その日の放課後―――松元璃莉霞(まつもとりりか)は、真っすぐに家には帰らず・・・

とは言え、自分の親に『今日は遅くなる』と言う(むね)のメールを送り、

その「建物」・・・一見すると厳格に過ぎる(たたず)まい―――

普通の一般人なら近寄り(がた)く・・・なるべくなら関わりあいたくはない―――

そんな雰囲気漂う建物を前に―――

璃莉(りり)()はやはり、一般人のするように「息を呑み」、入り口の「門」の前に、(たたず)んでいたのです。

 

 

 

#7;「彼女(璃莉霞)」の真実

 

 

 

しかし、勘違いをしてはならないのは、何も璃莉霞は、一般人のように怖気(おじけ)づいて“そう”しているわけでは、ない・・・。

言わば彼女がその場に(たたず)んでいる理由こそは、それこそが璃莉霞本人の意思で、“そう”しているに他ならなかったから・・・。

 

そして―――重厚な()を立て、開き行く・・・言わば『修羅の門』を(くぐ)る璃莉霞。

 

そんな彼女も、颯爽(さっそう)と「あるモノ」に着替え始めたのです。

 

刺子(さしこ)の道着」に「紺青(こんじょう)長袴(ながばかま)」―――誰がどう見ても・・・の、『武術家』の出で立ち。

そこで疑問が湧いてくるのです。

 

確かに璃莉霞は、学園きっての「運動音痴」として知られているのに・・・

その「道着」の着こなしたるや―――何ぞや?

 

現代を生くる同年代の“若者”にしては、きちっとした(たたず)まいで座る「正座」をこなす・・・

彼女たるや―――何ぞや・・・?

 

目を半目に閉じ、静かに「瞑想」に(ふけ)る、その姿勢たるや―――何ぞや?

 

 

しかしそう・・・「あの噂(運痴)」こそは、ある者の意思として、周囲(まわ)りに知らしめられた“行為”・・・であることが、判るのです。

 

本当は・・・璃莉霞は―――

 

 

そんな璃莉霞の背後に迫りたる、何者かの“(かげ)”・・・

一体どこから現れた―――?

 

璃莉霞が、この「武道場」とも言える、この建物に入る前までは、人気(ひとけ)など微塵にも感じていなかったのに・・・

 

けれど、“その存在”は―――この「武道場」の“(ぬし)”たる存在は、

最初からこの建物内にいたのです―――

 

そして、璃莉霞に気配を気取られず、(おもむろ)に・・・所持していた木刀で、璃莉霞の脳天を――――???

 

 

誰?:(・・・)フン―――()けるのだきゃあ、上達しよったのう・・・。

璃:(・・・)お(たわむ)れを―――「師匠」

  それで、彼方からのお返事は・・・?

 

師:ん〜〜〜―――?来たでぇ・・・

  ついでに言やぁ、OKも取り付けた・・・。

璃:(あ・・・)良かった―――

 

師:じゃがのぅ、OKは(もろ)うた・・・が、案の定「条件」を突き付けられたわい―――

璃:(!)条・・・件―――

 

師:おどれも、それで何かあったんじゃろう―――つまりゃ、そう言う事よ・・・

  「協力の要請」は、取り付けた・・・が、その「代償」として、“見せ”言われたのよ。

璃:(あ・・・)それで・・・やっぱり―――

 

師:ヤレヤレ―――可愛い弟子からの申し出じゃあ思うて「お願い」をしてみりゃ・・・

  あんないつぁ―――ワシ等の足下見やがってからに、えらい“借り”を作ったもんよ・・・のう!w

璃:・・・済みません―――

 

師:ん〜?まあええことよ―――

  おどれの方も、あがいな事になりさえせにゃあ、こがいなことには、ならんかったんじゃのに、のう・・・。

 

 

この――― 一聞(いちぶん)に関しても、非常に独特な“言い回し”・・・

聞く人間が聞けば、「ある職業(極道)」を彷彿(ほうふつ)とさせるような・・・

その人物の名こそ・・・『神薙麗華(かんなぎれいか)』―――その彼女の出身地こそ、独特な言い回しをする地域・・・

 

そう、あの独特な言い回しこそ、麗華なる人物が出身としている地域ならではの、「方言」だったのです。

 

 

そして―――この師弟関係にある者同士の会話の中で、非常に気になる部分が・・・

それが、麗華自身が璃莉霞からの連絡を受け取り、「とある人物」に“取り次ぎ”を行った・・・

しかも“取り次ぎ”先からは、実に法外とも言える「利息」を―――

 

それは言わば、「門外不出」であるはずの、「自分たちの“流派”」・・・

“それ”を、「その人物」の“前”で「披露せよ」―――との事だったのです。

 

けれど麗華は、程度の嫌味は言いはすれど、自分が育てている“愛弟子”からの頼み事を、無下にするわけにはいかなかったので、

その「条件」を呑んだのです。

 

それに、“師”である麗華も、“弟子”が今、どう言った苦境に陥っているかを、知り過ぎるくらいに知り過ぎていた・・・

信じていた人物に“裏切ら”れ―――急襲を受けた挙句の果て、認めたくはない「敗北」―――・・・

 

“その”事実を知った時、師は弟子が受けた屈辱に憤慨をしました―――

ですが同時に、知らされた“事実”・・・に、怒りの矛先を納めざるを得なかった・・・。

 

それは、自分も所属している『ある団体』にも、関わり合いがあったがために―――・・・

そして、弟子の『試練』とも、思ったがために―――・・・

 

“ならばこそ”と、思い・・・弟子に『あるクエスト』を受けるよう、促せたのです。

 

そして、その『クエスト』は、“ある機会”をして、進行しつつあった―――・・・

 

漸くにして揃った「仲間」が二人・・・に、強力な「助っ人」として、『ある勢力』から“一人”借り受けることが出来た・・・

しかし、その“代償”は、「高く」つきました・・・。

 

なにしろ、自分達の『流派』は、「門外不出」―――

他人には、「おいそれ」とは、見せては―――または、知らしめては・・・ならないもの―――。

 

なぜならば、自分達が修めている、『流派』とは―――・・・

 

 

そんな師弟も、今日の仕上げとして“対峙”をすることとなり・・・

 

そこで“我々”は見かける―――

 

決して、目にしては、“ならない”ものを―――・・・

 

一介の、女子高生としては、“絶対に”あってはならない事実(モノ)を―――!!

 

 

麗:フフフ―――ククク・・・ようやくこなれてきたようじゃのう・・・璃莉霞よ。

璃:――――。

 

 

その女子高生の身体から噴出しているのは、“闘気”―――?!

いや、その表現では、(いささ)かにして、(なま)(ぬる)い―――

 

今・・・璃莉霞の全身から噴出しているのは・・・明らかなる“殺気”―――

 

他人を・・・傷付け―――“殺したい願い”“想い”を、抑えきれずに噴気してしまう―――

普通の女子高生には、不釣合いな“モノ”を、会得してしまっている、「彼女」は、

本当は何者―――???

 

いや・・・だからこそ分かることがある―――

そんな、例え普通の女子高生であろうとも、不釣合いの“殺気(モノ)”を出す者を、

一般の・・・それも『道場剣法』の“場”に、一緒くたにしては、ならないと・・・

 

“それ”は、神薙麗華が見せた、「最後の人間らしさ」であった事に、変わりはなかったのです。

 

そう・・・璃莉霞は、確かに十数年前まで、同級生である青柳柊子と一緒の道場に通っていました。

(尚、この道場には、あの清秀も通っていた模様・・・)

 

けれど、“ある日”を境に―――

急に、今まで通っていた道場とは、別の道場―――

これがつまり、神薙麗華が開いていた、「この流派」の道場―――と、言う事になってくるのですが・・・

 

その“道場主”である神薙麗華からは、「この流派」の道場に通う以上、次のような“注意”を受けていた―――

 

「野生の“虎”たる“お前”が、飼われた(いぬ)如きと、一緒に武を鍛錬するのは、余りに危険・・・」

 

あの当時は―――師から言われたことを、よく理解できていませんでした。

が・・・“今は”、怖いくらいに理解(わか)る―――

 

「私は・・・他の人と、普通の人達と、一緒に鍛錬をしてはいけない。」

 

だからこそ、昔の馴染みから声をかけられた時、すぐに“二つ返事”で返しそうになりましたが、

自分が、(まか)り間違って、その剣を()ろした際―――相手の“選手”がどうなるか・・・

そんなことは、判り切った事なのですから。

 

全ては―――“向こう”からの返事待ち・・・

そして、師から告げられる、その“代償”としての“条件”・・・

 

その翌日―――璃莉霞は・・・

 

 

柊:えっ―――いいの?

璃:うん・・・私もね、一晩考えたんだ―――。

  それに、柊子達の事も、判るから・・・。

 

柊:ありがとう―――ありがとう!!

璃:うん・・・いいんだよ。

  でもね―――ほら・・・私は・・・

 

柊:うん、判ってる―――璃莉霞になるまで、絶対にそうはさせないから!

 

 

昨日とは、まるで違う返事に、

「ああ、これでなんとかなる。」

と、安堵顔をする柊子に、少し璃莉霞は胸を痛めるのでした。

 

そう・・・これは、壮大なる「茶番劇」―――

 

「“()”のお方は、「見たい」と仰っている・・・。」

「私達が修めた“武術”を・・・」

「現代のこの世では、宜しく『殺人剣(拳)』と呼ばれる、我が流派―――『古廐薙(こくてい)流』の神髄を」

「おそらく私は、何もしなくてもいい・・・」

「ただ、「団体戦」の大将戦に出て、無様に“偽りの(創られた)敗北”を喫するだけでいい―――」

「言わば、「見世物(みせもの)」同然の、“その催し物”で、きっとそうなるに違いはない・・・」

「“()”の方―――「ヴァンパイアの大公爵」様が、「見たい」と仰せならば、見せてやる・・・。」

「血みどろの―――血に(まみ)れた、我が流派の神髄を!!」

 

(うち)に、自分達の“流派”のなんたるかを(たぎ)らせ―――

しかし、周囲に気付かれることもなく、心に誓う璃莉霞・・・。

 

そんな彼女達とは裏腹に、昨日とは全く違ったモノを見せられていた清秀は―――

 

 

清;お嬢―――大変だ!!

市:(!)またあなたはっ―――!!

 

清:あ・・・っ、スマネエ―――

市:(・・・)まあいいわ、それでどうしたの?

 

清:あ、いや・・・松元のヤツが、柊子からの頼み、受けやがったぜ。

市:(えっ・・・)それは本当?!

 

清:ああ―――オレも、間近で見せられてビックリしたのなんの・・・

 

 

たった今―――自分が支援をしている者の口から、実に興味深い事実が知らされました。

昨日は(てい)よく断ったハズなのに、今日は急に手の平を返したかのように、いい返事をした―――

しかもその生徒は、広く学園内に於いては「運動音痴」として知られている・・・ハズ―――なのに・・・?

それが例え、“負け役”が確約されている『捨ての大将』・・・だ、としても??

 

そんな事に興味を抱きながら、市子もまたスケジュールを調整するのでした。

 

 

そして一方―――こちらは・・・また別の場所にて

 

 

し:ふぅ〜〜ん、へえぇ〜〜〜

  先輩ようやく“その気”になったんだぁ☆

  そい―――じゃ、ちょいと“報告”に寄ろうかなっ―――と☆

 

 

その“場所”とは、白鳳学園一年生の教室がある階層・・・

その一角にある教室にて、先日気軽に挨拶を交わした“存在”が、「(ようや)く動き出した」事実を把握する、高校一年生の姿が―――

 

しかしなぜ―――なぜ“彼女”は・・・違う階層にて交わされたやり取りを、こうも早く取り入れることが出来たのか・・・。

 

そして、また“我々”は、知らねばならない・・・

この“地域”にて、脈々と受け継がれ行く―――“血脈”を。

 

 

 

つづく