リリアが―――市子が―――プリンが・・・ロンドンへと訪れていたと、同じ頃。
こちら「東京」では―――・・・
細川市子の本宅である、「細川家」に、一人の“訪ね人”ありき・・・
その“訪ね人”こそは、「神宮寺禍奈子」―――
けれど、実はこの人物こそは・・・
細川:はいはい―――どなたじゃな。
禍:こんにちは―――
細川市子が居住としている「お屋敷」に、誰かが訪ねてきた・・・
しかもこの家は、諸兄もご存知であるように、「白鳳学園」の事実上のトップ―――「理事長」の住まいでもありました。
しかしながら、白鳳学園理事長、御自らが来客を出迎えなければならない理由・・・
それは、現在の期間が、夏季の長期休暇の真っ最中であり、市子はもとよりその両親も出計らっていた様子・・・
だからこそ、理事長本人が出迎えなければならなかったのでしたが・・・
今―――我々は、耳目を疑う場面に、直面することとなる・・・
なぜなら―――
細川:(??)んん〜〜?
ん・ん・ん〜〜〜???
禍:こんにちは―――「坊主」
細川:せ―――先生?
先生ではありませんか??
しかし・・・どうしてまた―――
禍:うん―――ちょっと今日、君に用があってね・・・。
市子の“祖父”に当たる「細川重太郎」は、誰がどう見ても―――の、齢80前後の「老人」・・・
なのに、来客である神宮寺禍奈子なる人物は、どう贔屓目に見ても―――の、20代後半〜30代前半に、見えた・・・
そんな、うら若い女性を目の前にし、一人の老人が口にする―――「先生」と・・・
もし、その言葉が真実ならば、この年若い女性が、どうして年老いた男性の「先生」足り得るのか・・・
細川:いや―――しかし、急に訪れになるとは・・・
生憎、茶菓子などは、ありあわせしかありませんが・・・
禍:構わないでいいよ―――それより、かつての「教え子」である君に、たっての頼みがあるんだ。
細川:それは一向に構いませんが―――
はて・・・?先生におかれては、またなにをなされるおつもりで?
#66;総ては可能性の為に
やはり・・・彼女は彼の「師」でありました。
しかも信じられないことに、彼女は年を取っていない・・・
かつての―――美人教師だった、あの頃のまま・・・
老人は、そこでかつての想いを馳せる―――
新しく赴任してきた、誰しもが目を奪う、美貌の持ち主に・・・
だから彼は、自分だけを見てもらいたくて―――
また自分だけを叱ってもらいたくて―――・・・
その女にちょっかいばかりをかけていました。
その度が過ぎるあまりに、その女を泣かしてしまったこともある―――
取り返しのつかない失敗をしてしまった時も、自分以上に謝ってくれた事がある、「先生」・・・
今では、こんなにも「シワクチャ」になつてしまったけれど、
当時と変わらぬ、“この想い”―――・・・
それに、自分に会いに来た理由も、また教える立場になりたいのだと言う・・・
老人は―――少年の頃に戻り、当時に想いを馳せる・・・
あの当時も、この女は同じことを伝っていた・・・
それが―――『可能性』・・・
今の自分は、この事を教えられた事を、実践できているのだろうか・・・
さながらにして、老人は思う―――
そして―――・・・
細川:ほうほう―――また『可能性』を、お教えであると・・・
禍:うん―――幸い「原石」は見つかっているからね。
あとは研磨するだけ―――
そしてそこから、どう輝きを・・・私達に見せてくれるのか―――
居ても立ってもいられなくなってね。
新たなる「原石」を見つけて、この上ない喜びの表現を、隠そうともしない無邪気な女―――
「あの時と・・・いささかも変わらぬ、この笑顔・・・。」
「この笑顔が、また見られるとは・・・」
老いた教え子にとって、それはまさしくの至福の一時―――
そして、だからこそ思う・・・
細川:構いませんとも、構いませんとも―――
先生の良きように計らってください。
では・・・この夏休み明け―――と、なりますが・・・よろしいか。
禍:うん―――それでいい・・・
ああそれからね、私は「本採用」でなくていいよ。
細川:ほう?それはまたどうして―――?
禍:ふふ・・・君達で、一度痛い目を見たからね・・・。
私が辞めなくてはならなくなった時、君達のあの寂しそうな表情・・・
あれは効いたよ―――それまでの、どんな君の悪戯よりも・・・
だから、「実習生」―――と、言う事で・・・ね。
かつての美人教師からの、たっての願いを・・・
いつもは厳格な顔つきの、強面理事長が、相好を崩して快諾をする・・・
また、あの快活な日々が戻ってくる―――
自分はすでに老いさらばえてはいるものの、若き孫娘が、この女から何をどう教わり、成長していくのか・・・
想像しただけでも「わくわく」としてくる―――
『可能性』―――
「今ある「可能性」を秘めし子らよ、存分にその能力を発揮せよ。」
「そして、我が師の求める、「可能性」を得よ。」
「さすれば、前途の闇をも照らす、一条の光明となるだろう・・・。」
老いさらばえし者は、思う・・・
自分には、ついには師の求める「可能性」の事は、判らなかった―――
けれども、その師が、再び教鞭を取ると言う―――
それはまさしく、自分が開いた学び舎で、「可能性を持つ者」・・・「原石」を見つけたからに、他ならないと―――
それから幾何かの時を経て―――
長期の夏季休暇も半分が経過―――丁度頃合は、「お盆」に差し掛かろうとしている頃・・・
松元璃莉霞は、またしても「蜆亭」の板場に立っていました。
そしてこれには、ある事情があったからなのです。
璃:ええ―――っ?明日??
瀬:「ええ―――あなたをご指名のお客様がいらしてね?」
「それより―――どうしたの、何か都合でも悪いの?」
璃:え・・・はい―――・・・
明日、友達と会う約束をしていまして・・・
瀬:「そう―――残念だけど、その約束は断って頂戴。」
「これは、あなたの将来を左右するかもしれないのだから。」
璃:そう・・・ですか―――・・・
それで―――私を指名するお客様・・・って、どんな人で何名様なんでしょう・・・
瀬:「“誰か”―――までは、今はまだ明かせないけど、お客様の数は「2名」よ。」
またしても―――の、急な連絡に、明日会って遊ぶ約束をしている信友に、行けなくなったことを連絡する璃莉霞・・・
市:ええっ―――?また瀬戸様が?
璃:「う・・・うん―――ゴメンね、急で・・・」
市:それは構いませんが―――
それにしてもこの時期に、一体誰なんでしょう・・・?
璃:「判らない・・・誰かまでは教えてもらえなくて―――」
「でも、「2人」ってことまでは、判っているんだ・・・」
もう既に、信友の“柵”の関係は、取り払われたはず―――
なのに・・・の、このタイミング―――
それに、「時期」にしても、引っ掛かりはありました。
明後日は「お盆」と言う事もあり、仲良し同士で盆踊りに興じる―――
(とは言いつつも、彼女達の真の目的は、「夜店回り」にあったようでして・・・)
それに今日は、その「盆踊り」の為に、「浴衣の新着」をする為に、集まる予定だったのに・・・
市子はすでに、悪い予感しかしていませんでした―――。
しかもこの方、「蜆亭」絡みでは、悪い予感ばかり・・・
けれど、相手が相手なので、どうすることも出来ない―――
だから、ここ一番で頼りにしている・・・
小:ん〜?璃莉霞のやつ、明日来れないって?
なんでまた・・・
市:「率直に申し上げましょう―――また「蜆」ですよ・・・」
小:またかい・・・相変わらず、あこぎなやっちゃ―――
ん〜〜で?聞いてたのはそれだけか。
市:「なんでも、璃莉霞さん指名のお客様は、「2名」―――との事ですが」
「“誰か”までは聞かされていないらしくて・・・」
小:(2名・・・って)おいおい―――そりゃ、また、まさか・・・
市:「「シベリア」の??」
「しかし・・・あり得ない話ではありませんが、またどうしてこんな時期に・・・?」
その市子からの問いに、小夜子も答えられるわけもなく―――
なにしろ、あの「謀略の塊」のすることは、その存在のみぞ知る事なのですから。
ここで―――はっきりした事だけを申し述べるとすると、
小夜子の推測は、「全くの検討外れ」―――
つまり、今件に関しては、「シベリア」は、全く関与すらしていないのです。
ならば・・・“誰”―――と、言う事になるのですが・・・
ここで言うべきは、今回の相手は、彼女達自身も全く関係がない―――と言えば、
全くそうではなかったのです。
そう・・・“全く”「関係がない」―――のでは、ない・・・
けれども、遠かれ近かれ、関係がある出来事・・・
それは、瀬戸が、璃莉霞に連絡をした際の、「最後のあの一言」・・・
「あなたの将来を左右する」―――
「あなた」・・・璃莉霞の、将来を「左右」する―――?とは??
そんな強烈な言葉を遺し、出来上がったばかりの料理を、お客様の下へと運ぶ璃莉霞―――
その「お盆」は、心なしか、少し震えている様にも感じました・・・
璃:失礼―――します・・・
――どうぞ――
今回は、「あの時」の様に、自分をサポートしてくれていた、「臨時女将」は、付いてくれてはいない・・・
入室をする際の挨拶も、どこか緊張に震え、障子を開け深々と頭を下げる璃莉霞・・・
そして、その頭を再び持ち上げた時―――
彼女は、今回の事の重大さを、まざまざと思い知ったのです。
それもそのはず―――
なにしろ、今日自分を、敢えて“指名”した二人のお客こそ・・・
璃:おば・・・様に―――・・・
お父さん・・・?
道理で、今回自分をサポートしてもらえない・・・と、思っていたら、
お客の2人の内の1人は、「森野婀娜奈」その人だった―――
そして・・・
もう一席にいたのは、実の父なのに、「父」と呼べない存在・・・
父:すっかりと、大きくなったな―――璃莉霞・・・
そう・・・璃莉霞の“今”の姓は「松元」―――なのですが、
これには浅からぬ理由というものがありました。
璃莉霞が7歳の時、実の母の行方が判らなくなってしまった―――
その理由も、一切何も教えてもらえない・・・
古くからの親交あるこの2人に関しても、頑なに口を閉ざしたまま―――・・・
「どうして―――・・・」
「どうして、私の家の事なのに、私が知ることが出来ないなんて、どう言う事??!」
璃莉霞の・・・“元”の姓は、「征木」―――
これは以前にも、ミリティアと会うのに際し、ミリティアの口から告げられた事でもあるのですが・・・
それでも、真相までは語られなかった―――・・・
そして「10年」―――あれから「10年」・・・
その真相が紐解かれるのが、「今」であるかのように、“例の一件”に深く関わっていた、3人の計らいでなされる・・・
そしてそれは、衝撃そのものであった―――と、伝えられるのです。
つづく