の緊急アップ・デートで実装される、「四凶」の正体・・・だとしたら?
それに今回は、手始めとしての「一人目の公開」―――
それに先立っての、大々的な話し合いを、ここ・・・「蜆亭」でやろう―――との事だったのです。
それにしても、大事華話し合いをしなければならないはずなのに・・・の、宴会風景のこれは?
ですが、そう―――「これ」こそは、とある「7人」の一番上の立場の者からの、いわば“温情”・・・
「これから我々は、さぞかし怨嗟に見舞われるであろう―――・・・」
「けれど、間違えてはならない。」
「なぜ、我々が「こちら」へと来訪し、なぜ、こうしたシステムを組み上げたか・・・」
「その総てが我々の為―――と言うならば」
「罵るがよい―――貶すがよい―――蔑むがよい・・・」
「だが、そうだとしても、我々はやらなければならないことがある・・・。」
「総ての謗りは、ワレが享受しよう。」
「さりとて、見極めねばならぬのだ―――」
「「こちら」へと住まう者達の、秘めたる可能性を・・・」
「それが為せるのならば・・・」
「ワレはどれだけ怨嗟に塗れようが、構わぬ・・・」
「だから、たとい一時でもよい―――謳歌するがよい・・・」
「そして、また明日―――」
「そう・・・明日からが、本当の闘争の始まりなのだ―――!!」
「7人」の一番上に立つ者は・・・『異次元』より来たりし者は、思っていました。
それは、「自分達」の故郷の事を―――・・・
簒奪や殺戮は日常茶飯事―――
幼きながらも常に己を賭け、闘争を紡いできた者達・・・
荒廃しきった世の中には、最早安定さえ見えず・・・
だからこそ、そんな『異次元』から飛び出してきた、「7人」の同志・・・
生まれ出身は違えど、志を同じくする者達・・・
いつしか彼の者達は、「姉妹」となっていました。
それも、本来の・・・血統が繋がった「姉妹」ではなく、いわば「運命共同体」に近しい存在・・・
そして今回、故郷の・・・そして自分達の為を思い、自ら犠牲になることを選んだ「姉妹」達・・・
その部屋には、本来ならば「13人」全員が収まらなければならないのに、
10人しかいない―――と言うのは、そんな理由があったからなのでした。
それはそれとして、宴も酣―――超一流の料亭「蜆亭」が供する絶品料理に、舌鼓をする者達・・・
エリーゼ:んん〜〜〜まいっ♪
なんね、これ―――うち初めて食べるわぁ〜〜♪
レ:そういやぁ、おんどれは、〆切までロクなもん食うとりゃせん、ゆいよったのう。
ガ:ンン〜〜♪ それにしても、この包丁の線の確かさよ―――♪
ジル・・・どうやら蜆も、当分安泰のようだねえ〜
ジ:それはそうでしょう―――なにしろ、“あの子”の・・・
ナ:こちらの山菜のお浸しなどは、絶品ですね。
エリヤ:それに、こちらの魚の煮つけなどは、箸で触っただけでも、身がほぐれていく・・・
ミリ:ふむ・・・それにしては、これだけの人数分を捌くのに、さぞや手が足りなかっただろう・・・
その―――ミリティアからの一言に、ジィルガからは、たったの一言・・・
「いえ―――こちらの品々、全て一人の包丁人の仕事でございますよ」
いつもとは違う、蜆亭大女将からの、非常にしんみりとした、「たった一言」・・・
本来ならば、“彼女”こそが「この場所」にいて、自分達と分かち合わなければならなかった・・・
けれど―――もう・・・“彼女”は、いない・・・
今から遡ること10年前―――
そう、その時期こそは、このゲーム【Odysseia−OnLine】のサービス開始となった時期・・・
けれど、サービス開始をする、ほんの数週間前、最終調整をする時に起きてしまった「不慮の事故」・・・
そこで亡くしてしまった、かけがえのない仲間―――
しかし、サービス提供は、既に大々的に告知されていたこともあり、
その哀しみを振り払うかのように、為された事・・・
かけがえのない仲間を亡しなって、ようやく手にすることが出来た、故郷救済の「きっかけ」―――
誰も知ろうはずがない・・・このゲームの、血塗られた過去など・・・
つづく