その日―――「リリア」がログインした時、まず手始めにしたこととは、自分の“知り合い”に、「メール」を送ったことでした。
そして―――・・・
リ:(これで・・・前準備にようやく漕ぎ着けた・・・あとは、どう転ぶか―――)
どうか、いい返事がきますように―――っ!
一体“彼女”が、どこの誰にメールを送ったのかは知りませんが、
送った後にまるで「神頼み」するかのような神妙な面持ち・・・
“それ”だけで、「あの一通」が彼女自身に非常に関わり深いものだというのが分かるのです。
#6;一通のメール
時を同じくして―――“ここ”は、「中世欧州」の雰囲気漂う場所・・・
そんな場所に、ひっそりと佇む、とある「怪奇小説」の“主人公”が住まう「城」をモティーフにしたような“建物”・・・
そんな“建物”や、その「城」に住まう“住人達”のことを、
この『サーバー・エリア』≪ベルリン≫を活動の拠点としている「プレイヤー」達は、口を揃えてこう言うのです・・・
ヴァンパイア
と・・・
よく、「ホラー」物や「RPG」などでも、割とポピュラーになりつつある“種族”・・・
しかしながら、その“種族”は「人間」ではなく、所謂「不死者」・・・
そう、この世界には、リリア達「人間」の他にも、様々な“種族”を「キャラクタークリエイト」できるのです。
つまりは、この種族「ヴァンパイア」も、「その内の一つ」なのですが・・・
世間一般に知られる、この“種族”の特徴としては、
「不老」「不死」であり、武器でダメージを負わせても、驚異的な回復力で傷を治して行く・・・
物理的にも「膂力」や「敏捷性」など、遥かに人間を凌ぎ、そして蹂躙をしていく・・・
呆れるほどに“化け物”な「化け物」・・・それがヴァンパイアなのです。
ですがこの種族を、そのまま実装させるとなると、まるで「チート」過ぎる―――と、言うことでもあるので、
“ある制約”を、このゲームの「運営」サイドは課したのです。
それが、Mobのアンデッド―――「ゾンビ」や「グール」「スケルトン」と言った様な、自然popする「雑魚」のように、
「HPゲージ」が「存在する」・・・つまり、“倒す”ことは出来るのです。
そして、「HPゲージ」が尽き、「0」になると、他の人間種キャラクターの様に「大神殿」で「復活」することはなく、
その打倒された場にて、「マップ上」にある“石”や“木”のような「何か」に変じてしまい、
時間経過を以って「復活」をする・・・
人の道から外れた、「外道」に近く、「化け物」でありながらも「人間」として“存在”する、「不確かな存在」・・・
そして普通ならば、そんな「どっちつかず」の種族は、糾弾されて然るべき―――なのですが・・・
他の人間が“それ”をしたくても「出来ない」“事情”―――
「大人の事情」・・・とでも言うのでしょうか、“それ”が存在しているために、
「その種族」は、他のプレイヤー達の羨望と侮蔑の入り混じった視線に、常に晒され続けていくのです。
閑話休題―――場面を“冒頭”に戻すとして・・・
この種族の長とも言える『大公爵』の下に、「何者」かからの「メール」が・・・・(??)
それを開き、徐に目を細める者の、口から洩れた言葉とは・・・
大:ほう―――“あの者”の「娘」が・・・な。
実に結構なことだ―――ここの処、実に怠惰にして退屈をしていたところだ。
よかろう・・・“我が友”よ―――お前からの頼み、聞いてやらぬこともない・・・が、
ククク―――・・・その“証し”見せてもらうとしようぞ。
ここ近年―――『大公爵』は、“ある病”に苛んでいました。
呆れるほどに「不死」―――呆れるほどに「迅速」―――呆れるほどに・・・「最強」
この種族が実装された当初、誰しもが「最強の称号」を手に入れたいがために挑んだものでしたが・・・
宜しく返り討ちの目に遭い―――
そして今では、運営からの制約がついて回るとはいえ、「チート」に過ぎるこの種族に挑もうとする者たちは・・・
いなくなってしまった―――
だからこその「病」・・・
「怠惰」に「退屈」の“それ”は、退廃的に「彼ら」を蝕んでいたのです。
けれど、今舞い降りた―――大公爵自身のフレンド・・・と呼ばれる、数少ないプレイヤーからの「お誘い」のメールに、
心躍らせた・・・
こんなにも、俎上での生殺し状態の自分―――に、
こんなにも、心躍らせるような“内容”―――
けれど、しかし―――・・・
そう、大公爵は、何も違えてはいませんでした。
自分が“創った”この種族―――この種族の「価値」と言うものを知っていたがために、
安売り同然で返事をするようなことがなかったのです。
だからこそ―――“条件”をつけてきた・・・
ならば果たして、その“条件”とは―――??
それから数日が経ち―――璃莉霞達が通う学校、「白鳳学園」にて“とある異変”が・・・
ではその“異変”とは―――?
女生:この通りっ―――お願いっ!
璃:えぇ・・・困るよう〜〜そんな事言われても―――
それに、私・・・
それこそは“異変”―――まさしくの異変と言えたものでした。
それと言うのも、この学校に所属し、その中でも「ある部活」に所属をしているなら、知らない者はいない・・・『青柳柊子』が、
なんとこともあろうに、周囲に於いても「運動音痴」として知られている松元璃莉霞に、なにやらの頼み事をしていたのですから。
その様子を見ていた―――青柳柊子と部活を同じくにする、森野清秀は・・・
清:(なんだ?柊子のヤツ―――何の頼み事を、あのトロ臭い松元なんかに・・・)
(!な、なんだって―――?!)
清秀は、柊子からの頼み事に聞き耳を立て、その内容に驚いていました。
それもそのはず―――今、柊子からは、明らかに自分たちが認知している“ある事実”・・・
「運痴」として知られている“彼女”には不釣り合い―――な、依頼をしていたから・・・
柊:お願い―――昔の誼でさ・・・人数合わせでいいから・・・
璃:に・・・「人数合わせ」〜〜〜って言われてもぉ―――
柊:いいじゃない、昔一緒に剣道をやってた仲を見込んでの話しなんだよ?
璃:そ・・・そうは言われてもぉ〜〜〜やらなくなってからは、もう十何年経っているんだよ?
柊:そこは判ってる―――だから「人数合わせ」でいい・・・『捨ての大将』でいいから・・・ね?
今―――清秀の聞き違いなどではないとしたら、同じ部活・・・「剣道部」の『女子部長』である青柳柊子の口からは、
“人数合わせ”・・・とは言え、「運痴」として知られている、松元璃莉霞に、「助っ人」の依頼をしていた??
それこそが“異変”―――異変にして奇妙な出来事・・・
しかも、それだけならまだしも、璃莉霞が以前―――剣道の経験が・・・“あった”?
そこも興味を惹かれるところなのでしたが―――無下にも、頼みとしていた知己から断られ、
涙を惜しみながら璃莉霞の下より去る柊子―――
それはそれで「可哀想に」―――とは思うのでしたが、そう言えば清秀自身も不思議には感じていたのです。
その疑問を払拭させるために、早速“相談者”に持ち掛ける清秀の姿が・・・
清:なあ―――会長さんよ、ちょっといいか?
市:何事です?
清:いや・・・実はな、柊子のヤツが、“あの”松元に助っ人の依頼をしていたようなんだが・・・
市:(?!)なんです?その組み合わせ・・・
あなたと同じ剣道部に所属し、女子の部長にまで収まっている青柳さんが、“あの”松元さんに・・・依頼を?
清:えっ?ああ―――オレが聞きたいのはそこじゃなくってさあ・・・
実際、松元のヤツは、「人数合わせ」―――って言ってたから・・・
市:そんなことが―――
清:それより、何かあったのか?女子部の方に―――
市:ああ、そう言う事ですか。
なるほど・・・私が今、知らされていることと言えば、
『中々成績を残せない「剣道女子部」は、次の大会で実績を残せないようなら、廃部の沙汰となる』
・・・と―――
清:(!)なんだって―――?!
市:しかし、それも致し方のないこと―――
この学園の実力者たる『理事長』は、私のお祖父様・・・なのですから。
ですから、この決定は、理事長たるお祖父様のなされた事―――
一介の生徒であり、生徒会長でしかないこの私に、何の権限すらないのです。
それにしても―――・・・
清:そうだったのか・・・
(ん?)まだ何かあるのか?
市:いえ―――少し気になる情報を、先程提供されましてね・・・
それにこの“タイミング”―――気になるわ。
白鳳学園生徒会長―――細川市子・・・
その彼女が清秀のバックアップをし、その見返りとして清秀も市子の為に色々と動いている・・・
言わばこの“相談”も、そんな事の一環でもあったのです。
そして、知られざる事実―――
それが「白鳳学園女子剣道部、廃部の危機」・・・
しかもその決定は、この学園の実力者でもある、市子の祖父―――「細川重太郎」からなされていたというのです。
それに、ならばなぜこのタイミング―――?
そう思えてならないほど、都合の良いタイミングで、自分に齎せた「ある情報」・・・
なぜ―――女子(学生)剣道界でも、指折りの実力を誇り、ライバル校である雷鳳学園の「ある剣士」と、その頂点を分かつ強者が・・・
なぜ―――学園内に広められ、周知の事実として知られている「運痴」の同級生に、「助っ人」の頼み事を??
それにも驚かされたのですが、市子はたった今、清秀から齎された事実により、
なにやら得体の知れない“謀”が進行中―――なのではと、そう思えてならなかったのです。
つづく