圧倒的な武の“差”と言うものを見せられ、その場にへたり込んでしまった近衛長―――【セシル】を、
その差し伸べた手で起き上がらせた王―――【リリア】は・・・。
リ:なあ―――セシル・・・
セ:―――はい・・・
リ:私からの頼みがあるのだが、聞いてもらえないだろうか。
セ:はい―――
リ:どうか・・・この私の、と―――友になってくれないだろうか・・・
セ:―――・・・。
突如として、王から臣下にかけられた言葉に、“キョトン”とした表情となるセシル・・・
それに、中々戻ってこない返事に、焦る処となってしまったリリアは―――・・・
リ:あ・・・ああ―――いやその、め、迷惑ならいいんだ・・・
わ―――私もちょっと〜〜・・・
セ:プッ!w ウッフフフフ―――w
リ:えっ?
セ:いえ、今のはちょっとびっくりしただけです。
だって、王から臣下に対し、かけられる類のお言葉ではありませんでしたから―――
リ:そ・・・そうか―――
そう―――だったのか・・・
セ:けれど、何とお答えすれば良いのでしょう?
私は、曲がりなりにもあなた様の臣下なのです。
他の臣下の前で馴れ馴れしい態度を取ると言うのは、いかがなモものかと・・・。
リ:ああ―――それなら、飽くまでもプライベートでの話しだ。
それに、政策の上でも忌憚ない意見を述べてもらいたい。
セ:畏まりました―――それが“友”の願いとあらば。
この頃のこの世界では、いわゆるところの“封建社会”であり、“上”は絶対的で“下”は絶対的な服従―――
そこを、垣根を越えて・・・の、友誼を王自身が求めた事に、セシルの思考が少しばかり停止してしまったのです。
けれど、リリアの可笑しくなるような・・・それでいてちょっと可愛らしい仕草に、ついぞ吹き出してしまった―――
これはこれで“不敬の罪”には問えるものの、王はそんな事はしなかった・・・
折角得た・・・得ることが出来た信じるべき者に、自分を隠す事はするまいと誓ったのですから。
それにしても―――?
リ:{いっやあ〜〜どうにかしても、収まる処には収まるもんだよね。}
リ:{(?)勝算があったのではないのか?}
リ:{ん〜〜まあ―――“半々”かな?w}
リ:{(??)どう言う・・・事だ?}
リ:{だから、言葉そのまま―――私も同じようなスキルを持っているけれど、確率としては・・・}
リ:{ちょ・・・ちょっと待ってくれ―――? もし出なかった場合・・・}
リ:{ん〜〜〜まあ、想像しない方がいいかなッ?w}
恰好のいい事を言ってはいたものの、“出る”か“出ない”かはまさしくの賭け―――
しかし、その賭けは“吉”と出た―――
それに、王のリリアも不思議と所有していた“秘められし力”―――
それこそ【晄楯】と【晄剣】だったのです。
これは、何かの偶然の一致なのか―――と、実体のないリリアは想いましたが、
この賭けに出たお蔭で、王と近衛長の間は、急速に接近できたのです。
その事に一番驚いたのは―――
宮:これは―――・・・一体どう言う事ですか?
リ:ああ―――これは宮廷魔術師【イセリア=ジェノーヴァ】。
私達はようやく判り合えるまでになれたのだ。
「先程までは毛嫌いするほどまでに嫌悪していた者が、今では引き寄せ合うまでになっている・・・」
「いつの間に―――? と、思いたい処だが、恐らくは再度の手合わせで、互いの蟠りは解けたのだろう・・・」
「それにしても、難しいモノだ―――ニンゲンと言うものは・・・」
「しかし、それが興味深い・・・」
「恐らく学士殿も、そこの処に魅せられたのかも知れないな・・・。」
「そして、いずれニンゲンの王である、この方も―――・・・」
北の魔女―――こと、宮廷魔術師【イセリア=ジェノーヴァ】は、予てからの学士のお願いにより、ニンゲン達の・・・
それも殊の外、この度新しく王と成られた【リリア】の事を、調査していました。
彼の方の考え―――行動―――
これまでと同じ、自分達魔族を敵とみなし、戦争をするのか―――しないのか―――したいのか―――したくないのか・・・
どちらかを知りたかった・・・
それが“もし”―――学士と考え方が一致だった時、新たなる『可能性』が見えてくる・・・
勿論、一致しなくても、現状としての魔族の有り方に疑問―――また限界を感じていた学士は、
自らが“その道”を放棄するなど論外―――考えていませんでした。
その学士が、自ら選んだ、険しくも厳しい道程―――それが、次代の【魔王】として成る事・・・
「皮肉なモノだ・・・最弱な存在が、“最強”の【魔王】に成ろうとしている・・・」
「しかし、見ものだ―――果たして学士よ、あなたがニンゲン“最強”の王と、どう差し向うのか・・・」
北の魔女は―――宮廷魔術師は―――イセリアは・・・
学士が提唱する“もう一つの説”に、さながらにして興味を沸き立たせました。
それこそが―――【総ての可能性の為に】・・・
「恐らく学士は、既に以前からニンゲンと魔族との間で為されている戦争の、即時停止を模索している・・・。」
「何の生産性もない―――ただ破壊し尽すだけの戦争・・・」
「武器商人や軍需産業などの、一部の者達だけが肥富の利を貪る、醜悪な環境の循環・・・」
「“私達”は、それに嫌気がさして、魔族の都から離れ、自分が好きな事だけを追求してきた・・・」
「そんな折―――唯一交流のあった南の魔女から・・・」
『学士なる者から興味の湧く話しを頂いた。』
『そこでワレも少しばかりの支援をする為、方々を駆けずり回る事となるだろう。』
『その間、そなたにも学士からの打診があるやもしれん・・・』
『その場合は、まあ言っている事はともかくとして、ワレの顔を立ててはくれまいか。』
『無理な話しやもしれぬが、いずれそなたなら判ってくれるはずだ―――・・・』
「ああ―――そうだ、確かに、そなたの言う通りになってしまったようだよ、南の魔女・・・。」
「私は歴とした魔族だが、この二人を見た限りでは、ニンゲンもそう悪いモノではないとさえ思えてくる・・・。」
「だから私は、もうしばらくここへと居させてもらう事にするよ・・・。」
そのきっかけは、学士と南の魔女との“密談”でなされたもののようでした。
このお話しの時点では、具体的には何が話されたかまでは、判ってはいませんでしたが、
現実の結果として、南の魔女は学士の提唱する説に同調し、協力する旨を文に認めていた・・・
それに自分も、気付けば・・・目の前のニンゲンの女性2人に興味を示してしまっている。
今までは、長く生き永らえるくらいにしか思っていなかったのに、長生きしてみるのも、意外に悪くはない・・・
そう思っていたのです。
すると―――ところが・・・?
リ:なあ、イセリア・・・実はお前にも、お願いがあるのだ。
イ:何でしょう―――?
リ:私の友になってくれないか?
イ:―――はい?
セ:それは良い考えだと思います。
それに私も、宮廷魔術師殿から、見込まれての近衛の長へと成れたのですから。
「―――正気か? この御仁・・・」
「いや、だって、私の正体を知らないはずはないだろう??」
宮廷魔術師イセリアが意表を衝かれたのは、自分の正体を知っているはずの王リリアが、
魔族である自分に対し、“友誼の契り”を持ちかけてきた事でした。
それに、一度は自分が魔族である事を知らしめる為に、目の前で『転移魔術』を行使し、消えてみせたのですから。
だからこそ、再びこの人物の前に姿を見せた時、バツが悪いと言うものではなかった・・・
なのに、この人物は自分の事を温かく迎えてくれた―――
「・・・もしかすると―――その最初から・・・採用をする前から判っていたのか?」
「それにしても―――なぜ・・・?」
北の魔女は―――魔族である者は・・・戦慄き震える。
普段ならば、魔族だと知れるや、戦慄き、震えるのはニンゲンの方なのに・・・
なのに―――今は、魔族である自分の方が、一人のニンゲンに・・・ニンゲンの王に、戦慄き震えてしまっている・・・
しかも―――・・・
リ:済まないな―――私は、もう・・・自分にも偽る事を止めにしたんだ。
だから、これからは・・・自分に嘘は吐かない―――
イ:王よ―――!!
リ:よいか、セシル・・・これから話す事は、総て真実だ。
だから、驚かないで聞いてくれ―――
セ:は? は・・・・あ―――
イ:止めてください、王よ―――それ以上は・・・
「そんな・・・? いつも冷静沈着なイセリア殿が、動揺をしている・・・?」
「それ程までに、王が言わんとしている事が重要なのか・・・?」
セシルは―――イセリアは―――リリア本人ではないから、知らない・・・知る由もない。
況してやその場で紡がれた言葉の重要性など、計り知れる事などなかったのです。
#5;秘めたる想い
つづく