“ぬるり”―――とした感覚・・・
“それ”は、「澱み」と言った方が似つかわしいのか・・・
それはまさしく、“あの時”のように、自分とPTを組んでいた“あるプレイヤー”が、醸し出していた「澱み」と同じでした。
だからこそ・・・“思い”に“至る”―――
そして、「まさか」と思う―――
それは―――その地域で開催された「剣道大会」の「決勝戦」にて、
まさしく“現実”としては、有り得ない光景―――なのでした。
#9;絡まりあうもの
時間を少々遡り、新規プレイヤー「ヒイラギ」を襲う、クライム・エネミー・プレイヤーの集団・・・
その集団を討ち伐うべくのクエストを受注した市子達―――ではありましたが、
奇しくもPTのリーダーである「リリア」なるプレイヤーが、一体どういう理由からか、
彼女自身が蓮也を鍛え育て上げる為に・・・と、受けたはずのクエストを、
一方的に取り下げ、剰え自分一人のものとしてしまった・・・
そのことにより、PT状態は解除され、リリア単独でのクエストに移行したのです。
それにしても・・・どうしてリリアは、「殺気」を―――??
このゲームは、よく知られているように、ゲームのプレイヤーキャラクターの「スキル」は、
宜しくリアルで操作する人間の、「技能」を受け継ぐ―――
ならば??
こんなにまでの「澱み」・・・「殺意」「殺気」を振りまけることの出来得る人間が、存在しうる・・・のか?
いや―――これは、認めなければならない“事実”・・・
“これ”が、このゲームにおける、“特殊なエフェクト”ではない限り、
こんなにも感じる―――悪寒にも似た感覚・・・
エフェクト如きでは感じようはずもない―――この「エグみ」にも似た感覚を、自分達は感じようはずも、ない・・・
そしてもう一つ――――
一人のプレイヤーが取ったある行動に、市子は一層の疑念を濃くさせるのです。
「そんっ―――な?? な・・・なんなのです?
“アレ”は―――」
「“アレ”は、まさしく剣道の「構え」そのもの・・・?」
「けれど、私はこれまでにも、色々な流派の“型”を目にしてきましたけど―――」
「その流派の、どれにも該当するものが見当たらない―――??」
「それ・・・に! もしかすると、あの「構え」そのものが、こんなにも不快を増幅させているというの??!」
ほんのちょっと前まで、自分達のPTのリーダーを務め、自分が支援をしている蓮也を鍛えてもらっていた存在・・・
その存在が、不逞の輩の前で取った「構え」こそは、現代剣道における「構え」にも似たようなものでありました。
けれどそう・・・市子は違和を感じていたのです。
確かに“アレ”こそは、自分が知る上での「剣道の構え」にも似たようなものだった・・・
そう―――“ような”・・・
確かに“それ”は、剣道の構え“のような”ものでもあり・・・
しかし―――そのどれでも、ない・・・
ならば――“アレ”は一体何なのであろうか・・・
そんな市子達の疑念を余所に、振り下ろされたる刃―――・・・
これが、仮想の世界だったから良かったものの、現実の世界だったらば―――・・・
そこから先は、考えないようにしました。
それは、判り過ぎたことでもあったから・・・
そして、“賊”の総てを斬り伐せ終えた者は、新規プレイヤーに近寄り・・・
リ:大丈夫か―――?
ヒ:(・・・)―――え? あ・・・あぁ〜〜・・・
リ:そんなに怯えなくてもいい・・・と言っても、無理な話しか・・・。
プレイ初日に、こんな目に遭わされちゃあ―――な・・・。
ヒ:(っ・・・あ)あの・・・―――
リ:今のあんたは、連中から酷い目に遭わされた直後だ―――
それに、現実じゃどうかは分からないけど、男性プレイヤーもいる・・・
だからこいつは―――近くの街に行き着くまでの“つなぎ”だ。
ヒ:(あ・・・)ありが・・・とう―――
リ:なに、いいってことさ―――
自分を助けに来てくれた人が、自分に酷いことをしていた連中以上のモノを見せた時、
そこで新規プレイヤーは怯えました・・・
そして、自分の危機を振り払ってくれた人が近づいてきても、
“怯え”の震えは収まるはずもなく―――
けれどそのことは、当のリリア本人でも判っていたことだったのです。
自分は知らないわけではない―――それも直近に、繋がりを復活させてくれた古い知人の危機の前に、
知らないフリを、決め込むわけには行かなくなった―――
なぜならその古い友人は、近々“部”の存亡を賭けた、大事な「大会」を控えており―――
今日のこの日、新規にこのゲームを始めたその理由も、常々から“噂”にまでなっている、このゲームの最大の特徴に、
藁にも縋りたい一心だった―――
それが例え、嘗て一緒に剣武の道を錬磨していた“仲間”を、「捨ての大将」として招き入れなければならなかったとしても・・・
「捨ての大将」―――すでに“負け”が“見込まれて”いる、「お飾りの大将」・・・
本来なら、“こんな”モノは、以前まで剣武の道を一緒に錬磨していた者に対し、依頼すべき事柄ではなかった・・・。
こんなにも侮辱―――屈辱とも言える行為を、剣武の道を一緒に錬磨していた者は快く諾れてくれた・・・
正直―――胸が痛かった・・・
だからこそ、このゲームの最大の特徴だと言われている“あの噂”を、最後の頼みの綱としていたのに、
不逞の輩からの甘言に誘われ、その道中に襲われてしまった―――・・・
「バカだ―――」
「私が・・・バカだったのだ―――」
「あの“噂”は、所詮“噂”でしかない―――」
「その“噂”に釣られ、このゲームで「強くなれる」と、勘違いした私への―――」
「これは、罰なのだ・・・」
総てを諦め、観念し―――遍く犯罪者共の軍門に下ろうとしていた刹那・・・
不意に漂ってきた「澱み」により、正気を取り戻した新規プレイヤーは、
市子が抱いた疑念と同じものを抱き、そして竦んでしまった・・・
それはまるで、「蛇に睨まれた蛙」の如きの様に―――
けれど、総ての障害が取り払われた時、自分を救ってくれた人に対し、自分は怯えてしまった・・・
しかしそれは、向うの人も分かってくれたようで、この先自分が怯えないように―――けれど、
身包み剥がされて裸同然の自分に対し、余っていた装備を分け与えるなどして温情を示してくれた・・・
のに―――
こんなにまで見ず知らずの自分に対し、優しくしてくれているのに、未だに“怯え”は止まらない―――・・・
「なんて私は恥知らずなのだろう―――」
「これでは、恩を仇で返しているようなもの・・・」
「「武道」に於ける、「礼節」を忘れてしまった―――“不届者”・・・」
そんな後悔を胸に、「ヒイラギ」は、ログオフを選択したのです。
その一方こちらでは―――
今回、本来予定していたモノを反故にしてしまい、街へと帰ってきたのですが・・・
市子にはまず、するべきことがありました。
そう・・・今、自分が抱いている疑問を、本人に問い質すために―――
ですが―――・・・
市:リリアさん、今の件ちゃんとせつめ―――
リ:あ〜〜〜―――なーんかヤル気失せた〜〜て、ことで、私はこれで失礼するよ。
市:(えっ?)ちょっ―――あなた?!
まさにその刹那、自分に迫りくる危機を回避するため、当事者はログオフを選択し、その場から消え去った・・・
その場に取り残されたのは、数々の疑問とやり場のない怒りが、今にも噴出しそうになっている市子―――と、
今回の件が、なにがなにやら・・・さ〜〜〜っぱりの、置いてけ堀感満載の蓮也の姿があったのみ―――なのでした。
明けて翌日―――現実の世界では、昨夜の一件から頭を切り替え、鍛錬に励む柊子の姿が。
柊:(昨日はあんなことがあったけど・・・こんなことでは終われない―――
なんとしても、明後日の大会まで持ち直さないと!)
やはり、新規プレイヤー「ヒイラギ」とは、「青柳柊子」その人でありました。
けれど、自分が所属する部活存続の為、「頭を切り替えて」・・・と、自分に言い聞かせはするのですが、
どこか蟠りは存在していた・・・
「頭を切り替えて」―――と、自分には言い聞かせてはいるものの、そうそう器用にできるものではない―――
それに、学園最上層に位置する実力者からの、直々のお達しもあった・・・
「お前達の部活を存続したいと、そう願うならば、実績で示し、見せてみよ。」
理事長からの重々しい一言・・・「実績を残す」―――
この地域には、自分達が通う「白鳳学園」の外に、様々な分野に於いて二分する「ライバル校」なるものが存在している・・・
「雷鳳学園」―――ここを打破できなければ、自分達の“実績”は、有り得ない・・・
そして恐らくは、自分たちにとっても最大の障害として立ちはだかってくる存在―――
世が世であるならば、「天才剣士」の呼び声高いその人物こそ―――
『橋川小夜子』・・・
恐らく彼女は、「大将」として出てくるに違いはない・・・
「本来ならば・・・私があなたを止めないといけない―――」
「けれど“これ”は、飽くまで「実績」作りなのだ・・・」
「この大会では、自分達の部活の存亡を賭ける命運となるに違いはない・・・」
「そうだ・・・この大会に於いてだけは―――必ずや、優勝を果たさなくてはならない!」
「だからこそ、言わばどんな手を使ってでも・・・私がライバルと認めたあなたから「卑怯」と蔑まれてでも」
「絶対に優勝をしなくてはならない―――!!」
「橋川小夜子―――私を蔑みたいなら、好きなだけ蔑みなさい・・・」
「松元璃莉霞―――ゴメンね・・・あなたをこんなことに巻き込んだりして・・・」
青柳柊子は、必勝の大会を目前に、悔い―――謝り―――そして肚を括るのでした。
自他ともに認める「ライバル」から蔑まれようとも・・・かつて一緒に剣武の道を錬磨していた「仲間」に深謝しようとも・・・
自分に課せられた使命を元に、果たさなければならない―――と、して。
つづく