「ある日」のログ・イン光景―――

市子は、自身の友人であるリリアの為になろう―――と、必死でした。

 

「私が、友人の為にしてあげられる事・・・」

「それは、少しでも強くなり、友人の傍らに・・・為にならなければ・・・。」

 

それは、(かたく)なまでの――― 一途な思いではありましたが・・・

その強すぎる思いは、時として人を「盲目」にし、自分が危ういことさえ判らなくなる・・・。

 

そして今、その“危うさ”が、市子を取り巻いているのでした。

 

 

その日市子は、自分の「レベル」「スキル」上げを目的とし、

少しばかり“難解”な「上級ダンジョン」(B+〜AA相当)へと入っていました。

 

そこでの“(エネミー)”は、「ゴブリン」や「オーク」など、一人で倒すことはできるものの、

「ペース配分」を間違ってしまえば、立ち待ちに窮地に陥る危険性を孕んでいたのです。

 

そして・・・ダンジョン最下層―――待ち受ける「ボス」は・・・

 

 

市:(『ツタカヅラ』・・・植物系のモンスターですか。)

  いざ―――尋常に、勝負ッ!

 

 

「ツル」や「ツタ」などを、「触手」のように操り、時には「状態異常」となる、「ガス状の霧」を発生させる―――などをして、

最終的には人間を喰らうとされている、言わばの「食人植物」・・・

 

しかも“(エネミー)”は、「ツタカヅラ」一体だけではありませんでした。

周囲(まわ)りには、隙あらば市子を襲おうとしている、ゴブリンたちが・・・

仮想内最弱の“モブ”ながらも、圧倒的な個体数を誇り、その“数”で押してくる場合には、

一層の注意・警戒が必要な、お馴染の敵―――・・・

 

そして、戦端は開かれましたが、やがて―――

 

 

市:(あっ・・・?!)うっ―――し、しまっ・・・

 

 

ツタカヅラからの無数と言える触手攻撃に翻弄され、足下を(すく)われて転倒してしまう市子・・・

すると、すぐさま触手は、市子の左足に絡みつき、逆さの宙吊りにしてしまったのです。

 

ここで危機感を覚えた市子は、この窮地を脱するため、すぐに手に持っていた武器で、

自分の足首に絡みついていた触手を斬り払い、なんとか急場は(しの)げたのでしたが・・・

 

その事に逆上したツタカヅラは、次々と・・・間断なく市子を襲い、

市子もまた、ボスからの容赦ない攻撃に、「じりじり」と後退を始めたのです。

 

「このままではいけない―――・・・」

 

そうは思いながらも、焦りは禁物―――

ですがしかし、市子の“焦り”を感じ取ったボスは、ついに―――・・・

 

「あ、あっ―――!!」

 

武器を手にしていた市子の右手首に絡みつき、捻りあげ、手から武器を離させると・・・

残っていた左手首にも巻き付き、両手首を頭より上部で縛り上げて、高々と宙吊りにしたのです。

 

しかも・・・状況としては“最悪”―――

足が、地に着かない高さまで吊り上げられているので、これ以上の反撃や抵抗が出来ない・・・

しかも、ツタカヅラの幹の部分が大きく割れ、そこには、大型魔獣の「(あぎと)」を思わせるかのような、大きな「口」が・・・?

しかし、そう―――“それ”が、ツタカヅラが、「食人植物」と呼ばれる所以(ゆえん)・・・

 

そのことに、一層の危機感を(つの)らせる市子・・・

すると―――

 

 

市:(う・・・)あ、あっ―――??

  (こっ・・・これ―――は・・・っ??)

 

 

その「口」の部分から、“ガス状の霧”を顔に噴射され、「状態異常」にさせられてしまう市子・・・。

 

その「状態異常」も、「混乱」「麻痺」「魅了」―――そして・・・「失明」。

 

これらの状態異常を受け、軽い“トランス”状態となってしまった市子は、誘われるがままに・・・

食人植物へと近づく―――己の肉を、(にえ)として(ささ)げる為に・・・

 

市子の頭は、既に「(ぼう)っ」としており、足下もふらついていた・・・

自分のしている行為が、間違いだとは気付きながらも、進む先は「生贄の祭壇」を目指していた・・・

 

けれど、ここで思わぬ事態が―――

それが、市子が「ボス部屋」へと辿り着く前に、その多くの仲間を退治されてきた、ゴブリンたちの参入―――

 

今、明らかなのは、自分達よりも強く、仲間の多くを葬り去ってきた人間(プレイヤー)が、確実に弱まってきている・・・と、言う事実。

だからなのか―――その内の一体が、市子に攻撃を仕掛け・・・

すると―――

 

 

市:あうっ―――?!

  (・・・はっ! い、今私は何を??)

 

 

市子が受けていた状態異常―――「混乱」「麻痺」「魅了」の(いず)れも、全て“軽微”なものでした。

そしてそれは、敵からの攻撃を受けると、すぐにでも効果が消えるものだった・・・

今、敵の一体であるゴブリンからの、不用意とも思える攻撃を受け、3つの状態異常が解ける市子。

 

そして、自分が何をしようとしていたのか―――

全てを理解した市子は、ツタカヅラからの呪縛から抜け、反撃への体勢を整えたのです。

 

しかしながら―――いかんせん、「失明」の状態異常は継続したまま・・・

 

けれど市子は、討つべき敵を、見据えていました・・・。

それが(あたか)も、「視えて」いたかの如くに・・・。

 

そう―――市子は、以前に自分の「OUS(オリジナル・ユニーク・スキル)」を修得していました。

けれど、その“用途(つかいみち)”が判らなかった・・・。

 

けれど今は、この植物系のモンスターからの状態異常発生攻撃を受け、

(さなが)らにして理解していました。

 

「私は盲目だった―――しかし今は視える!」

 

今の市子は「失明」の状態異常―――いわゆる盲目の状態でした。

 

けれど、先程ツタカヅラからの攻撃を受け、一時(いっとき)自分の手より離されてしまっていた、自分の武器を探り当てた・・・

 

市子のOUS(オリジナル・ユニーク・スキル)―――それこそが、『座頭』・・・

 

 

 

##1;座   頭   市

 

 

 

『座頭』―――とは、本来「盲目のあんま師」の俗称ではありますが、

市子も現実世界内での「ある作品」の事は、知っていました。

 

盲目ながらも・・・神妙の居合抜刀術にて、“悪”を斬り裂く者―――

 

そう・・・市子は―――

今、盲目であるはずの彼女には、「総て」が「視えて」いました。

 

“敵”の位置―――行動―――倒すべき優先順位―――

その「総て」が―――・・・

 

それに、“(エネミー)”側にも、また微妙な変化が・・・

 

折角、贄を状態異常へと(おとしい)れ―――己の養分に出来ると思っていた食人植物は、

その状態異常を()いたゴブリン共を、襲い始めたのです。

 

そして次々と「捕食」し、これまで己が負った傷の回復と、能力を上昇させるボス・・・

 

けれど、市子には、もう―――・・・

 

 

市:フフフ―――それがあなた・・・いえ、“お前”の行動ね。

  ええ・・・判っていましたとも、お前の愚かな行動など、私は手に取るようにわかるのです!

 

 

市子にしては、珍しい「挑発」―――

いえ、けれど彼女にしては、「挑発」ですらなかった・・・。

 

盲目に失明は、常人ならば、ただならないこと・・・けれど、

市子の「座頭」は、その“状態”になってからが、本領の発揮といえました。

 

そう・・・つまりは、意図的であるにしろ、目を(つむ)った状態スキルっているプレイヤ

相手の強い敵意を察した時、全ステータスの向上・・・敵の認識範囲の拡大・・・敵の攻撃行動の予測可能・・・

 

だからこそ、ボス敵である食人植物の、無数の触手攻撃も総て(かわ)すこと出来ていた・・・

 

逆に、その事に焦りを感じたのか、食人植物は、またしてもガス状の霧を発生させた―――のでしたが、

既にその行動も読んでいた市子は。

 

 

市:お前のその行動―――最早見切っている!

破邪顕正(はじゃけんしょう)―――禍刻祓(まがときはらえ)

 

 

既に敵の行動を読んでいた市子は、「巫女」クラスが使えるスキルの一つで、

自分に降りかかる災厄を払う―――そんな効果のあるモノを行使しました。

 

すると・・・

状態異常にかかるはずのものが―――かからない・・・

そのことに怯んでしまう、ツタカヅラ・・・

 

その隙を見逃さなかった市子は―――

 

 

市:ここで極めます―――!

<一閃―――逆風の太刀>

 

 

総てが「視えて」いる、今の市子に死角は・・・ない―――

自分の武器を抜き放つのと同時に、「一閃」―――の、後に、素早く納刀・・・

まさしく市子は、「居合」の“それ”を修得していました。

 

そしてこれによりダンジョン・ボスを撃破―――

ですが、未だ気を抜くわけには行きませんでした。

 

勝利した事ゆえの慢心を期待し、物陰から市子の隙を伺うゴブリンたち・・・

けれど、市子は気を緩めない・・・総てが「視えて」いたからこそ、“残心”を怠らない・・・

 

―――が、市子はしかし・・・

 

 

市:―――・・・。

 

 

急に何を思ったか、警戒を解く市子―――

しかし“それ”が危険であることを、知能が低いゴブリンには判ろうはずが、ない・・・

 

市子の“誘い”により、数体が同時攻撃を仕掛けるも、その行動を(すべか)らく把握できている座頭には、

最早防御の必要性など、見当たらない・・・

全ての攻撃の軌道を読み―――最小限の動きで(かわ)していくのみ・・・

 

市子はそこで、自分のOUSの総仕上げをすることにしました。

 

そして、無駄な動きに攻撃で、疲れ果てた小鬼を待ち受けていた運命とは・・・

 

 

市:フフフ・・・お前達には感謝をしているのですよ。

  この私のOUS―――修得した時には、何が何やらよく判りませんでしたから・・・。

 

 

「ですが、私は、所詮盲目だったのです―――」

「この私のOUSが、どんなものであるのか判らない・・・」

「それは、まさしくの盲目―――」

 

「ですが今日、私は解りました。」

「ようやく、私は、「至れ」たのです。」

「「視えた」のです!!」

 

「これでようやく、私は、友人の為に役立つことが出来る―――・・・」

 

 

折角、修得できたはずのOUS―――『座頭』・・・

ですが、当初市子は、この名称の意味を知っていただけに、躊躇(ちゅうちょ)していたのです。

 

「どうして健全な私が、「盲目」にならなければ―――・・・」

 

けれど、そうした思いこそが、「盲目」なのだとしたら・・・?

それが今回、自分が身に付けた―――自分だけの「宝物」の価値に気付いた時、

市子の迷いは晴れたのです。

 

そして、それは同時に、新たなる『座頭市』の誕生に・・・他ならなかったのです。

 

 

 

つづく