王が―――自身がしてしまった事により、他者を・・・近衛長を傷つけてしまった事を悔いた時、
自身に語り掛けてくる声がしました。
しかしながら、その声の主の、姿は見えない―――
一体どこから―――?
自身の内から―――?
そう思った時、声の主が自らを語る・・・
それも、声の主自身の正体―――名を・・・
声の主:{だから、“私”は“私”―――言葉を換えたら、“あんた”自身なんだよ。}
{その証拠に、私の名は―――・・・}
王:【リリア】?!
私ではないか―――・・・
リ:{だから言っているでしょう? “私”は“私”―――“あんた自身”だ・・・って。}
リ:いや―――けれど・・・しかし・・・
リ:{ま、信じられないのは判るよ?}
{だって、私自身でさえ、気が付いたらこんなになってた事に、しばらく頭ン中真っ白になったもん。}
リ:は・・・あ―――
リ:{そんな、間の抜けたような―――気の抜けたような声出すなよ・・・}
{調子が狂ってくる・・・ったら―――}
その、不測の声の主自身も、王の名と同じ【リリア】を名乗っていた―――
その事に思う処となり、少々間の抜けた問答を繰り返したものでしたが・・・
[さて―――諸兄達に於かれては気付かれただろうか・・・?
そう―――この『王』・・・【リリア】の内に潜む人格こそ、あのリリアだったのです。
それにしても、どうしてこのような事態になったか―――は、さておき・・・]
取り敢えずの処として重要なのは―――
リ:{それより、どうすんの―――あの人、すんごく怒ってたよ。}
リ:それは・・・判っている―――
リ:{判ってるならさあ―――なんであんな事しちゃったの。}
{まあそこはさっき聞いたけれどさ・・・ああ言う事をされたら、私だって―――況してやあんただって、嫌なモノだとは思わなかったわけ?}
リ:いや・・・それは、そのぅ―――
リ:{うわぁ〜〜まじであり得ないわ・・・。}
{なんでこんな、自分に自信が持てないようなのが、“私”なのか・・・}
リ:それは・・・本当に・・・申し訳ない―――
リ:{ああん! もう!! そう言うとこ!!}
{うじうじうじうじすんなあ〜! こっちまで湿っぽくなって来る―――・・・}
自分が悲観し、否定的になっている処を、批判して来る“自分”―――
それに、王であるリリアは、近衛長に対し礼を失してしまった事は、十分判っていました。
それは以前にも触れたように、もし自分が勝ってしまったら、近衛長の自信を奪ってしまうかもしれない―――・・・
それはそれで優しい心遣いなのでしょうが、武に生きる人間にとって、手加減されてまで勝ちを拾いたくはない・・・
そうした行為は、自分の事を否定されたようであり、バカにされたようであり、何より認められず信用もしていないのだろうから・・・
だから、姿見えぬ声だけのリリアに、痛烈に批判されると―――・・・
リ:ゴメン・・・なさい・・・私が・・・私がバカだった―――愚か者だった・・・
この先、どんな顔をして近衛長に会っていいか・・・判らない―――・・・
後悔の涕を流し、今回及んでしまった行為に、深い反省の意を表す、王であるリリア・・・
そんな王を見た、声だけのリリアは・・・
リ:{泣くくらいなら、最初からするな―――}
{それと今後は、“私自身”にも嘘を吐くな・・・いいね。}
リ:判った―――・・・。
それにしても、お前は大した者だな・・・。
リ:{そんな事はない―――}
リ:え・・・?
リ:{そんな事はない―――私もさ、あんたの事をとやかくは言えないくらいに、}
{自分に嘘を吐いたり、周りから良く見られたいようにしていた時期があったもんだから・・・さ。}
{だから私は―――私自身に腹が立っていたんだ・・・かつての自分の有り様を見せられて・・・。}
{だから、私の方こそゴメン―――さっきあんたにぶつけた言葉は、言ったら八つ当たりの様なものだから・・・}
{あの頃・・・自分からも逃げていた、私自身の―――ね。}
声だけのリリアは、今の、王であるリリアの心情が手に取る様に判っていました。
そして・・・そんな自分を、見透かしたかのように呼ばれた“称”―――【豎子】
敢えて“愚か者”の意を与え、奮起させようとしてくれた人物―――
それに、王であるリリアが、自身で変えられる“変換点”がどこかしらで生じる―――
そう感じたからこそ、声だけのリリアは、今少しばかり自分の事を吐露し始めたのです。
リ:お前自身も―――自分から逃げていたと言うのか・・・?
とてもそうには見えないが―――・・・
リ:{私も―――さ・・・今のあんたの様に、他人と言うものを信頼してなかった・・・信用していなかったの。}
{だから私は逃げた―――現実世界から・・・}
{その“現実逃避先”が、『仮想世界』って言う、現実にはない世界でね・・・}
{そこでは、私は“私”でいられた―――誰に気兼ねもせず、私自身が修めた武で、}
{強い奴らをその力で捻じ伏せる事が出来ていたんだ。}
{けれどある時、私は敗けてしまった・・・}
{私は、仮想の世界では無類の強さを誇っていた―――最強だとさえ思っていた・・・}
{けれどそんなものは、所詮思い上がりも甚だしいものだ―――と、その時初めて思ったよ。}
{とは言っても、敗けたままではいられなくてね、ある人に頼み込んで、どうにか私を敗かした人を打ち破る機会を得ようとしたの。}
{その時でさえ私は、私一人で事の解決をしようとしていた・・・}
{そんな私の思いを、相談に乗ってくれた人は見透かしていてね、私一人では解決出来ないようにしてきたんだ・・・}
{そう・・・私一人じゃ出来ないように―――つまりその人は、『仲間を得よ、信頼するに足る“友”を』と言ってくれたんだ・・・}
{そして―――私は一人の友を得た・・・信じるに足る、真の友を。}
{だからあんたも友を得るんだ・・・取り分けて、あの近衛長―――【セシル=グラディウス】を・・・。}
どこまでが真実で―――どこまでが虚構なのか判らない・・・
けれど、王であるリリアは、声だけのリリアの言い分を聞き入れる事にしました。
そして―――王の部屋へと呼ばれた、近衛長【セシル】は・・・
セ:お呼びだとか―――
リ:ああ―――先程は済まなかった。
その詫びとして、本当の私を見てもらいたい。
セ:―――構いませんが・・・
リ:では、練武場に―――
王と臣下―――としての、最低限の礼儀は尽くすものの、まるで突き刺すような眼光・・・
まるで―――“敵”として見ているかのような、その眼差しに・・・
「仕方がない―――私は、そこまでの事をしてしまってのだから・・・」
それに、程度の言葉だけでは納得してくれない―――ものと思い、
練武場で放った言葉が―――
セ:では、始めましょうか―――
リ:その前に、セシルは真剣を取ってくれ。
セ:はあ? どう言うつもり―――・・・
「何をまた、訳の分からない事を―――・・・」
「私には、真剣で立ち向かい、あなたはそのまま―――・・・」
「模造の剣で私に差し向うと―――?!」
「それ程までに・・・この私を・・・」
「この私を見下し、愚弄したいか―――!!」
「いいでしょう・・・あなたがそのつもりなら、そのご意思通り、迷いなく斬り伏せる!」
“真剣”―――と、“模造剣”・・・
これの意味する処が、どう言う事なのか・・・
その意味が分かっているからこそ、近衛長セシルの、王リリアに対しての怒りは、頂点に達しました。
ただ―――・・・
セシルは知らない・・・
王の―――【リリア】に秘められし“力”の事を・・・
セ:そんなに死にたいと言うのなら、ここで私が引導を渡してやる―――!
覚悟―――!!
リ:「「≪展開≫―――≪晄楯≫」」!!
その剣閃―――セシルが放った剣の威力は、常識通りならば勝負にはならなかった・・・
鋼で鍛え上げられた“真剣”は、木で出来た“模造剣”を断ち―――
王の首と胴を分断つまでになっていた―――はずでした。
しかし、鋭き王の掛け声と共に顕れた晄りの盾に、セシルの剣は阻まれた・・・
しかもそれだけではなく、セシル自身に突き付けられた“それ”は、模造剣ではなかった―――
それは、晄りで出来た、美しき剣―――
「本当は・・・私の武は・・・この方の足下にも及ばなかった―――?」
「それに、模造剣から手を離し、立ち処に晄りの剣を創造された、この方の私を見据える眼・・・」
「あの瞳こそは、弱者のものではない―――猛々しい獣の・・・」
「いや・・・史上最強と謳われている竜を思わせる、強者特有の眼・・・」
セシルは―――その眼に射竦められ、その場へとへたり込んでしまいました。
そして今度は、かの優しき王へと戻った方から、差し伸べられた手に―――
リ:立てるか―――?
セ:え・・・―――
リ:済まない・・・こうなる事は判っていたんだ。
私には、どうやら不思議な力が宿っているらしい・・・
だから、誰も傷つけたくはなかった―――もちろんセシル、お前もだ・・・
セ:い・・・いえ―――
私の方こそ、不敬の数々を―――どうかお許しください。
リ:いや、お前は悪くはない。
おまえは、お前自身と言うものを、そのものを私にぶつけてくれた・・・
けれど私は、お前を傷つけたくはない一心で、お前の思いから逃げてしまった・・・
私の方こそ―――許してくれ・・・
強者は、その特性故に慢心し、時として傲慢になる。
相手を見下し、剰え愚弄する。
セシルは、王リリアもそのご多聞に洩れず、自分に対してそうした態度に出ていたのではないか―――と思っていたのでしたが・・・
実は、自分がそうだった―――?
本当は、自分が傲慢になり、彼の方の深慮を踏み躙っていたのではないか―――とさえ思えてきてしまった・・・
何のことはない、何一つとして王の事を知らなかった・・・知ろうとすらしてこなかった自分こそが―――
けれど王は、そんな自分を優しく迎えてくれた・・・
「この方は・・・この方こそは―――真の王・・・」
「このお方ならば、変えてくれるのかもしれない・・・」
「滞った、この澱みの世界を―――」
#4;リリアとセシル
つづく