復活祭の仮装パーティーの最中、「ザッハーク」と名乗る者の仕業により、
本来自分がいるべき次元とは違う場所へと送られてしまった璃莉霞は、
自称を「魔王」と称する女性と、運命の邂逅を果たし・・・
璃:「対話」―――ですか・・・
エ:そう、今の私達に必要なのは、「争乱」ではない。
互いに主張をぶつけ合う事に他ならない。
「私達が知っている「魔族」・・・」
「それは、“ファンタジー”や“ゲーム”等の「物語」で、よろしく“人間”に対抗する勢力の、代名詞の様なもの・・・」
「それが、互いに「争い合う」事ではなく、「話し合う」事での着地を模索しようとしている・・・」
「それに・・・「争い」―――」
璃莉霞には、今、自分の目の前で、自分が理解していた事とは真逆の事を成し得ようとしている、
一人の「魔族」に、不思議な感覚を抱いていました。
璃莉霞が理解していた「魔族」・・・
自分達「人間」の理屈は通らず、有無を言わさず暴を振るう者―――
“それ”を真っ向から否定する、「魔族」の「王」・・・
それに、「魔王」が投げ掛けた言葉に、引っ掛かった璃莉霞は・・・
璃:あの・・・済みません―――あなたの言う、「争い」って何ですか?
すると、彼方は、“沈黙”を守った・・・
けれど、なぜ“沈黙”を―――?
「私は・・・その“沈黙”は怖かった―――」
これまでのやり取りで、この「魔王」の知能の高さの程は知れてきた・・・
なのに・・・の、“沈黙”―――
なにか自分が、とんでもないことを聞いてしまったのではないか―――と、璃莉霞は思うのでしたが・・・
エ:「争い」―――か・・・
君は、何だと思う?
璃:「私」は「あなた」では・・・ない―――?
すると、「魔王」の口角が上がり、まるで自分が慕う「師」と、同じ表情となった・・・
エ:なるほどね・・・うん、その答えだけで十分だ。
璃:(えっ?)あの・・・私―――
エ:君はどうやら、初等ながらも、何者かの手によって、この私の“教え”に中っているようだね。
璃:あなたの“教え”??
答えの全容を聞くまでもなく、その人は理解にまで「至った」―――
しかも、璃莉霞自身が持っていた「解答」は、璃莉霞自身の師により教えられたもの・・・
それが、その“教え”そのものが、この人の持論だったとは―――・・・
すると―――
#89;では、そこから先の事について話しをするとしよう
璃:そこから先の事について―――?
エ:ああ、君はもう既に、“きっかけ”としてのモノは学んでいる。
ならば少し、深い処まで理解を深めてはどうか―――そう思ってね。
『言うまでもなく、君は既に「争い」と言うものを知っている。』
『「私」は「あなた」ではないのだから、既にそこで衝突と言うものは起こるものだ。』
『けれど世界にとって、その“衝突”は大切だと言って、過言ではない。』
『「発展」とは、そうした“良い”「争い」によって、得られた産物と言って差し支えないからね。』
『争いに、“良い”も“悪い”もあるのですか?』
『あるよ・・・。』
『「たった一人」なら、自分が考えたことが“正しい”―――』
『けれど、果たしてそう言えるのだろうか?』
『そこで違う意見を取り入れるなどして、“正しい”のか、“間違って”いるのかが判ってくる。』
『これもまた、立派な「争い」の形態だと言ってもいいだろうね。』
『それは聞いたことがあります―――』
『私にその事を説いてくれた人も、同じことを言っていましたから・・・』
『そう―――けれど、ここまでは“初等”のモノの考え方ではある。』
『そして、“そこから先”―――』
『では果たして、「戦争」が齎せるモノとは何か、考えたことはあるかい。』
『戦・・・争―――』
『「戦争」もね、広い視野で見れば、利益は齎してくれるんだよ。』
『えっ? けど戦争なんて―――』
『そう・・・通常の場合では、起こらない方がいい―――』
『それは誰だって、よく考えれば判る事だからね。』
『けれどね・・・その「戦争」を経て、得られるものはあるんだよ。』
璃:そんなのおかしい―――おかしすぎますよ!
だって戦争になってしまえば、多くの人が死んだりするし、建物や文化だって・・・
エ:そうだね―――それはとても、哀しむべき事だ・・・。
けれどね、こうも考えられるんだよ。
そうした「戦争」により、化学は著しく発達し、物流は世界を巡り、経済を発展させる後押しとなる・・・
そうした数々の恩恵を、私達は享受出来ている―――君にも覚えはないかな。
璃:えっ・・・そんな、私には―――
エ:君が、君がいるべき本来の次元から来た時、とても意匠の凝った衣服を着ていたよね。
そして、その衣服に使われていた“布地”や“繊維”は、この私が目にするのは初めてだ。
現に、今君が来ているこちらの衣服は、木綿や麻が主流となっている。
尤も、その繊維も、ここ100年で劇的に変化をしたと言ってもいいくらいだからね。
璃莉霞にしてみれば、それは衝撃的に過ぎる告白でした。
自分達が、今享受できている恵み・・・
それが、戦争から経て、得られたものだったなんて―――??
しかも、衝撃の告白は、それだけには留まらず、「戦争」の功罪を更に知る処となったのです。
エ:それだけではないよ・・・。
戦争は、言わば経済の潤滑油として捉える視点もあるからね。
璃:え?え?? け・・・経済?
でも・・・戦争が起きたら―――
エ:もちろん、その被害は甚大―――
美しい建物や街並み、街道などは破壊し尽される・・・
けれど、こうは考えたことはないかい。
璃:え? 何を―――・・・
エ:果たして、破壊された処は、そのままなのだろうか・・・
「そう言えば・・・歴史の授業で習ったことがある―――」
「私達の母国も、2つの大戦を経験し、その一つでは大敗をして、多くの都市が壊滅の危機を迎えた・・・」
「けれど戦後まもなく、大戦によって破壊し尽された都市は、元のままではなく、かつてより、より栄え―――」
「今では空を覆うような、聳え立つ摩天楼・・・」
「発達した、まるで迷路のような道路・・・」
「過去では、都市間の往来は、早くても一週間はかかっていたと言うのに、今では2〜3時間もあれば、目的の場所まで行くことが出来る・・・」
「それに・・・通信機器―――今では、広げた片手に収まるくらいの大きさなのに、何から何までできてしまう、“魔法の筐”・・・」
「なんてことだ・・・私は―――あまりにも当然のこと過ぎて、全然気付かなかった・・・」
「けれど、これが―――・・・」
璃:戦争の・・・お蔭―――
エ:そう言う事だ。
けれど、“良い”ことばかりではないよ。
思想の違いから、宗教性の違い―――はてまたは国家の野望とか・・・ね。
戦争の“功”と“罪”―――
その“功”の影響により、自分達は繁栄し、何より便利な生活が送られている・・・
その事は、戦争を知らない―――忘れてしまった遺伝子を持つ璃莉霞にとっては、ショックな出来事でした。
けれども、その“罪”なる事―――
一つの国家の欲望により、亡びた国や文明・・・
思えば、自分達もTVの報道とかで時折目にする、国家同士の意地の張り合いや、
宗教性―――民族間の違いから、大きくはなくとも小さな争いが各地で勃発している事を、知ってはいた・・・
「私達は・・・知らないんじゃない―――」
「知ろうとすらしてこなかったんだ―――」
「あの画面の向こう側で映し出された映像の数々は、本当にその場所で起こっている出来事・・・」
「けれど・・・私達は―――」
「私達の国は、その当該国ではないから、どこか安心しきっていられる・・・」
「もし・・・私達の国が、報道されている場所と同じになってしまったら―――??」
その考えに至った時、璃莉霞は初めて、悍ましい感情に支配されました・・・。
今まで・・・そんな事を目にしながらも、無関心で、無自覚を装っていた自分・・・
震えは、止まらない―――
なにより、その―――自分への“気持ち悪さ”に、えづいてきさえもした・・・
しかし、その場には璃莉霞一人ではない、優しく“宥める”手が・・・
エ:少し、君には辛かったようだね・・・。
けれど、もう少し続けさせてもらうよ。
『確かに―――戦争という行為には、“良い”面もあれば、“悪い”面もある。』
『“悪い”例をもう少し述べさせてもらうと、戦争の価値観の一つを自国民に押し付け、国民の感情を操作する・・・出来てしまう点にあると言えるだろうね。』
『そんな・・・戦争を材料に、何も関係のない人達まで巻き込むって言うのは―――』
『ではなぜ、その国の住民達は、その国から離れないのだろうね。』
『そう言う事なんだよ、皆誰しもが、頭の中では判っている“つもり”なんだ。』
『けれどそう言うのは、生まれ故郷から出られない“何か”・・・言ってしまえば、“呪縛”と言っても差し支えないのかもね。』
『それに、例えば―――の話しになるけど、『今自分の国には、お前達の国民を万殺せる道具を持っている、だから・・・』』
エ:『「金」や「物資」を寄越せ』―――とかね。
これはこれで、非常に効率の良い交渉手段と言える。
その国が言っている事が、本当なのか・・・それとも偽りなのか・・・調べたり、知る機会がない時には特にそうだ。
問題の国が、“本当はそうかもしれない”し、“そうではないかもしれない”・・・それだけで、交渉の主導権は、脅しをかけてきた国家にあると言っていいね。
璃:割と・・・あるよ、それ―――
エ:それを「情報戦」と言う―――
もしそれに成功をすれば、『戦わずして勝つ』と言う、戦略上からしても、最上策が達成できる極めて珍しい事例とも言えるだろうね。
「私は・・・『知らなかった』んじゃない、『知ろうとすらしてこなかった』んだ・・・」
「今から思えば、“あの人”が、事ある毎に私に対して使っていた“ある言葉”・・・」
「『豎子』―――」
「その言葉が、今にして深く突き刺さってくる・・・」
「そうだ・・・私は、何一つ知ろうとしなかった『豎子』なんだ・・・」
「けれど、魔族の王からの教えを受け、“至れる”処となった・・・」
「それに・・・ならばこの人は何なんだろう―――?」
「魔族の王なのに、人間であるこの私に、こんなにも高度な教えを説いてくれるなんて・・・」
璃莉霞は今―――魔王と二人きりで、互いの意見交換をしていました。
その大半は、気付いてはいながらも、知ろうとすらしてこなかった自分の愚かしさに対しての嫌悪感でしたが。
それすらも、当代の魔王は、優しく包み込んでくれたものだった・・・
けれど同時に、不思議な疑問が湧いてきたのです。
「こんなにも、優しい女が・・・『魔王』だなんて・・・」
璃莉霞は・・・それこそ知らない―――知る由すらない・・・
なぜ、この優しい女性の魔族が、長たる「王」を継承し、僭称出来たのか・・・
そして・・・識る―――そのきっかけを。
つづく