#50;中盤戦
レイド戦は、序盤戦から―――やや中盤に差し掛かった辺り、
リリア達のレイドPTと、レイドボス「四凶」の1つである女媧との闘いは熾烈を極め―――
蓮:うおおお―――!
オレも負けてらんねえぜ!スキル解放≪万人敵≫!!
人知れずの処で、自分のOUSに目覚めた戦士は、そのスキルの解放と共に、秘められしチカラを見せつけたのです。
それを見たPT内のある者は・・・
「ほう、彼の者が持っていたか。」
「しかしながら、いやはや驚かされる・・・」
「だが、まだまだ・・・だ。」
「さあ・・・見せてくれ、“我々”に、お前達の“可能性”を!」
その者は、ただ静かに戦場に立ち、戦況を見極めていました。
幾度かPT全滅の窮地に追い込まれたとしても、微動だにしない今回の「協力者」は、
しかし・・・ただ静観をしていたわけではなかったのです。
そして、こちらも―――
市:私も、信友の為に為し得ましょう―――スキル解放≪座頭≫!
密やかに自分の視界を塞ぎ、全てを「視える」様にした武者巫女は、
女媧のスキルの1つである「神獣鏡」により生じた“分身達”からの攻撃を総て躱したうえで、反攻に転じていました。
そして、同じくして、その様相を見ていたPT内のある者は・・・
「あのスキル・・・そうですか、あなたが“お姉サマ”の・・・」
「いざと言うときは、この私が「身を挺して」―――と、考えていましたが、その心配はないようですね。」
このレイド戦の最前線に立つ彼ら・・・「蓮也」「市子」「ヒイラギ」は、いわばこのレイドPT内での、DPSの稼ぎ頭。
強敵を相手とする場合、防御を硬くすると言う意味は大いにありましたが、「自己回復」「修復能力」のある強敵には、
攻撃力もある程度なければならない・・・それに、防御一辺倒では、やがてはPT内のヒーラーのMPも尽き、
最悪の場合全滅を予期しなければならなくなる・・・
そうした意味で、第一PTであるリリア達のPTは、重要な役割と言えたのです。
とは言え―――気は抜けない・・・
なぜならば、それが女媧の有する、恐るべきスキルの一つ―――
蓮:ようし―――ようやく一割削れたぜ!
ヒ:(けれど、これで“ようやく一割”・・・思ったよりも固いわね。)
市:(けれど、ここで挫けてはなりません―――!)
ここで、畳みかけましょう!
ようやく・・・そう“ようやく”にして、女媧の体力の一割を削ることが出来た・・・
第一PTの総攻撃や、遠距離からの攻撃魔術による支援で、“ようやく”の一割・・・
しかしここで、リリア達を絶望の淵に叩き落す、驚愕の事実が―――
女:ふむ・・・小煩い虫けら共が―――目障りじゃ⦅六魂幡⦆
玉:(む!)まずい―――ソフィア殿、そなたは魔術防壁の結界を!
そしてブラダマンテ殿は、ワシと協力して、最大の回復魔術の行使を!!
ソ:は、はい―――≪ディフェンシング・アナライズ≫
ブ:あの者のスキル・・・なにが隠されていると言うのですか?
玉:あれだけはいかん―――“あれ”だけは・・・
苦心して削った、HP全体の一割・・・けれど、それを反故にしてしまう手段―――
それこそが、「自己回復」にして「修復能力」のそれでした。
今までの、どのレイドボスや、ダンジョンでエンカウントするMobですらも使ってこなかった、固有の能力・・・
それを、今回のレイドボスは持っていたのです。
しかも―――指揮官である玉藻前の指示からも分かるように、
どうやらボスの、このスキルは、自分達に攻撃を加えながらも、そのダメージで自らの傷を癒すタイプ・・・
すると―――女媧が唱えた後、すぐに発生した“黒い球体”は、行使者である女媧を中心に広がり、
自分を討とうとしているならず者の総てに、一定のダメージを負わせてきたのです。
また同時に、そのダメージは総括され、折角削れたHPの一割が・・・
ギ:元に・・・戻っちまった―――だ、と?
蓮:そんなんありかよ―――・・・
サ:(チ・・・こいつはどうにもまずいねえ―――)
総勢10人分のダメージの総てを、削れた自分のHPへと変換させる、脅威のスキル・・・
その在り様に愕然としてしまう者達―――
しかし、こうなることを見越したうえで・・・だとしたなら?
(ここで注目すべきなのは、上記で「10人分」としていたところ。
現在リリア以下のレイドPTメンバーは、総勢で「12人」・・・なのに?この人数差の意味する処とは―――
その理由は、いまだ参戦の意思表明を見せていない「二人」の存在。
この事で判るのは、女媧が放ったスキルの特性が、「自分に対し戦意の意思がある者」だとしたなら・・・?
そしてここでもう一つ―――このレイドPTには、実は優秀すぎるタンクがいるのですが、
指揮官である玉藻前は、リリアにその指示を出さなかった・・・
それが、「攻撃対象の一定分の体力を・・・」と言う事であり、ならばその事をリリア一人に負わせたのだとしたら・・・?
それこそがまさしくの「前線の崩壊」を意味し、絶対に取ってはならない行動でもあったのです。)
玉:皆の者―――諦めるにはまだ早い!
ブラダマンテ殿、そなたは今より「アタッカー」にシフト・チェンジ
そして・・・待たせたの、サヤ殿―――そなたのスキル解放、今を以てこのワシが承認をする!
サ:待ってたぜ―――その言葉!
蓮:なにっ―――サヤ・・・お前、今まで・・・
サ:あったぼーよ!w 切り札ってのはな、ここぞと言う時まで残しておくもんだぜ!
「召喚」―――来い!『魔堕羅』!
今の今までが、このレイドPTの“総力”だと思っていたら、実は戦力は温存されていたと言うのです。
そして、今にして宛らに思う―――本当の指揮官・・・「軍師」という者は、戦況の先の先を読んでこそ、その本領を発揮させる。
確かに自分の信友も、指揮統率能力はずば抜けていましたが、そこに「戦術」と「戦略」の違いがあることを、市子は気付いたのです。
短期的にて早期決着を計るのが「戦術」ならば、
戦況全体を広く見渡し、少しでもPT内におけるダメージ・コントロールをするのが「戦略」・・・
今までにもあったレイド戦のボスクラスまでは、戦術で対応が可能でしたが、
こうした、「女媧」の様に、自己判断で回復の手立てを講じて来る強敵相手では、限界がある・・・
そのことを、信友はよく心得ていた・・・
決して自ら前には出ず、指揮官からの指示にて動く・・・
それは、在り来たりの―――当たり前の光景の様にも思えましたが、
それをしないPTが、これまでにどんなに手痛い目に遭わされてきたか、ようやくにして知れたのです。
そして―――ここから、子爵サヤの、本格参戦・・・
彼女自身が持つ「召喚」のスキルにより、召喚出されて来たのは―――
体長5M余りの、巨大な凶獣・・・
ギ:おっ―――おいっ・・・こいつ、『饕餮』じゃねえか!!?
サヤが召喚した巨大な魔獣こそ、「饕餮」・・・
その全身を覆う体毛は、闇夜を思わせる「漆黒」そのものでした―――が、
その所々に垣間見られる、斑模様の斑点は、まさに生物の血を思わせるに足りました。
しかも、眦は逆しまに裂けており、鋭い剣を思わせる牙を持つ口は、耳元まで裂けていた・・・
獰猛で残忍な「魔狼」の上位種―――そしてその狼は、一つの遠吠えをしました。
戦場の遠くまで響き亘るその声は、期せずして、この戦場に到来した「ある者」の耳にも届いていたのでした。
そして、その狼の魔力のこもった遠吠えにより、種族本来の姿へと変ずる子爵・・・
藍色の髪は「銀雪」を思わせる色に変じ、鳶色だった瞳の色も、今や「琥珀」に―――
それに最大の変化が―――・・・
サ:フフッ・・・久々だよ、この姿となるのはね!
スキル解放≪魔斬俐≫!
サヤの、人知られざるOUS『魔斬俐』―――
そのスキルの発現により、サヤの右の掌からは、まるで・・・
これまで吸血してきたかのような―――それでいて、黒く変色してしまったかのような「刀」の“それ”がありました。
そして、ヒーラーの二人に、こう宣言したのです。
サ:ここからは私の回復は不要だ・・・なにせ「吸血鬼」になっちまったからね―――
自分のダメージは、自分で治す!女媧よ・・・あんたが、私達にそうしてきたようにな!
なにも、「自己回復」「修復能力」は、あんたの専売特許じゃないんだぜ・・・
女:ぬううう・・・不愉快な!
ならば、こうしてくれる―――⦅雷公鞭⦆
「サヤ」と言う存在は、「吸血鬼」と言う存在。
けれどこれまで、その姿は人間のようにも見えました。
然しながら彼女は、現実内に於いては、さある財閥のご令嬢・・・
そんな人物が、仮想内に於いて、不浄の存在だと知れ渡ってしまうと、どうなのだろうか・・・
そこを感じ、普段付き合いに於いて、自分達と交流をしている際には、「ならばせめて人間らしくあろう」と、
そう市子は感じていたのです。
(この市子の推測は、半分まで“当たり”―――だと、言っておこう。
けれど真相は、また別の処にあり、しかしながら、その“真相”も、今現在語られるべきではない・・・とまで、言っておこう。)
そして見えてきたこと―――スキル≪神獣鏡≫により、多くの分身体を生じさせてきた女媧ではありましたが、
実はその分身体―――本体と繋がっていたとしたら・・・?
本体は、「防御力」「耐久力」「体力」と共に数値は最高値ではありましたが、
分身体は、それよりはやや劣っていた―――
当初は、女媧本体と同程度の攻撃力を持つ、この複数体を同時に相手としなければならないか・・・そう思っていただけに、
この分身体を数体撃破したことにより、女媧本体のHPの減り様を見て、総攻撃を仕掛けるレイドPT。
しかし―――これで、優位に立てるものと、思わない方がいい・・・
なぜならば―――
女:フ・・・やはり“そなた”が要のようじゃな―――⦅落魂陣⦆
この、レイドPTの「アキレス腱」・・・いや、要と言っていいプレイヤーを見極め、無慈悲に降り注ぎ貫く閃光―――
それによって行動不能に陥ってしまった、PT一の回復役・・・
リ:ブラダマンテ―――!
現在では、初期の役割からシフトし、「アタッカー」としての働きをしていたブラダマンテ・・・
しかし、彼女が持つ優秀な回復魔術を目障りと見たのか、女媧は自らが持つ強力な手段をして、
この優秀なヒーラーを確実に仕留めるべく彼女を拘束し、無慈悲なる閃光によってブラダマンテの身体を打ち貫いたのです。
これによってブラダマンテは「行動不能」―――
一時的な死亡状態となり、玉藻前もすかさず蘇生を行うモノの、ここに進退は極まったと言えたのです。
それとほぼ同刻―――か、その前後・・・
この戦場に往来したる二の存在在りき・・・
それは、遅れてきた援軍なのか―――
はたまたは、いずこより迷いきた者達なのか・・・
余人は知る由も、ない―――
しかしながら、この靜やかにして来たる、強大なる存在を、感知したこの者達は―――・・・
「むっ・・・来おったか―――」
「そのようで―――」
「フフ・・・待ち兼ねたぞ、余りに遅いので、よもや来ぬのではないかと思っていたが―――」
「冗談がすぎます―――《ルクスゥ》」
「いかに“あの者”とて、姉妹の一人が己の存在を賭けているのです。」
「看過す―――訳には参りませんでしょう・・・。」
「フフフ・・・まあそう言うな《ラゼッタ》」
「では、遅まきながら・・・」
「ええ、我々も戦列に―――加わると致しましょう・・・。」
「その者」を待っていたのは、以外にも竜の一族である、この二人でした。
実は、この二人だけでも、女媧を討伐できる戦力だった―――
つまりは、16人分の働きはあったのです。
そんな彼らが「動いた」のは、女媧との闘いに明け暮れている、レイドPTのメンバーの誰もが気付かないでいた、
「この存在」が戦場に到来したから―――・・・
ならば、「この存在」とは、何者なのでありましょうか・・・。
つづく