市子が今回無謀とも思える、「単独での他クランへの殴り込み」をした動機―――
その発端は、これまで知る機会がありながらも、何一つ知ろうとしてこなかった“自分への怒り”・・・それでした。
そして、自分の師より教えを受けたことで、最先端を征く信友の背中が、“ようやく”見えてきた・・・
あんなにも、衝撃的な真理を知ったとしても、未だ背中が見えて来ただけ―――・・・
なぜ自分は、信友のすぐ横にいないのだろう―――・・・
その歯痒さゆえに、市子はある一大決心をして、“ある事”をジョカリーヌに頼み込むのでした。
市:ジョカリーヌ様・・・この私の、たっての願いを、聞いて下さいませんでしょうか・・・
禍:(・・・)―――なんだい?
市:願わくば、あなた様が使っていた、「あの術」を―――
禍:ダメだ・・・と言った処で、君は食い下がってくるのだろうね。
市:多くは望みません・・・それに私は、また孤独にはなりたくはないのです。
禍:判った―――この私の「封術」を授けはしよう。
それで・・・何に使うつもりなんだい。
市:多くの方の、目を覚まさせるために―――
「この子は、危うい―――」
「その強さも、危うさが起因しているのだろうが・・・」
飛躍的に成長を遂げる事は、何も悪い事ではない。
けれど人は、その事により、時に“盲目”となり、“道”を誤りさえする・・・
その事をよく心得ていたジョカリーヌではありましたが、市子の熱意に屈け、自らが修めた術の伝授をしたのです。
禍:一つ忠告を・・・この術は、本来こちらにはない―――言わば、「魔族の魔術」なんだ。
だから人間である君が行使するのには少々無理がある。
だから日に一つ・・・無理をして二つまでにしておくんだよ。
市:はい・・・。
それと、焔帝様の洞窟の折、あなた様は、手指の動きや柏手―――更には目を瞑っての術の発動をなさっていましたよね。
禍:あれを見ていたのか!
ヤレヤレ・・・私もまだまだ未熟者だね。
まあ・・・『運指法』は基本的な術の発動条件だけれど、『柏手』と『目を瞑る』のは―――・・・
市:是非ともご教授ください―――!
ジョカリーヌの「弱点その1」―――熱意ある者には、とことん弱い・・・
今も、初歩的なものは教えはしましたが、後の二つは、より高度な“式”を自身に組ませるもの・・・
けれど、魔族ではない人間である彼女の身体が、魔族の魔術に耐えきれる保証などどこにもなかったのです。
ですが、市子の熱意に折れてしまい、そのうちの一つを伝授したのです。
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そして―――・・・
強固な意志を持ち、再び立ち上がって来た者―――
それに対し―――・・・
ドゥ:なぜあなたが、そんなになってまで立ち上がってくるのか―――判りませんが・・・いいでしょう!
市:フッ――――フフフ・・・
ドゥ:なにがおかしいのですか!
市:嗤えてくるじゃありませんか・・・
勝利を確信してもいないのに、なぜ勝ち誇れるのです!
「この人・・・ハッタリじゃない―――なんなの、この感覚・・・」
「けれど、どの道もう終わり・・・実質的に見ても、あの人の方がダメージは大きい・・・」
「だから、“この技”で決める―――ッ!」
ドゥルガーは・・・マリアは、知らない―――
目を瞑っている市子の、その瞳に隠された秘密を・・・
ドゥ:どちらにしても、“これ”で終わりにします!
―――≪真空波動拳≫!
市子は、生来からの盲目ではない・・・
ただ、彼女が所有していたOUS『座頭』―――こそは、仮初めにでも盲目とならなければ、発動されない特殊なスキル・・・
それに・・・だからこそ―――“とっておき”を隠しておくのに最適だった・・・
自分の身に迫りくる、最大級の衝撃波を前に―――
今・・・ゆっくりと・・・閉ざされていた市子の瞼がひらかれ―――
そして唱えられる―――
市:――《六魂幡》――!!
その瞬間―――最大級の衝撃波は掻き消え、代わりに市子を中心に、黒と白の霧が発生し、それは渦を巻き、ある象を造りました。
それこそが「太極圏」・・・
その“圏内”にいた者は、一定のダメージを受け、傷ついた市子の体力を回復させたのです。
ドゥ:ま―――まさか・・・そんな大技を隠していたなんて・・・
市:(・・・)今日は、こんな処でしょうか―――
ドゥ:(!?)待ちなさい・・・! まだ決着は―――・・・
市:つい、「奥の手」を出してしまいました・・・なので、今回は私の“敗け”で構いません。
ドゥ:なっ・・・? なにを―――何をしたいの??
市:(・・・)―――また来ます。
ドゥルガーは、訳が分かりませんでした。
彼女がしでかした不始末を認めるでもなく、また詫びるでもなく・・・
けれど彼女は、なぜか敗北を認め、大人しくこの場から去った・・・
しかも、再度来襲することを臭わせて―――
だからこそ『DIVA』達は、緊急対策として、彼女に対抗するべくの作戦会議を練り始めたのです。
バー:お前達の感じている事を、素直に話してくれ。
クル:不意打ち―――とは言え、油断していた事には変わりはないね。
だから私は、“アレ”を出すよ・・・
ワス:自分も、フル装備でかからないといかんな。
バジ:ボクも、出し惜しみをしている場合じゃないな―――
クリ:あたしは、今回採れた貴重なデータから、あのお姉さんの行動パターンの予測を立てとくよ。
カリ:マリア・・・どうした?
ドゥ:(・・・)うん―――
今回の“襲撃者”の再来を予測し、今回は後れを取ったものの、次は同じようにはならないように―――との、対策に追われるDIVA達。
けれど唯一人、ドゥルガーだけは、どこか晴れない面持でした。
ドゥ:なんて言ったらいいんだろう・・・あの人、とても寂しそうだった―――
クル:はあ? 寂しがり屋だから・・・って、ここ襲っていい道理なんて、ありゃしないって―――
ドゥ:ううん、違うのよヘレン―――
あの人は・・・そう、探している感じがしたのよ!
クル:だからさあ・・・なに探してるって―――
ドゥ;あの人と・・・“同じ人”??
カリ:判らないなあ? それだけじゃ。
ドゥ:うん、だって直接手を合わせた私だって、その全容を把握し切れたわけじゃないんだもの。
それに―――あの人言ってた・・・「また来る」って。
カリ:それはそれで、厄介なことだけどねえ?w
そう・・・何から何まで、判らないことだらけ―――
けれど、襲撃者である武者巫女の言う様に、“次”があれば、その時に話す機会が・・・知る機会が出来るはず・・・
だから、“次”の機会を待つこととしたのです。
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その一方で、ロスからトウキョウへと戻ってきた市子は―――・・・
『ダメだ・・・こんなのでは―――』
『私自身がこんな様では、救える者も救えない・・・』
『嗚呼・・・璃莉霞―――私はどうしたら・・・』
リ:なあに? 私がどうかしたの?
市:(・・・)璃莉霞―――? あなた・・・
リ:ただいま―――ちょっと遅くなっちゃったけれど・・・(あ・・・)
市:璃莉霞―――! 戻ってきてくれたのですね!!
リ:うん・・・ありがとう、市子―――心配してくれたんだよね。
ジョ:リリア―――
リ:ジョカリーヌさん・・・私、会ってきたよ―――
ジョ:それで、どうだった―――?
リ:私は・・・「豎子」には成りたくはない―――
もう、知らん顔を決め込んでいるなんて、真っ平御免だ・・・
ジョ:そうか、判った―――
そして市子、君はまだ、私に話すべきを話していないよね。
市:はい―――私も、「豎子」には成りたくはありません。
それを、今回の件で思い知りました。
あと、願わくば・・・
ジョ:その想いだけで今は十分だよ―――少し休みなさい。
今回の一件は、取り分けて二人にとっては、貴重な体験であり、経験でした。
そして二人とも、共通して得られたモノ―――「知るべきを知ろうともしなかった事実」・・・
しかして、これこそが―――
#93;無知の知
『無知の知』・・・とは、我々はその最初から総てを知っているわけではない。
多くの間違い、勘違いから学べる“知”・・・それを、脈々と受け継いで征く事―――
ただ、この世には“知るべき知”と、“知らなくてもいい知”とが大別としてあるのです。
その内の“知るべき”・・・知っておかなくてはならない事を、知らないでいる者達のなんと多い事か・・・
或いは固定概念に縛られ、或いは間違った知識を植えつけられ、それらを妄信してしまう“危うさ”・・・
その事を知り、また経験するなどして、“正道”へと戻る・・・
そしてここに、「賢者の卵」が2つ、誕生しました。
とは言え、最近覚醒した者は、その距離がありましたが、ほんの少し前に覚醒していた者は、信友を待ってあげていられることが出来ていたのです。
リ:あのね・・・市子―――
今日私は、ジョカリーヌさんやミリティアさん達の先生であり、お母さんに会って来たんだよ。
市:あの方々の―――?
私はてっきり、「魔王」に会って来たものとばかり・・・
リ:うん、それも本当だよ―――
でもね、笑っちゃうくらいに、「魔王」と言うのが似合わない人でね。
だからこそ思ったよ―――だったら「魔王」って、一体なんだろう・・・って。
市:魔王らしくない魔王―――ですか??
リ:そうなの―――でも、驚くくらい理知的な人でね。
だから私、決めたんだ・・・
その信友の決意は固い―――
固いからこそ、次に出てくる言葉が、正直怖かった―――
『決めた・・・って、何を―――?』
「けれど、私は聞いた―――聞かなければ、私は豎子のまま・・・」
『うん・・・私、近い内に、またあちらに行ってみようと思うんだ―――』
「やはり・・・そうだった―――」
「私の信友は、“あちら”で、私達がしないような経験をして来た・・・」
「けれど、恐らくは・・・私達の内でも“最先端”を征くこの信友でも、“あちら”では通用しないのだろう・・・」
「それに、『近々』とは言っていたけれど、『すぐに』とは言っていない・・・」
「ならば―――」
「その期間までに、せめてこの信友の側に立てられるだけの事をしなくては・・・」
市子は想い・・・そして誓う―――
――総ては可能性の為に――
そしてその“為”とは、信友の“為”に
そして、間を置かず再び立つ―――
『武闘の女神たち』の前に―――
つづく