行きつけたギルドの酒場を出て、その街の少し外れの通りにある広場に、三人はいました。
ではそこで、何が始められるのか・・・と、言うと―――
#5;特 訓
リ:・・・と、その前に―――おいお前、ちょっと得物を見せてみ。
蓮:えっ?あっ、ああ―――
リ:(・・・)うっわ―――ナニコレ、バッキバキの初期装備?
え〜〜つと・・・ちょっと聞いていい? このゲーム始めて今日で何日目?だっけ・・・?
蓮:なんだよ、そんな他人を蔑むような目で見て・・・5日だよ・・。
リ:あ〜〜〜そなんだ・・・はああ〜〜〜こりゃ、ちょっち厳しいなぁ・・・。
蓮:な、なんなんだよ! オレの装備見せてくれ―――つっといて、溜息吐きやがって!
リ:え? ああ〜〜いやまあ―――なんか、もちっとマシな装備してんかと思ってたけど。
そ―――れが、予想の遥か下方修正しなくちゃなんない〜〜って、さすがに笑えて来てなw
蓮:るっせえ―――放っとけ!
リ:ま、しゃ―――ねえな・・・。
―――ホレ
蓮:うわっ―――?
(!)なんだコレ―――!
リ:そいつが、今のあんたのLvで装備できる最高の武器『吉光』だ。
市:(吉・・・)って、あなた―――??
リ:アレ?復活した?w
市:放っといてください―――!
それよりも、その武器・・・
「リリア」が彼らを集め、何かをしようとする前に、当人の装備武器を見せてもらったところ、
新規でゲームを開始した際に、ボーナスとしてもらえる『初期装備』―――
この場合では、「プレイヤーキャラクター」が作成される際、色々な『職』・・・
例えば、『騎士』『武闘家』『僧侶』『魔術師』『巫女』や『傭兵』など・・・
それを選択した際に、自動的についてくる武器―――
現在の蓮也の「職」は、『士』なので、初期装備は『刀』となってくるのですが、
その、あまりに酷い惨状(「リリア」目線w)に、目も当てられなかった―――と、言う状況だったようです。
とは言え、自分の「目的」もある―――と、言う事で、リリアは自分が所有している、最も低いランクの武器を貸与したのです。
ですが、その武器『銘』と、実際に「モノ」を見た時、市子はまた違った印象を受けたのです。
それもそのはず―――その武器こそは、確かに女傭兵の持つ武器の中では「最も低いランク」・・・なのでしょうが、
実際に蓮也が装備できるランクでは、「最高級」だった・・・。
それに、市子自身も、いずれは自分の“子”としての蓮也に与える武器を・・・と、模索していた矢先に、
自分が探していた以上の武器を与えられては、驚くのも無理らしからぬところ―――だったようです。
それに・・・だとしたら、リリアはこれから何をしようとしているのか―――
しかも―――??
市:(!)あなた―――それは、どういうつもり??!
リ:フフン―――蓮也が装備しているのは、「中級武器」・・・けれども、これから蓮也と「対人戦」をしようとしている私の武器は・・・
「騎士」の初期装備『ソード』だ。
分かるか?この意味が―――・・・つまりは、“コレ”で釣り合いが取れてるのさ。
蓮:くっ・・・手前ェ―――オレを舐めてっと・・・
リ:そう喚くな!トウシロ・・・
今のお前の「スキル」で、この私の身体に掠り傷一つ付けることが出来たら、土下座でも何でもしてやる。
だけどなあ―――クククw 出来るわけがないんだよ・・・今のお前と私とじゃ、実力の差―――ってのがな!!
市:ではあなたは、“それ”を見せつけるために―――?
リ:はあ〜?なんだそれ―――ダッセェ・・・
ただな、あんたの方も勘違いしているようだから、説明しておいてやる。
けど、そいつは、「市子」―――あんたも判っててやろうとしていたことなんだぜ・・・。
そこで市子は「はっ!」とするのでした。
そう・・・自分は蓮也を、この世界に誘い入れるのに、どうして“そう”しようとしたのか―――
そう・・・このゲームの特徴は、『「プレイヤーキャラクター」は、操作する「プレイヤー」が持つ「技能」を、「プレイヤー・スキル」として、遍く反映させる』―――
ならば、「その逆」も、また“然り”・・・
このゲーム内で培った技能が、現実世界の清秀のモノとして活きれば・・・と、そう思い、導入させたのです。
その道理と同じことを―――「リリア」も思っていた・・・?
それも、反応も鈍いNPCの“それ”ではなく、生々しいプレイヤー同士の「対人戦」をして・・・
しかも―――??
「すごい・・・伊達に酔狂な真似事をするのに、自信があった―――というのは、こう言う事だったのですね・・・。」
「それに・・・」
市子が―――“子”である蓮也にしてやれなかったこと・・・
それが、プレイヤー同士の「対人戦」。
市子自身も蓮也に負ける気はしなかったのですが、「何かのはずみ」で―――と、言う事は、「なく」は、ない・・・
そう思い、躊躇していた嫌いはあったのです。
それに、その「はずみ」で負けてしまった時、それまで偉そうに接していたこともあり、
また、自分の実力の程度というものも知られると思い、敢えてそうしてこなかった・・・
なのに、この人物は・・・「そうした事」―――自分が躊躇っていた事由など「まるっ」と呑み込み、そしてこなしていく・・・
しかも、必死になって打ちかかってくる蓮也に対して、リリアは攻め込まない―――までもが、
片手で防ぎ、躱していく・・・それでしかなかったのです。
けれど、“それ”こそが「熟練者」としての証しのようなものであり―――
ならば、この「リリア」なるプレイヤーのリアルは・・・と、そう勘繰ってしまうのですが・・・。
流石に最初から全力で打ちかかり過ぎた所為か、次第に息が続かなくなり、
終には地べたにへばってしまう蓮也が―――
蓮:(ぶはぁっ―――!)も・・・もうダメ〜〜〜だ
リ:あ〜〜らら・・・何やってんだか―――まだ10分も経ってやしないぜ?
ほら、とっとと起きな―――!
蓮:ちょ・・・ちょっと待ってくれって・・・もうちょっとだけ休ませ―――〜〜
リ:(チッ)〜〜たくぅ・・・よくまあこんなんで、「白鳳」のレギュラー張れたもんだわ。
市:(えっ・・・?)今―――なんと??
リ:えっ?! ああ〜〜いや、私、リアルでもあそこの卒業生でね。
私の在学中にゃ、そりゃ右も左も「敵なし」だったのを知ってるからさ。
一つ―――分かったことがあった・・・
この「リリア」なるプレイヤーのリアルは、自分たちの学校の「元」在校生・・・に、して、あの華やかりし頃の事を知っている―――
けれど市子は、どこか違和を感じていたのです。
それは「どの部分」か―――と指摘されると、明確には答えられない・・・
けれども、なんとなくそのままにしておくには、気持ち悪い―――それが違和感の正体でもあったのです。
とは言え、そんな市子の悩みを余所に、まさしく「部活」の“シゴキ”の延長線上―――とでも言う様に、
いつまでもダレている蓮也の尻を蹴り上げ、先程以上の特訓を“追徴”していたのです。
しかし―――とは言え、彼らは「学生」・・・
夜遅くまでインしているわけにもいかず、頃合を見計らい、明日も特訓をする約束でログオフをしたのです。
そして・・・そんな折―――たった今、ログオフをしてきた「あるプレイヤー」の部屋では・・・
身に着けていた『VRヘッドギア』を取り外し―――こんな「呟き」が・・・
誰?:(ぷはぁ〜・・・)危なかった―――もうちょっとで、“私”が知れるところだったよ・・・。
あまり迂闊なこと、言えないや・・・。
それにしても、ちゃんと身に付いてくれたかなぁ―――『秀ちゃん♡』
VRヘッドギアを外し、とあるネットゲームからログオフしてきたと見られる「とあるプレイヤー」・・・なのでしたが、
そのプレイヤーの口から洩れた、「ある人物」を特定出来るような名前・・・『秀ちゃん』??
ほんの少し前、これと同じような物言いをしていた人物が、いたような気がしたのですが・・・?
それはそれとして―――
翌朝を迎え、自分が所属する「学校」に向かおうとする、明朗快活な女子生徒が―――
よく見れば、「璃莉霞」「清秀」「市子」が通う、同じ高校の制服を身にまとっているようですが・・・?
女生:行ってきま―――す!
保護:ほほほ―――あまり急いて、蹴躓かぬようにせいよ?
現在、彼女が世話になっている「下宿先」―――『玉野稲荷』から、
まるで極限まで引き絞られ、そして放たれた一条の矢の様に、飛び出した女子高生・・・『加東しの』
このお話しは―――これまでにも登場てきた、「あの三人」だけの物語りではなかった・・・
色々な登場人物の、「表」と「裏」・・・「光」と「陰」が織りなす、一つの『群像劇』のようなものなのです。
そして“彼女”―――『加東しの』こそは、この春から通う高校「白鳳学園」の一年生であり、
また・・・「例のネットゲーム」の“一プレイヤー”でもあるのです。
し:おはよ〜〜〜ぅっス☆
女生:おはよ―――
男生:おっ、お早う―――
し:(・・・あっ)おはよっス、璃莉霞先輩☆
璃:あっ、おはよう・・・しのちゃん。
し:(・・・)ニシシシ―――w 昨日、なんかイイ事あったンすか?☆
璃:えっ??!
し:そぉ〜んな驚かなくってもw にぢみでてますよ〜う?w
その顔や身体からww
璃:えっ?えっ?? う―――ウソ・・・
(!)もう〜〜〜揶揄わないのッ―――!
し:ニッヘヘ〜〜―――w おっ先ィ!☆
特段、人見知りもせず―――先輩であろうが、同級生であろうが、元気に挨拶を交わしていく元気娘―――
そんな彼女が行く先には、なんと松元璃莉霞の姿が、そして同じく元気に挨拶を交わした後―――
昨日の午前中とは、ちょっと雰囲気を違わせている璃莉霞をみるなり、揶揄い半分に見届けるしの・・・
そんなしのに思わずも、少しばかり怒ってしまう璃莉霞・・・
普段の彼女なら、その性格が禍をし、おっとりとしすぎていて、“いる”か“いない”のかが分からない・・・程だったのに、
一人の後輩の、「図星」にも似た指摘を受け、思わずも過剰な反応をしてしまった―――
その直後、僅か数秒も満たない間ではありましたが、彼女は「しまった!」と言う表情となり―――
ですがしかし、すぐに持ち直すと、「普段通り」の、“造られた自分”・・・と言うのを演じるのです。
つづく