ジョカリーヌが、現実内にて、また活動を再開させるための、手続きを行っていた時・・・
ミ:少し―――いいか。
ジ:ああ・・・ミリティア姉さん、なんでしょう。
ミ:実はな、汝を討った最大の功労者に、手渡してもらいたいものがあるのだ。
ジ:(・・・)それは、姉さん自らが手渡してあげた方が―――
ミ:ヤレヤレ―――鈍い奴だ。
いかなる理由があれ、あの者は慕っていた汝を、その手で弑してしまったのだ。
物の弾み―――とは言え、その心に抱える“闇”は深かろう・・・。
ジ:(あ・・・)そう―――ですね・・・
『7人の姉妹』の頂点に立っていると言っていい「長姉」からの、思わぬ依頼・・・
それが、今回の『パーソナル・レイド戦』で、『四凶』であり、「レイド・ボス」だった「女媧」を討った・・・
最大の功労者である「リリア」に、特別な褒賞を与える用意がある―――と、したのです。
しかも、直接の手渡しを、ミリティアではなく、ジョカリーヌから授与するようにさせた・・・
けれどそれは、ミリティアなりの“温情”でもあったのです。
事の経緯がどうであれ、自分が慕い「師」とまで呼んでいた存在を、自分が討ち果たしてしまった・・・
とは言え、この「死」は、「死」ですらない―――
「ジョカリーヌ」と言う“存在”の、“一形態”が「女媧」であり、
だとしても、その事を知らないリリアは―――
自分の“仮初め死”に向かい、大声を張り上げて泣いてくれていた・・・
そこの処は申し訳なかった―――と、思い、リリアの心の傷を少しでも癒してあげる為に、
例の施策が提言されてきたのです。
そこの事情も分かっていた「長姉」からは、また、次の事も“訓示”として、「末妹」に与えたのです。
ミ:判っていようが―――“ソレ”の取り扱いは、呉々も・・・な。
ジ:―――はい。
ミ:よし、ならば“ソレ”に掛けてある封を解いてやろう・・・。
そして―――征ってくるがよい。
今回、ミリティアがリリアに用意していた「褒賞」こそ、ある「称号」でした。
以前リリアは、仮想内に於いての、最強のプレイヤーの証しでもある、『清廉の騎士』というモノを持っていました。
けれど、自分の「因縁の宿敵」に敗れた際、その「称号」は、リリア自身のフレンドでもある、「ブラダマンテ」と言うプレイヤーに譲っていたのです。
言ってしまえば、現在リリアは、「称号」というモノは、持っていなかった・・・。
そこの処を鑑みたのか、ミリティアは、『清廉の騎士』に代わる新たな「称号」を、リリアに与えようとした・・・
けれど―――「称号」がまるで、“危険物”であるかのような物言い・・・念の押し方。
恐らく―――解放されれば、「自分達」と同等の権限を得ることになるだろう・・・
それだけの“可能性”を秘めた「称号」―――
それに・・・実は―――
以前からミリティアは、事ある毎にリリアを呼びつけるのに、「ある言葉を」口にしていたものでした。
その言葉の、意味・由来を知っている者からすれば、「罵り」にしか聞こえない、「あの言葉」―――
けれど、もし・・・「こうなる事を見越して」、この人物が使っていたのだとしたら・・・?
そして、今まさに―――「話術師」の手により、その「称号」の“封”は解かれたのです。
それも・・・「この言葉」の持つ、真の意味合いによって―――・・・
#54;遂に豎子の名を為さしむ
本来の「その言葉」は、“未熟者”“愚か者”“馬鹿者”“赤子”・・・と、
どう無理をしても良い意味として捉えられない、言わば罵りの言葉―――それが「豎子」でした。
けれど・・・このミリティアの「言葉」に、隠された意味があるとすれば―――
時は―――古代中国「春秋戦国」の時代。
後の世に「名軍師」と呼ばれる者がいました。
その「名軍師」には、古くから“友”と呼べる漢がいました。
同じ学び舎で、戦乱の世を生き抜くための術を学び合っていた二人。
二人は、その時誓い合いました。
この世を一つに纏める為に、自分の力となって欲しい―――
「名軍師」は、友である漢の要請に快く応じました。
けれど、“理想”と“現実”は中々一致とならず、結果として「名軍師」は、友との約束を守れなかった・・・
その事を恨んだのか、漢は、あろうことか自分の友を「冤罪」に陥れ、
その当時として最も重い刑罰とされていた「黥刑」に「臏刑」に処し、
剰え、あの呼び名・・・「豎子」と呼びつけ、地位も名誉も貶めたのです。
(「黥刑」とは、身体に「刺青」を施し、対象者が罪人であることを知らしめるためになされた刑罰
「臏刑」とは、膝頭の骨を抜き、自力では立てないよう、また歩かれないよう施された刑罰のことを言う。)
そして当時、漢が仕えた国は、当時の古代中国に於いて、「軍事大国」と呼ばれたところ・・・
片や「名軍師」が仕えた国とは、小さいながらも、これからの発展途上が期待されるところ・・・
紆余曲折あり、「名軍師」と漢は、互いの覇権を賭け、「戦争」をしました。
漢の国は、全員一騎当千の兵揃いの軍団を「万」備え、
ですがしかし、「名軍師」の国は、いくら少数精鋭とは言え、
その“戦”は、最早“戦”と呼べるようなものではなかった―――
圧倒的多数―――圧倒的武力によって、「名軍師」率いる兵達を押し込み、蹂躙する漢が率いる軍勢・・・
けれど、なぜか勝ったのは、「名軍師」に率いられた軍でした。
戦況の先を見る力―――統率力―――計略により、圧倒的な数の不利を覆したのです。
そして・・・友である「名軍師」に敗れ、今わの際に遺した漢の言葉こそが、「あの言葉」だったのです。
「私は・・・あの“小僧”の才を誰よりも知り、なにより畏れていた・・・。」
「だから私の計略により、“小僧”を貶めさせたものを・・・」
「やはり私は・・・“小僧”に遠く及ばなかったか・・・」
「逆に、“小僧”の才を、この私の死で知らしめてしまったのだ・・・」
「さらばだ・・・友よ―――」
“これ”こそが、ミリティアの「言葉」に隠されていた、真の意味―――
「リリア」と言う、“可能性”にいち早く気付き、無暗に貶めるなどして、その“秘”したる可能性を引き出そうとしていたのです。
それはそれとして―――・・・
ある日の仮想内に於いて、歓談に花を咲かせている、あるクランの下に―――
静かに歩み寄る、一人の“麗人”―――
その“麗人”は、そのクランの“マスター”であろう人物に、こう呼びかけをしたのです。
「あの・・・済みません、空いている隣り、いいですか―――?」
リリアにしてみれば、空いている席ならどこにでもあるのに、物好きな人もいるものだ・・・
くらいの感覚でしかありませんでした。
しかし他のメンバーは、マスターに声をかけた“麗人”の顔に見覚えがあるのか、
少しばかり思考が停止し、絶句してしまっていたのです。
つまりは、そう―――
リリアは、自分の背後から呼びかけられており、しかも声をかけた人の顔を見ていなかった・・・
けれど市子達4人は、その“麗人”の顔を直視してしまっていたのです。
「そんなバカな―――?」
「いや・・・でも・・・ありえない―――?」
「どうしてこの人が―――・・・」
それぞれの思いが交錯し、様々な疑問が湧きあがる中、クランメンバーの異常な反応に気付いたリリアは・・・
リ:(あれ?)ねえ・・・どうしたの?皆―――
市:リ・・・リリアさん―――背後ろ!
リ:(背後ろ?)背後ろ―――って・・・
麗:こんにちは―――
まるで・・・夢を見ているかのようだった―――
今回のパーソナル・レイド戦に於いて、自分が倒してしまった「四凶」の一角・・・
本当は、その人の事を討ちたくなかったのに・・・
つい、この人の悪意、殺意に中てられてしまった・・・
あの時は、本当に哀しかったのに―――どうして・・・
どうして、今ここに、以前と変わらない朗らかな笑顔で、顔を覗き込み、その優しさで包み込んでくれる人が―――・・・
リ:ジョカリーヌさん・・・?
ジョカリーヌさん・・・!
ゴメンなさい―――ゴメンなさい!
私・・・私―――!!
ジ:うぅん―――判っているよ・・・
君には随分と、辛い思いをさせてしまったね―――リリア・・・
けれど、もう泣かないで―――
リ:はい・・・―――
けれど、どうしてジョカリーヌさんは・・・
ジ:おや―――言わなかったかい・・・
「きっと、すぐまた会えるだろうから」―――って。
市:(その言葉・・・)では、あれは空耳ではなかったと―――
ジ:その通りだよ、市子。
堪えようとも、溢れ出てくる涕―――
それは、どうしても、討伐する際に、殺してしまわなければならない―――と言う、“申し訳なさ”と、
後の半分は、“期待外れ”の嬉しさから―――
もう二度と、会えないものと思っていただけに、
以前付き合っていた頃から変わらない、まるで“お陽さま”のような、あの笑顔―――
だからこそ、感極まってしまっていたのです。
そして、落ち着いた処で―――
リ:嬉しい―――こんなに嬉しいことはないよ。
“お帰りなさい”―――ジョカリーヌさん・・・。
ジ:ああ―――少しばかり遅くなって申し訳なかった・・・
“ただいま”―――だ、リリア・・・。
「今日」と言う日が、二度と訪れる事がないと思っていただけに、
嬉しさ余っての感慨は、また一入でした。
そればかりか―――・・・
ジ:それより君は、「クラン」を結成させているんだったね。
だったら私を、そこへと入れてもらえないものかな。
リ:えっ―――・・・?
ジ:ダメかな?
リ:えっ・・・ええ―――いえいえ、それは別に構いませんけれど・・・どうして?
ジ:う〜ん・・・そうだね―――
この私を倒した“ご褒美”に、君達には私が持っている“知識”を与えようと思ってね。
それでは皆、よろしくね?
「私の信友が・・・惚れ込んだのが、どことなく判ってきた―――」
「この人は、本当に「お陽さま」の様なのだ・・・。」
人当たりが好く、笑顔の絶えない人柄・・・
まるで、あの時に対峙したとは思えないほどの、ギャップもさながらに、
驚かされたのは、その知識の量と“確かさ”―――
市子は、この度、自分達のクランに加入しながらも、
早速その人の、豊かにして溢れる知性に触れ、感嘆することしきり―――に、なるのでした。
つづく