その―――お店があるのは、その大陸・・・北と南の米国。
その内で、いや全世界に於いても随一の繁栄を誇る一大都市『ニューヨーク』・・・
その、ひっそりとした佇まいの「花屋」には、気立ての好い女性の店員がいました。
その店は小さく―――ひっそりと佇んではいたけれど、
その女性店員の明るさ、まるでお花の様な優しさ、更にセンスの良さに、
今では固定の顧客もついていたのです。
「花屋」は、ただお花を切り売りするだけではありませんでした。
昨今では、商売柄、自社のイメージを好くする為に、「フラワー・アレジメント」などで、自社の出入り口や社屋に飾ったり、
また養護・介護施設を明るくするためにと、清潔感を出す為にお花を飾る事も少なくなかった・・・
と、そこかしこで利用する機会は多くあったのです。
その点にかけては、この女性店員―――『ユリア=クロイツェル』は、抜群の能力を見せ、
またこの女性自身の性格の好さもあり、徐々に顧客は増えて行ったのです。
ただ―――そんな彼女にも、“転機”は訪れたのでした。
それは一通の、難解不読の“郵便物”と―――
その“郵便物”の到着から数日経ったある日・・・
来客を知らせる“音”に、対応する為出迎えてみれば・・・
「はい―――いらっしゃ・・・」
来店の為の挨拶を、途中で止めてしまった・・・
来たお客は、車椅子に座った、あの―――・・・
ミ:“花”を―――
一つ所望したいのだが・・・いいかね?
ユ:花・・・を?
―――ええ、ここは花屋ですから・・・
ミ:そうかね・・・では―――
勿忘草を一輪・・・
「無理難題を言ってくるものだ・・・いや、けれど―――」
その“花屋”の名こそは、奇しくも「フォゲット・ミー・ノット」と、言いました。
それに、その花自体は実在し、正直を言えば、その辺の野原にも自生をし、割とどこにでもあるような小さな花だった・・・
ただ、その店の象徴として、一株は店にも置いていたのです。
その、非売品を、この車椅子の、銀雪色の縦ロールのゴシック・ロリータ美少女は、所望を・・・
いや―――違えてならないのは、この少女の、本来の目的・・・
ユ:あの・・・申し訳ございません―――
この一株は、お客様には売れない品ですので・・・
ミ:おや、そうでしたかね・・・それは申し訳ない。
少し、ウエーブがかかった菫紫色の長髪を、深々と下げ、折角来店してくれたお客に対し、精一杯の謝罪の意を表す、花屋の女性店員・・・
その光景を、彼女達の関係を知らない、誰もが見ても、そう思った事でしょう。
ですが、彼女達だけは、互いに違わなかった・・・
「あの方は・・・わたくし達の“長”である、ミリティア様は」
「わたくしに告げに来られたのだ―――」
「わたくし達が、本来為さねばならぬべき、本懐を遂げよ―――と・・・」
「あの方が来られた際、一種の合言葉としてのワード・・・」
「それこそが、このお店の代名詞とも言える、「勿忘草」の“所望”―――」
「それだけで十分でございます・・・」
「それに、別次元での、わたくしの“友”ジョカリーヌも、その本懐を遂げた・・・」
「その証しとしての、あなた様自身のご来訪・・・」
「この上は、悪の華として栄え、散りましょう・・・」
「そして―――・・・」
『総ての可能性の為に』―――
#74;『堕天』その経緯
一方その頃―――「ローマ」にては・・・
キリスト教の修道院に、何者にも染まらぬ漆黒のドレスを纏った、緋色の髪をした女性が・・・
そしてその女性は、一人の敬虔な修道女に近づき・・・
緋色:“主の御名に於いて”―――
修道女:“今日の我らの糧を”―――
緋色:主は、お望みにあられます、敬虔にして聖らかなる贄を・・・
修道女:主の、御心のままに・・・
その修道女の名は、イセリア=セレスティーナと言いました。
小さな、その修道院に務め、周りからは「聖女」の再来と呼び声高い彼女・・・
その彼女に近づき、聖なる託宣を告げた女性―――
その女性に対し、敬虔な宗教人である「聖女」は傅く・・・
それはあたかも、その女性が“主”であるかのように―――・・・
「とうとう―――この日が来られたのですね・・・」
「然様で御座いますか・・・」
「“主”である「あの方」は、この私めに「死ね」―――と・・・」
「はい・・・喜んで、この身を捧げましょう」
「そして、『総ては可能性の為に』・・・」
「我が・・・至高の“主”『死せる賢者』様―――」
早い話、判っている事だけを述べるとするならば、
その“女性”―――『ガラティア=イグレイシャス』は、特段イセリアの様な、敬虔な宗教人ではありませんでした。
なのに―――イセリアは、ガラティアの事を、“主”と言っていた・・・
イセリアが仕える、宗教上の偶像である“主”などではなく、明確なる「主従」であると・・・
なぜならば、ガラティアこそは、『総てを識りし者』にして、『死せる賢者』・・・
「死せる賢者」とは、かつて“人間”ではあったけれど、その「知識欲」「探究慾」に抗えきれず、
人間であることを辞めてしまった者でもあるのだから・・・
つまりは、最高位の魔導士にして、聖職者であり―――同時に、不死属性を持つ、「不浄なる存在」でもある・・・
その存在に傅き、「聖女」は崇める・・・
己が崇める“主”に傅きし者に、死せる賢者は・・・
「“礼”は要らないし、“謝罪”もしない・・・」
「己の不遇を呪うのならば、我ら4人・・・『原初の4姉妹』にしなさい」
「だから、その他を呪うのだけは止めなさい」
「そうしてしまう事で、お前自身が救われないのだろうから・・・」
「勿体のないお言葉を・・・」
「私は・・・」
「“私達”こそは、この栄誉ある任に就けさせて頂けるだけで、十分満足でございます」
「それであるならば、この私の“宿”の下に―――」
「かつて、“嫉妬のあまり我が子を食い殺した”「魔女」の如くに」
「その任を全う致しましょう・・・。」
「そうかい・・・決意は固いようだね」
「では・・・『総ての可能性の為に』―――」
「そして、我らが『太母』の為に―――」
「汝に、祝福の有らんことを―――」
その瞬間に、「聖女」は、『我が子を食い殺した魔女』として、成る・・・
そして、この・・・死せる賢者の口から漏れた、また新たなる存在・・・『太母』。
『太母』と『可能性』・・・
どうやら“彼女達”の想いは、この2つに基づき、行動を為しているように思われるのです。
そしてここから、少し話題を戻すとして―――
真夏のイベントである「お盆」での悲喜交々・・・
「こちら」は、欧州での一連の進行状況を話し合う璃莉霞達・・・
そして、「例の件」を終わらせた、神宮寺禍奈子が合流し―――
禍:こんばんは―――皆、仲良くやっているようだね。
璃:(??)は・・・い―――
市:(私達の事を知っているようですけれど・・・)
朋:(誰だ?こいつ―――)
とは言っても、璃莉霞達は禍奈子の事を知らなかったので、
自分達に気軽に話しかけてきた、この美人は何者か・・・と、なるわけなのですが。
―――と、ここで、彼女達に遅れて合流してきたのが、夏のイベントをこなしてきた・・・
凛:み―――皆・・・ゴメン、ちょっと遅くなっちゃった。
璃:プリンさん―――大丈夫なんです?
凛:え?ああ、今日の予定の分は終えさせてきたからね。
それより〜〜どうしたの、皆―――
市:え、いえ・・・こちらの方―――
朋:向うは私らに心当たりあるみたいなんだけどさあ〜
こっちとしては無いから、どう対処したもんか、迷ってるわけよ。
凛:(??)「ジョカリーヌ」さん・・・ですよね?
・・・。
璃:ふええ〜〜〜っ??
そ・・・そそそそ―――ごめんなさぃ・・・
市:(イメージでこうも変わるなんて・・・)
朋:(いやしかし、こりゃ反則だろうによ。)
まさか―――の、“元”アイドル・ユニットの一人が、自分達に混ざって・・・とは思わなかったので、
そこはそこでビックリしたものだったのですが。
意外にもプリンが、自分達に挨拶を交わしてきた、この謎の美女の正体を明かしたとは・・・
(というより、凛は璃莉霞達よりも早く「社会」と言うものに出ており、中でもメディアにも出る機会が多かった凛にしてみれば、
他人の判別は、重要かつ必須とも言えたスキルだったようである。)
それにしても・・・慕っている人の事を判らなかった璃莉霞は、その謝罪の辞も、次第に消え入るようであり、
けれど禍奈子からは、そんな璃莉霞を咎めもせず、
「いいんだよ、ちょっとサプライズをしてみただけだったから」
とは・・・
こんなにも、度量の広さと言うものを見せられ、市子はまた、自分の信友が慕う人を、違う目で見るようになるのでした。
つづく