徐々に目標―――対象に近づく存在・・・
その者が視認出来るまでの距離に至ると―――
やはり・・・いた―――
見間違えようはずがない・・・
“烏の濡れ羽色”をした黒髪―――
紅い布地の鉢金をし―――
なにより特徴的な“巫女装束”―――
その周辺に屯する、「侍」の装束の男性プレイヤーに、「中級の法衣」を纏う女性プレイヤー、「やたらと頑丈そうな装備と魔法杖」を持つ男性プレイヤーに、
彼らの中では最年少と思われる、話し声がやけに幼く聞こえるも、その内容はしっかりとしている「少し“キャピキャピ”」した感じの女性プレイヤー、
あとは、必要以上のモノを望まないのか、目立ったものと言えば、肩当とガントレット、胸当てと言った「軽装」の女性プレイヤーに、
そんな彼らを優しく見つめる視線の持ち主―――・・・
そう・・・コレが“あなた”の仲間達―――
遠目から見ても一目で判る・・・
“あの時”とは明らかに違う表情―――
“あの時”・・・自分達のクランを強襲した時のように、切羽詰まった表情はどこにもなく、伸びやかでとても楽しそう・・・
けれど“あなた”は―――
マリアは、遠目から見てもその武者巫女―――「市子」の、今の満ち足りた表情を垣間見ていました。
とは言え、自分達の平穏を壊したことは事実―――だからこその償いを・・・?
今回の反省会を終え、それぞれがログアウトしようとした―――その時・・・
#97;更なる高みに
ド:すみません―――ちょっといいですか。
ギ:(?!)なんだ?お前―――
このサーバーでは見かけないアバターのキャラクターを見るなり、彼らの“彼女”に対しての警戒が、一段引き上がりました。
―――が・・・
ド:ようやく―――見つけましたよ・・・。
市:(・・・)思ったより早かったですね―――それよりも、どうしてここが?
ド:“うち”には、腕利きがいますから―――
蓮:なんだあ? 市子さんよ・・・そいつ、あんたの―――
市:まあ・・・“知り合い”―――と、言った方がよろしいのでしょうね。
尤も・・・先頃この方のクランを、私が襲いましたから―――
プ:市子ちゃん・・・澄ました顔して、やる事エグいよなあ・・・。
それよりリリアは、知っていたの?
リ:うん・・・まあどことなくね。
それにしても、このお姉さん行動力パないよねえ―――w
意外なことに・・・大人しい性格と思われていた市子が、今回の一件の発端を作っていた・・・
しかも、経緯を聞いていく内に、心穏やかではない事に、メンバーは一様に呆れる始末だったのです。
・・・・“呆れる”―――“始末”???
その事に、ドゥルガーは驚きました。
現実内でのこの国は、平和ボケをしているから、“てっきり”仮想内でもそうなのだろうと思っていたら、
この武者巫女の行き過ぎた行動に、クランメンバーは驚きはするものの、“それだけ”とは・・・??
本来ならば、「喧嘩を売る」に等しい行為であるはずなのに、このクランに於いてはそんな事に対しても、お咎めはないし別に気にすらしていない・・・?
これは、自分が異常なのか―――と、そう思っていたら・・・?
ジ:そう言う事か―――君が新たに産まれた「可能性」なのだね。
とは言え、君達の安寧の場所を、私のクランの一員が騒がせてしまったようだ・・・
その事は、君のクランマスターに、この私から詫びる事にしよう。
彼女が・・・このクランの“マスター”?!
何という“深さ”―――洞察力・包容力・・・私達のマスターも人柄は好いけれど・・・
この人の“それ”は、私達のマスターを軽く超えている・・・!
この彼らを纏めるクランのマスターから、改めての今件の事を詫びる言葉がありました。
しかも、その態度も実に真摯なもので、どこも飾り気がなく・・・嫌味など感じすらしない。
それに・・・このクランマスターの口から零れた「可能性」・・・?
すると―――
ジ:それより君は、物見遊山でここへと来たわけではないのだろう?
ド:(え?)あ・・・いえ―――
ジ:隠さなくても分かるよ―――彼女以外の“誰”かと、手合わせをしてみたい・・・と、ね。
リリア―――行けるかい?
リ:もちろん―――それに今回、あまり前線まで出しゃばらなかったからね。
それと・・・“初めまして”―――じゃないよね、以前はどうも。
ド:あなた―――は・・・確か。
リ:以前お姉さんを止める為、強制的に召喚れて相手したよね・・・ヨロシク―――
完全に、見透かされてしまっていた・・・自分が、日本へと来た本来の目的―――
自分達のクランが襲われた時に、武者巫女が紡いだ言の葉・・・
『私は、強くなんかありませんよ・・・私より強い者は、いくらでもいます―――』
未だ知ぬ、強き者を求めんが為に―――それにまた、自分にもプライドと言うモノがある・・・
それを求め、トウキョウ・サーバーに足を運ばせてみると、以前対戦した相手と、期せずして再戦を果たすことになろうとは・・・
そして、互いの健闘を誓う為にと、相手から差し出された手を、思わず握り返した時・・・
リ:(・・・)ふうん―――そうなんだ・・・強くなってるね、あなた・・・
そんな―――!!?
ただ・・・ただ握手をしただけで、読まれてしまった―――?
いや・・・そんなバカな!?
慌てて手を離したものの、言い知れない感覚に陥ってしまうドゥルガー・・・
彼女と今回“手合わせ”する相手と、直接手を触れてしまった・・・“握手”をしてしまっただけなのに、自分の総てを知られてしまった様な感覚・・・
しかも―――・・・
リ:それじゃあ仕方がないかな・・・今回はちゃんと相手をしないとね―――
そこで、その場に居合わせた者達は、一様にして一種異様な光景を目の当たりとしてしまうのです。
そう―――そこでリリアは、彼女自身の強さに近しいと認識したからか・・・普段見せない体勢を・・・
市:リリア・・・あなた―――その構え・・・!
リ:うん―――ちゃんとしないとね・・・
この人の武道の流派に―――きちんとした“型”としての“構え”が!!
市子は―――蓮也は―――以前にも見たことがあったから知っていました。
リリアが本当は、恐るべき「殺人拳」の使い手であり、彼女の流派には“型”としての構えはないだろう・・・そう思われていたのに―――
すると、その“構え”を見たジョカリーヌからは・・・
ジ:リリア―――言わなくても判っているだろうから、敢えては言わないよ。
リ:ええ、判ってます―――ちゃんと手は抜きますから・・・
ド:(!)どう言うつもり―――?!
ジ:君は・・・身体のコンディションを万全にしない内に、この子と闘おうとしているよね・・・。
私の前では、隠そうとしても無駄だよ―――君の体幹は、ほんの少しズレている・・・
恐らくその原因は、その左足にあるね。
ド:(!!)どうしてそれを―――
リ:う〜〜ん、昨日の今日の話しだし、私が断った腱と靭帯、完治していないでしょ?
けど・・・そんな状態だったとしても、市子と互角に渡り合えたのは、評価できるかな・・・
ジ:やれやれ、仕方がないね―――どれ、少し私がサポートをしてあげよう。
ド:(!)この感覚―――・・・
リ:あ〜〜〜っ! ずっこい!
ジョカリーヌとリリアは、すぐにドゥルガーの身体状況を見抜いていました。
“ほぼ”完治―――とは言っても、完治そのものではない・・・
身体の重要な部分に変調がある為、無意識の内に変調のある部分に無理をさせないようにしていた・・・
だからこそドゥルガーの体幹は、負傷をしていた左足を庇う為、少し右にズレていたのです。
そこを―――まだ会ってそんなに間もないのに、相手からの支援・・・
気が付けば、ドゥルガーの負傷した部位の違和はすっかりと取り除かれ―――
しかしその事に対して、不平を漏らすリリア・・・なのでしたが。
リ:けど―――これで手加減はしなくて良さそうだね・・・
その瞬間―――彼女の顔つきが変わった・・・
それも、今までにも見た事もない―――・・・
それに―――?
なんだろう・・・? この感覚―――
私―――今、何かされてる??
リリアからの言い知れない重圧に、ドゥルガーはたじろぎました。
そう・・・彼女には見えていた―――
リリアが繰り出しているであろう、“拳”や“脚”の数々を―――
けれどもそれらは、ドゥルガーの身体に達するまでに、霧散た・・・?
その反応を見たリリアは―――・・・
リ:やっぱまだ早かったか―――見えちゃいるみたいだけど、反応しきれていないよね・・・?
それじゃ・・・反応できるまでに、“落とす”よ―――
ドゥルガーは、あの一瞬―――あの一瞬で自分の身に、何が起こっていたのかさえ、判ってはいませんでした・・・
すると、その事を理解した―――とでも言う様に、リリアから何かの調整を行うかのような表現をした・・・
その途端、今度は―――
ギ:んお? あいつら―――全く動かなくなったんじゃないか? ラグでも発生してんのじゃないか?
蓮:え? でもそれじゃ、決着の着きようがないじゃないか。
二人とも、差し向ったまま―――互いの構えも解かず、動かなくなっていた・・・
その事に、通信速度の障害が発生したのでは―――と、メンバーの一人からあったようなのでしたが・・・
その場にいた誰もが、そう捉えるしか外はなかった・・・
しかし―――“超級者”と、信友のLvに近づいた者の眼には、凄まじい速さでの攻防が繰り広げられている光景が、視えていたのです。
つづく