前話より―――監獄の総責任者である「獄長」にして、クラン『DIVA』のエースでもあった『ドゥルガー』であり、
何より彼、『カリギュラ』の愛する“妻”であった者の異変を感じ取り、説得工作をしていたものでしたが・・・
そこで彼―――『カリギュラ』が目にした者とは・・・
以前から、自分が知っている、『ドゥルガー』の姿は、もう既にありませんでした・・・。
彼自身の愛しき妻―――「マリア」のアバター『ドゥルガー』は、
紫色をしたバトル・スーツに身を包み、その“拳”で―――その“脚”で、“悪”を駆逐する「正義の闘士」。
それにその武は、彼女が所属するクラン「DIVA」の内でも、随一を誇り、まさしくのクランのエースでもあった・・・
けれど―――カリギュラが、ドゥルガーを説得するために赴いた、監獄最上層にある、獄長の部屋にいたのは・・・
顔面のには、それまでにもついていなかった、非対称な“刻印”―――とでも言うべきか・・・“徴”が施されており、
今まで全身を覆っていた、ドゥルガーの象徴とでも言うべきバトル・スーツは、最早見る影もなく・・・
代わりとして、申し訳程度の装飾―――恥部を隠す程度しかなかった・・・
そう、言うなれば、「淫らの化身」とでも言うべき姿に、成り果ててしまった者の姿が、そこにあったのです。
もう・・・なにもかもが、自分が知っている、愛する妻ではなくなってしまっていた・・・
それでも思わず、彼はこう呼んでしまっていたのです。
カリ:マリア・・・?
マリア―――なのか・・・?
けれど―――しかし・・・
彼方からは、返事すら戻ってこない・・・
それだけならまだしも―――
謎:んッ―――フフフン〜〜♪
アラ・・・いい男。
あなた・・・とっても素敵よ?
これから私と・・・イイ事しましょう?
自分の伴侶であるはずの、“夫”を見間違っている―――?
と、そう取られかねない言動に、カリギュラは・・・
カリ:何を言っているんだ、マリア―――・・・
おいらだ・・・お前の夫である「カイン」だ!もう忘れちまったのか!!
謎:ふゥ〜ん・・・あなたの名前―――カイン・・・て、言うのね。
カー:それじゃ・・・私の名は、『カーマ』・・・『“慾”の化身』よ。
妻だった者からの、突然の宣告―――
いや、再び目にした時は、最早妻ですらなかった・・・と、言う事実。
そう・・・その場にいたのは、マリアの肉体を持ちながらも、全く別の人格・存在が、降臨っていた・・・
それが『カーマ』・・・
ある一説によれば、ある宗教に於いては、“慾”を司り、ある意味では“性欲”の象徴でもあったのです。
#73;“(性)慾”の化身
それにしても、不思議に思えたのは、本日ログインするまでは、普段通りの、変わり映えしない日常・・・
愛しき妻を愛で、愉しく笑って過ごしていたと言うのに・・・
なぜ―――?
それに、前述したように、マリアのアバターである『ドゥルガー』は、クランの内でも随一・・・
いや、もっと言うのならば、北・南米を通じても、ドゥルガーに敵う相手などいない程の、武の強者だったのが・・・
どうしてこんな事態になってしまったのか―――
けれど、カリギュラには、その原因として思い当たっていた事実が、たった一つだけありました・・・。
あれは―――こんな日が来る前の、5日前・・・
仮想内で、ある不審な人物と出会ったのが、その“きっかけ”でした。
そして、「本来」であれば、カリギュラはドゥルガーの「因縁の宿敵」として、成る“予定”でした。
けれど、その日出会った不審な人物・・・
少し、ウエーブがかかった、烏の濡れ羽色をした長髪は、地面にまで届き、
闇色に染まる眼に、鮮血を思わせる真紅の瞳・・・
雪白色をした肌に、薄手の生地で誂えた、黒いシースルーのワンピース・・・
男女を問わず、魅かれる美貌の持ち主―――“称号”を、『黒衣の未亡人』と呼ばれる、
その人物の名こそ・・・『エニグマ』―――
その女が、カリギュラに最初に持ち掛けてきた“話し”こそ、まさしく「そういうこと」でした。
それにしても、現実内に於いても、また仮想内に於いても、
誰もが羨む似合いの夫婦である自分達に、こんな話しを持ちかけてくるなんて・・・
けれど、今にして思えば、“そこ”で気付いておくべきだった・・・
“その行為”こそは、まさしくの『嫌がらせ』・・・
まるで、自分達の仲を―――“絆”を、試すかのような行為・・・
「そううだ・・・この―――他人が嫌だと思う事を、好んでする、この手口・・・」
「あいつだ―――こんなことをするのは、あいつ意外に考えられない!」
「それにあいつは、このオレが苦悩する様を、心底愉しんでいるかのようだったじゃないか・・・!」
男が・・・強い愛を示そうとする行動を、黒衣を纏った未亡人は、目を細めながらほくそ笑む・・・
しかしながら男の・・・この、愛しき者を強く想う、あまりにもの“想い”―――
これこが、彼の者の思考を・・・「プロット」を変更させてしまったのです。
彼の者が操る術こそ、『嫌がらせ』・・・
そして古来より、この術を好んで使用する者は、並べてこう呼ばれたのです・・・『暗黒魔導士』―――と。
それに、この術こそは、我々人間では、取り扱いが出来ない代物・・・
例え、縦しんば扱えたとしても、その術の強力な効力により、術者自身を滅ぼしてしまう・・・
と、そう伝えられているのです。
ならば―――この存在は、人間ではないのか??
その者は、謳う―――
ご覧―――わたくしから沁み出す憎悪を・・・ ご覧―――わたくしが増殖させる恐怖を・・・
ご覧―――わたくしが手向ける嫉妬を・・・ ご覧―――わたくしが蔓延らせる傲慢を・・・
争いは 時の流れる限り 永遠に続く
今・・・この、北・南米エリア随一の強者を、陥穽にかけし者は、
また別の場所にて高らかに哄笑う―――
そして、今にしてその女の口車に乗り、愛しき妻を奪われた夫は、
悔いた―――悔いた・・・の、でしたが、
事態は、更に悪化をする―――
カー:<バーン・ナックル>!
カリ:マリア!何をする!!
カー:私とイイ事をしないなら、排除するまで・・・判っているでしょう?
最悪なことに、ドゥルガーから化した『カーマ』は、ドゥルガーのOUSである『武技』を引き継いでいました。
しかも、眼前にいる愛しき夫に対し―――
けれど、カリギュラのジョブ・クラスである『シーフ・マスター』は、身軽さが身上―――故に、
寸での処で躱すことが出来ていたのでした。
とは言え、“今”のはまぐれかも知れない・・・
“今”避けられたのは、偶々―――自分が、愛する妻からの攻撃を、“実力”で避けた・・・と、思わない方がいい。
それ程までにカリギュラは、ドゥルガーの戦闘能力を認知していたのです。
現に、初撃を避けたからとて、怯ことなく次々と繰り出される、カーマからの必殺技の数々・・・
「まずい・・・このままじゃ、いつ捉えられるか判ったもんじゃない―――」
そして、ようやく知るに“至る”・・・
「こう言う事か・・・あの「嫌がらせ」を行使した奴は、まさに“これ”が目的―――」
「オレ達を、絶望の淵に落とす事こそが、あの女の目的・・・!」
自分は、愛する妻の為になるべく、倒されるべき存在としての「因縁の宿敵」と成る事を決意し、
その事を承認したハズ―――・・・
なのに、先程―――カーマと対峙した時、自分のメニューにポップ表示されたのは、
このカーマこそが、自分が倒すべき「因縁の宿敵」・・・??
そう・・・まさに、運命は、流転する―――
倒されるべき存在が、倒すべき存在へと変質り―――
倒すべき存在が、倒されるべき存在へと変質ってしまった・・・
それに最早、事態がこうなってしまっては、「説得」も、儘ならない―――・・・
カリギュラは、所持していた爆薬を使い、監獄最上層にある窓を破り、そこから身を投げた―――
その行動は、一見すると無謀そのものにも見えてしまう訳なのですが、
実は“これ”が、最悪の内で絞り出された、最後の知恵・・・
仲間を信じ、そして囚われた者を奪還すべく、再び監獄に戻ってくる―――と、
固く誓った、ある男の“勇気”なのでした。
つづく