今は、夏季休暇の真っ最中―――
そんな中、早めの課題クリアを目指すため、自分が懇意としている、
“ある者”が奏でる音楽を聴きながら、取り組んでいる一女子高生・・・松元璃莉霞。
意外に思われるかもしれませんが、彼女が聴いていた“音楽”こそは、
一時世を風靡させた「アイドル・ユニット」の、“それ”だったのです。
#57;アイドル
そう・・・今まで璃莉霞は、その古風な振る舞いなどから、とてもそうであると思われませんでしたが、
「アイドル」達が奏でる、その“キャピキャピ”とした音楽が気に入っていたのです。
現に今は、そのアイドル・ユニット『スゥイーツ・シャルマン』の1曲に聞き入っていたよう・・・ですが?
「う〜ん・・・何か違うんだよなあ・・・。」
その、アイドル・ユニットの、ファンの“はず”なのに、どこか違和感があるかのような物言い・・・
それに実は、このアイドル・ユニットは、現在より2年前に、絶頂期を迎えていたにも拘らず、
突如、解散してしまった・・・
その“原因”についても、ネットの「ツイッター」や「SNS」などでは、
『メンバー内の不仲説』だとか、『音楽性の違い』だとか・・・が、蔓延しており、
けれども、こうしたネットの情報等は、そのどれもが“憶測”なのであり、真に迫るものは、何一つとしてなかった・・・
それに、璃莉霞は知っているのです。
“彼女達”のメンバーの“2人”を・・・
なぜなら、璃莉霞が「リリア」である証し―――
つまりは、そのメンバーの2人も、例の「ゲーム」のプレイヤーだった・・・と、したなら?
そう、何も璃莉霞は、そのアイドル・ユニットのフアンではなかった―――
もう少し言えば、彼女は仮想内で結んだ友誼を元に、その内の1人の歌を聞くようにしていたのです。
それであるが故の違和感なのか―――
今、夏季休暇の課題に取り組みながら聞いていた曲も、解散直前にリリースされた曲だった・・・
その曲はまるで、「RPG」を連想するかのような詞―――
今まで、自分達がこなしてきた戦闘の様に、互いを信じあい、互いを扶助け合った上で、勝ち得たモノ・・・
宝物以上の「宝」を得る事の素晴らしさを説いた詞―――
実は、この詞を書き上げた人こそ、璃莉霞が注目し、聞き続けている人のものだったのです。
「この詞は、確かに素晴らしい・・・」
「それに曲調がつくと、こんなにも変わるんだ・・・」
璃莉霞も実は、その人が所属していたユニットが、突然解散をしてしまった経緯を、不思議に思ってはいました。
その原因を、いつかは聞いてみよう―――
とはしていましたが、現実としても、自分も立て込んでいた事情もあり、機会すら伺えなかったのです。
けれど、現在はどうにか一段落ついたこともあり、早速行動に移ったのです。
幸い、ネット情報の発達もあり、その人の「シークレット・ライブ」があることを知り、
どうにか潜り込めないものか・・・と、街中を彷徨っていると・・・?
誰?:(ん〜?あいつ―――・・・)
あの、ちょっとよろしいですか?
璃:―――はい?
小:ハローハロー☆
璃:(・・・て)ひゃああ〜?!
小:なんだよ〜ビックリすることないじゃん。
璃:小夜子・・・じゃなかった、橋川様?
いや、それはビックリしますよ・・・って、そう言う橋川様は、どうしてここに?
小:ん〜〜?
あ〜〜〜まあ〜〜〜“コレ”もお嬢のお仕事―――っつうのか、
これから大企業の「狒々じじぃ」共と“お食事”せにゃならんのよ。
てか・・・あんたこそ、こんなところでナニやってんの?
璃:え〜〜あ〜〜〜ちょっ・・・と、ね。(エヘヘ)
小:ん〜?なんだソレ―――ちょい見せてみ。
璃:あ〜〜ちょっとですね、「そこ」に行きたいんですけど・・・中々不案内で―――
小:ふゥ〜〜ん―――・・・
璃:あのお〜〜橋川様?そろそろ・・・
この東京の街を彷徨っている、自分の見知った顔を見かけ、声をかけた“お嬢様”―――と、思ったら?
その日の予定で、自分の家との付き合いのある、企業のトップとの「会食」に行く道中の、「橋川小夜子」だったのです。
しかも、璃莉霞もビックリしたのも無理はなく、その時の小夜子は、誰がどこから見ても「お嬢様」だった―――
「白いサマードレス」に、「レースの手袋」、「幅広の大き目の鍔を持つ白い帽子」
言わば、この二人の関係を知らない者から見たら、一人の平凡な女性に声をかけた、深窓のご令嬢・・・だったのです。
こうして、互いの目的は、はっきりとはしたのですが、璃莉霞も、例の「シークレット・ライブ」の場所までは突き止めたものの、
どうにも不案内だったため、彷徨っていた・・・と言う表現がしっくりきていたのです。
そんな璃莉霞が迷っていた場所を、璃莉霞が描いた簡易性の地図を見て、
さながら知ったが如くに指摘をする小夜子は―――・・・
小:この場所なら・・・ほれ、「あそこ」じゃね?
璃:えっ? あ・・・ここかあ―――
小:てか・・・あんた、「こいつ」のフアンなわけ?
璃:うん、そうですよ?
ありがとうございます、おかげで助かりましたよ。
お仕事―――頑張ってくださいねw
「ふゥ〜ん、あいつ・・・見かけによらず「プリン」様のフアンだったとはねぇ。」
とは、璃莉霞との別れの間際に、「ポツリ」と漏らした小夜子の言葉。
そう―――璃莉霞は、この・・・元「スゥイーツ・シャルマン」の一人であり、現在では“ソロ”で活動をしている、
『プリン』と言う歌手のフアンなのです。
そして―――シークレット・ライブに潜り込むことに成功し、
ライブが終わった後の「楽屋」にて・・・
璃:今日はお疲れ様でした―――歌声、本当に良かったですよ。
プ:ありがとう。
璃:それと・・・あの・・・
ちょっと聞きたいことがあるんですけど、いいですか?
プ:なあに?
その人の“声”は、元からそうだったようで、とてもチャーミングで魅力的な『ロリ声』をしていました。
だから、「アイドル」として十分通用したわけなのですが、そこが一部の“ネット民”からは・・・
「媚びている」だとか、「ワザとであざとい」だとか、心にもない言葉で中傷したりしていたのです。
つまり、その事も原因の一部かも知れない・・・
だから、璃莉霞は、慎重に言葉を選んで質問をしたつもりでした・・・
璃:あの―――ユニットが解散した“きっかけ”って、何ですか?
プ:(・・・)またその質問?
璃:いえ―――でも私には、ネットなんかで書かれている「ネタ」よりも、また別の処に原因があるような気がして・・・
「それ」は、何気のない一言―――
けれど、他の誰よりも、“確信”を衝いていた一言でした。
数多くの「芸能報道」が、挙って取り上げた、自分達の解散の原因・・・
そのどれもが、自分達の事を、面白おかしく取り上げた上に、
その目的としていたのが、結局は記者やリポーターの所属する「出版社」や「会社」が潤うようにしただけだった・・・
それに、自分達が真実を語ったところで、所詮は信じてもらえない―――・・・
「私は・・・憎い」
「この、生まれながらにして備わってしまった「声」が・・・」
「この「声」のお蔭で、私は、本来歌いたい歌を、歌わせてもらえなかった・・・」
「けれど―――歌いたい・・・」
「その“一心”で、結成した「アイドル・ユニット」・・・」
「私は―――歌いたい歌が、歌えない・・・」
「それとは裏腹に、数々の“ヒット”を飛ばし、リリースする曲は「ミリオン・セラー」の、このユニット・・・」
「「人気者」―――には、なれたけれど、空虚感だけが蔓延する、私のココロ・・・」
「こんなことを話したって、誰も信じてはくれない・・・」
「けれど、一人のフアンの少女が、気付いてしまった・・・?」
厳しいことを言うようであれば、“真実”はたった一つしかない―――
そう、このユニットの解散の原因を作ってしまったのは、「プリン」その人だったのです。
自分には、歌いたい歌がある―――
けれど、“クライアント”の押し付けで、歌いたくもないモノを歌い続けるのは、無理だ―――
そうした不協和音は、すぐさまユニット内に修復不能なヒビを生じさせました。
けれど、そんな事が表沙汰にでもなってしまえば、途端に“ハイエナ”共が群がりかねないとし、
その解散時期が“2年後”―――と、所属プロダクションは決めたのです。
とは言え、その間・・・なるべくメンバーには、その事実が漏れないよう―――漏らさないよう指示が為されたのです。
「私は・・・悪い人間だ」
「性悪だ・・・」
本当は、解散したくないメンバーの方が、多かったのだろう・・・
それを、そうしてしまったのは、自分の所為―――
自分の“エゴ”―――「我が儘」の所為・・・
けれど・・・どんなにか恨まれたっていい―――
自分は、歌いたい歌を、ただ歌っていたいだけ・・・
そんな自分の、気持ちを見透かしたかのような、フアンの一言に、「プリン」は・・・
プ:ごめんなさい・・・その質問に、答える気は、ないわ―――・・・
璃:あ・・・待って―――プリ・・・
いえ、「絆崎凛」さん!
プリンの本名―――「絆崎凛」・・・
けれど“それ”は、一部の関係者しか、知らないはず・・・
いや・・・そう言えば―――
たった一人、「仮想内」に於いて、自分の本来の素性を話したことがるプレイヤーの事を、思い出した・・・
するとプリンは、去ろうとする足を止め―――
「なら・・・待っているわ、いつも会っていた、あの広場の噴水の前で・・・」
その数時間後―――仮想内・・・
トウキョウ・サーバーの一角にある、広場の噴水の前で、一人の「吟遊詩人」が、自前の歌を披露していました。
そしてその場に、以前友誼を結んだことがある者と、その仲間達らしき者達を確認すると、
その「吟遊詩人」は―――・・・
その、天より授かった「声」は、仕方がない―――
けれど、そうであるかを、忘れさせるような“声量”で歌い上げる・・・
それはまた、「大地の恵み」であり、「力強さ」、「雄々しさ」―――
そして時には、「人と人とのつながりの大切さ」、「新しきものを求める深さ」―――
そして、締めくくりとしては―――
「信友と、その仲間達に贈られた歌」―――
未だ見ぬ、見知らぬ世界に挑戦し征く者達に対し、後押しを―――勇気づけて行く・・・そんな歌。
総てを歌い上げ―――深々と頭を下げた「吟遊詩人」からは、涙が溢れていました。
そして気付けば・・・自分の信友も、顔を伏せ―――泣いている事に気付かされた市子は・・・
市:あの―――リリアさん?
リ:うん・・・良かった―――良かったよ・・・。
歌いたい歌を、歌えるようになったんだね・・・。
吟:ありがとう―――リリア・・・
私、すっかり臆病になっていたよ・・・。
リ:ううん―――いいんだよ・・・。
これからも、その調子で、一杯聴かせてくださいね、「プリン」さん。
は?
市:プ・・・「プリン」―――て?
ソ:もしかして、あの元アイドルの?
ギ:本物―――かよ・・・
蓮:ウソ―――だろ? なんでそんな有名人・・・
リ:そんな“嘘吐き”呼ばわりされてもねえ〜〜?
プ:フフフッ―――中々愉快な人達だね、リリア。
そうだ・・・ねえ、良かったらリリアのクランに入れてもらえない?
なんだか、新しい曲、作れそうな気がしてきたよ。
今回の事に関して言えば、余り判ってはいませんでしたが、
クランの幹部からの入会申請が受け入れられた、新参入者・・・
しかも、そのプレイヤーは、聞けば元アイドルだとも言う・・・
そんな、大型新人の受け入れを、間近で見たメンバー達は、目を丸くしたのですが・・・
こうして、囀りを取り戻した一羽の鳥は、また大空に羽搏いて征くのでした―――。
つづく