前回と今回の、一連の騒動―――

その相手方の行動原理は、知れるところではありませんでしたが。

 

決着目前で語られた言動に、その“動機”は見い出せたのです。

 

 

ドゥ:けれど・・・判らないわ―――なぜそうまでして・・・

 

市:総ては可能性の為に―――

 

ドゥ:それ・・・このゲームの「キャッチ・コピー」?

 

市:いえ、違います・・・このゲームのは、『総て()可能性の為に』―――

 

ドゥ:()()()動機ね―――

 

市:ええ―――その“可能性”を、あなたに見い出すことが出来ました。

 

ドゥ:そんなの判らないわ・・・だって、私―――

 

市:そうです、だからこれは“賭け”なのです。

  あまりに薄い勝ちの目しかない賭けではありましたが・・・

  けれど良かった―――これで私も、信友に胸を張って語ることが出来ます。

 

ドゥ:呆れちゃうわね・・・私なんて、クジ運なんてないから、ギャンブルや・・・()してや「ガチャ連」なんて回したことないのに・・・。

 

市:私も同じですよ・・・いいクジの等級は、これまで当たった事はありません―――

  けれどもう、愚図愚図なんてしていられない・・・もうコレは、「ゲーム」ではないのですから・・・

 

 

『それに私も、信友と同じくの“可能性”に成れたのは、ここ最近の事なのです。』

『今回は幸いにも、私達と同じ“可能性”を持つあなたを、見つけ出すことが出来ました・・・』

『これは、“成果”と言うものです―――』

『“可能性”はゼロではなかった・・・“たった一人”でも―――・・・』

『ですから今後はあなたが、この私の役割の引き継ぎを―――』

『今回、残念ながらも至ることが出来なかった人達に対し、導いて差し上げて下さい・・・』

『それでは・・・そろそろ幕引きと参りましょうか―――』

 

 

そう、言うが早いか―――凄まじくも研ぎ澄まされた剣気が、市子より感じられた・・・

 

そして、それに応答(こたえ)るかのように、ドゥルガーもまた、闘志を凝縮させ始めたのです。

 

これで決着が着く―――

皆誰しもが、そう信じて已みませんでした。

 

 

ドゥ:

―――≪真・昇龍拳≫!!

 

バー:(バカ・・・あいつっ―――)“仕掛け”がいつもよりも早い!

カリ:(あの子の、あのスキルで読まれているのが判ってるはずなのに??)

クリ:(けどあの子・・・まだ居合いの体勢のまま・・・)―――っっ、まずい! “後の先(ごのせん)”!!

クル:なんだって?

 

クリ:あれは、相手から先に手を出ささせて、自分に有利な流れを創り出す―――そう言った類のモノなんですよ。

   けれど・・・その事を、マリアは敢えて判って放った―――

 

 

相手の手の内は知れてきた・・・にも拘らず、放たれた“必殺技(フェイバリット・アーツ)”―――

 

まるで・・・自分を“討ってくれ”とでも言いたげな行為にも見て取れた・・・

 

そして、反撃の機会を伺い、狙い澄ます者は―――

対戦者が限りなく距離を縮めた瞬間―――

 

 

市:―――≪一閃;神威の刹那≫!!

 

 

『極まった―――』

誰もがそう思いました・・・

 

一撃で仕留める為、放たれたドゥルがの拳は、誰がどう見ても“早かった”・・・

だから、大技を外してしまった直後のスキや硬直を狙い澄まし、放たれた市子の大技―――

 

誰がどう見ても、市子に勝利の女神は微笑んだ―――

 

そう、思っていたのに・・・

 

市子の大技が炸裂した直後、「チリン」と言う、金属音が地より聴こえてきた・・・

 

そして次第に目を、市子が手にした武器に移すと・・・

 

 

バジ:剣先が―――

ワス:折れている―――・・・

 

 

市子が装備していた武器は、「刀(無銘)」―――

その武器が、激しい戦闘に耐え切れず、とうとう剣先から「ポッキリ」と折れてしまっていたのです。

 

けれど、ドゥルガーのバトル・スーツには、市子が放った大技によるものと思われる、深い刻印が刻み込まれていた・・・

 

 

市:―――フッ・・・私ともあろう者が、とんだ失態です。

  私の得物が、こんなになっているのを気付かないでいたとは・・・

 

ドゥ:ねえ―――知ってる?

 

市:はい?

 

ドゥ:「嘘吐きは泥棒の始まり」よ―――

  あなたの武器は、昨日の私との戦闘で、ほぼ役に立たなくなっていたはず・・・。

 

市:フ・フ・フ―――そこまで看破(みやぶ)られていたとは・・・

  下手は出来ませんね。

 

カリ:ん?? てことはじゃあ―――おいらたちは、その子の武器が、そんなになってるのを気付きもしないで・・・?

 

ドゥ:本当に―――w 少しだけど、あなたの苦労が判ってきた気がしたわ。

  それに・・・だったとしたたら、敗北者(まけたひと)がいつまでもこんな処にいて欲しくはないんだけど―――

 

カリ:おいおい―――そいつはちょっと厳しくないかい?

 

ドゥ:何言ってるの―――

  私達、この子よりも随分と出遅れているのよ?

  その遅れを取り戻すには、敗北者(まけたひと)なんかに同情してやることじゃなくて、ビシビシあなた達の(ケツ)を引っ叩かないとねえ?

 

 

「嫌われてしまいましたか―――」

「けれど、これでいいのです・・・」

「今、私達がすべきことは、“慣れ合い”などではなく、互いをぶつけ合う事―――」

「それに、今回私がしてしまった事は、決して褒められるべき事ではありませんからね・・・。」

 

 

敗北(やぶ)れ、手を地につけた市子を気遣ってくれる者は、彼らの内にはいませんでした。

 

急襲・強襲・奇襲にも似た今回の事態―――

だから、敗北者(まけたひと)に対し、優しく手を差し伸べてくれる者など、いはしない・・・

それに、市子もそれを望んではいませんでした。

 

それよりも心配したのは、こんなにもボロボロになってしまった自分の姿を見て、他のクランメンバーは・・・

取り分けて、自分の信友がどう思ってしまうか・・・

 

実際、ロスからトウキョウへと戻ってきた市子の姿を見て、心配そうな表情をしてくれたリリアに対し、

本当の事を話し、相互の理解を得たのです。

 

 

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―――と・・・これで今回の一件は、落着・・・したかのように見えたのですが。

 

実はこの数日後―――

 

 

バル:うん? これからとると言うのか?

 

マリ:はい―――夫のビジネスの為・・・と、聞こえはいいですが。

 

バル:“若い気”に、()てられたか―――?

 

マリ:はい・・・本当の彼女達と言うのを見たくなって―――

 

バル:フッ・・・わたしはてっきり、あの娘の事など嫌っているとしか見えなかったんだが?

 

マリ:ええ―――嫌いですよ?

   だって、私よりも後発で、そのくせ私よりも先に征くなんて・・・許せないじゃないですか。

 

バル:お前・・・なあ―――w

 

マリ:な〜んですか(しれっ)

 

バル:まあいいか―――精々楽しんでくるんだな、「バカンス」を。

 

 

実の処、日本は「定休日」は世界のどの国よりも多いのだとか・・・?

とは言え日本人は、世界各国からその認識―――「誰よりも勤勉な労働者ながら、休むことを知らない民族」として知られており、

ならばなぜ・・・と、思われるのですが―――

 

「定休日」と言う事は、公務員は“強制的”、金融機関はそれに(なら)い、「休む」・・・

つまりは、こうでもしないと「休まない」のです。

 

ならば諸外国は―――?

その答えが、「休暇制度(バカンス)」と言う事―――

 

確かに諸外国も、国家が定めた「定休日」は存在としてありましたが、

それ以外に「休暇」を取り入れる事で、心身共に休ませる機会を設ける・・・

 

マリアも今回それに倣い、「連邦警察」にはすでに届け出を出し、「州警察」にもその事の報告の為に顔を出した・・・

 

そこでバルディアから「チクリ」と皮肉られはするものの、マリアも嘘は言っていなかったのです。

 

そう―――夫である、カイン=ロックフェラーが、ビジネスで訪日を決めたのは、本当の事・・・

 

けれど、カインのビジネスは、カイン個人のモノ・・・

 

これまでにも、夫のビジネス(商談)に、妻のマリアが付帯した事などなかったのです。

 

つまり、マリアの本音としては、夫のビジネス中(2〜3週間)、“サーバー”をトウキョウへと移し、

“彼ら”の活動内容を、この眼に収めておきたい・・・そうした目的はあったようです。

 

 

 

#95;Peace Macker(平和の使者)

 

 

 

そして―――夫のカインに先んじて、成田の国際線に降り立った時、思わぬ事態が・・・

 

それは―――マリアが入国の手続きを済ませ、“化粧直し”にと、空港内のW.Cへと向かおうとしていた時・・・

 

何処(いずこ)かからの国より来たと思われる、流れるような金髪(ブロンド)・・・まるで、モデルの様な体型の美女の背後を、通りかかろうとした時―――

 

 

マリ:(!)―――!!!

 

謎の美女:(・・・)ごめんなさい―――

 

警備員:大丈夫ですか―――?!

マリ:え・・・ええ―――

 

警備員:ちょっとあなた、いきなりどうしたと言うんです!

謎の美女:ごめんなさい、痴漢と思ってしまったので・・・

 

マリ:わ―――私なら大丈夫です・・・

警備員:そうですか、ならいいですが・・・

 

 

そのモデル美女―――夜だと言うのにサングラスをかけていた・・・

にも拘らず、マリアに放たれた手刀は、盲人のそれではありませんでした。

 

 

「私は・・・知っている―――」

「とは言え、この美女が、どうかは知らないけれど・・・」

「こうした“クセ”を持つ者を、私はたった一人知っている・・・」

「けれど、どうしてこの国へ―――?」

「いや・・・それも愚問か―――」

「私が知っている“(プロ)”は、仕事を選ばない・・・」

「世界を股にかけ、自らが下した判断の下、依頼を請け負い・・・」

「これまでに失敗した事例なんてなく、狙えば標的(ターゲット)を必ず仕留める―――」

「それが、“人命”であろうと“モノ”であろうと―――」

「けれど・・・判らない―――」

「なぜ彼の者が、この国へと入国を―――?」

 

 

マリアは、「連邦警察官」だから、その者の事は知っていました。

 

ただ―――そうした存在がいる・・・だけを知っていた。

 

その存在が、“男”であるのか、“女”であるのか、“若い”のか、“年老いて”いるのか・・・

果ては、“米国人”なのか、“それ以外”なのか・・・等々―――

 

その一切が、知られていない・・・

 

けれど、その“クセ”の数々―――

 

自分の背後に回られるのを極端に嫌い、今のマリアのように、意図的に背後に回らなくても、ほぼ反射的―――反応的に攻撃を繰り出したり・・・とか、

やはり背後で、「ガマ口」を開け閉めする音・・・その音が、銃の撃鉄(ハンマー)を起こす音に限りなく似ているため、過敏にして過激な反応をしたり―――だとか・・・

あとまた、極端に他人との肉体の接触―――特に“握手”を交わすのを嫌ったり・・・だとか、挙げればキリがない程の、徹底した個人主義ぶり・・・

 

ただ―――依頼に関しては、実に完璧をこなす・・・

恐るべき、暗殺者であり、テロリストであり、狙撃手(スナイパー)―――

 

その者は、己しか信用しておらず、他人は全く信用していない・・・

時には、依頼契約時に交わした、依頼人の嘘を看破(みやぶ)り、依頼完遂後に依頼人を殺害に至ったり、

時には、法外な報酬を求めはするものの、報酬対象が高額なモノかどうか疑わしい(つまりは安物)のに、依頼を引き受けたり・・・だとか。

 

ただ―――皮肉なことには、その者の性質は、「死神」にも酷似しているのに、その“裏社会”では、こう呼ばれるのです・・・

Peace Macker(平和の使者)』と―――

 

 

 

つづく