自分の知己が教えてくれた―――自分と同じ“候補者”の一人の居住を訪ねた……はず―――なのに、そこでは思わぬ邂逅がありました。

 

 

屋敷の主人:ああ―――そうだ、確か……ユリアと言われた方だ。

        私もあの論文を始めてみた時、意外性を感じるしかなかった……。

        まさか思いも寄らない視点―――切り口で、この植物が毒性を持った経緯が書かれてあったのだからね。

        そして、その“対処法”―――『ならばその経緯を(かんが)み、原因となったものを除いて行けば……。

        その(かく)たる証拠がここにある―――実に好い芳香(かおり)……毒性が無くなってしまうと、こうまで変わるものなのだね。

 

 

その論文には、こうもありました―――

 

『恐らくこの植物が毒性を持ってしまった経緯は、この世界の“(けが)れ”が原因なのでしょう。』

『“地”“水”“火”“風”―――そのいずれもが(けが)れを持ってしまったがために、この植物は己の身を護るために毒性を持たざるを得なくなってしまった。』

『事実わたくしの固有領域である東の地域も、僅かながらに穢れの汚染に晒されているのです。』

『恐らくは……“地”―――そして“水”……“風(大気)”の順に浄化……気を配れば、いずれはこの植物も在りし日の姿を取り戻せるに違いはない……と、そう思われるのです。』

 

 

あの―――わたくしの論説を、ここまで真に受けて下さった方が、ここにいた……

 

 

ユリアが、その論説を提唱した当時は(もっと)もらしい仮説を立てたものでしたが、それを“正しい”と実証してくれる者は、さすがにいない―――だろうと感じていました。

それがまさか……本当に、あの論説を真摯に受け止め、正しい事の証明までしてくれた者がいようとは……。

 

そればかりか―――……

 

 

屋敷の主人:それにしても―――会ってみたいものだ……彼の御仁、ユリア殿に……

 

ユ:(……)―――わたくしです……。

 

屋敷の主人:うん?

 

ユ:その『ユリア』とは、わたくしの事です―――

 

屋敷の主人:(…………)えええ〜〜〜っ??! えっ? あっ?? いや??? こっ―――これは大変不躾な事を……

 

 

このわたくしは、わたくしと同様『魔王に成らんとしているお方』にお会いしようとしていたのに……

なのにこの方は、『魔王に成らんとしているわたくし』ではなく、『かの論説を提唱したわたくし』に会わんとしている……

(かな)うはずもない―――嗚呼……女、あなたが言う通りでした……。

わたくしは今、覚りました……この魔族(わたくしたち)を、その大いなる包容力で包み込まんとしている“大いなる母(グレート・マザー)”なる存在を―――

 

 

そしてそれは、同時に自身の敗北を知った瞬間でもありました。

とは言え、この屋敷の主人にしてみれば、自分がいつかは会いたいとしていた人物の、突如とした来訪―――

なのに地べたへとへたり、(こうべ)を垂れるユリアに、どう対処していいやら判りませんでした。

 

判りませんでした―――が、やおらユリアは気を持ち直し、立ち上がると……

 

 

ユ:初めまして―――わたくしが東の魔女ユリアと申します。

 

屋敷の主人:“東”の―――ああ、ではあなたが西の魔女である女殿のお知り合いである……。

        では、私も―――初めまして……エリスだ。

 

 

それからと言うモノは、襟を開き膝を交わし合っての“歓談”となりました。

そして話し込むうちに知れてきた、その方の動機。

やがて知る事となった“争い”と言うモノの本質。

その、本質から外れてしまった……今の争乱―――

 

確かにそれは、実現すれば素晴らしい出来事―――出来なければ、単なる絵空事……

けれどもこの事を『単なる絵空事』にしてしまうのは惜しい―――そう思えるまでのものに、ついにユリアは・……

 

 

ユ:実は……わたくしも、あなた様と同様に“次代”を狙う者の一人でした。

 

エ:そうだったのか―――……

 

ユ:それに、所詮わたくしも“魔族”でした……。

  この醜い争乱の世の終着点を、争乱で終わらせようとした……あなた様の(よう)にではなく、“暴”には“暴”で対処しようとしていたのです。

  けれどそれでは終わらない―――……“私”と“あなた”とがいる限りでは、あなた様の思うような友好な関係ばかりではありません。

  自分を攻撃されることにより、怨恨と言うモノは生じてしまうのです。

  ですから……わたくしは―――

 

 

ユリアはその本心を―――今日(こんにち)、エリスの屋敷を訪れた動機を話しました。

自分と同じ『魔王になろう』としているその動機―――交流ある者が認めた通りか、そうでないかは自分で直接判断しなければならない……

そして直接会ってみて、すっかりと話し込むうちに自分よりも強い意思で臨もうとしている頑なまでの意志……

 

ユリアは、この事が判っただけでも満足でした。

だから、こそ―――……

 

 

ユ:これを機に、身を引こうと―――

 

 

その言葉は、エリスの心情を好く汲み、だからこそ対立・対抗することを“善し”とはしなかった、ユリアの決断でした。

しかし……すると、ほぼユリアの決断に喰い気味に被せるように発言された、エリスからの言葉は―――

 

 

エ:うん、実を言うと私もね、今日は何か素敵な出会いがあると思っていたんだよ。

  それが、“あなた”だったんだね。

 

 

そういうと、彼の方は“にこり”と微笑むだけだった―――

ただ……それだけ―――他は何もいらなかった……

それはユリアが決断しようとした事を、妨げるモノではありましたが、それをさせなかった―――

この人物はこの人物で魔王となろうとしていた決意があったに違いはない……

それを自らが放棄するのは、なろうとしていた決意以上の“決意”がそこにはあり、なによりもの“断腸の思い”があったに違いはない……

ユリアも、そこでのエリスの所作にそこまでの事を感じており、だからこそ自身もそれ以上の事を語らなかったのです。

 

 

* * * * * * * *

 

 

それからと言うモノは、他の“6人”とも会い、改めての七人の義姉妹―――

いえ……【七人の魔女(セヴン・シスターズ)】が結成され、新たに魔王になろうとしているエリスの後押しをすることが決定されたのです。

 

そうこうしているうちに、『ある一報』―――

そう……今代の魔王が―――

 

 

ユ:魔王が討たれた―――?!

 

:うむ……それも一人のニンゲンの王―――“英雄”によって討ち取られたそうじゃ。

 

ジ:これで……エリス殿の理想・現実に近づいてきた―――けれども……

 

ガ:ああ、まずいね……これがぬか喜びにならなきゃいいんだけど。

 

レ:なにかあったんかい。

 

ガ:うん―――……その事実確認に、ミリティアが奔走しているのさ。

 

 

前回と今回のお話しの時系列が、王と魔王との一騎打ち辺り(前後)……。

今代の魔王が、ニンゲンの王に敗れた……この事実を契機に、一気にエリスを次代擁立への動きとなる―――はずでしたが。

この同時期に流れた、ある“嫌な噂”……たった一人で魔王を討ち果たした“英雄”―――ニンゲンの王が、自分の都への凱旋途中に突如行方が分からなくなってしまった……。

 

これはすでに確認済みだったのではありますが、まだこの時点では何も判らない状況だった……

だから“七人”は、『もしかすると今代が討ち果たされた事により、その報復が既に……?』と、推測はしていたのですが、その事実確認に奔走をしていたのが、ミリティアだったのです。

とは言え、いかにミリティアとてその事実確認が、すぐに出来るわけではない―――

時間だけが刻々と過ぎ去き(すぎゆき)―――事態が最悪な方向に行かないよう、ただ祈るばかりだったのですが……

 

この、()の悪い時に―――

 

 

:……うん? 北の魔女からじゃ―――

   <いかがなされた?>

 

イ:<西の魔女、女殿か……良く聴いてくれたまえ。

  今現在、未だ王の行方(ゆきかた)が知れぬ―――なのに、もう訃報が流されている始末だ。

  それで、今のそちらの状況を知っておきたいと思いましてな……。>

 

:<そうでありましたか……実はこちらも、その事実確認に追われておる。

    じゃがな……イセリア殿―――>

 

イ:<判っている……少なくとも、魔族(われわれ)(なか)にそこまでの行いをする者はいない。

  だとするならば、魔族(われわれ)を“敵役(かたきやく)”とし、また一儲け企もうとしている輩の仕業であるとも考えられる……>

 

 

北の魔女であるイセリアは、断じて魔族からのスパイ―――ではない……。

“これから”の魔族の在り方と、“これから”のニンゲンの在り方を模索しつつ調整する、『調停役』……

だから、自分の同胞(はらから)でもある“東西南北”の魔女―――の、一人である女と渡りをつけ、『どうにか暴走をしないように』―――と、ある程度の情報交換・共有を目指したのです。

 

そうすると、やはり思っていた通り―――……魔族(じぶんたち)(なか)で、報復行為に動く者はいなかった

ただ、ある事実として魔族の一部が、ニンゲンからの依頼……つまり金銭によって動いている事が確認されており。

そして今のイセリアからの報告を擦り合わせていくと、全体像―――とはいかないまでも、たった一人で強大な敵を打倒した“英雄”を亡き者とし、自分達のみの繁栄を目論んでいた不届き者の存在が浮き彫りにされてきたのです。

 

 

 

#19;七人の魔女(セヴン・シスターズ)

 

 

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