数々の教えに中り、更なる成長を遂げた璃莉霞―――
これで、“一応の”ミリティアの目的は達することは出来ました。
後はエリスの手により、璃莉霞が本来いるべき次元に戻して貰えばいいだけ・・・
けれど璃莉霞は―――
璃:あの・・・こんなにお世話になって、厚かましいとは思っているんですが・・・
エ:例の・・・“集落”を見ておきたいと言うんだね。
璃:はい・・・それに、私がこちらへと来てしまった原因が“そこ”にあると言うのなら、
戻していただく前に見ておく必要がある・・・そう感じましたので。
エ:判った・・・では、この手につかまりなさい。
自分の我が儘―――本来なら、教えられた後は、大人しく本来いるべき次元へと戻るのが、普通なのだろう・・・
けれど自分は、知らなければならない・・・
今までの様に、知るべき事を知ろうとすらせず、“無関心”“無自覚”を装いたくはない―――本当の意味での、「豎子」になりたくない・・・
そんな璃莉霞の事を理解してくれたのか、魔王エリスは自身の右手を差し出し、璃莉霞につかまるよう促すと、
彼女達の周りの空間だけが歪み・・・一瞬の下に―――
そこはまさに、“何か”あった・・・
“蹂躙”“略奪”“侵攻”―――それだけの事が展開された集落があったのです。
それを見た璃莉霞は―――・・・
「酷い・・・けれど、これが戦争―――」
璃莉霞は―――いえ、璃莉霞だけではなく、璃莉霞の親や祖父母の世代まで、
「日本」と言う国家はその理念・・・『憲法』の下、他国間との戦争を禁じてきました。
それは、その国が、一度徹底的な大敗北を迎えた経験を持ったから。
そして“連合国”の指導の下、こんなにも悲惨で愚かしい行為を回避してきたのです。
けれどそのお蔭で、璃莉霞やその親―――祖父母は、その凄惨さを経験した事がない・・・
だからこそ、知らない―――本当の意味での、戦争の悲惨さを・・・。
しかし今、璃莉霞は自分の眼で、その光景を焼き付けました。
とは言え―――
魔族:おお―――あそこに居られるのは魔王様!
魔族:皆―――魔王様が来られたぞ!
魔族:いや・・・待て―――魔王様のお側にいるのは、“ヤツら”ではないのか?!
エ:皆の者―――鎮まるが良い。
この者は、私がかねがね模索している、対話の為の“彼ら”からの使者である!
魔族:おお―――それではようやく、ヤツらも耳を傾ける気になったと・・・?!
魔族:いや、待て―――それにしては妙だ・・・
魔族:そうだな・・・ならばなぜ、このタイミングでヤツらがまた・・・
エ:それは、彼らの二面性の作戦なのだろう。
私達の言い分もあるなら、彼らの言い分もある。
だが、もし―――彼らの言い分を要られないとした場合、“こう言う事もある”との、示威的行動であると、私は見ている。
やはり・・・魔族とその王―――以外の、“自分”という存在がいると、こう言う事になってくる・・・
そこは考えてはいたけれど、予想以上の“敵意”に、璃莉霞は怖気を覚えていました。
けれど、そこで璃莉霞は、エリスが魔族の王たるゆえんを、垣間見たのです。
璃:凄い・・・ですね―――
エ:何がかい。
璃:あんなに私を敵視していた魔族の皆さんが、エリス様の一言がきっかけで―――
エ:これでも、交渉力には自信があるからね。
璃:(・・・)それ―――って・・・もしかすると、こちらの世界の「人間」達と対話をする・・・って。
エ:だって私は、それくらいしか取り柄がないのだもの。
璃:(???)エリス様―――魔王ですよ・・・ね?
エ:璃莉霞―――君の眼には、私がどう映っているかは判らないけれども、私は魔族としては、さして強くはないよ。
もしかしたら、あの伝令役の彼にも負けてしまうかもしれないね。
璃:はあ―――? えええ〜〜〜??
ウソ・・・でしょ?
それ―――
エ:こんな事を、嘘を吐いたって何も始まらないよ。
それに、ミリティアからは痛烈なことを言われたからね。
『あなた様程、最弱な魔王はこれまで見たことはありません。』
『なので、我々が戻ってくるまでの間、大人しくしていたください。』
―――と、ね。
璃:(あ〜〜〜)あの人なら、言いそうなことだ―――
図らずも、知ってしまった事―――
魔王・・・なのに、最弱な魔族
けれど、エリスが魔王になれた経緯こそが、その卓越した智嚢であり、交渉力だったのです。
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それはそれとして―――・・・
璃莉霞が、異次元へと飛ばされ、また戻ってくるまでの5時間・・・
現実内の仮想内では、少し異様な空気に包まれていました。
#91;修羅逝き姫
それは・・・ある日のログ・イン光景―――現時刻22:30・・・
ロサンゼルス・サーバー・エリアの、あるクランの溜まり場にて・・・
ワ:ぐわっ―――!
バー:ワスプ!
お前・・・どう言うつもりだ!
しかし・・・彼方よりの返事は―――ない・・・
けれど、彼方からは容赦なく―――
クル:く・・・返事もなし―――とは、いい度胸じゃないか。
だが、そんなもので・・・私達に敵うとでも思っているのかい!?
たった一人―――
たった一人で、北南米エリアで最強の呼び声高いクランに、乗り込んできた者・・・
そんな、大胆不敵な剛の者に対し、クルセイダーの二丁拳銃での「跳弾」が襲う―――
が、しかし・・・彼方は抜刀をすると、己が身に迫りくる弾丸を・・・
カリ:う・・・ウソだろ―――おい・・・
バン:あいつの「跳弾」を、総て叩っ斬るとは―――
バジ:それにしても、判らないな・・・なぜ君が、そのような―――
その者の目は、一時的な“盲目”になるよう、閉じられていました。
ですがしかし―――“まるで視えている”かのように、己が身に迫る危機を、克服できていた・・・
しかも、言葉を喋らないと思っていた、その口から漏れたモノとは・・・
市:フッ―――あなた方「DIVA」とは、所詮こんなものでしたか・・・
バー:・・・なんだと?
市:―――で、あれば、私は非常に哀しい・・・
こんな事であれば、『焔帝』様にでもお願いすべきでした。
バー:聞き捨てにならないな・・・。
勝手に、私達の家に土足で上がり込み、荒らすだけ荒らしといて、気に食わないから「ハイサヨウナラ」―――か・・・?
北南米最強の呼び声高い「DIVA」を強襲したのは、市子―――でした・・・。
しかし、生来大人しく、冷静であるはずの彼女が、なぜこんなにも物騒なことを―――?
しかも、「挑発」をしてくるなど・・・
とは言え、自分達を虚仮にされたと思ったバーディーは、自らのスキル―――≪鋼斬糸≫で、市子を捕えると・・・
バー:捕まえたぞ・・・下手な動きはしないことだな。
市:(・・・)コレで、何をしようと?
バー:聞かせてもらおう・・・色々と―――な。
何故私達なんだ。
市:まさかあなたは・・・この程度で私の身体の自由を奪ったとでも?
バー:質問に答えろ・・・さもないと―――
市:この“糸”で、私の身体を斬り刻む―――と、でも・・・?
フフ・・・フフフフ―――冗談でしょう?
バー:貴・・・様あっ―――!
細い・・・ながらも、丈夫な“糸”が、市子の手足や首―――などに纏わりつき、一切の身体の自由を奪っていました。
しかも、“あと少し”―――力の加減を入れるだけで、市子の身体をバラバラに出来ると宣言して・・・
けれど、その“通告”も、今の市子の耳には届かない・・・
なぜ・・・どうして―――
あれ程までに、大人しくも冷静で、その「怒り」と言う感情からは、最も程遠い―――と、思われていた彼女が。
こんなにも無謀なことを―――?
この世で、一番大切にしていた“信友”を失ってしまったから・・・?
何も出来ないでいる、無力な自分への腹立たしさから・・・?
それとも―――・・・
ただ一つ言えたことは、今の市子を支配していたのは、「怒り」そのものでした。
では市子は、何に対して「怒り」を覚えていたのでしょうか。
けれど、市子からの更なる「挑発」に乗せられ、“あと少し”の余分な力を込めようとした―――その瞬間・・・
その場にいた者達は、信じ難い光景を目の当たりとしたのです。
〜パチン☆〜
市:―――≪禁鞭≫
・・・こんなものですか。
バー:(な・・・っ?!)わ・・・私の糸が?!
“糸”で、身体の要所を封じられていたとはいえ、手首から先は自由―――
そこで市子は、“ある者”の術を行使したのです。
そう―――手指の運用により、為せてしまえる術・・・
しかし、それこそはまさしく―――
クリ:信じ・・・られない―――
クル:どう言う事だ?
クリューチ。
クリ:あの術こそは「ジョカリーヌ」・・・更に言えば、最初の『四凶』である「女媧」が得意としていたものですよ!
それを・・・どうして―――?
「・・・あの方より、直接に授かりましたが―――よもやここまでとは・・・」
そう・・・まさしく市子が使った術式こそ、クラン・マスターであるジョカリーヌが最も得意としていた『封術』だったのです。
そして今、運用したのは、そのうちの一つでもある・・・真空波を生じさせる『禁鞭』だったのです。
そして一度、市子の運指法により、生じた真空波は瞬くの間に市子の身体に纏わりついていた糸を、総て断ち斬り・・・
しかもその影響を周囲まで派生させていたのです。
けれど、思いの外消耗・・・特にMP消費量や、それに伴う疲労感は激しかった・・・
とは言え、こんな事は気取られてはならない―――
それに、自分の“覚悟”を、無駄にはしたくはない―――
慣れない内での運用は、既に分かっていた事・・・
ならば―――実践を兼ねての修錬をすれば、いいまでの事・・・
市子の「怒り」―――
それは・・・
今まで、何も知ろうとしなかった、自分に対しての―――・・・
そして、あるレベルに到達し、その先を目指さない・・・変わろうとすらしない、自分“達”に対しての・・・
だからこそ、まだその“見込み”がある―――
ドゥ:あなたは・・・“敵”―――?
市:そう思った方が・・・都合が良ければ―――
ドゥ:そう・・・では、“覚悟”はしてきたのね。
市:これから闘争を始める前に、一つ伺ってよろしいでしょうか・・・
ドゥ:・・・・・・・・・・・ええ―――
市:あなたは・・・変わろうとしていますか―――
ドゥ:そんな・・・下らない理由で、私達の仲間まで巻き込むなあ―――!
―――≪斬影裂破≫!
「嗚呼・・・なんと心地よい―――」
「心地よき、静かなる怒りなのでしょう・・・」
「あなたも、藻掻いていらっしゃったのですね―――」
「ならば・・・共に、高みへと目指しましょう!」
――総ての可能性の為に!――
普段の市子からすれば、今回彼女が起こした行動こそは、無謀の極みと言えたことでしょう。
けれど、その場にいた彼女こそは、普段の彼女ではなかった・・・
そう―――市子は知ってしまったのです。
師と崇める人物からの、一大告白により、飛躍的に成長を遂げてしまった“彼女”―――
今―――そのクラン1の武力を誇る者からの、突撃技から転じての焔を纏った蹴り技が、迫り来ようとしても、
身動ぎ一つしない彼女の胸に去来するモノ・・・
『総ての可能性の為に』
市子自身の、大切な“信友”を失った後、師より教わったものとは・・・?
それは、これから括目に値するのです。
つづく