先程見せられていたのは、まさしく“退く”事も―――“防る”事も―――況してや“攻め”る事もままにならず、“詰んだ”状態のドゥルガーがいたのです。
そこをリリアはうまく調整し、どうにか対処できるまでのレベルに落とした―――
それでも、周りでこの様子を見ていた「カレイドスコープ」のメンバーには、2人が停止っているようにしか見えなかったのです。
しかし・・・それは―――
ジ:君達の眼には、彼女達が何もせず、ただ差し向っているだけ―――の、様に見えてしまっているのだろうね・・・。
けれど、それは間違いと言うモノだ―――今の彼女達の間では、凄まじいまでの攻防が繰り広げられている・・・。
蓮:はあ? いや、でも―――・・・
ジ:君達が、捉え切れていない―――と言うのも、無理もない話なんだよ・・・
ギ:―――て事は、レベルやスキルのランク差か!
“視える”・・・
私には“視えて”いる―――!!
この戦域の至る所で繰り広げられている、彼女達の攻防の数々が・・・!
けれど・・・私の信友は、それでも敢えて落とす―――と、言っていた・・・!
背筋に寒いモノが迸る―――
恐らくは、対戦相手が最初に目にしていたのは、そのあまりにも違うレベル差と言うものを、まざまざと見せつけられていたから。
それは、自分でも気付きだにしなかった―――“視え”てさえいなかった・・・
それに自分は、信友の・・・まさしくの“本気”と言うものを目にしたことがなかった・・・
これが―――“これ”がかつて、このゲームで「最強」の称号を持っていた信友の武・・・
そしてそれは、“師”には・・・クランマスターには視えている―――
だからこそ。
ジ:では君達にも、ほんの少しだけ視せてあげよう―――
なにも“識る”事とは、体験をするだけではない・・・“視る”だけでも培われるモノだからね。
ソ:そんな事・・・出来るんですか―――?
ジ:簡単な事だよ・・・“石”を投じるだけでいい―――
そう言うと、ジョカリーヌから投じられた“石”は、丁度差し向っていた2人の、“中間地点”に落ち―――・・・
ギ:うおっ?! き―――消え・・・た?
プ:あっ! あっちに―――
蓮:いや―――今度はこっち・・・
市:ジョカリーヌ様・・・コレは一体?!
ジ:―――『技撃軌道線』・・・
市:え??
ジ:君達も―――“仕合う”前には相手と差し向うだろう?
蓮:あ―――ああ・・・確かに・・・な。
ジ:では、差し向うだけなのかな?
蓮:はあ? ええっと―――・・・
市:一応は、相手がどう出てくるかの“予測”と、それを踏まえた上での、こちらの“手”を考えます。
ジ:そう・・・けれどそれは、ある程度相手の事をよく理解っていないと、出来るものではない・・・ここまでは判るね?
では果たして―――“仕合う”場面の総てが、そう言い切れるものだろうか。
プ:時には・・・“初対面”では、互いの手の内は判りませんよね―――
ジ:そう・・・“仕合い”の殆どでは、「再戦」の機会があるからね。
市:―――ああっ!!
プ:市子? どうしたの・・・
ジ:ただ、“死合う”場合に次はない―――
互いの“生”か“死”―――それを賭けたモノでは、その殆どが初対面となる。
そうした場合ではね、「互いの手の内は知らない」では済ませられないんだよ。
その“勝負”の結末で、敗北ても“生”を拾える武道に対し―――
その敗北は即“死”に繋がる武術―――
市子は、このジョカリーヌからの説明により、判ってしまった・・・
そうだ・・・私の信友が修めているのは、「殺人拳(剣)」―――!
その説明を経て、判る処となってしまった・・・
そうなのだ・・・私の信友は、信友が修めた流派の掟に倣い、この人と対峙している・・・
しかし―――思えば私の信友は、なぜ今までにも・・・
すると―――
#98;拳撃の果てに
ジ:それまでっ―――!
そのジョカリーヌからの鋭い掛け声により、両者の“手”が、完全に停止りました。
ドゥルガーの手刀による“突き”は、寸での処でリリアの右手により躱され・・・
しかしリリアの右手の拳は、ドゥルガーの急所を捉えていた・・・
が・・・しかし―――それだけでは、中止の理由にはならなかった・・・
現にドゥルガーは、そのリリアからのカウンターを避ける為、僅かに後方に体勢・体重共に移ろうとしていたのだから。
ならば・・・ジョカリーヌが、中止をしようとした判断は、どこに―――?
それは、リリアの“右脚の位置”にあったのでした。
ジ:少し・・・行き過ぎてしまったようだね、リリア―――
その“足の位置”は、ダメだよ・・・
リ:ごめんなさい―――w
だってこの人、私との一手毎に、成長してきちゃっているんだもんw
ジ:言い訳をするのは好くないね―――あとで注意だよ・・・。
リリアの“踏み込み”―――右足の位置は、リリアからのカウンターの直撃を避ける為、僅かに後方へと移動しようとしているドゥルガーの・・・
彼女の「技撃軌道」を詠んだ上での、更なる追撃―――
もう少し辛辣なモノの言い方をすれば、“仕合い”に於いて、相手を確実に仕留めようとしていた・・・
“仕合い”での「一本」は、概ねが“寸止め”―――
なのを、“仕留める”と言うのは、それは“死合い”の流儀・・・
もしジョカリーヌが、正常な判断で以て彼女達を中止なければ・・・
もし―――あそこで中止てくれなければ・・・私は死んでいた?
そのショックのあまりに、地べたにへたり込んで―――は、しまわなかったものの、ドゥルガーはしばらくその場に佇んでいました。
彼女には、北南米エリヤに於いて、トップクラスの強さを誇っている―――そうした自負があっただけに・・・
こんな自分をも超える強者がいる―――それはそれでショックな事実でしたが、そのお蔭で新たな指標も見つかった・・・
だから―――か・・・
ド:また敗けちゃったわね―――
強いわね、あなた。
リ:エヘヘッw まあ〜〜それほどでもあるけどねッww
ド:まあ―――憎らしい。
もう少しは年上を敬ったらどうなのよ。
全く―――そちらの巫女さんと言い、遠慮って事を知らないのね。
けれど・・・お蔭で勉強にはなったわ。
本当は・・・認めたくはない―――けれど、認めざるを得ない・・・自分の未熟。
思えば自分は、限られた場所でしか、“最強”を自負してこなかった―――
けれどそれは所詮、「井の中」でしかなかった・・・
井の中で啼く蛙は,井の外と言うものを知らない―――
けれども、井の外に出て、知れば知るほどに知れた、自分の世界観の狭さ・・・
今回の事だけで言えば、マリアは“トウキョウ”のプレイヤーの在り方を、知ろうとしただけでした。
けれども次第に“慾”と言うモノが芽生えてきて、自分が強敵と認めた者が、認める“強者”を知りたくなってしまった・・・
そして、知ってしまった“存在”―――
そこは素直に認めなければならない・・・なにしろ、自分は“加減”をされた上で敗けてしまったのだから。
だからドゥルガーは、その証しとして、頭部のバイザーを外し・・・
流れる“ロゼ”のセミロング―――目鼻立ちよく整い、“暗紅色”の眸・・・
リ:うっわあ〜〜反則級!(パチクリ☆)
市:私も・・・初めて素顔を見ましたけれど―――あのバイザーの下には、そんな顔が隠されていたのですね・・・
ド:失礼しちゃうわね―――あんた達・・・
まさかとは思うけれど、私の事を“メスゴリラ”なんて思わなかったでしょうね?
リ:あ・あ〜〜〜(ちょっと思っちゃったり?w)
市:コメントは差し控えさせて頂きます・・・(アハハ・・・)
ド:ホント、ムカつくったら―――w
私はドゥルガー、リアルではカルフォルニア州の連邦警察、地方分署の署長をやっているわ。
リ:あ〜〜それでか・・・
市:どうしたの? リリア―――
リ:うん、ドゥルガーさんと手合せした時、軍隊式の格闘術・・・「マーシャル・アーツ」の流れがあったから、ひょっとしたら・・・って思ったの。
ド:あなた・・・色んな武道とやった事があるのね?
リ:うん―――まあね。
あ、私リリア・・・リアルでは女子高生やってますw
ド:―――えっ?
市:そして私は市子・・・リリアと同じ女子高生です。
ド:ええ゛え゛〜〜っ?!
口では2人の事を嫌っている様な感じでしたが、その表情を見る限りではそうは見えなかった・・・
それに思えば、マリアは一時期人間不信に陥っていた事もあった・・・
けれども“彼”と―――現在自分の夫と出会う事により、それまでには他人には相談した事のないような相談が出来た・・・
しかも、現実逃避先である仮想内ではクランに所属し、夫にも相談できない事を―――
その為のストレスを発散させられる機会を設けたものでしたが・・・
それが・・・“トウキョウ”に来てみれば、判り合えてくれる人達がいるかもしれない―――
“今”の私は、決して孤独なんかじゃない―――
私には愛する夫がいて―――信頼に足る仲間がいて―――そして判り合えてくれる“強敵”がいる・・・
今回のバカンスは、マリアにとっては充実したモノとなりました。
そんな、事の一部始終を逐一目に収めさせていた者は・・・
彼女は静かに、自分だけの想いに耽る・・・
そこにあった三様の違いを詩にし―――旋律をつけていたのです。
ド:はあ〜あ・・・それにしても自信喪失―――まさか私が想像していたより随分年下に敗けちゃうなんてね・・・。
市:ああ、その事ならあまり悲観しなくてもいいと思いますよ?
ド:はあ? どうして―――・・・
市:だって、この人・・・ほんの少し前まで、このゲームでの“最強の称号”を持っていたらしいですから。
ド:(・・・)ええ〜〜―――っ?! さ・・・“最強の称号”・・・って、『清廉の騎士』??
は〜〜〜道理で敵わないわけじゃない―――
リ:ん、もう〜〜〜市子ったらw
ド:でも・・・今はそうじゃないのよね?
次第に判り始めてきた事実―――
聞けば、今回自分が手合わせをした者は、この仮想内での“最強の称号”・・・『清廉の騎士』の保持者だった・・・
実はマリアも、エリヤ内での最強を自負していた事もあり、いつかはその称号を持つ者と、真剣勝負を望んでいた・・・
それは、期せずして叶う事にはなったのでしたが、けれども、それも思えば“今”の保持者ではない・・・とは言え、
かつての保持者の強さが判っただけでも、価値はあると言えたのでした。
そして、やはり同じくして、かつての保持者が、その称号を手離した事情と言うのも知ることが出来た・・・
それも、彼女達が一丸となって、倒したレイド・ボスからの解説によって・・・
今にしてマリアは思う―――なぜ彼女達が、こんなにも強くなったのか・・・を。
越えられない試練は―――ない・・・
越えられない―――と言うのは、自分で自分の限界を作ってしまっているから・・・
限界に閉じ籠っていれば、越えられるものも越えられはしない―――
破れ―――越えろ―――限界を!!
つづく