最悪の別離れだった・・・
自分が所属する、クランのメンバーの一人の発案で、
かつて自分の仲間だった者との仲を取り持ってくれる為に、「ロンドン」へとやって来たのに・・・
自分のクランのメンバーの一人と、昔組んでいたユニットの仲間と、激しくやり合った結果・・・
互いに分かり合えることなく、「最悪の別離れ方」をしてしまった・・・
自分のクランのメンバーの一人・・・「リリア」が、
かつてのユニットのメンバーだった「セシル」に言ってくれたことも判る・・・
けれど、「セシル」が自分に言ってくれたことも、判る・・・
「そうなんだ・・・もう、私達って、本当の意味での「他人」になってしまったんだね・・・。」
プリンが想定していた、最悪中の最悪の事態は、ここに起こってしまいました。
なのに―――・・・
「どうして、あんなに辛い表情をするんだろう―――・・・」
それは、その時に感じてしまった、疑問にして最大の矛盾点だった・・・
けれどもう、知らない他人から見ても、修復不能な衝突をしてしまったのだから、
これ以上の長居は無用―――とばかりに、その場より去ったリリアの後をついていった・・・ら?
プ:―――ぅわっ・・・ぷ?
―――!!
リ:[しいぃぃ〜〜っ・・・]
プリン自身、“ただ”リリアの後をついて行った“だけ”だったので、
ロンドン・サーバーのゲートに行き着くまでのルートを、どこをどう進んだ・・・かまでは、注意をしていませんでした。
だから、人気の少ない路地に入った時、不意に背後から口を塞がれ、物陰に吸い込まれてしまった・・・
こんな見知らぬ、不案内な土地で、拐されてしまった―――?
けれどもどうして・・・?
自分のPT内には、このサーバーの出身であり、騎士の上級職もいるのに・・・
プリンは、今回自分の身に降りかかった出来事に、不安を募らせていくばかり・・・・
―――と、そうとばかり思っていたら。
プ:(??)リ・・・リリア?
リ:[静かに・・・]
プ:[あ・・・う、うん―――]
リ:[どう?市子さん・・・]
市:[はい・・・あの場にいた全員、散会したようです。]
リ:[よし・・・]
―――“囁き”解除・・・
市:まさかとは思いましたが・・・あなたも、セシルと言う方の態度に、違和を感じたのですね。
リ:ああ・・・ありゃなんか、思い詰めてる感じがしてね―――
ブ:それは、仕方のない事だと思います。
なにせ、ここの処、出撃はしても空振りばかり―――
この事を、「教皇庁」の方でも、あまり快くは思っていませんでしたから。
リ:そこも原因があるのか―――・・・
プリンがそこで感じたのは、リリアは“ただ”、セシルを嗾けたわけではなかった―――
わざと挑発めいた言動で仕掛け、相手の反応を見極めようとしていた・・・
そしてそれは、「市子」と言う、自分のクランの一員で、リリアの一番の友人と言う存在も、同様だった・・・
それにやはり、所属しているクラン―――サーバーも同じくしている、この「超問題児も」??
しかも―――
リ:ブラダマンテ―――彼女達が負っている「出撃内容」と、「その相手」、
もう少し詳しく教えてくれ。
ブ:はい―――お姉さまの御頼みとあらば・・・
リリアと市子が、同様に抱いていた“違和”・・・
その絞り込みを、もう少し行う為、「セシル」と言う者と、同じクランに所属し、同じサーバーを使用しているブラダマンテに、聞いてみた処・・・
ここ最近の、「異端審問庁」の出撃の殆どが、「公爵ヘレナ」の討伐―――
“プレイヤー”が“プレイヤー”を狩る―――
その他の原因として、最近、無闇矢鱈にNPCやプレイヤーを襲う事案が増えてきた・・・
だからこその、「出撃」―――とも、取られなくもないのですが・・・
リリアは、その部分を聞いただけでも、まだ納得までには至らず・・・
リ:(なんだろう・・・このもやもやは―――)
う〜ん・・・まだ何か、足らないんだよなあ・・・
市:―――と、言いますと?
リ:ああ―――うん・・・
この異端審問の連中が、一人の“プレイヤー”を標的にして狩る―――って、ことがなあ・・・
・・・もしかすると?
ブ:心当たりがある―――と?
市:(!)まさか―――
リ:ああ、その通りだよ、市子さん・・・
「もしかしたら」、この「公爵」って人が、ここの誰かの・・・ひょっとすると「セシル」って人の、「因縁の宿敵」かも知れない・・・。
その言葉を聞くに及び、市子の脳裏には、ある存在が―――・・・
それが、信友をこの上なく苦しめた、曰くつきの存在・・・「征服王・単于」。
それに、条件に当てはめると、当てはまる事ばかり・・・
大勢の徒党を組んで、一つの強大な相手に対抗する・・・「レイドボス戦」
NPCであろうが、プレイヤーであろうが、誰彼かまうことなく襲う・・・
その残虐性に非道性―――ただそれだけでも、リリアはまだ納得できない「引っ掛かり」を感じていた・・・
それが―――・・・
リ:けれど私達は、「子爵」の事を知っている・・・
あの人―――「サヤ」と同じ一族の人が、とてもそうとは思えない・・・
ブ:ですか、お姉さま―――
リ:まあ聞け。
今まで、ここで知ってきたことは、言ってみれば「ここでの事情」だけだ、
けれど、もしかしたら、向うにも「向うの事情」があるかもしれない・・・
だから、ここで一旦PTを分けよう。
市子さん、リーダーの権限渡しとくから、後をよろしく。
市:判りました―――それであなたは?
リ:私は単身、「ベルリン」へ飛ぶ・・・
そこで今、ヴァンパイアの内部で何が起きているかを知ろうと思うよ。
たった一つの事実を知れば、その事だけに集中してしまう・・・
今回の様に、「相手」があれば、相手の事情なりともあるのだろうから、双方をすり合わせて決断をする必要もある。
プリンは、自分よりも年が若いながらも、ここまでの複雑なモノの考え方が出来る者に感心していました。
それと同時に、これまでにも様々な経験をしてきたのだろうと・・・
それに、意外に思われたのは、突然の別離を告げられても、
泣くでもなく喚くでもなく、愛しの君を見送った神殿騎士にもありました。
それを見てプリンは・・・
プリ:あの・・・寂しくないんですか?
ブ:え?
それは寂しいですわ・・・けれど、あれこそが、わたくしが敬愛して已まないお方・・・。
物事を平たくではなく、立体的に・・・俯瞰して見れる―――だからこそ、わたくしが全てを賭けるのに、相応しいのです!(フンスフンス)
「言っている事は素晴らしいのですけど・・・そう鼻息を荒くされては―――」
市子はリリアから、超問題児が残るPTを託されはしましたが、どうにも先行き不安で一杯のようです。
それはそれとして―――・・・
ヴァンパイア達の本拠である、「ベルリン」に単身で赴いたリリアは・・・
サ:{―――なんだ・・・}
リ:{おや?随分と不機嫌そうだな―――}
サ:{ああ悪い―――ちょっと立て込んでいるんでな・・・
それで、どうしたんだ?}
リ:{ちょっと2人きりで話しがしたい。}
サ:{判った―――だが、今すぐには無理だ。
2時間後、ゲートの近くで待っててくれ。}
対象とする人物との、{直接対話}を使用し、ここベルリンでの、唯一の「パイプ」と言っていい「サヤ」と連絡を取り合うリリア・・・
するとやはり、彼女達の内でも、何事かがあったような雰囲気・・・物々しさまではないものの、緊張感が伝わってくる「返事」に「声」・・・
それに、「何事かがあった」事で、対処を話し合っているかのよう―――だった・・・
それが、サヤから提示された「2時間後」・・・
その、2時間が経って、指定された場所にて待っていると・・・
リ:(!)お前は―――「あの時」にいた、「饕餮」だな?!
饕餮:⁅お乗りを・・・子爵様がお待ちかねになっておられます。⁆
かつて、サヤにも協力を要請し、倒した強大な敵―――『四凶・女媧』・・・
その時に、隠されていたサヤの能力により、召喚された一匹の大型肉食魔獣「饕餮」・・・
しかもこの魔獣は、遭遇するMobの、どの魔獣よりも凶暴であり、残忍だった・・・
にも拘らず、今知れた更なる危険性―――それが、「人語を解する」と言う事・・・
このゲームで遭遇するMobの魔獣・・・そのどれよりも手強く、更に人語を解する程の知能を発達させている・・・
恐らく、ヴァンパイア全体を敵に回してしまったら、自分達とて無事には済まないのだろう―――
リリアは、静かに息を呑む・・・今自分達が享受出来ている安寧など、一時限りのもので・・・
実は、綱渡りをしているにすぎないのだと―――・・・
そして、この緊張漂う中、子爵の下に連れてこられたリリアは・・・
サ:ああ―――すまないな・・・ちょいとピリピリとしててな。
それで、用件は。
リ:なあ―――サヤ・・・あんたに一つ聞きたいことがあるんだ。
サ:なんだ?
リ:あんたの身分は「子爵」だ・・・そこんところは、判ってる・・・
だけど、あんたの“上”の存在・・・「公爵」って、どんな人なんだ。
すると、向うからは「チッ・・・」と、舌打ちをしてきた―――
どうやら自分が思っていた通り、ここでの緊張感の原因は、「それ」だった・・・
だからこそ、慎重に言葉を選ばなくては―――
自分の受け答えの一つ一つで、こことのパイプが切られてはならない・・・
そうしたリリアの緊張が、子爵にも伝わったからか―――
サ:全く・・・お前ってヤツぁ―――厄介なことばかり首を突っ込んできやがって。
リ:へへ―――こいつはもう、性分みたいなもんだからね。
言ったら、「死ななきゃ治らない」・・・って類のものさ。
それにな、サヤ―――私はあんたを見込んでの話しをしに来てるんだ・・・。
サ:(・・・)魔堕羅―――
魔:⁅畏まってございます・・・⁆
サ:いいか―――あんたが私を見込んでくれたんなら、私もあんたを見込んだ上で話す・・・。
リ:判ってる―――
サ:実は・・・ここ最近、「公爵」様が、「動き出した」って話しだ。
こいつは、「それだけ」では、あんたみたいな“他人”が捉えると、何のこともないようにも見える。
だがな、「この事自体」は、私らにとっちゃ「厄ネタ」に過ぎないのさ。
リ:(??)おい―――ちょっと待て・・・
待ってくれ、その「公爵」って人、曲がりなりにもあんたの・・・
サ:間違っても、「上司」なんかじゃないよ―――
あの人は・・・なんて言ったらいいのか―――
そうだなあ・・・“幸い”なことと言えば、「ここ」は仮想の世界の内だ・・・
ただ、「ここ」が現実の世界の内だったとしたら、間違いなくこう呼ばれただろう―――
#62;真祖
「この世界」が、ゲーム内の世界だったから、“幸い”なのだ―――と、子爵なる者は言いました。
そして・・・こうも―――
もし、この世界が現実内だったら
そう・・・この世界が、現実内だったら、間違いなく「こう」呼ばれていた・・・
「大公爵」より血を吸われながらも、自己の判断により、その咽喉の渇きを血で潤おし、
その身体を霧や使役している者へと変じ、例え腕や脚―――更には馘を落とされはしても、
驚異の自己再生能力で復活をする―――危険極まりない存在・・・
そして、怪奇の伝承にもあるような、「十字架」や「聖水」「ニンニク」等を物ともしない“人類最大の敵”―――
それこそが『公爵ヘレナ』―――「真祖」なる存在の正体だったのです。
つづく