ジョカリーヌとソロンの決着が着こうとしていた、ほんの数分前・・・

この難解ダンジョン「コキュートス」に、また二人の来訪者が・・・

 

 

へ:ふぅ〜ン―――攻略は進んでいるようだねえ。

 

 

その存在こそ、今回の「因縁の宿敵」である、ソロンの対象者である「公爵ヘレナ」・・・

 

実はヘレナは、今回のソロン討伐戦のPTには加わっておらず、

けれども、自分の因縁である、相手と対峙はしていたのです。

 

その相手と言うのも、最早言うまでもなく・・・

 

 

プレ:おい・・・コレはどうした事だ。

 

ヘ:どうもこうも、先程から感じないかい?

  この私達と同等・・・いや、それ以上の、上等な闘争の臭いがしているのを。

 

プレ:ああ・・・それも一度や二度じゃない。

   それに今、このダンジョンの緊張感はどうだ?

 

ヘ:気にすべきは、そこんところじゃないんだけどねえ・・・

 

プレ:あん?何を言っている―――

 

ヘ:一言で言えば、「趣味が悪い」・・・。

 

プレ:そんなものは、一々口にしなくても―――

 

 

その「公爵」からの一言は、はっきり言えば違和感の塊・・・

確かに、こうした「ダンジョン」の造りは、その大半がモンスターの巣窟なのだから、

一般的に見ても、「趣味」どうのこうのと言うのは、最早口にするまでもなかった・・・

 

なのに、公爵は「趣味が悪い」と口にしていた―――・・・

 

ヘレナが、敢えてこの表現をしたと言うのは、一般的に使う「趣味」などではなく・・・

どちらかと言えば、ヘレナも知っている、ある存在の居住と、あまりに似通っていたから。

 

だからこそ、先程から感じる、闘気と闘気のぶつかり合いも、どこか―――

 

 

一方で、互いの奥義を繰り出した―――その結果は??!

 

 

ジ:ぅぐあっ―――!

 

市:ジョカリーヌ様!!

 

 

先程から、酷使していた事もあってか、自身の最大の奥義と、相手の最大の奥義のぶつかり合いによる、負加に堪え切れられず、

ジョカリーヌの武器である『尖麗剣』が、半分に折れてしまっていたのです。

 

そして無情にも、半分になった刀身は地上へと突き立てられ、そしてそのまま光の粒子へと変わり、虚空へと消えて行った・・・

しかも、自身の奥義は、その影響もあり、未発動のまま―――けれど、魔皇からの奥義は発動されてはいたものの、

寸前で身を(ひるがえ)し、どうにかなきを―――でしたが・・・

 

やはり無事には済まなかった―――

寸での処で身を翻したものの、魔皇からの剣閃と衝撃波は右肩を掠めており、

右の肩当は大きく損傷をしていた―――決して、軽くはなかったのです。

 

それにしてもの「やはり」・・・

 

今回のPTメンバーにしてみれば、「信じられない」と言う表情でしたが、

市子には、この結果は視えていた・・・

 

けれど、とは言え、このままでは―――・・・

 

そう、結果だけを述べれば、ジョカリーヌはソロンとの対決に敗北(やぶ)れてしまったのです。

 

そして、“勝者の証し”として、貰うべきものを貰う為、ジョカリーヌに近づくソロン・・・

 

と、そこへ―――

 

 

ソロ:何をしている―――

 

市:ジョカリーヌ様に、手出しはさせませんっ―――!

 

ソロ:フッ・・・他愛のない、どけ―――

 

市:どきません!

  どうしてもと言うのなら・・・この私を―――

 

ソロ:邪魔立てをすると言うのなら、障害は排除する。

   だから・・・どけ―――と、そう言っている!

 

 

負傷したジョカリーヌの前に立ち、魔皇からの暴虐を妨げようとする、健気なる者。

 

今の結果を見ていたなら、程度の抵抗では抵抗すらならないのは、判っているはずなのに・・・

 

それによく見てみれば、武器を持っ手も僅かに震え、自分からのプレッシャーに負けまいと踏ん張っているようにすら見える。

 

「だからとて、“我々”の闘争の流儀を穢す事は儘ならない・・・」

「それを言い出したのは、他ならぬジョカリーヌなのだからな・・・」

 

だが、そこへ―――

 

 

ヘ:おやおや、結構盛り上がっちゃってるようだねえ?

 

サ:公爵さん―――?!

 

セ:それに、プレザンス卿!

 

プレ:セシル卿―――ブラダマンテ卿、状況を詳しく・・・

 

セ:それが・・・

ブ:「因縁の宿敵」であるソロンと、この方々のクランマスターである、ジョカリーヌ殿が直接対決し、

  ジョカリーヌ殿が敗北(やぶ)れた次第です

 

 

満を持して―――なのか、今まさに、ジョカリーヌと市子に断滅の刃が振り下ろされようとしたところ、

「公爵ヘレナ」と「殺戮神父プレザンス」が到着―――素早く状況の把握にまで至ったのです。

 

そして、自分達の流儀に基づく「闘争」に敗れ、地べたにへたり込み、項垂(うなだ)れるジョカリーヌに、ヘレナ・・・

 

 

ヘ:なんて(ザマ)だい―――あんたらしくもない。

ジ:ヘレナ・・・

 

ヘ:―――ったくぅ・・・。

  こんな(なまく)で、あんたの奥義連発しちゃ武器たないよ

  どうして本来の―――・・・

 

ジ:それでは、ダメなんだ―――・・・

 

 

「それでは、ダメなんだ・・・」

「私本来の武器を使ってしまたら、どうして彼がここにいるかの疑惑が問えない。」

「それに、今まで使っていた「尖麗剣」の耐久性も考慮に入れつつ、奥義を解放していたんだけど・・・」

「どうやら、計算が甘かったようだ―――」

 

そこで、思わず漏れ出した“本音”。

やはりこの人は、この「魔皇」なる存在が、ここに存在している事自体に不審感があり、

出来得る限りの無力化を促進させたうえで、問い質そうとしていた・・・

 

けれど、それこそが無謀―――

理屈としては、判らなくはないけれども、本来の性能の半分も出ていない奥義に、いかほどの効力があるのか・・・

そこのところも、疑わしい限りだったのです。

 

 

けれど、今のこの場には、「因縁の宿敵」と、その「対象者」が、いる―――

 

もうここは・・・委ねるしかないのか・・・

 

そして、今より知れる事となる、ヘレナの真の実力を。

 

 

ヘ:どうやら、ジョカリーヌを可愛がってくれたようだけど、覚悟は出来てるんだろうねえ?

 

ソロ:ヘレナか―――よくよく物好きな・・・

 

ジ:ヘレナ―――お願いだ!彼を・・・

 

ヘ:やれやれ、昔っからあんた達の事を知ってるだけに、やりにくいったら、ありゃしないねえ?

 

 

そこで―――その場にいた、PTメンバー達が耳を疑った事実・・・

 

そう、この状況だけで判断するならば、「ジョカリーヌ」「ソロン」「ヘレナ」は、昔からの馴染み・・・

 

互いが、互いの事を、よく知り合った者同士―――

?   ??   ???

 

では、なぜ・・・

そう―――なぜ、今まで“その事”について、語られなかったのか・・・

とは言え、そこはそれ―――

彼ら彼女達の、複雑な事情があって―――の、事だったのです。

 

 

そして・・・

 

 

ヘ:さあ・・・始めようとしようじゃないか―――闘争を・・・

 

 

手の指や、首を、「コキコキ」「ポキポキ」と鳴らす、独特の仕草―――

けれど“それ”は、とある「ジョブ・クラス」特有のモノ・・・

 

それに、その場にいる者は、皆一様にして、知っているのです。

公爵ヘレナは、畏るべきヴァンパイアにして、種属特有の術式「裏面式」を行使する、

術師(キャスター)であり、「メイジいはウィザード」「マジシャンなのだと・・・

 

なのだとしたら?

今のその仕草―――まるで「モンク」、まるで「グラップラー」の様な、仕草・・・とは?

 

 

ソロ:ぬうん―――

   <デバステイト>!

 

ヘ:甘いわ!

  <裁きのロック・アップ>!

 

 

そして、また更に目を疑う事実・・・

あの魔皇からの強烈な斬撃を、軽くいなしながらの「組み付き」・・・

 

自分達は、余りにも知らなさ過ぎる―――

今まで公爵が見せていたものは、その実力の、氷山の一角ですらなかった・・・

 

そう―――これが本来の、公爵ヘレナの、闘争・・・

しかも彼女は、通常のグラップラーなどではなく・・・

 

 

 

#82;“人”智を“超”えた“技”

 

 

 

ソロ:ちい・・・愚図愚図としていられぬのに―――

ヘ:フフン―――

 

ソロ:なにがおかしい!

ヘ:いや、さすがにジョカリーヌだと思ってね・・・

  あんな鈍ら使ったとしても、きちっとした仕事はこなしている・・・

 

市:どう言う事なのですか?!

 

ヘ:ん〜?恐らくジョカリーヌは、この指輪の機能停止を狙っていたんだろうさ。

  そしてそれは、正常に働いている・・・

  まあ、だからと言って、手心を加えるほど、私は人間が出来ちゃいないからねえ?w

 

 

そう、言うが早いか、羽織っていた「宵闇のマント」を翻すと、

その身には、ある「職業」を思わせる、独特の衣装をまとっていた、ヘレナが・・・

 

そして、その衣装を、この中では誰よりも詳しかった、この人物が―――

 

 

ギ:うおおっ?! あのヘレナが着込んでいるの・・・って、「プロレスのコスチューム」じゃねえか!

ソフ:へっ?! ギルバートさん、知ってるんです?

 

ギ:あたぼうよ! しかもあのコスチューム、女子プロ・ヘビー級のヨーロッパ・チャンプ、「リビドー・エルム」のじゃねえか!!

 

ヘ:おお〜やw まさか、仮想内に私のフアンがいたとはねえ?w

  それじゃ、こいつはサービスだ、私の技―――篤と拝みな!

 

 

そう、ヘレナの現実内での姿こそ、女子プロレス界でも、不動の“悪役(ヒール)にして、ヨーロッパヘビチャンピオンである、

あの『リビドー・エルム』だったのです。

 

しかしそう―――ヘレナの独自のスキルこそ、現実内の“職業”そのものを反映させたものだった・・・

けれど、ヘレナの使用する“技”は、普通の「プロレス技」とは、全く毛並みが違っていたのです。

 

それはなぜかと言うと―――

 

 

ヘ:ハッハッハァ―――喰らいな!

  <地獄の九所封じ、“その一”>―――<雪崩落とし>!

 

 

やはり、何から何まで初見だと、皆一様にして度胆を抜かれざるを得ない・・・

今の技にしてみても、普通ではあり得ない“技名”にして、効果そのものは、

もしこの技が現実内で炸裂しようものなら、人命に関わる事でもあった・・・

 

けれどヘレナは、躊躇する姿すら見せないで、「因縁の宿敵」にその技を叩き込む・・・

 

現に今、背中を(したた)かに打ち付けられ、悶絶してしまうソロン・・・

いや、そもそもヘレナの技の一つ、「地獄の九所封じ」とは??

 

 

ヘ:<地獄の九所封じ、“その二”と“その三”>―――<(かんぬき)

  <地獄の九所封じ、“その四”と“その五”>―――<(いしずえ)>!

 

ギ:お―――おい・・・まさか、「九所封じ」って・・・

ブ:人体の機能、総てを破壊し尽くすそうと??

セ:けれど、現に5つ・・・破壊を―――

プリ:それに―――あの魔皇が、反撃を伺う隙すらないなんて・・・

 

プレ:いや―――あいつは、その攻撃の諸動作が、あまりに大振り過ぎる・・・

   それに、武器持ちの泣き所を、公爵は良く心得ている・・・

 

セ:プレザンス卿、それはどう言った意味です?

 

プレ:武器持ちが、無手より優れている点は、その間合い(リーチ)にある・・・

   だが、それが逆に、己自身を危うくさせているのだ。

 

市:つまり・・・懐に入られてしまうと―――!

 

プレ:そう言う事だ・・・

   しかも、公爵の今までの一連の動きこそは、打撃よりも組むことを意識している・・・

 

 

「武器持ち」の、“有利”と“不利”―――

それはまさしく「武器」そのものにあり、武器を持つことによって、攻撃範囲は広がるものの、

今のヘレナの様に、懐に入られてしまうと、その機動性は途端に鈍くなってくる・・・

 

そうした“ノウハウ”を踏まえた上で、ヘレナは“仕掛け”てきていたのです。

 

 

 

つづく