大々的に『魔王討伐』の“檄”は発せられ―――王国を出立した軍中に、確かに王の姿は見えました。
それに対抗するため、魔王軍も反攻の烽火を上げましたが、士気・気勢共に優れる王の軍に押され―――撤退に撤退を重ねて、今や王の軍は魔王が本拠とする『魔王城』を包囲するまでになったのです。
そして、魔王城を眼下に見据え、王と近衛長は―――
セ:ようやく、ここまで来ましたね……。
リ:うむ……これで戦乱が収まってくれれば、それに越したことはないのだが―――な。
セ:王―――?
リ:私は、この機会にと軍を動かせた。
しかしそれは、単に魔王なる者を討つ事のみに外ならない……。
ニンゲンと魔族―――互いが憎しみ合うばかりでは、こうした種属間での戦争は、なくならないのだろうな……。
そう―――それこそは、対抗する者への、徹底的な“殲滅”……。
老若男女を問わず、一人残らず鏖殺しにしない限りは、たった一人を残しても“禍根”と言うモノは断たれず、その“たった一人”の怨みによるもので、今度は自分達ニンゲンが“意趣返し”をされるかもしれない……。
王は、誰に教わるまでもなく、その真理だけは心得ていたのでした。
とは言え―――敵対勢力の、事実上のトップを斃すのだから、それなりの覚悟はしておかなければならない……
ゆえに―――被害を最小限に抑える方法……
その為に―――と、明朝の作戦会議を前に……
ゼ:―――なんだと? 王のお姿が見えない?
将:はっ―――王の天幕に、王のお姿は見えない……とのことです。
ゼ:(あの小娘……今になって臆病風に?)それより、近衛長はどうしたのだ?!
将:はっ―――近衛長殿は……
なんと、この度の出師を表した者が、敵大将との決戦を前に行方不明たというのです。
ならば、王の護衛をしているはずの近衛長の行方は―――と、したところ……
セ:どこにも居られない―――! 私が、馬具の手入れを……と、していた時には、確かにお姿は確認していたのに―――
ゼ:ええい! 使えんヤツめ……貴様、王の御身にもしもの事があった場合、どう責任を取るつもりなのだ!
セ:申し訳次第もない……係る上は今一度陣中を隈なく探してくる!
全身を汗だくにし―――駆っていた馬すらも汗を乾かせないままに、馬上から王の発見未遂を報告する近衛長セシル。
それに―――あれから、果たして心を入れ替えたのか……と、思える位に、改心をしたかのような宰相ゼンウの物言い……
あの時に痛烈に批判を浴びせられたのが余程に堪えたのか……今回は珍しく従軍をしていた宰相―――
そして、護衛としての近衛長の失態を叱責する、その姿に……
この彼が、本当に改心をしたというのなら、国家は安泰―――益々の繁栄を約束されるのですが……―――果たして??
それに、彼らが王の事をいくら捜索しようが、見つかるはずもなかったのです。
なぜならば……王は既に―――この陣中にはいなかったのですから……
ならば……やはり―――の、“敵前逃亡”??
いえ、実は――――……
リ:お前が魔王だな―――……
魔王:貴様……ニンゲンの王! 単身でこのオレの前に立つとはいい度胸だ―――その無謀は褒めて遣わそう……そして―――死ね!
リ:残念だが……お前のその要望には応えてやれない―――何故ならば魔王! 滅ぶのはお前だけだからだ!!
それに……“一騎打ち”の方が、これ以上の犠牲を出さずに済むだろう……?
魔王:抜かせぇ〜〜―――小娘が!
リ:≪展開≫―――≪晄楯≫!
お前の意向に沿えず、申し訳ない限りだが……私は、敗けるわけにはいかないのだ―――!!
たった一人で、強大な敵と相対峙する王―――しかし彼女は、もう孤独ではありませんでした……
自分の事を、誰よりも理解してくれた“友”―――
魔族とニンゲン側に、それぞれ一人ずつ―――
そして……“もう一人の自分”―――
リ:(………)もう―――残されている時間はあまりない……だから、さっさと終わらせる! いいか……一度だけだから、よく見ておけ―――本当の、この力の使い方を!!
≪晄鎧≫!
いつの機会からか、本来の王から入れ替わった“別人格”……そして、その者自身が知る、更なる王に秘められし力の発展形―――
これは……!
こやつ……晄りの楯だけではなく、晄りの鎧までも―――!
総ての攻撃を防ぎ切る万能の“盾”と―――身体能力の向上、底上げを狙いつつ、盾とほぼ同等の防御性能を誇る“鎧”……
そして極め付けが―――鋭い雄叫びと共に、魔なる王を一刀の下に斬り伏せる、晄りの御剣……
そう―――ここに、永きに亘る魔族とニンゲンとの戦争は、一応の決着を見たのです。
リ:皆の者―――鎮まるが良い! ここに魔の王は討ち取られた! 今ここで抵抗を止めると言うのならば、更なる生命の簒奪は行わぬと約束しよう!
さあ……剣を―――武器を棄てよ! もう戦争は終わったのだ―――!!
突如として、鎧を血塗れにした一人の英雄が、何者かの馘を掲げ、ニンゲンと魔族との間の戦争に終止符が打たれた事を宣言しました。
それにしても、あれは何者だ―――と、思っていたら、今朝の作戦会議に出席しなかった、王ご本人だったとは……
そう―――ここに、“一応”の、決着すべき処は決着しました。
……が―――果たして・・・これが最善の方法だったのだろうか???
ぬ……ぬううう………
ま―――まさか……あの小娘が、本当に魔王を斃してしまうとは!!
それに魔王め……ワシにあれだけ自信を吹聴しておきながら、小娘一人にも勝てんとは……
だがまあいい……こちらも、何も考えずに従軍したわけではないのだから―――なあ?
やはり……“その者”は、ドス黒い陰謀と共に今回従軍をしていました。
それにしても、ニンゲンの政治機関の中枢に食い込みながらも、魔族に通じていた者がいたとは……
しかも―――王の身に、危険の迫る臭いを醸していたとは……
とは言え―――一世一代の大事業を成し遂げた王は……
セ:王! お疲れさまでございます!!
リ:ああ……だが、ヤツが言っていた最期の言葉が気になる―――……。
ヤツは、言っていた―――……
『フ・フ・フ・フ……このワシを斃したことは誉めてやろう……』
『だがな……貴様は気付いてはいまい―――』
『貴様……の…真の…敵―――コソ……ハ…………』
まるで―――自分達の本来の敵は、魔族そのもの―――魔王そのもの―――なのではなく……ニンゲンの内にこそ潜んでいる事を、暗に仄めかされたのです。
そして―――その不穏は、遅かれ早かれ的中する…………
都城への凱旋の帰途―――またもや、王の失踪が取り沙汰されたのです。
* * * * * * * *
近衛長であるセシルは、予てよりの計画通り王が率いる軍より先んじ、王の軍―――ニンゲンの軍が魔族の軍に勝利した事の喧伝を、王の城がある都へと戻り、したのです。
そしてやはり―――皆、拍手喝采をして迎え、これより先は戦乱のない平穏な世が訪れるであろうことを、慶ぶ…………
―――はず……でした。
そしてその事が発覚したのは、近衛長セシルが都に一報を齎し、再び王の軍に合流した時に―――
セ:なに……? 王が居られない??
将:はい―――ここ2・3日、その御姿が確認されていませんで……
『おかしなことがあるモノだ―――』と、セシルは思いました。
そう、褒められ讃えられこそはすれ、もうどこにも逃げも隠れもしなくてもいいはず……なのに―――
けれど、途端に騒ぎ出す胸中―――
もしかするとこの事態は偶発的なモノではなく、予め何者かによって企てられた策謀なのでは―――?
そう感じたセシルは、再度王の城へと自身が早馬を飛ばし、今回は従軍をしないで城の留守を預かっている宮廷魔術師イセリアに事の次第を話すと……
やはりイセリアの方でも悪い予感はしていたものと見え、急いで王の軍が駐屯する陣営の王自身の天幕に赴いてみると……
悪い予感が、的中してしまった―――王の天幕に残る、微かな魔力の残滓……
これは何者かの策謀により、この位置に罠の魔法陣が敷かれ、その上から王の天幕を設営―――王が天幕に入るのと同時に発動した―――“転送”の魔術……
しかし……イセリアは思う―――現在のニンゲンの魔術師レベルで、ここまでの事が出来る者などいない事を……
この、設置型罠魔術こそは、魔族の技術―――
まさか、魔王が討たれた事による報復が、既に魔族の内であったのだろうか……?
否―――魔族は、そんな感情では動きはしない……
例え魔王とて、その実力に見合わず魔王の地位へと就き、何者かの手によって敗死させられれば、『次こそは我の出番』―――と、伺う者の方が多いモノだ。
そんな魔族が、多寡だか“魔王の一人”の死の為に―――と、即座にニンゲンへの報復を思いつくなど考えられない……
そう―――いるのだ……この軍の内部に。
一人の英雄の為した事に妬みを覚え、彼の方を人知れず抹殺しようとした不心得者が!!
#13;英雄王