時刻は、仮想内に於いての23:00過ぎ・・・つまりは真夜中―――なのですが、
その街は眠らない・・・砂漠のど真ん中に聳え立つ、摩天楼の数々、
そしてそれらに纏わりつくようにして建つ、店舗の数々・・・
その店舗の数々が、煌々として灯りをともし、それらがまるで荒野に落ちた陽の光の様にも思えた。
『不夜城』と、誰しもがそう言う―――
“夜”の商売をする者―――“闇”にて暗躍する者が闊歩する「サーバー・エリア」、
それこそが・・・『アトランタ・サーバー』なのでした。
そして、この一角に、女弓兵が良く利用していた「情報屋」が、ある「組織」に囚われていると言う・・・
その者を救い出す為のクエストが、今―――開始される・・・
蓮:(あの・・・建物か―――)
〈こちら蓮也、それらしい建物に見張り2名・・・〉
弓:〈了解、今から沈黙させるわ〉
ヒ:(そんな!? 音が全く聞こえなかった―――・・・)
何が驚いたか―――と、言うと、その女弓兵の腕前・・・
と、言うより、その「弓」の性能にありました。
確かに、その街は「不夜城」にして、眠らない・・・その騒々しさも相俟って、
だからこそ、弓から放たれた矢の音が聞こえなかったのかも知れない―――
だとしても、例の目標としている人物が監禁されている事が、判ってしまうほどの警備の有り様だったので、
その見張りの2名を射殺したのてです。
しかも―――・・・
蓮:〈あ・・・やはり鍵が掛かってるな、どうする?壊すか―――〉
弓:〈待ちなさい。〉
〈そう短慮を起こすものではないわ、そちらへと行くから、その場へと待機。〉
“疑問”が、徐々に“疑惑”へと変わる・・・
今、自分達に指示を与えるにもしても、まるで何かを臭わせるかのような物言い―――
そう・・・まるで、「軍隊」のような―――??!
更には―――
弓:セキュリティは甘いようね―――これなら軽いモノだわ・・・。
まるで手慣れた手つきで、鍵の掛かった扉を解錠する・・・
確かに、PTの仲間としては、非常に頼もしい限りではあるものの、もしそうではない場合―――
蓮也は―――秋定は―――ヒイラギは、その事が気がかりと成って来たのでした。
しかしながら、彼ら彼女のそうした思惑とは裏腹に、クエストは続行され、
自分達の征く手を阻む者達を排除していく蓮也たち・・・
そして―――
弓:これは・・・先程のより時間がかかりそうね―――
秋:(だが、その手並みは尋常ではないな・・・)
誰がどう見ても―――の、「檻」だと判る施設で、この建物に侵入する時に解錠した時のモノとは、少しばかり難度が高い、
セキュリティが施された「檻」の錠前を解く女弓兵・・・
そして、その場で待ち受けていた者とは―――・・・
弓:迎えに来たわ、『クリューチ』。
ク:あんた―――・・・
弓:少しばかり事情が立て込んでいてね、あなたの能力を貸してもらえない?
ク:そちらの御三方は・・・?
弓:あなたを救い出すため、『あそこ』へと侵入する為の、仲間よ・・・
ク:了解―――それで?要り用のモノは?
ボロ布を纏い、少しスレたかのような物言い―――
未だ外見上では、“男”なのか“女”なのか、杳として知れないこのプレイヤーこそが、
女弓兵が、昔から利用していた「情報屋」・・・その名が『クリューチ』。
(名の由来は、ロシア語で「鍵」を意味するのだとか)
その『クリューチ』なる者と、女弓兵は、彼女達独自のやり方で、「ある情報」を拾い出したのです。
その情報こそ・・・
蓮:はああ? ちょっ・・・『ロサンゼルス・サーバー』って―――
ヒ:(現実内でも、治安の悪いあそこへ―――?)
秋:どう言う事かな?
弓:“これ”が、最初にあなたに持ち掛けた「案件」よ―――
蓮:って・・・ちょっと、おい―――秋定さんよ??
こりゃ一体どうなって―――・・・
秋:まあ落ち着け―――蓮也。
ヒ:(いや・・・落ち着け―――ってw)
秋:それで・・・?「監獄破り」でもするつもりなのかね?(ニヤリw)
仮想内に於いては、その「サーバー・エリア」は、特別な呼称で呼ばれていました。
それが、『監獄都市』―――
一つの、天を衝くかの様な、壮大且つ巨大な建造物・・・
これこそが一つの「監獄施設」であり、その施設を中心に街が形成されている・・・
しかも、クリューチから提供された“情報”そのものが、この「監獄施設」の“見取り図”だったのです。
ここまでのモノを提供されて、秋定は直感的に、「その事」を女弓兵と情報屋に突き付けるのでしたが・・・
弓:まさか―――私は、こんな少数で・・・それも、まだ嘴の黄色いひよこちゃん達とご一緒して、
ここを落とそうとするほど自信家ではないわ。
それに―――ここの「総責任者」の事を、何て呼んでいるか、知っているの?
秋:ほう―――・・・なんと?
弓:クリューチ―――
ク:なんて・・・呼んだ方がいいんですかねえ?ww
弓:“総て”―――
ク:さいですか―――ま、この私でも知り得る限りでは・・・
このエリア一帯の「警察機構の長」、「刑期100億時間の囚人」・・・
そして、最も親しまれている“愛称”―――
#71;獄 長
異なる3つもの“称号”を持ちながらも、そのどれもが“一つ”としてではない・・・
「警察機構の長」とは、「署長」「総監」「本部長」など、お堅い職業のハズ―――なのに・・・
「刑期100億時間の囚人」とは、文字通り“長期服役中”の「囚人」・・・のハズ―――なのに・・・
その余りにも強烈にして、そのエリア―――と言うより、北・南米に於いては、知らない者は誰一人としていない『獄長』。
この監獄施設の、総責任者の名―――
そんな存在の領域に、これから自分達は侵犯のだと言う・・・
その事に、蓮也は、ヒイラギは、顔を強張らせました。
ただ一人、秋定を除いては―――・・・
その様相を見ていた「クリューチ」なる者は・・・
ク:ふぅん―――お兄さん、中々見込みあるね。
秋:ん?褒めてもらえて何よりだw
弓:ところでクリューチ―――「あの人」は?
ク:・・・いるよ―――?
この地獄の蓋を、抉じ開ける為に―――ねw
それに、私らのクランのお仲間にも、連絡はつけときましたよ。
弓:相変わらず・・・早い仕事で、なにより―――だわ。
危険な臭いしかしない―――この2人のやり取り・・・
蓮也にしてみれば、偶々トウキョウ・サーバーをぶらついていただけ・・・
更にヒイラギにしてみれば、その蓮也から連絡があったから、ついてきただけ・・・
秋定は、この「さすらいの弓使い」を名乗る女性に、見込まれたから話に乗っただけ・・・
それにしても、この謎の女は、一体何者なのだろうか・・・
淡い蒼の長髪、両の眼を塞ぐ眼帯を除けば、整った目鼻立ちをしており、
ふくよかな肉体に、引き締まった筋肉・・・身長は思いの外高く、(やや、秋定(180cm)よりは高いか?)
恐らく、この人物のリアルが「モデル」だとしても、十分に信用足りうるものはあった・・・
それに、もう一人の謎の人物―――
身長はヒイラギ(170cm)よりはなく、濃い緑のクセのある短髪、瞳の色も碧で、顔面には「そばかす」もちらほら、
それにボロ布を纏っているので、性別までは判らない―――ながらも、この謎の女弓兵も頼りにしている辺り、
相当な情報収集能力があるのだろうか・・・
それと、気にしなければならない存在―――
それが、先程女弓兵が口にしていた「あの人」・・・
しかもどうやら、クリューチの方でも、その人物の、現在の居場所まで特定できているみたいなのです。
そして・・・その「あの人」なる人物と合流するに当たり、更なる衝撃の真実が―――?!
そう・・・このクエストに参加する、「あの人」なる存在こそが・・・
蓮:あっ・・・!あの人は―――!
秋:どうした?蓮也・・・
蓮:いや、以前会った事のある人と、良く似てる人がいるもんだな・・・って―――
ある巨大建造物を前に、佇む存在ありき・・・
その存在は、余りに小さく(推定100cm以下)、しかし杖を片手に宙に浮いていた―――??
全身をボロ布が覆い、かつて一度会った事のある蓮也でも、依然としてその存在性は不明のまま・・・
けれど蓮也にしてみれば、どちらかと言うと“恩師”に近かった・・・
うだつの上がらなかった自分を、OUS修得まで導いてくれた存在・・・
そう言えば、あの時も言っていた―――
この、謎の小さき存在の呼称・・・
蓮:『拳帝神皇』―――
秋:なに―――?!
ヒ:どうしたの?
秋:オレも、噂でしか聞いたことがなかったが・・・
それが“アレ”か―――
かなり有名な話しだ、その者は、素手で総てを排除出来るチカラを持っているとされている―――
蓮:ああ―――確かにそうだった・・・
秋:お前は、見たことがあるのか?
蓮:ほんの少し・・・だけどな。
「フフ―――・・・いつもの“あなた”らしくないわね。」
「この私から見ても、このちっぽけな少年の、ぞこに“それ”を見い出したのか・・・」
「けれど、少しだけ興味が湧いて来たわ?」
両の眼を、眼帯で塞ぎつつも―――その女は、“総て”を見渡していました。
その、「拳帝神皇」と呼ばれた者に対し、群がりくる者達も・・・
そしてまた、自分が「射撃」を行うのに、丁度いい「位置取り」も・・・
視えていない、その眼で、総てを見渡していたのです。
つづく