「私は―――たった一つだけ、訊きたいことがあった・・・」
「どうして―――」
どうしてあなたが、そんなにまで変わったのか―――
どうしてあなたが、そんなにまで憎むのか―――
どうしてあなたが、そんなにまで堕ちてしまったのか―――
どうして あなたは そんなにまで 哀しむのか―――
「私には・・・判らない・・・」
「あなたの、そんなにまでの、悲壮なる思いが・・・」
リリアには、事態がこうなるまでに、以前には付き合いを良くしていたプレイヤーがいました。
このゲームの、サービス開始から出会い、自分が判らなかったことを、懇切丁寧に教え、導いてくれた人・・・
そのプレイヤーキャラクターは、『ジョカリーヌ』と名乗っていました。
そのキャラクターのアバターは、リリアのアバターよりも少し身長が高く、
脹脛まである「小豆色」の長髪、理知的な「瑠璃色」の瞳、
物腰柔らかく、誰に対しても人当たりの良い人だった・・・
それに、リリアのみならず、他のプレイヤーの悩みや、相談・質問に応答えてあげられるくらいのお人好し・・・
声質も大人しく、少しばかり低く落ち着きがあり、もしかしたらこの人は、悪いことなんて知らない・・・出来っこない―――と、そう思っていたのに、
あれはいつの頃からだったろう・・・これまでの評判を覆してしまうかのような、素行に言動が目立ち始めた・・・
相談に乗ってもらおうとしたプレイヤーを、人知れない場所まで誘い込み、クライム・エネミー・プレイヤーに襲わせたり・・・だとか、
不当な仮想内通貨の現金化を手引きしたり―――悪辣な手段で複数のプレイヤーから、搾取したり・・・だとか―――
「違う・・・私が知っているジョカリーヌさんは、そんなことは決してしない・・・。」
「私が知っている、あの人は―――」
だからリリアは、その事を問い質すために、ジョカリーヌが本拠を置いている、
「ペキン・サーバー」の、とある場所・・・「ラクヨウ」まで足を運んでいたのでした。
そしてそこで、この建物の主に質問をしようとした時、急襲/奇襲を受けてしまった・・・
「私が襲われている時でさえも、この人は私を助けようともせず、私が辱められるのを、ただ・・・「じっ」と見つめていた。」
「それに、私のスキル「晄楯」でさえも、この人の持つスキルで無効化され、私はただ単于からの辱めを耐えるしかなかった・・・」
「ああ―――・・・そうなんだ・・・私、裏切られたんだ・・・」
「あんなに優しくしてくれたのに―――」
「あんなに親しくしていたのに―――」
「あんなに・・・慕っていたのに―――!!」
奇しくも、それまでリリアが抱いていた疑問の数々を、その事がまさに正当であるかのように、その人自身が証明してくれた・・・
なぜ―――こんなにまで歪んでしまったのか・・・
なぜ―――こんなにまで穢れてしまったのか・・・
もう・・・それは関係ない―――
「私がここであなたを止めなければ・・・」
「あなたが真に、闇へと堕ちてしまう前に―――!」
一方―――その頃・・・
レイド戦も佳境へと差し掛かった辺りで、期せずしてこの戦場に到来した、二の存在が・・・
謎:ふむ―――戦況は・・・?
使:どうやら、終盤に差し掛かった辺りかと―――
謎:そうか・・・では参ろうか―――
使:御命―――承りました。
実は、この二の存在こそ、以前リリアが協力を得ようとした、「モスクワ」の二人・・・
「ミリティア」と「その使用人」―――
けれどミリティアは、リリアからの協力要請を、断ったハズ・・・?
なのになぜ―――この二人は、戦場の直中に来たのか・・・
リリア達は、知れようはずがない―――目の前の、レイドボスに集中するあまりに・・・
けれど、“こちら”の二人は、未だ参戦の意思表明をしていなかったので、気付いたのです。
いえ・・・実は、それがそもそもの間違い―――
彼らは、待っていたのです。
この・・・「言葉」によって、戦況を左右することが出来る、真の指揮官の到来を―――
#51;話術師
そして終盤―――レイドボスの攻撃は苛烈を極めました。
「ヘイト無視」や「防御無効」を始め、「状態異常」「広範囲攻撃」に加え、
レイドPT内一の回復能力を誇るヒーラーの、一時死亡・・・
これにより、進退窮まったかに思えたリリアでしたが、
その眼には、目を疑う事実を捉えていたのです。
リ:(このままではまずい・・・どうにかしなけれ―――)
(!)そ・・・そんな―――?!
ほぼ半壊状態のレイドPTを、どう立て直すべきか、考えを巡らせていたリリアの眼の端に映り込んだ人影―――
その人影に、リリアは思わずも目を疑い、声までも失ったばかりか、その人影を注視してしまっていたのです。
そんな信友の姿に、思う処となった市子は・・・
市:リリアさん、なにをして―――(え・・・?)
「信友が呆気に取られているのも無理はなかった・・・」
「信友が、その方に、平身低頭で依頼したと言うのに、受けてもらえなかった協力の要請・・・」
「それなのに・・・なぜ―――“あの方”が?!」
市子も、その時にリリアに寄り添い、その場所まで赴いて一部始終を見聞していたから判っていました。
だから・・・信じられなかった―――
なぜこの戦場に、その人影が「いる」のかと言う事が。
けれども、当事者は―――・・・
ミ:ふむ―――どうやら道に迷ってしまったようだな・・・。
リ:(え・・・?)道に迷った―――って・・・
どう言う事なんですか、ミリティアさん!
ミ:おや?そこにいるのは豎子ではないか。
いや、なに・・・ワレも屋敷内ばかりに居ては、健康上よろしくないと言うものでな・・・
ゆえに、陽光に当たる為に敷地内を散策しよう―――と、したのだが・・・
どうやら、征きし道を、いかばかりか違えてしまったようだ―――
市:(・・・)けれど、ここは戦場なのですよ?
ミ:だから―――どうしたと言うのだね?市子・・・
市:(え・・・?)
ミ:このワレが、道に迷いしは事実―――
なれど、このワレの征きし道を阻む者はおらん・・・
それに―――このワレに、後退など有り得ん―――!
当の本人は、散歩の途中で「道を間違えた」と、主張をしていました。
けれど、これ程分かり易い“大嘘”があっていいものなのか。
とは言え、ミリティアは一つの事実を示してもいたのです。
それが・・・「ワレの征きし道」―――
ここで彼女が使った“道”は、常日頃私達が利用している「道路」などの意味ではない・・・
それに、道を間違えたのであれば、元に戻って引き返せばいいまでのこと―――
けれど、別の“道”ならば、そういうわけには行かない―――
この先、征かなければならない“道程”は、困難を極めるもの―――
けれども、その困難を乗り越えて、征かなければならない・・・
そうした決意表明が感じ取れるのです。
そして―――
ミ:そこのお方―――ワレの征きし道を阻んでくれんかね。
だがもし・・・阻むと言うのであれば―――
排除をせねばならん―――・・・
女:(・・・)おのれ―――妾を不快にさせてくれる者め!
その罪、万死に値すると思え!!
自分がこれから征こうとしている茨の道程を、阻む者は容赦しない―――
その参戦表明の現れに、その白き面に不快・憤怒を思わせる醜い小皺を刻ませる「四凶」・・・
ですが、実は―――この刹那の刻の合間に紡がれたものは、また別のものだったのです。
―――嗚呼・・・ようやく来てくれたのですね、姉さん・・・
―――これでようやく・・・これでようやく、私の役目も・・・
―――待たせたようだな、妹よ・・・
―――“礼”は、敢えて申さぬぞ・・・
ミ:【寄越】玉藻前―――
玉:フ・・・頼まれずとも差し上げる―――
そしてこのワシも、心置きなく全力を尽くせるというもの!
ヒ:クラマス―――?どう言う事・・・
玉:ワシはな、ヒーラーや指揮官である前に、キャスターでもある。
それを今回は、「足らぬ」と言う理由で、そこに収まっただけじゃ・・・そこは間違えんで欲しいのう?
その時までは、玉藻前が担っていた「指揮官」としての役割を譲渡し、
彼女本来の姿―――「金毛白面九尾」へと変化する玉藻前・・・
実は彼女は、ヒーラーや指揮官をこなせる一方で、強力な攻撃魔術を操る「キャスター」でもあったのです。
そしてそんな彼女が行使した魔術は、強力な結界を形成させ、攻撃対象を結界内に束縛させながら押し潰してしまうもの・・・
しかしながら、女媧も然る者―――結界内で押し潰されようとする内でも、空間を浸蝕する術式により、この結界を破ったのです。
これによって、女媧のHPは全体の6割も減り―――
ですがしかし、このレイドボスには、自分の傷を回復させる術を持っている・・・
だからこそ、皆警戒するのでしたが―――
女:フッ―――学習せぬ愚か者共が!⦅六魂・・・―――
するとその時―――
ミ:【嘿】―――!
女:(!)ぐっ・・・?がっ・・・があ゛っ?!
たったの「一言」―――たった一言で、レイドボスの「言葉」を失わせてしまった・・・
しかし、そう―――これこそが、ミリティアの本来の「職」。
「人間」が、他の動物より優れ、生物界の頂点に君臨出来た理由―――
それが「言葉」の行使。
この言葉の行使により、他の生物にはない、圧倒的なコミュニケーション能力と言うものを、我々「人間」は手にしてきました。
けれども、その“代償”として、多くのモノを犠牲としてきた・・・
人間は、他の動物よりも、素早く動けない―――
人間は、他の動物よりも、力強くない―――
人間は、他の動物よりも、環境の変化に弱く―――そしして自然界では生き抜いてはいけない・・・
けれど「言葉」を使う事を覚えたお蔭で、脳の発達を著しくさせ、
その他の生物には成し得ることが出来なかった「道具」の開発や、様々な物事の「発明」など・・・
それが「言葉」の功罪―――
そして今、この戦場に、自らの持てる能力の総てをつぎ込み、「言葉」をして総てを支配する者が顕在化をした―――
それこそが、「言葉」そのものを操る魔術師―――『話術師』なのです。
つづく