日常的な常識的観点からすると、まずあり得ない現象―――

“人”や“物”が、光の粒子に包まれ、そして消えて行く・・・

それこそはまさに、仮想内での「死亡」「破壊」時に出る“エフェクト効果”―――そのものだったのです。

 

その様な光景を、目の前で見せられた市子は―――・・・

 

 

市:り・・・璃莉・・・霞―――?

  そんな・・・ウソでしょ?

清:てんめぇ―――璃莉霞に何しやがった!

 

ザ:うん?

 

朋:こいつ―――っ・・・取り押さえるぞ!

 

し:≪影縫い≫―――!

 

 

何かをしようとしていた・・・

もしかすると、「誘拐」?「暴行」??

それをする前に騒がれたものだから、殺した・・・?

 

しかしながら、そんな事は今や日常茶飯事―――

そんなチープな記事が、雑誌や新聞、TVのワイドショーなどの、マスメディア報道の対象とされるとき、

『何とも低俗な・・・』くらいの価値観でしかありませんでしたが。

 

それがいざ、自分の目の前で―――

しかも、自分の一番大切な者が、その被害者となった時、市子は・・・

 

 

 

#87;復活祭(ハロウィン)の神隠し

 

 

市:何をしてくれたんですか・・・この私の、大切な方を―――

  お前は・・・お前だけは、決して赦しておきません!

  さあ言いなさい・・・誰から頼まれて、私の璃莉霞を殺せと?!

 

 

自分だけの、掛け替えのないモノを壊されてしまった・・・

だから、正常な判断が出来なくなっていた―――

 

()()()、自分だけの大切な者を、壊されてしまった―――と、()()せざるを得なかったのです。

 

それに、容疑者(うたがわれしもの)は、れもせず、そこに(たたず)だまま―――

 

そうした時間が経つにつれ、異和だけが増幅していき、それを感じた“(きん)(かしら)―――

 

 

し:ちょ―――っと、待って下さいよ・・・細川様。

市:何をですか!

 

し:さっき見かけて、ちょっとおかしいと感じたんですが・・・

  征木様、本当に死んじゃったんです?

 

清:何言ってんだ! お前も一緒に見たじゃないか!

 

し:へえ~~~何を?

 

清:何・・・って、璃莉霞が死んで、光の粒子になって―――

 

し:じゃ、死体は残っていないと、おかしいですよね?

 

朋:(!)そうか・・・さっき見たのは、ゲームでの“死亡エフェクト”に似てるから、

  てっきり私達はそれを・・・

 

市:(・・・)え? では・・・璃莉霞は―――

 

し:ん~~・・・多分あたしの推測ですけど、現実で人死に出ちゃったら、

  まず少なくとも“死体”は残るはずだし、“血”などの付帯情報も残ってなくちゃならない・・・

  それにまた、仮想内であっても、大神殿かそれに似た施設で、復活できてるはず・・・

 

市:ああ~~~良かっ・・・

 

し:安心するのもどうかと―――

 

市:え?

 

し:冷静になってくださいよ、細川様・・・

  今“ここ”で起こっている事こそが、本当なんです。

  征木様が、「いなくなっている」って言う“事実”は―――ね。

 

 

優秀な忍の条件として、いついかなる時でも冷静であり、物事を俯瞰で見ることが出来るか・・・

それに、しのが言っていたように、もし現実として璃莉霞が、この謎の男に殺害されたとなれば、

少なくとも璃莉霞の死体や、それに伴う付帯情報も痕跡として残されていないとおかしい・・・

それに、これが仮想内での出来事だった場合、大神殿で復活の“救済措置”が取られているはず・・・

 

ただ―――“ここ”は現実内であり、仮想の世界ではない・・・

なのに、璃莉霞の死体等はなく、現に自分達の目の前で、消えて行く処を見てしまった・・・

 

それに、最も疑問と思われているのが、この謎の男―――・・・

自分に“容疑”がかけられていても、逃げも隠れもせず、

ただ、その時の状況を、逐一目に収めている感すら覚えてきた・・・

 

そんな矢先に―――

 

 

ザ:フッ・・・なるほど、あなた方は、彼の者に関わる、とても重要な役割・位置を占めているようですね。

  これは興味深い―――

 

朋:フン―――感心してる場合かよ・・・。

  お前何者だ? 誰から頼まれた―――

 

ザ:依頼主は―――明かせません・・・

  が、名は名乗っておきましょう。

  我が名は「ザッハーク」。

 

市:(「ザッハーク」・・・)あっ、待ちなさい―――!

清:あいつ―――っ・・・

 

朋:お(かしら)・・・

 

し:(・・・)≪影縫い≫には、ちゃんとかかっていた―――これだけで充分だろ。

 

市:団蔵のアレを・・・つまり、いつでも逃げることが出来ていたと。

 

し:その通り・・・。

  もし、細川様が、ヤツに何かしようとした処で、逆に危険に晒されていたかも知れませんねぇ・・・。

  それに、あたしらのお役目は、あんた達の護衛も兼ねてる―――

 

朋:とは言え、お一人守れなかったからなあ~~

  鬼姫からのカミナリがコエ~~わ。

 

 

ちゃんと、忍の拘束術≪影縫い≫は効いていた―――ハズ・・・なのに。

謎の男が自分の名を名乗ると、そこから消えるように居なくなってしまった・・・

つまり彼は、この現場で出くわしてしまった者達の感情等と行動原理を“観察”していたのです。

 

とは言え、自分の大切な信友の安否は、一応“無事”と判りました・・・

が、ならば璃莉霞は、一体どこへ―――?

 

 

 

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高い位置から落ちてきた“それ”は、大音響と共に周りにあった書物を巻き込み、机へと激突したのでした。

 

 

璃:痛ったた~~・・・何なんだよ、あの人―――

  て、うわっ?! ナニ?ここ・・・

  (本・・・?)てことは「図書館」? でも私・・・市子さん達と一緒に、町にいたはずなんだけど・・・

 

 

自分の置かれている状況が、イマイチ判っていない・・・

先程までは、町の雑踏の(なか)いたはずなのに。

それが「ザッハーク」と名乗る、謎の男に手を掴まれた瞬間、何かの呪文を唱えたかと思うと、

いつの間にか自分は、見知らぬ図書館にいた・・・

 

いえ、ここは―――厳密に言うのならば、「図書館」ではありませんでした。

ただ、それと見紛うほどの蔵書の数々ではありましたが。

こここそは、とある建物の、それも部屋の一つだったのです。

 

それに、自分の居住で何かしらの異常を感じた、この建物の主人が、

大音響がしたこの部屋へと来てみると・・・

 

 

誰?:誰かいるのかい? 今ここですごく大きな物音がしたんだけれど―――

 

璃:あっ、済みません・・・多分それ、私です。

 

誰?:・・・おや? 君は―――

 

璃:(えっ、あ・・・)角―――

 

 

仄暗いこの部屋を見渡せるように、ランタンを手にしてそれを高く掲げた時―――

二人の、奇妙且つ運命的な邂逅がありました。

 

恐らくは、この建物の持ち主であろうこの女性は。

もしここが自分が知る現実内の世界であれば、あろうはずかない“角”を、その頭に持っていた・・・

身長は高く(189cm)、熾緋の長髪に、熾緋の眸、自分よりも(おおき)っており推定カップ

そのくせ胴回りは自分よりもしまって見え(56cm)、腰つきも悔しいけれど自分よりもある(120cm)。

 

まるで“おおきなおっちゃん”が描くかのような、エロダイナマイツナイスバディの持ち主・・・

 

しかしながら―――?

 

 

謎の美女:おや? 君、右肘を怪我しているみたいだね。

 

璃:えっ、あっ―――

 

謎の美女:どれ、診せてみなさい・・・

{ヒール・ブライト・キュア}

 

璃:あっ・・・魔法―――(それも無詠唱で?)

 

謎の美女:そうだよ。

      それより君は・・・こちらでは全く見かけない身形(みなり)しているモノだね

 

璃:あっ・・・ああ~~これですか?

  丁度、仮想のコスプレしている処に、変な人に・・・

 

謎の美女:“カソウ”?“コスプレ”??

 

璃:はいそうです。

  う~~ん・・・判りやすく例えるなら、「他人の真似事」かな?

 

謎の美女:ふう~ん・・・

      しかしその恰好では、皆から奇異な目で見られるだろうから・・・

 

――パン☆――

 

璃:えっ?あっ??

 

謎の美女:取り敢えずは、その恰好をしていたら、不審な目で見られる事はないだろう。

 

璃:ありがとう―――ございます・・・

  それよりココ、こんなにしちゃって・・・片付けますね。

 

謎の美女:(・・・)いや―――その必要はないよ。

 

――パン・パンッ☆――

 

璃:(あっ・・・また?)

 

 

不意に、突如として現れてしまった自分を、特段として怪しむでもなく。

怪我をしていた処を治癒(なお)してもらったり、奇抜格好(ちなみに、ハロウィンでの璃莉霞コスは、スゥイーツ・シャルマンセシルのものから、

一般の(恐らくはこちらの世界での)服装に・・・その総てを、「柏手」で済ませていた・・・

 

その様子を璃莉霞は、自分の師である者の“それ”と、重ね合わせ始めていました。

 

それに・・・互いが見ず知らずのはずなのに、こうも優しく接してくれるなんて―――

 

けれど、互いがどう言った存在なのか、この後すぐにでも判ってしまったのです。

 

それと言うのも・・・

 

 

魔物:(ドタドタ☆)タ・大変でスぅ~~!

 

璃:(う・わっ??)ゴ・・・ゴブリン??

 

ゴ:んゲッ? ニ・・・ニンゲン??

  ど・・・ドーしてココに・・・?

 

謎の美女:―――どうした。

 

ゴ:あ、イエ・・・それヨり、ソのウ~~

 

謎の美女:(・・・)この人は、“彼ら”とは関係がないよ―――

      それより、何があったのか・・・それをまず聞こう。

 

ゴ:あ・・・ハア―――

  実ハ、やつラは退き上ゲた・・・は、いいンですが―――

  どうモ、住人の一人ガ、行方不明ノようデシて・・・

 

謎の美女:そうか・・・判った。

      では、取り敢えずは、「緊急避難」は解除したんだね。

      それで、“あの地”の物資は・・・

 

ゴ:ハあ・・・それガ殆ど奪われチマったヨウでして~~・・・

 

謎の美女:判った・・・そこも工面を計ろう。

 

璃:ち・・・ちょ、ちょちょ、ちょっと待って下さい・・・!

  何を一体話し合っているんですか?!

 

謎の美女:うん? いや、ちょっとね・・・

      この近辺で衝突があったので、その報告を・・・ね。

 

璃:それは・・・ッ、判りますけれど、ひょっとしなくても、そちらの方・・・ゴブリンですよね?

 

謎の美女:そうだよ―――彼には主に、報告・伝達の任に就いてもらっている。

 

 

「ええ~~~っ??」

「てか、いや、それまぢで??」

「ゴブ・・・って言えば、あのゲームでのザコ敵で」

「それこそ新規さんにはお世話になってるお馴染の・・・だけど―――」

「しかもこの(ひと)えてるアレ()・・・って、もしかしなくても―――ですよねえ??

 

 

未だに“現実”と“仮想”の区別がつかず、混乱する璃莉霞―――

 

この場所が“もし”、現実内の世界なら、有り得ない者達・・・

頭から角が生えた、魅力溢れる女性―――に、薄緑色の体色をした、最弱の魔物(モンスター)小鬼(ゴブリン)・・・

 

けれど“もし”、仮想内の世界だと言うのなら、自分は「征木璃莉霞」ではなく、「リリア」のはず・・・

 

では―――だとしたら・・・?

 

 

そして、徐々に明らかとなる「自分の立場」・・・

 

その時、璃莉霞は果たして―――?

 

 

 

つづく