運営からの緊急告知の翌日となる、本日―――
この日は、現実内に於いては「終業式」でした。
つまり、明日からは生徒誰もが待ち望んでいる「夏休み」―――なのです。
そして、終業式の終了後、生徒会長室へと寄った璃莉霞は・・・
璃:会長様、お疲れ。
市:ありがとう―――
璃:それより市子さん・・・昨日どうだった?
市:うん・・・集まりが悪くてね、全然・・・。
璃:そっかあ―――悪いことしちゃったなあ。
けれど、本番前には全員集まるだろうから、その時改めて打ち合わせをやろう。
本来ならば昨日、大事な話し合いをしなければならなかったのに、急に都合が悪くなって出られなくなってしまった・・・
この事に、璃莉霞は悔いる事しきりなのでしたが、市子はその理由を判っていました。
昨日あれから心当たりを調べていくと、なんとあの「御三家」の当主達も不在だったことが知れたのです。
サヤからの連絡にもあったように、「あの晩」の「あの場所」だけが、異様な権力の集中を見せていた―――
しかも、蜆亭のHPを調べてみると、奇妙なことに、その時間帯だけ「来客お断り」だった・・・
まるで、一国の国家元首並の対応・・・
いや、一国の国家元首が蜆亭を利用するにしても、さすがにここまではしない・・・
たかだか、ゲームの運営・開発チームに、それほどの価値があるのだろうか・・・
市子の疑問は、まさにそこにあったのです。
そして―――ログイン(20:00)・・・
予定よりも30分早く、レイドPT全員に招集をかけ、これからの段取りを話し合うリリア達。
リ:今回は宜しくお願いいたします―――不肖、私がこのレイドPTのリーダーである、リリアと言います。
ではまず、PT編成を行います。
第1PTは、リーダーは私、続いて市子、蓮也、ヒイラギ、こちらは主に「前線」での壁・削り役を担ってもらいます。
第2PTは、リーダーはサヤ、続いて加東団蔵、玉藻前様、こちらは主に「中衛」での補助・支援を担ってもらいます。
なお、玉藻前様には、このレイドPT全体の指揮をしてもらいます。
第3PTは、リーダーはベイガンさん、続いてスターシアさんの2人だけ、こちらも「中衛」において、補助・攻撃の役回りをになって頂きます。
第4PTは、リーダーはブラダマンテ、続いてギルバートさん、ソフィアさん、こちらは主に「後衛」での回復・遠距離火力支援を担ってもらいます。
以上が編成となりますが、なにかご質問はありますか―――?
最初に、4つのPTそれぞれの構成と役割を話すリリア。
そして、今回のレイド戦に於いての要となる、「指揮官」の発表―――
人数としてはやはり、1PT分足りませんでしたが、バランスよく割り振れたものとみえ、
そこからは各PT毎の役割分担を話し合ったのです。
リ:まず、私達が「前線」の役目で、“タンク”は私がやります。
だから市子さん達は、出来る限りボスのHPを削ってください。
ヒ:それはそうと―――なんだかすごいことになってきちゃったわね・・・。
市:そうね―――それに、私達は未だ、今回討たなければならない「四凶」なる敵の事を、知らなさすぎます・・・。
リ:(・・・)いや―――その事なら心配はいらない。
今回討つべき敵の事は、私が一番よく知っている・・・
市:えっ―――?
リ:よく知っているんだ・・・今回討つべき敵のことを―――
#49;序盤戦
ヒ:どう言う事なの?
リ:ほら―――市子さんと蓮也には、以前話したことがある様に、私の「因縁の宿敵」に、「単于」てのがいたでしょ?
実は、そいつを唆したのが、今回のレイドボスなんだ。
今となっては、苦々しい思い出でしかなかった出来事・・・
それは、その前後に奇行が目立ち始めた、リリア自身が認め、慕っていた人物を糺す為に訪れた場所で、
急襲を受けた―――その時の“敵”が、リリア自身の「因縁の宿敵」と定められた、「単于」だったのです。
しかも、リリア自身が慕っていた人物と単于とは、お互いの事をよく知っていたらしく、
糺しに来たリリアが襲われる中、助けの手さえ差し伸べてこなかった・・・
それどころか、襲われていると判ったとしても、加害側を焚き付け、剰え支援してくる始末。
それは、明確なる「裏切り」の意思表示―――
「あんなにも親しいと思っていたのに・・・」
「いつかは、私の“親”になってもらいたかったのに・・・」
なのに―――見つめていた・・・冷たい眼差し
そして、響き渡る「宣告」の声―――
――否、妾は違う・・・――
――妾こそは、「女媧」――
――世を混沌へと導く、「四凶」が1つ也――
「なぜ・・・あたなはそんなにも、歪んでしまった―――」
「なぜ・・・あなたはそんなにも、穢れてしまった―――」
「なぜ・・・あなたはそんなにも、堕ちてしまった―――」
「訊きたい・・・」
「訊かなければならないことが、増えてしまった・・・」
「けれど最早、対話するのは無理かもしれない―――・・・」
「だとしても、やらなければならない。」
「あんなにも“争う”ことを好まなかった“あなた”が、」
「どうして“争う事”を選択したのか・・・いや、選択しなければならなかったのか。」
恐らく、答えは返ってこないのだろう―――
そして―――・・・
蓮:う―――おおおっ?!
なっ・・・なんだ?あいつ―――
ギ:み・・・みるみるうちに、巨大化しやがっ―――
女:いと細かきなる者よ―――爆ぜ散るがよい・・・⦅火尖槍⦆
玉:むっ?まずい―――リリア!
リ:はいっ―――展開、≪晄楯≫!
レイドボスがいる部屋まで辿り着いた時、果たしてそこに「存在」がいました。
面、白くして、漆黒の長髪を靡かせ、その頂には金の冠、身には古代中国皇帝が纏ろっていたとされる服、
その瞳“蛇”のように吊り上がり、井中の蛙共を射竦めさせんと欲す
その存在こそ「女媧」―――
伝説によれば、古代中国の皇帝の一人にして、その正体は“神”とも“仙”とも言われた人物・・・
けれど、多くの者は知らない―――
その「女媧」なる者こそ、物語性によっては、「破壊嗜好者」であったことを・・・
けれどリリアは、やはりその先触れとして対話をしようと努力しました。
努力しました―――が、やはり思っていた通りとなってしまった・・・
自分の話しに耳を傾けてくれない・・・そればかりか、宣戦の布告とでも言う様に、
人型大の大きさは、徐々に巨大化を始め、今や完全に討伐対象としての「レイドボス」となって、顕在し始めたのです。
そして、手始めに―――と、レイドボスからは、炎属性の魔術の様なものが仕掛けられ、
ですが、そこはやはり万能の盾の持ち主である、優秀なタンクが防ぎ切ったのです。
そしてもう・・・そこからは、引き返すことのできない一方通行―――
玉:行けいっ―――アタッカーは総がかりで、間断なく攻撃を打ち込め!
サポーターは、バフ効果を切らしてはならんぞ。
ヒーラーは、前線が崩れぬよう、常にHPの残量に気を配るのじゃ!
今にして判った事―――
市子や蓮也は、以前に自分達を率いて、別PTのレイド戦に参加したことがあり、
そこでのリリアの活躍ぶりに、目を見張る処がありました。
確かに、リリアはタンクとしても優秀―――だったのですが、
未だ更に注目すべき点が、「指揮統率能力」の高さ―――
なのに、今回のレイド戦に於いては、トウキョウ・サーバーのエリアマスターに、その任を譲った・・・
その理由を、市子なりに推察するのには、大事な一戦となるのだから自分のプレイに集中したいのだろう・・・
「けれど私は、何も知らなかった―――」
それは今、指揮を執る玉藻前の采配ぶりを見て、明らかだと言えました。
リリア以上に的確にして細やかな指示―――
またそれにより、人数が足らない事を忘れさせるまでに、効率よく回るPT内の動き・・・
けれど、例えどんなことがあっても、“油断”だけは、してはならない―――
女:フ―――・・・無駄な足掻きを・・・⦅万古幡⦆
「このまま行けば勝てる―――」と、皆誰もがそう思いかけた時、女媧の手から放たれた、重力場を操る為にと形成された“陣”
しかも、その効果は万能の盾とされる、リリアの「晄楯」さえも・・・
リ:(こっ―――これは・・・っ?!)
「防御貫通」―――!!
「防御貫通」―――いわゆる、防御無視の攻撃を受け、崩壊しかける前線・・・
しかしそこを見計らうかのように―――
玉:ブラダマンテ殿―――今こそ回復行動を!
ブ:かしこまりました―――<ヒーリング・プラス>
玉:(これで取り敢えずは保つな・・・じゃが―――)
ベイガン殿―――リリアとタンクの交代を・・・
べ:―――断る。
玉:なんと?このワシの指示か聞けぬと―――
べ:お前達がどう思おうが、関係ない。
リリアとやら、ワシ等との約定を交わす際、その様に聞いていなかったか?
リ:(・・・)ああ―――確かにそうだった・・・
べ:で、あるならば―――今ワシらが動くことに、利は、ない。
やはり・・・思っていた通りとなった―――
ただでさえ人数不足なのに、ああした象で返事をしてしまったことが、どこか引っ掛かっていた・・・
最悪この2人は、このPTが全滅するまで動かないかもしれない・・・
それに、だとしたらどうして―――?協力要請を受けたのか・・・
1つの綻びが、やがて拡大し、大きな穴となってくる・・・
そこを狙い澄ませたかのように、女媧からの攻撃は、間断なく襲い来る・・・
しかも、今しがた判ったかのように、防御を無視して飛んでくる攻撃に、
当初は、タンクはリリア一人でも十分だと思っていたPTの、心の間隙を衝き、
動揺は更に広がりを見せたのです。
そこで、指揮を執る玉藻前は、“竜”の一族であるベイガンに、リリアとの交代を指示するのでしたが、
彼が言っていたように、「ある条件」―――戦力としては貸し出すものの、その参戦意思は本人達次第・・・
けれど―――間違っては、ならない・・・
「フ・・・見せてもらおうぞ、お前達の“可能性”を・・・。」
「それに、この程度では崩れはせん―――そうでよいな?《ラゼッタ》・・・」
「はい―――それに、あの指揮官もヒーラー・・・」
「まだ私の、出る幕では―――ない。」
「それに、先程のテンプル・ナイトも、実に―――見事。」
「もしかしたら私、今回―――不要?」
「いや・・・直に出番はくる、そう焦らずともよい・・・。」
「フフフ―――ただ、《クゥオシム》がこの場にいなかったことのみぞが、天佑だったやも知れんな。」
「なにしろあいつは―――・・・フフフ」
“彼ら”は、自分達の価値と言うものを、間違えてはいませんでした。
確かに今は、危機に瀕している―――かのように、見えているのかもしれない。
けれど、事実ヒーラーは3枚、中でも“中級”の回復魔術を唱えられる「神殿騎士」は、殊の外重要だったと見られ・・・
ですがしかし、いえ恐らくは―――・・・
その神殿騎士の崩壊こそが、このレイドPTの「アキレス腱」だったとしたならば・・・?
つづく