“難攻不落”の「要塞」―――と、讃えた方がいいのか・・・

自分達の征く手を阻む、超巨大な建造物『監獄』。

 

その圧倒的な施設の内部にあるとされる、「獄長」と呼ばれる存在がいる部屋まで到着しなければならない・・・。

 

そして、自分達の仲間―――に、なると予想される、最も小柄な存在が、

自分の数千倍もある、超巨大建造物を見上げている・・・

 

それを見た蓮也は、ひょっとするとこの存在が、以前会った恩人なのではないのかと思い、呼びかけてみると―――

 

 

蓮:おぉ―――い!拳帝神皇(けんていじんのう)さぁーん!

 

拳:ん〜?

  なンナラにかと思ウトったら、蓮也か。

  おドレ前はなンデぜ、こんガァな処に?

 

秋:(!!)

ヒ:(なに・・・この人、何て言っているの?)

 

 

相も変わらず、読解不能な言葉を話す人物・・・

しかしそれでも、この謎の小さき者が、蓮也と知り合いだと言う事は理解できたのです。

 

それにこちらも―――・・・

 

 

弓:フフフ―――相も変わらずで、何よりだわ。

 

拳:おンドレ前か―――ホンで?

 

弓:一応、この人達が、私の眼鏡に適った者よ。

 

拳:ふむ・・・ホそれイで、あンナいつらは。

 

ク:少しばかり遅れてくる―――と、さ。

  それより(あね)さん翻訳ソフト更新してないん?

 

拳:余計な世話よ・・・

 

ク:ン〜〜な(かた)いなさんなって

  聞いてるこっちが、疲れてくるんサ。

 

拳:そホれンなら好きにセしェな。

 

 

この謎の、女弓兵が持ち掛けたクエストの発注元は、この「拳帝神皇」だった―――

までは良かったものの、彼ら・・・蓮也たちが思い描いていたのとは、少し違っていた・・・

 

当初蓮也たちは、この謎の女弓兵からのクエストは、PT単位で為すものと思っていた為、

今の事情なりを聞かされたことにより、別のPTも参入する・・・

つまり、これは「レイド戦」を予感させてきたのです。

 

しかし・・・それだと、このPT構成では、不安が残る為―――

 

 

蓮:な―――なあ、ちょっと・・・

 

拳:ん?

  どうしたンナラ、蓮也。

 

蓮:い、いや、このクエスト・・・って、オレ等のPTだけじゃねえのか?

 

 

蓮也は、今、自分が思っている事・・・すなわち、他のPT構成員である、秋定やヒイラギも同じ疑問を持っているだろう・・・と、

素直に拳帝神皇に話してみたのです。

 

すると―――

 

 

拳:おんどれは―――何を言うちょるんなら?

 

蓮:(!)

秋:(!)

ヒ:(この・・・方言!)

 

 

するとこの時、丁度翻訳ソフトがアップデートされたらしく、それまで読解不能だった、この人物の言語が、

今度は強烈な、ある地方の方言として、聞き取れるようになったのです。

 

それはさておいて、先程の蓮也の質問に、思う処と成った拳帝神皇は―――

 

 

拳:おんどれは―――なにをどがぁに伝えたら、あんないつに喧嘩売る言う事になるんなら。

 

弓:でも、間違ってはいないはずよ。

  それにここは、名にしおう堅牢な城・・・の、ようなもの。

 

  しかも今は、監督者不在で、例え味方・・・或いは仲間であったとしても、入る事さえままならない。

  現に、説得に向かった“彼”が、未だに帰還していないのが、大きな理由ではなくて?

  ―――『レヴェッカ』。

 

レ:ち・・・痛い処を衝きよるよのう―――

  まあ最悪、あんな一が戻らんかったら、“奥の手”を出すしかなかろうよ。

 

 

そう・・・「拳帝神皇」ことレヴェッカは、ただ―――ただ―――この「監獄」の最上層に居座るであろう、

「獄長」に、最終通告と説得を試みている、あるプレイヤーの帰還を待っていただけ・・・

 

ただここは、治安の悪さだけで言えば、全サーバー・エリア中「最悪」と言われていただけに、

彼の者の(たま)()為、無益殺生を繰り返していたようです・・・

 

―――と、そこへようやく。

 

 

誰:すまん―――待たせたな。

 

誰:状況は―――?

 

 

一人は、銀に赤いメッシュの入った長髪を(なび)かせ、その両手には手袋

そして何やら中空には、時折光の反射によってキラキラと光るモノ―――

それは後に、「鋼糸」だと言う事が判るのですが、

それよりも女性であるはずなのに、ビシッとスーツやパンツを着こなす辺りは、男装の麗人か・・・とさえも思われるのです。

 

そしてもう一人は、栗色の短髪に、やはり一緒にいた女性プレイヤーと同じく、お(かた)イメージシャツ・ベスト・スラックス姿男性・・・

しかし、その眼光は、視るものを射抜くような鋭さがあった・・・

 

その彼から、遅れる事数分―――

 

藍色の、ちょっとクセのある挑発に、黒河のロング・コートを羽織り、背中には赤い逆さ十字が印象的な女性・・・に、

妙にガタイが巨きく、千切れたデニム製のジャケットの両腕から覗く、丸太の様な両腕が印象的で、

黒い短髪に赤いバンダナ、顔には軍隊製のサングラスが特徴的な男性。

 

そして最後の一人が・・・

あのガタイが巨い男宜しく、身をアーミー・ルックで固め、金の短髪、顔には“歴戦”を物語るかのような傷痕、

短めの口ひげをはやした男性

 

しかして、この彼らこそが―――

 

 

 

#72;DIVA

 

 

 

蓮:DIVA(ディーヴァ)

 

秋:聞いたことがある・・・

  この仮想内で起こる犯罪の数々を常に監視し、捜査する「組織」があるそうだが・・・

  しかも一説によると、「バウンティハンター」や「運び屋」「軍隊上がりの特殊警察隊」もいると聞くが・・・

 

クル:ふぅん―――あんた、見かけによらず、冷静なようだね。

   私がその、『賞金稼ぎ(バウンティ・ハンター)ヤツさ。

   名は、『クルセイダー(十字軍)だ。

 

バン:そしてオレが、こいつとよくつるんでいる、『運び屋』の『バンディッド(山賊)だ、よろしくな。

 

ワス:自分は、『大尉』と呼ばれている、『ワスプ』であります!

 

バジ:そしてボクが、『邪眼使い』の『バジリスク』だ、よろしく。

 

バー:そして私が、彼らを束ねる『ウオーロック(人形遣い)ことバーディだ。

    それで・・・?説得に向かった『カリギュラ』はどうなっている。

 

 

レ:まだ戻ってこん―――

  ほいで、『クリューチ』どうなぃ―――

 

 

緊急招集(コード・アッセンブル)により、そのクラン・・・『DIVA』構成員(その時点で)総勢6名は、

これから起ころうとしている事案の為に、集められた・・・

 

 

それも恐らくは、仲間の一人と見られている、『カリギュラ』なる者の無事の帰還をいた・・・

 

 

すると―――??

それらが無駄であったか・・・とでも言う様に、監獄の最上層付近で爆発が起こり、

同時に、緊急時に鳴動するサイレン・・・

 

緊急警報発令(エマージェンシー)―――         緊急警報発令(エマージェンシー)―――

タダイマ                 凶悪犯ガ                逃走中―――

繰リ返シマス           タダイマ        凶悪犯ガ      逃走中―――

 

そして、“何”かが―――??

 

 

バジ:「止める」ぞ、バーディ!

バー:OK―――!

 

 

その瞬間、時間(とき)停止(とま)ったかのえた・・・?

現実内でも、仮想内でも、起こり得ないことが、起きた??

 

しかし、それを示すかのような事態を・・・

確かに、「監獄」最上層より落ちてきたのは、“人間”でした。

 

とは言え、数100mの高度から落下して、無事な人間―――

いや、人間ならいざ知らず、動物や無機物でさえも、無事であるはずが・・・ない。

 

だがしかし、落ちてきた“男性”は、無事―――

『バーディ』と名乗った女性が、張り巡らせた「ネット」で、地上に激突―――と言う大惨事は回避された・・・ものの、

近くでは、『バジリスク』と名乗っていた男性が、大きく肩で息をしていた・・・?

 

これは一体どうしたことなのか―――・・・

 

秋定は―――蓮也は―――ヒイラギは、常識的にありえない出来事を目にし、さながらに息を呑む・・・

そして、恐る恐る“それ”を口にする―――

 

 

蓮:な―――なあ・・・も、もしかして、今、時間停止(とま)ってなかった・・・よ、な?

 

クル:ん〜〜〜?いんや?停止(とま)ってたよ。

 

ヒ:そんな?まさか―――・・・

 

バン:否定したいのはヤマヤマだが、こいつばっかりは事実なのさ。

 

ワス:だが・・・全盛期よりは劣っている・・・

 

 

やはり、思い違いなどではなかった。

 

時間(とき)停止(とめ)める能力・・・?

 

ただ、仲間の一人からは、その能力は徐々に弱くなってきていると言うのです。

 

それを証明するかのように、能力者の態様を目にすれば、判ろうかと言ううモノ・・・

 

だが、ならばなぜ、この男は、監獄最上層から落下(おち)たのか

 

 

レ:その様子じゃあ、失敗したらしいのぅ・・・

 

カリ:ああ―――全く(もっ)面目ねえ・・・

 

ヒ:それより、この人が―――?

 

クリ:そう言う事。

   この人が、「獄長」こと、うちのクランのエースである『ドゥルガー』を説得してた、

   『シーフ・マスター』の『カリギュラ』・・・

   ああ、あたしは『クラッカー』の『クリューチ』てことで、シクヨロ〜〜w

 

蓮:(って)お前“女”だったのかよ―――?

 

クリ:あに今更言ってんダヨ。

   てより、それ今大事か??

 

秋:それは、確かにそうだな。

  それで、どう言った状況だったのだ。

 

カリ:どうもこうもねえ―――

   あいつは、すっかりと取り込まれちまってた・・・

 

レ:最悪の状況―――ちゅうわけか・・・。

 

秋:そんなに深刻なことなのか?

 

クリ:あに言ってんだか。

   大体あたしらが、ここに全員いる―――てことが、既に異常事態なんサ。

 

秋:大体言いたいことは判った。

  だが、オレ達3人は、こちらでの状況は全く判らんのでな、だから聞いているのだ。

 

カリ:そいつは、おいらから話そう―――

   あんたらも知っての様に、ちょっと以前に実装された2つのシステム・・・

   「因縁の宿敵」と「四凶」の事は知っているよな。

 

ヒ:ええ・・・と言う事は、そちらの「獄長」と言う人が―――

 

カリ:そいつは違う―――

   そもそもが、おいらが「マリア」・・・いや、『ドゥルガー』の「因縁の宿敵」―――

 

 

今回の一連の流れとして判ってきた事。

それは、仲間を助ける為に集いし仲間・・・

 

それに、「獄長」の親しき仲とも言える、『カリギュラ』と名乗る男が、説得の現場で目にしてしまった異変・・・

本来としての“属性”が反転し、倒されるはずの者が、倒されず・・・倒さなければならない者が、倒されなければならない・・・

 

そしてこれは、何の影響なのかを、これから彼らは知って行く処となるのです。

 

 

 

つづく