セシルも、この国では5指に入る武の練達者ではありましたが……そんなセシルをも呑み込んだ、リリアの闘気―――
未だ止まらない……身震い―――
それに、“この”リリアの言に思う処があったセシルは……
セ:そなた―――先程、人を殺めたことがないと?
リ:ああ、そう言った―――
セ:嘘だろう……? そんなの、私には信じられない―――
イ:どう言う事ですかな? セシル殿。
セ:あの時……私が剣を構えられなかったのは、この者により総ての“死点”を衝かれていたからなのです。
あれはどうにもならない―――……私はあの時、死を覚悟したものです。
それでもそなたは、人を殺めた経験がない……と?
リ:『ない』―――これだけは確実に、はっきりと言える事だ。
それに、何かの間違いで私が人を殺めてしまったら、私は立ち処に犯罪者だからな。
イ:犯罪者? しかし―――相手も合意の上での果し合いなのだろう?
ふぅーーーむ……なのだとしたら―――一つ聞くが、それがそなたの“現実”での『法』なのか?
リ:ああ、そう言う事だ。
そこの処もあるんだけれど、常々私の武術の師匠からも言われて来たんだ。
『お前が修めた武は、他の者より一線を画す―――ゆえに、他の者……殊の外“武道”を口にする者と渡り合う事は赦さん。』
『それが、我ら“武術”に身を置く者の宿命と知るがよい。』
リ:……ってね。
だけどさ―――折角体得したのに、披露する場がないの……って、つまんないじゃない? だから―――
イ:ふうむ……それがいつか言っていた、『現実ではない創造られた世界』だと言うのだな?
リ:おお〜〜理解が早い♪ まあ〜〜〜そこでも“PK”やりすぎちゃって、調子に乗ってたところもあったんだけどねw
この者がまた判らない事を述べているのはともかくとして……
強い―――純粋に……一人の武人として、ここまで実力の差と言うものを、まざまざと見せつけられるとは……
セシルはこの『リリア』を名乗る者からの、『リリア』自身の武を形成させた経緯を知り、さながらにして驚嘆するとともに、その凄まじい生き様に心惹かれたものでした。
そしてこの先、王の身辺を護るため、その者についてその術を学ぶことにしたのです。
そんな……ある日の一コマ―――
セ:うん? 何者だ、お前は―――
リ:(……)判り切ったたことを言うもんじゃないよ。
なあお前達……私は“誰の差し金”―――って、聞く気はさらさらない……肚括って来たんだろ、お前達の生命を賭けて……な。
そう、言うが早いか―――“あの時”感じたモノより数倍も強いモノに襲われる感覚に陥るセシル……
私の時でさえ、手加減されたものだと言うのか―――?
この者は……どこまで底を見せないのだ―――
その時、セシルが感じたモノこそ正真正銘の“殺意”……確かなる“澱み”―――しかしながら、その者は更なる宣告をするのです。
リ:この私も次の段階へと進みたいからな―――丁度いい……“実験”―――いや“稽古台”になってくれ……。
もちろんお代は、お前達の生命―――だ……
不敵な言葉を漏らす王に、一斉にとびかかる刺客達……しかしセシルは―――イセリアは……今まで自分達が目にしたことのない光景を、見せられたのです。
王の生命を……と、謀臣より依頼された刺客の数―――“10”
その悉くが……
セ:吹き……飛び―――倒された……? それに、起き上がってこられない……?
イ:(信じられない……この私ですら、その総てを眼で追えたわけではないが―――)
あの者は一人……の、はず―――なのに、この私の眼にはあの者がもう2・3人いるかのように見えた……一体何をしたというのだ?
リ:これが、今の私が会得しつつある技―――『虚実無影』。
それに、まだまだ……だ、一人しくじった―――
セ:『しくじった』だと? 無事撃退出来たではないか―――
リ:おい! 立てるか―――こいつだけ、深く突きを入れ過ぎてしまった……イセリア、こいつの治療・回復を頼めるか。
セ:そなた……最初から殺す気など……
リ:言っただろう? 私はこれまでにも一人だって殺めた事はない―――って……。
一応、殺意・殺気を篭められるまでは許可されているけれど、それ以上は師匠から禁じられているんだ。
イ:そなたは……言った処で優しいのだな。
それにしても、今の技―――
リ:ああ、更なる上―――先程放った拳は、“虚”か“実”かを織り交ぜて繰り出したんだ。
セ:“虚”か“実”―――つまり“当たる”ものと“当たらない”ものとを、それも同時に……?! 器用な事をするものだな。
リ:けれど私の師匠は、まるで呼吸をするかのようにするけれどね。
イ:(師匠……)そなたの師匠の名は―――?
リ:そんなの、あんた達に言った処で判らないだろうしね―――w
ああ、けど師匠も例の“ゲーム”の“プレイヤー”でさ……確かその時の名が【レヴェッカ】だったかな。
それと、あと一つ別の“称”を持っていてね、確かその“称”が……
この『リリア』なる者が“プレイ”しているという“ゲーム”なるものを、“プレイ”しているという、この『リリア』なる者の師匠の名―――
この段階で、イセリア自身が聞き覚えのある、“ある者”に突き当たるのですが―――未だ更なる衝撃は、この『リリア』なる者の師匠の、もう一つの“称”―――こそが……
【拳帝神皇】
イ:なんっ……だ、と? それは本当なのか―――?
リ:本当だけど……どうかしたの?
イ:そなたは知らぬかもしれないが、こちらにもいるのだ……そう呼ばれる、史上最強の戦士が!
彼の者も、偶然か【レヴェッカ】を名乗っていた……しかも、そなた自身の師の通り名【拳帝神皇】を名乗っているのだ!
イセリアは、セシルは……この『リリア』なる者の現実での事情を知らない―――
知らない―――までもが、この世界に歴として存在する者が、この『リリア』なる者の現実にもいようとは―――?
しかしそう―――これはある意味で、この世界が、この『リリア』なる者の世界と並行しており、尚且つ時間軸も“過去”に位置している事が知れてきたのです。
* * * * * * * *
それはそれとして―――
やはり避けられない事態となってきてしまった―――あれだけ渋っていた王が、ある日の会議で、急遽『魔王討伐』の布令を発したのです。
リ:いよいよ機は熟した―――これより世の乱れを正す為に、魔王討伐の布令を発する!!
あれだけ宰相からの発案に異を唱え、反発をしてきた王が、今にして何故―――急に……?
その会議での諸臣……特に宰相などは、自分達の不意を衝かれしばらくは動けないまま大きく目を見開き、王を見つめるしかなかったのです。
それに、こうした行き過ぎを止める為に、諌める立場にあった宮廷魔術師も、制止させる動きもないまま……
この国は、いつから“独裁”の国へと変貌ってしまったのか―――?
何の事情も知らない者達にしてみれば、そう思うしかありませんでした……が―――
そう……“事情”と言うのであれば、確かにそこに“事情”と言うモノはあったのです。
“これ”は、王が決議する『前日譚』にて―――
いつもは活動的で、疲れた様子など見せはしなかった“意識”のリリアが……
セ:どうしたと言うのだ? いつになく眠そうだが……
リ:ああ……眠いよ…………。
こちらへと来て、眠った事なんて……一時だってありはしない…………
イ:(うん?)それは少しおかしくはないか? 現に王ご本人とも度々入れ替わっていたではないか。
リ:ああ……あれね―――そりゃ、“慣れ”と言うもんだよ……。
コツさえ判れば、自由に入れ替わる事なんて……出来る…………けど……私は、そんな時にでも眠った事さえ……ない―――
イ:(ふうむ……)もしかすると―――?
セ:どうしたと言うのです? イセリア殿……何か心当たりでも―――
イ:うむ、根本的に、この者と我々とでは“時間の流れ”と言うモノが違うのかもしれない……。
セ:まさか―――そんな?
イ:しかし、そうでもない限りは、説明の着きようがないのだ。
リ:フフッ―――なるほどね……。
これはもしかすると、私がこちらへと居られる時間……タイム・リミットと言うのが近づいてきているのかも……知れない―――
まずい………なあ…………この私が、この人の内に居られるあい――――だ……
すると、途端に項垂れ―――た……かと思うと、疲れた様子さえ見せず気丈にも王ご本人が……
リ:初めて読めた―――こやつの想い……こやつは、こやつ自身が魔王を討ち倒さんとしている。
その動機は、この私でも判らないが……故に私は、明日の会議で『魔王討伐』の議を発する―――お願いだ……どうか止めないでくれ……。
少し―――少しだけ微睡んだ……それを機会に、“表”へと出てきた王本人の人格……
けれど、“意識”のリリアの、そうした隙に、急に流れ込んできた意識―――
それこそが、“意識”のリリア自身が、こちらの世界に居られる間に、魔王との決着を模索していた事に他ならなかったのです。
それは―――誰が為……と、思いたかったけれど……。
その者の意識薄れゆく中―――ぼやけたイメージながらも、見せられた“ある者”の姿……
緋色の髪―――
焔と見紛わんばかりの緋の瞳―――
お前は……誰の為でもない―――
総てこの者の為に動こうとしているのだな―――
お前でさえ認めた者―――次代の魔王と成らんとしている者の為に……。
#12;決戦前夜