現実として起こり得ない出来事―――
魔物の一種であり、“亜人”である「ゴブリン」が、『自分の主』に報告・・・?
もし、自分の頭の中で思っている事が本当であるならば。
自分はある意味、“敵のど真ん中”にいるわけであり―――
「“敵”・・・?」
「いやでも、私はこの人達から実害を負わされているワケではなく」
「どちらかと言えば、寧ろ怪我を治癒してもらったり・・・と、“ご恩”はある・・・」
「でも私は「人間」であり、相手は「敵性亜人」・・・」
「一体、どうしたら・・・」
そう、迷っていた処に―――
謎の美女:さて・・・と―――
それより君、お腹は空かないかい?
璃:えっ? は・あ・・・
謎の美女:ふむ、では私が“おもてなし”をしてあげよう。
「“おもてなし”―――魔族にもそんな習慣があるんだ・・・」
璃莉霞は、頭に角を持っている、“それらしい”女性から、まさか魔族にもそうした文化があるモノだと、関心を抱きました。
それに、もし“ここ”が、自分が思っている通りの場所ならば、出される料理も“下手物”に違いない・・・と、
そう思っていた処―――?
璃:えっ・・・ええ〜〜〜っ??(意外とまとも??)
謎の美女:ん? なにかおかしい?
璃:いっ―――いえ・・・
あの、ここ・・・って、私がいた処とは違うから、食事も普通じゃないんじゃないかと思ってて・・・
す、済みません―――こんな事、失礼ですよね。
謎の美女:(・・・)――――。
出された料理は、意外と“普通”だった―――
鶏肉の炒め物に、葉物のサラダ、根野菜の冷製スープに、緑黄色野菜の煮物・・・
それに味付けも、自分が知っているモノとさして変わりはなく、ここが“異次元”であることを忘れて、堪能してしまったのです。
その事を感想に述べるも、それが本来失礼な物言いとなっている事に気付き、詫びる璃莉霞・・・
そして、そんな彼女を、その澄んだ熾緋の眸で「じっ」と見つめる、魔族の女性・・・
すると―――
謎の美女:ふむ・・・どうやら君は、“ここ”が君自身がいるべき本来の場所ではない―――と、気付き始めているようだね。
しかも、私を見る目や先程の伝令役の彼を見る目も、こちらの“彼ら”とは違って見える・・・
璃:(!?)それって・・・どう言う―――?
謎の美女:それは、君自身も薄々は気付いているんだろう?
征木璃莉霞―――いや・・・もう一つの名、「リリア」で呼んだ方がいいのかな。
璃:(!!)“それ”・・・“あの人”と同じ―――!
謎の美女:(・・・)なるほどね―――“あの人”達の差し金か・・・
「別に名乗ったつもりもないのに、名を知られてしまった・・・」
「それも、本当の名前から、仮想内の名まで・・・」
「それに、そう―――そんな事が出来る人の事を、私はたった一人だけ知っている・・・」
「しかもこの女も、どこかそれを臭わせるかのような物言い・・・」
「もしかすると・・・この女は―――」
#88;魔王との邂逅
謎の美女:ならば、この私も名乗らなければ、礼を失すると言うもの―――
我が名は―――
エ:『原初より48人目の魔王』、【総てを持ち与える者】エリスと言う―――
璃:(やはり―――!)魔王・・・って―――
エ:そして今、我々と“ニンゲン”達との間では、不毛な争いが続いている。
先程の報告は、その一部に過ぎない。
璃:(人間・・・って)じゃあ―――私・・・
エ:君は、こちらの世界のニンゲン達なのかい?
私には、どうも先程からの君の様子を見させてもらっていると、
こちらの次元とは、全く別の次元から来ている・・・と、そう感じたのだけれど?
璃:(・・・)そう・・・です―――よね・・・?
そう言う事・・・に、なります―――よね??
エ:では、問おう。
ならば君は、彼らと同じ視点から、やはり私達を“敵”と見なし、“私”を討ちに来た・・・とでも?
璃:(!)それはない―――!
もしそうだったとしたら、私は即刻あなたの馘を刎ね、そしてこんな処に一刻だって―――(あ・・・)
エ:ふむ・・・やはり―――ね。
璃:えっ??
『私は・・・ね、最初に君を見た時から、「どうもこの人は、こちらの世界の存在ではない」と、思っていたんだ。』
『だから、2つの予測を立て、並行して観察をしていた―――』
『もし君が、彼らから仕向けられた“刺客”の類なら、私の命なんてもうないだろうし。』
『私だって、やりたい事を残しているから、むざむざとこの命を散らせるわけにもいかない・・・』
『だから、注意深く見守っていたんだけどね―――』
『そうするうちに、君はこの私の命を狙った刺客などではないことは判ってきた。』
『だから一緒に食事もしたし、例の報告にも付きあわせた―――』
『えっ・・・でも、私はもしかしたら、嘘を吐いている可能性も―――』
『今更取り繕った処でね、無駄なんだよ。』
『この私が所持しているスキル―――≪月詠≫で、君の頭の中を覗かせてもらったからね・・・』
『≪月詠≫―――・・・それって・・・』
『おや? ご存知じゃないのかな?』
『今ではその殆どを“彼女”に与えているから、私が行使できるのは、他人の思考を詠み取ることくらいしか出来ないよ。』
『“彼女”―――・・・』
エ:名を、『ミリティア』と言う―――
璃:ミリティアさん―――・・・
エ:やはり、存じていたようだね。
そう、彼女は本来、こちらの住人であり、ある機会をして、君達の“次元”へと向かった・・・
“この私”からの「使者」だ。
それは・・・あまりにも衝撃的―――
衝撃的すぎて、雷で撃たれたかのように頭が痺れ、理解が追い付いていかない・・・
「いや―――そもそもは・・・あの人は・・・ミリティアは、私達の世界の住人ではなかった?」
「元々は・・・この、頭から角が生えた、『魔王』と称するこの女性と同じ・・・」
「同じ『魔族』にして、こちらの世界の住人だった―――・・・?」
「だとするなら・・・? 私が知る上での恩のある師や、料亭の大女将・・・」
「果ては、私の母様や、幼馴染の母までもが??」
「それに・・・“この人”の「使者」―――って・・・?」
璃:あの・・・っ、もしかして“それ”―――って・・・『可能性を持つ者』と、関わりがあるんですか?
エ:「ある」・・・と、言うよりは、寧ろ『そのもの』だね。
璃:では教えてください!
ミリティアさんや、ジョカリーヌさんが、常々口にしている『可能性』の事を!
エ:簡単に言えば、「対話」の模索―――
璃:「対話」・・・!!
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一方その頃―――現実内の世界では・・・
警察沙汰にしてしまえば、厄介な事が多くなる・・・と、判断した市子が、急遽禍奈子と連絡を取り・・・
市:先生―――!
禍:詳細は聞いたよ。
それで・・・本当にここなんだね。
市:はい・・・まるで、ゲームの“死亡エフェクト”が掛かったかのように、璃莉霞が光の粒子に包まれて・・・
禍:(・・・やはり、魔力の残滓がある。 ―――と、言う事は、あの子は手筈通り“太母”と会っていると見て、間違いないね。)
少し待ってて―――
{姉さんですね、私です・・・はい、ええ、手筈通りあの子が、“あちら”へと向かった事を確認しました。
はい、恐らくは2〜3時間後には、“こちら”へと戻ってくるはずです。 では―――・・・}
市:(え・・・?)今・・・一体何を―――?
禍:少し言い難い事なんだけど、私達がいるべき本来の場所に、何らかのトラブルがあったようでね・・・。
そこで少し計画を変更して、璃莉霞だけを“ある人”・・・私達の間では、『太母』と呼んでいる人に会わせる段取りをつけたんだ。
市:何・・・を・・・何のことを仰られているのですか―――
『これから私が話す事は、総て私の一存で話す・・・いいね。』
『・・・はい―――』
『君はもう、薄々勘付いているだろうけれど、私“達”は、元々こちらの世界の人間ではない―――』
『別の言い方で言うなら、『魔族』だ。』
『その『魔族』の“長”たる、太母からのお願いで、「可能性ある者達」を私達の次元へと招き。』
『そして・・・私達を憎み、滅ぼそうとしている「ニンゲン」達と、『対話する機会を模索する』―――』
『それが、私達が本来ここへと来た使命なんだ。』
その“真実”は―――“そうではないか”と思っていた市子の、未だ遥かその先にある重大な事柄でした。
その為、「魔王」から諭された璃莉霞と同じく、頭の中が痺れ・・・剰え熱を帯び、正常な思考が出来なくなってしまっていたのです。
それに、ジョカリーヌを初めとする、他の超常能力者が「魔族」だと言うのなら。
その“長”とは、やはり『魔王』である意外にない・・・
しかし、市子も知る上での、“ファンタジー”や“RPG”での『魔王』は、
世界を破壊し尽し、やがて闇の世界に君臨する、“巨大な悪”そのものであると思っていたのに・・・
ならば、ジョカリーヌやエリヤ、ミリティアを初めとする、あの人達は、
その「魔王」なる者の尖兵であるはずなのに、人間である自分達に、こうも優しく親しく接してくれていると言うのは・・・?
そして・・・ようやく明らかとなる―――
自分達「人間」と、彼女達の次元での「ニンゲン」・・・
その違い―――
なぜ「魔王」は、その“武力”ではなく、「対話」を求めたのか・・・
なぜ「魔王」は、『可能性』を求めたのか・・・
そもそも『可能性』とは―――・・・?
――ようやく運命の歯車は――
――歪な音を立て――
――軋み始める――
つづく