これは―――歴史にすら語られて来なかった……所謂、“歴史に埋もれてしまった話し”……。
そして後の世にて、発覚してしまった―――『王の死』の、その“真相”…………
“それ”は、いつの頃からかは、判りませんでした―――ただ、“熱っぽい”と言う自覚はあった……だからこそ、『流行性感冒』くらいの認識しかなかった……。
けれどあの日―――魔族の王率いる『魔王軍』との決着が着き、陣営にある自身の天幕で疲れた身体を休めようと―――長椅子に背を凭れ掛けた時だった……。
本編では、その行動と同時に設置罠魔術が発動し、王は多くの魔族の刺客が待つ例の場所へと転移させられたのではありますが……
その以前に王は―――妙な“気怠さ”を感じていたのです。
リ:(また流行性感冒が再発してしまったのか……?)まあ……魔王との決着の前に、再発しなかったのは不幸中のさいわ―――い……
その、“妙な気怠さ”を感じてすぐ後、王は長椅子の背もたれに凭れかかり、そのすぐ後に転移魔術による“揺らぎ”により頭がふらついた―――そう思っていたら、いつの間にか王は多くの魔族の刺客により囲まれており、絶体絶命を覚悟したものでしたが。
この窮地を救ってくれたのは、自分の魂の内に微睡む“もう一人の自分”だった……。
こうして、王の一世一代の窮地は凌げたのでしたが、不思議と“倦怠感”の方は収まってはおらず、それどころか症状は進んで行くばかりだった―――……
“倦怠感”と同時に、“高熱(38.5°)”を発することもあり、満足に食事が咽喉を通らない事すらあった―――しかし、病気の時こそは体力をつけなければならないとし、無理にでもその腹に食べ物を詰め込もうとするも、その無理をした分だけ“下痢”で食べたモノ総てを出してしまっていた―――……。
これでは……栄養にはならない―――
これでは……体力にはならない―――
けれど、今の私の体調が周りに知れてしまうと、またしても世の中は混迷の―――戦乱の世へと逆行してしまうだろう……
そう感じた王は、ある日を境に『日記』なるものを認め始めました。
しかし―――その『日記』こそは、その日その日にあった出来事を綴っていく……そうしたものではない―――
その『日記』こそは―――後の世に明らかとなる、ある恐るべき病との“闘病”の証し……
* * * * * * * *
王自身が身体の異変を感じ取った時には、単なる『流行性感冒』……だと思っていた―――
けれど結果的には、王が罹患していたのは、単なる『流行性感冒』……では、なかった―――
この世界―――そしてこの時代に於いては、まさに“未知の病”……
そう―――“未知”の……
その当時にはその病の概念すらなく、“発熱”“倦怠感”“下痢”等の症例だけを取ってみると、単なる『流行性感冒』くらいにしか診断できなかったのです。
しかし―――その“病”は、単なる『流行性感冒』等では、ない―――……
では、『流行性感冒』ではないのだとしたら……?
これは、後の世にて明らかとなってきたのですが―――実は……王の魂に宿っていた、“もう一人の人格”の現実世界では確たる証拠が残されていたのです。
その――― 王が罹患していたとされる――― 恐るべき“病”の名称――――
=法定伝染病 一類感染症5号=
またの名を……
【黒死病】
{*『法定伝染病』とは、感染力や罹患してしまった場合の重篤度合い等に基づき、危険性が高い順に1類から5類に分別される。}
{*『黒死病』―――日本では『一類感染症』に指定されている病気で、元はネズミが媒介したノミによる感染が因となる。
主には不衛生が原因。
高い致死率を誇り、罹患してしまうと皮膚が黒くなる『死斑』が出てくることから、別名を『黒死病』として畏れられた。
世界史に於いても、特に大流行した14世紀には、世界の人口が1億人程度犠牲になったとされている。
潜伏期間はほぼ1週間。
全身の“倦怠感”に始まり、次第に“悪寒”が迸るようになり、39〜40度近い“高熱”を発し、“敗血症”を伴い、やがて死に至るとされている。}
{*敗血症とは―――感染症に対する、制御不能な生体反応に起因する、生命を脅かすような“臓器障害”のことを言う。
主に“ショック障害”や“多臓器不全”等を伴い、“昏睡”……手足が“壊死”を起こすようになり、全身が“赤黒い痣”だらけとなってしまうことから、一部では『黒死病』として知られるようになっている。}
{*主な対処法―――各患者毎に“隔離”し、“抗生物質を投与”すれば、良いとされている。
ちなみに……ではあるが、近年に於いての日本での死亡症例は―――ない。}
#20−1;(王の)罹患証明書