今学期から璃莉霞の学校で、「社会科」―――主に「歴史」を担当することとなった、教育実習生・・・神宮寺禍奈子。
ですが彼女は、取り分け“歴史”という専門教科―――つまりは、学生としては、これからある「大学受験」の為の内容を教えるでもなく、
ある重大なことを、学生である彼らに教えようとしていたのです。
では、その“ある重大な事”・・・とは?
禍:君達も知っているように、私達人類の発展は、様々な“争い”を経てきた―――と、そう言っても過言ではないと思う。
では、一体“争い”とは何だろう・・・
「その前に、少し私達自身の事についても考える必要があるね。」
「よく考えてごらん、この世界は、果たして『私』一人だけなのか・・・と、言う事を。」
「『私』がいて『あなた』がいる・・・」
「『私』は『あなた』ではない―――もちろん、『あなた』も『私』ではない・・・。」
「この世界が『私』一人だけだというのならば、“争い”と言うものは起こらないし、」
「だから―――“発展”と言うものも、そこにはない・・・」
「今、君達が享受している『環境』『品物』『学問』などは、『私』ではない『あなた』がいたからこそ為せた事・・・」
「『私』は―――『あなた』ではない・・・」
「これは、言い方を換えれば、実に様々な“考え方”がそこにはあり、」
「10人いれば10の―――100人いれば100の、そうした『違う意見』が存在しうる。」
「そして“違う”からこそ、“争い”は起こる・・・」
「一つの学説を例にとっても、自分の学説を“正しい”と認めてくれる『あなた』がいなければならないし、」
「また“違う”とした意見から、自分の学説がどう違うかを識るのも、また『私』ではない『あなた』がいればこそなんだ。」
「―――と、まあ、この事は飽くまで“個人間”での事なんだけど、」
「これが規模が大きくなると、少しばかり様相が変わってくる。」
「そう―――言うまでもなく“国家間”だ。」
「『国家』とは、『私』ではない『あなた』の“集合体”であり、」
「『村』から『町/街』へ、そして『国』へと成っていく。」
「そして“集団”の上に立つ者は、自分の国家に住まう者達の安寧と平和、そして貧富も考慮しなくてはならない。」
「もちろん国家には、大なり小なりとある、」
「小さな国家は、小さくとも『国家』としての意義が成り立っている以上、その国で暮らす住民たちの事を考えなければならない。」
「逆に大きな国家は、その巨大な“力”を行使し、自分達の国家を、より強大なモノにしようと言う考えに至ってしまう。」
「そこで『国家の争い』となるのが、『外交』であり、最悪な象が『戦争』―――と言うわけだ。」
その実習生は、“教材”を用いての授業はしませんでした。
しませんでした・・・が、彼女の授業は、『受験』という枠組みから離れながらも、もっと自分達に理解ってもらいたい・・・
大切なことを教えている気がした・・・
それが『争いの定理』―――
今、自分達が使っている“スマフォ”や“制服”にしても、様々な議論、試行錯誤が為され、今の形となっている・・・
けれどそれは、“軽い”『争い』での話し―――
それが、もっと規模が大きく、『国家間』ともなれば、『戦争』と言う大きな犠牲を払わないといけない、“重い”『争い』もあるのだ・・・と、禍奈子は説いていたのです。
#86;活きた授業
けれど・・・そう―――
自分達は、今までそう言う意識をして、生きてこなかった・・・
「争い」―――と、一括りにしてしまえば、どこか悪い事のように聞こえてしまっていたから・・・
自分達は、何も知らない―――知ろうとすらしなかった・・・
けれど、こんなにも大切で、大事なことを、自分達はようやくにして知った・・・
「この人は、私に仮想内で教えてくれた以上の知識を―――」
「私の他の誰にも、平等に分け与えてくれている・・・」
璃莉霞は、こうした多くの理を、仮想内で吸収していました。
けれど今回、禍奈子から教わった概念は、これまでにも教わってこなかった・・・
しかしそれは、今からすればそうかもしれないけれど、未だ成長していない頃に同じ様な事を教わっても、理解らなかっただろうから・・・
実習生の授業が終わっても、その難しさゆえか、大半がザワついているように思えた・・・
それに今日は、自分の信友のクラスにも回ると言う―――
ならば、今の教えを、彼女はどう受け止めたか・・・
そして放課後―――璃莉霞と清秀、柊子の足は、誘われるでもなく会長室へ・・・
璃:市子さん―――
市:皆さん来られたようですね。
それで・・・どうでしたか、周りの反応は・・・。
清:―――てか、恥ずかしい話だが、オレはちょっとしか判らなかった・・・
柊:私も・・・それに、クラスの殆ども―――
璃:うん・・・けれど、それは仕様がないよ―――
市:璃莉霞さん―――・・・
璃:だって、あの人はやはり、その考え方の次元が違うんだよ。
それに、私達の今している勉強なんて、所詮“受験の時”だけのもの・・・
多分―――数十年もすれば、忘れちゃうんじゃないかな。
「けれど・・・あの人のあの授業は、ちょっと違ってた―――」
「なんて言ったらいいのかな・・・」
「“あれ”は、時間が経てば忘れられるようなモノじゃない・・・」
「聴く人が聴けば、その心に刻み込むような・・・そんな大切なモノなんだろうと、私は思うよ―――」
その・・・“会長室”に見えた顔ぶれこそ、例のゲームの経験者・・・
だからこそ―――なのか、禍奈子の・・・言わば『活きた授業』に思う処があり、
それぞれの想いを聞いてみる為、集った『有志』でもあったのです。
けれど―――そう・・・響く者には響く“概念”・・・
禍奈子の狙いも、自分が教えるのは“きっかけ”としての概念であり、
後はそれを受け取った者が、どう影響を及ぼせるか・・・
それはかつて―――地域一の“腕白坊主”として知られており、
ヤンチャしか取り柄がないと思われていた、『細川重太郎』が、この高説に中ったお蔭で、地域トップの学園を創設した事からも判る事なのです。
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話題は一転し―――
現在では日本でも定着しつつある『復活祭』・・・
若い者は、皆それぞれが思い思いの“仮装”に身を包み―――
本来であれば、各家庭に乗り込み、“お菓子”を強請る・・・のが主流のようですが、
所詮宗教観の違う国家では、その本来の意味は曲げられ・・・
し:トリック・オア・トリートぉ〜♪ ニヘヘ・・・毎度ッ☆
市:皆さん愉しんでいるようですね。
璃:うん―――それにしても、皆思い思いの衣装に身を包んで・・・
しかも市子さんの“ソレ”ってw
市:ええ、プリンさんの過去の映像を参考にしましてね・・・
どう?似合うかしら。
璃:うんっ―――本人見たら喜ぶよ、きっと。
現在の、この国に於いての、そのお祭りの意義とは、完全に『仮装パーティー』に挿げ替えられ、
璃莉霞や市子も、この日の為に・・・と、用意した衣装で街へと繰り出し、燥いでいたのです。
そんな中―――
不思議な・・・とても不思議な感じのする“男”が、この祭りに突如舞い込んできた・・・
男:フッ―――誰も彼も・・・が、お祭り騒ぎで浮かれていますか・・・
これは都合がいい、さっさと用件を済ませるに限りますね。
黒いフード付きのコートを着込み、纏ろわぬ者から人格を得て「人」と成った存在は、
今回、本来為すべき任より、最優先事項として与えられた任を全うするため、行動を開始しました。
何より、今回都合が良かった事と言えば、今日と言う日が、住民たちが普段とは違う・・・
言わば、本来の姿をしておらず、アニメのキャラクターだとか、映画の登場人物だとか・・・
はたまたは、自分達の次元の者達とそっくりの姿になり、街を練り歩いている・・・
これが普段通りならば、すぐさま“不審者”として通報されていたかもしれないものを・・・
“男”はそう思いながらも、不敵な笑みを浮かべながらも、今回特命として与えられた標的を探し求めたのです。
そして―――・・・
男:失礼―――致します・・・
璃:―――えっ?
男:あなたが・・・そうですね?
璃:な―――なんですか?
男:あなたが・・・私の標的である、「征木璃莉霞」・・・
もう一つの名を「リリア」―――で、間違いない・・・そうですね?
璃:(!)な・・・なんなんですか!あなたは!!
男:申し遅れました・・・私の名は―――
ザ:『ザッハーク』―――そう呼んでください。
その時は、丁度“お手洗い”に・・・と、市子達と逸れてしまった瞬間でした。
そこを“待ち伏せ”ていたかのように、近づいてきた不気味な男・・・
“誘拐”―――?
と、そう思ってしまった璃莉霞でしたが、もし誘拐犯なら、自分の紹介などはしない・・・
そう思ったため、その事はすぐに払拭できたものでしたが・・・
「だったら・・・この人の目的って、一体なんだろう・・・」
「それに、私を待ち伏せても、“誘拐”“暴行目的”ではないのは判ってきた・・・」
「だからこそ・・・この人の目的って―――ナニ?」
一方、お手洗いへと行ったっきりの璃莉霞を心配し、市子としの、朋子は中々帰ってこない璃莉霞を捜索していた処に・・・
し:先ぇ〜ん輩、どこ行っちったんかな〜〜☆
朋:迂闊だったなあ〜〜こんなこったら、私がついていってやるんだったわ。
市:そうですね―――しかも、この人ごみの中では・・・
朋:(おっ)お〜〜〜い、清秀〜〜〜!
清:(げ)なんだ・・・お前か―――
それに、市子・・・・・さんまでも―――
市:清秀、璃莉霞さんを見ませんでしたか。
清:あいつ? いや、見てねえけど・・・どうかしたのか。
し:うん〜☆ 先輩、おトイレ行ったっきり帰ってこないんですよ〜〜☆
清:はぐれたのか??
朋:ああ、だから手分けして探し―――
――――離してください!
清:(今の声・・・)璃莉霞じゃねえのか―――?!
市:璃莉霞―――!
ここで清秀も合流し、彼が市子達と出会うまで、璃莉霞を見なかったか・・・と、問われたのですが、
その心当たりは彼もなかった・・・だから、無最終手段として、手分けして探そうとしていた矢先―――
何かを拒むかのような声―――
それはまさしく、璃莉霞の声だった・・・
だから、その声のした地点に向かってみれば・・・
今まさに彼女は、光の粒子に包まれ、消え逝こうとしていたのでした・・・。
つづく