ドゥルガーの極め技の一つ、最速での突進技から転じての炎を纏う蹴り技・・・
その技が迫り来ようとしても、市子は身動ぎ一つしませんでした。
なぜならば、“その覚悟”が出来ていたから―――
極め技を正面から受け切り、燃上しながら宙を舞う武者巫女・・・
けれど、まだ決着はついていない―――
だから地に伏せ、起き上がって来ようとする者に対し、臨戦態勢を解かないドゥルガーは・・・
バン:おい、あいつ―――まだ立ち上がろうとしているぜ。
クル:根性のあるヤツだねぇ・・・あいつのあの技、喰らって立とうとするヤツ、私は初めて見たよ。
市:(フッ・・・)じつに、心地よき痛みでした。
それで・・・? これで終わりですか。
ドゥ:舐めるなぁ―――! ―――≪バーン・ナック・・・
カリ:(ウソだろ?? あの子、マリアの技の発動を潰しやがった?!)
クラン・メンバー達は、ドゥルガーの極め技の威力を知っていました。
だから、その技を避けもせず・・・また防ぎもせず、正面で受け切り、
大ダメージを負ったはずなのに、まだ立ち上がって来ようとする不屈の闘志に目を見張ったのです。
けれど、ドゥルガーからの攻撃の手は、休まる事がない・・・
自分達の居場所に、正々堂々と乗り込み、荒らすだけ荒らした者に対し、またも正義の鉄拳を見舞おうとした―――
その時、技の“出がかり”を潰すべく、ドゥルガーよりも素早く相対距離を詰めてきた者は・・・
市:いけませんよ・・・そんなに距離のない場面で、そんな技を使っては。
この私の様に、容易に懐に入り込める・・・
ドゥ:(くっ・・・!)このっ――― ―――≪パワー・ウエイブ≫!
市:―――「一つ」!
クリ:ドゥルさんの衝撃波が―――!
市:―――「二つ」!
カリ:(!)マリア―――!
市:―――「三つ」!!
自分の戦略の甘さを指摘し、指導をしてきた・・・
あるレベルまで達したプレイヤーが嫌う事の一つに、自分のプレイ・スタイルを否定される事―――
その事により、冷静さを失う事は儘にしてある・・・
今にしても、自分の動揺を隠すために―――と、出した技も、すぐさま見切られ、
剰え反撃の三連撃を叩き込まれてしまった・・・
が―――・・・
「想定以上に“固い”・・・」
「この方の装備、まさかこれほどのモノとは・・・」
市子は、「三連斬」の後、素早く納刀しましたが。
その感触―――自分が想定していた以上に防御力があった、相手方のバトル・スーツに感嘆するのと同時に、
自分の唯一の武器が役に立たなくなったことを知覚しました。
とは言っても、ここで終われない・・・
中途半端で終われるはずがない・・・
終わっていいわけがない―――!
それに、今度は逆に、ドゥルガーを地へと這わせましたが・・・
ドゥ:(スキあり!)―――≪飛燕斬≫!
市:―――あっ・・・ぐぁっ!
「い・・・いけない―――今ここで、この眼を開けてしまっては!」
今、綺麗な不意打ちを食らい、その反動でもんどり打つ市子・・・
そのお蔭で、反射的に薄らと眼を開けそうになるも、また力強く瞼を閉じようとするのです。
「この人・・・妙だわ―――」
「ここをたった一人で強襲するなんて、クライム・エネミー・プレイヤーだと思ったんだけど・・・」
「それに、クライム・エネミー・プレイヤーだった場合、判らなくはないんだけど・・・」
「なんなんだろう―――この・・・ココロのもやもやは・・・」
「この人は―――決して悪い人なんかじゃない・・・」
「その事は、直接手を合わせている私が判っているから・・・」
市:フッ―――フ・フ・フ・・・私の読みも、存外当てになりませんね・・・。
こうまで甘いと、笑いが込み上げてこようと言うもの・・・
ドゥ:―――どう言うつもりなの・・・
市:まだ勝ってもいないのに、その事を“語れ”と・・・?
それは私への侮辱でしょうか―――
バー:(まだ闘ろうって言うのか?!)
ドゥ:(フ・・・)狂っているわね・・・あなた―――
市:(・・・)褒めて頂いて、何よりです―――
「嗚呼・・・上手くいかないものですね。」
「私の信友なら、もう少し上手くやれたのでしょうに・・・」
「ですから―――今回はここまでとしておきましょう・・・」
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最高の信友である璃莉霞を失い―――その後で、市子はジョカリーヌから、ある告白を受けていました。
またそれと同時に、彼女から『あるモノ』を授かっていたのです。
#92;市子、真理を知る
市:あなた様が「魔族」?!
そんなバカな―――・・・
禍:ウソを吐いても始まらないよ。
それに君も、薄々と勘付いてはいたんだろう?
市:はい・・・けれども、どうして―――
禍:言ってしまうと、私達は元々こちらの次元の住人ではないんだ。
市:「次元」??
『そう―――私達の故郷は、色々な種属が日々、己の意義を賭けて闘争に明け暮れていた世界なんだ。』
『けれどね、「そんな事は間違いだ」と、説いてくれた種属がいたんだ・・・』
『無駄で意味のない争いは、時として悪しき想いを生じさせ、終わる事のない戦乱を招く・・・』
『その事に嫌気がさしていた者達もいれば、依存的に求めて已まない者達もいる・・・』
『けれど、終わりなくそんな事を続けていれば、いつかは私達の次元は滅んでしまう・・・』
『そう考えた「ある魔族」が、ニンゲンの英雄によって討たれ、滅んでしまった先代の魔王の座を継承した・・・』
『その魔族は、実は魔族の内では、そんなに強くはなかったけれど、』
『生来からの弁舌の巧みさ、交渉力などで対抗していた他の有力候補を、次々と言いくるめてね。』
『そして、新たな魔王として立ったその魔族が、まず最初にしたこと・・・それは―――』
禍:それまであった、他種属との紛争―――取り分けて、ニンゲンとの戦争を止めさせたんだ。
市:え??? で―――ですが・・・それは・・・
禍:そう・・・君が感じている通り、いつもは魔族側から仕掛けていた戦争を、一方的に止めたことにより、逆襲を被ることになってしまった・・・。
そこを魔王様は、「已むを得ない」と判断し、魔王城から“南東”にある集落を、最終の防衛ラインと定めたんだ。
『そこから―――・・・』
『そう・・・総てはそこから―――・・・』
『もう、私達の次元での、魔族側の援軍は望めない・・・』
『それもこれも、魔族が強すぎてしまったからね・・・』
『だから、“孤立無援”“四面楚歌”でも、「大丈夫だ」と、皆多寡を括ってしまっていたんだ。』
『けれどそれも、先代の魔王軍だったら―――の話し・・・』
『この意味が、君には判るかい。』
『案の定、私達が危惧していた通り、魔族の間でも不協和音が波及し、』
『魔王様の下から離反し、盾突く者まで現れた・・・』
『彼らの事を、「レギオン」と呼ぶ・・・』
『覚えているかい・・・欧州サーバーでの出来事を・・・』
『君が心配していたように、あそこにいたのは私のかつての恋人でありながらも、』
『魔王様の矜持に従う事を善しとはせず、袂を分かって「レギオン」と成ってしまった人なんだ。』
現実離れした話し―――けれど、これこそが“現実”・・・
突拍子もない事を聞かされ、現実か―――仮想か―――の区別する事すら出来ないでいる市子・・・
けれど、今にして思えば、あの時のこの人の表情が判ってきた・・・
しかし―――判らないのは・・・
市:では―――なぜ・・・ジョカリーヌ様は、その方とご一緒に・・・
禍:それはね、出来ないんだよ・・・。
もう、知ってしまったからね―――
市:(え?)知る―――? ナニ・・・を・・・
禍:「争う」と言う事の、本当の意味を・・・
市:(!?)ですがそれは・・・あなた様から私達に・・・
禍:あれはね、私の持論ではないんだよ。
言わばあの人の・・・「魔王様」から教えて頂いた、真理―――
「あ・・・ああ・・・そんな―――!」
「あんなにも素晴らしい教えを、魔族の王が!!?」
市子も、ジョカリーヌやミリティアが、自分達とはどこかが違う―――そう思っていました。
「それにしても・・・未だに信じられない―――」
「あんなにも素晴らしい言葉を使い、教えを授けてくれたその因が・・・」
「まさかRPGなどのラス・ボスで登場をする、「魔王」だったなんて!!」
その、ジョカリーヌからの一大告白を受け、市子はそれまでの事を反芻していきました・・・。
「邪悪な処なんて何一つない・・・それどころか、清々しく胸が透く思いさえしてくる・・・」
「そんな真理を―――魔王が!!??」
けれど、それこそが“固定観念”―――
一体誰が、魔族を単純に「悪」だと決めつけた・・・?
「“知らなかった”・・・」
「そうだ―――私は“知らなさ過ぎた”・・・“知ろうとすらしなかった”・・・」
市子は―――己への嫌悪感、気持ち悪さと共に、そこで嘔吐しました。
そんな彼女に、優しく寄り添い、背中を撫でてくれる女・・・
「こんな優しい方が・・・「魔族」?!」
「そんなわけはない・・・」
「こんな方が“悪”だとするのならば、私達は一体何様のつもりなのだ―――??」
市子は、またもえづき、嘔吐しました―――
それと同時に、頬を伝う悔恨の泪・・・
本当は、「何も知らない」くせなのに、「何もかもを知った」つもりでいて、考えを改めない・・・
そこで、一つの事実に突き当たりました。
市:「豎子」・・・璃莉霞はそう呼ばれていましたよね!
禍:えっ?
ああ・・・うん―――
市:なぜ璃莉霞だけ・・・ミリティア様は、その事に気付いていらっしゃった?
ジョカリーヌ様、教えてください! 何故私は豎子ではなかったのですか!
すると、彼方からは、「大丈夫」とでも言う様に、優しくも温かく包み込んできたのです。
そして、口にする―――・・・
『ああ・・・ここに、また一つの“可能性”が―――』
『喜んでください・・・太母。』
『私は今日、“あの日の私達”を、また一人見つけました・・・』
『太母―――?』
『この、無知だった私達に、本当の「争い」の意味を教え、後に私達「姉妹7人」を、この次元へと送り込んでくれた人―――』
『「原初より48人目の魔王」―――“総てを持ち、与える者”エリス・・・と、そう呼ばれている。』
『その方が、あなた様方の・・・』
禍:そう―――そして、今回の璃莉霞の一件は、現在私達の次元で進行しつつある異変に対処するべく、取られた特例措置と思ってもらっていい。
市:璃莉霞―――・・・
なぜ彼女一人なのですか?
何故・・・私達・・・
禍:差別をして申し訳ない―――とは思うけれど。
あの子の、私達に対しての理解度は、君達の誰よりも一歩先に進んでいる。
とは言っても、まだ早いからね・・・恐らくは、太母と顔を合わせる程度だと思うよ。
「そう言う事だったのだ・・・」
「私は今、知ったお蔭で、私自身の信友の背中を見る事が出来た・・・。」
「そこまでの距離だった・・・けれど、未だ並んではいない―――」
「私が望むのは、私陣の信友と、並んで歩み続ける事・・・」
「何をしているんだろう―――・・・」
「現実としては、常に手の届く距離にいて、いつも一緒にいられると思っていたのに・・・」
「私は―――私の所為で、信友との距離感を見失うまでになってしまっていたのだ・・・」
けれども思う―――逆説的に言えば、師のお蔭で、また距離を縮めることが出来た・・・
そして、更に思う―――
「これで・・・これで私「一人」?」
「仮想の世界には、あんなにも人がいると言うのに??」
愚図愚図なんてしていられない―――今自分は、最先端の教えに会い、まさに最先端を征く信友を捉えようとしている・・・
けれど、その数は多いに越したことはない―――
ならば一刻も早く、「また別の自分」を探さなくては。
つづく